三原麗珠の研究環境

あるいは研究のためのリソースガイド


最終改訂 2012年9月 (「コンピュータ関係」を別サイトに移動)
2011年11月 (『表現のための実践ロイヤル英文法』追加)
2011年3月 (~/texmf が存在する場合,MacPorts で pTeX をインストールしようとするとエラーになる問題への対処)
2010年12月 (文献スタイルファイル jecon.bst に言及)
2010年8月 (文書作成ソフトウエアの項に LaTeX と BibTeX の用の独自のスタイルファイルや bib ファイルを置き場所を追加; 描画ソフトウエアを追加)
2009年5月 (文書作成ソフトウエア,文献管理ソフトウエアの項を大幅に修正);
2008年8月(Mathematical English Usage: A Dictionary を追加); 2008年3月 (@wiki へ移動; 古い記述を削除); 2006年7月 (Corpus concordancers を改訂); 2006年5月 (トムソン本追加); 2006年4月 (辞書追加); 2006年3月 (mi の項目など若干修正); 2005年 6月 (全面改訂)

私の研究環境を公開します.研究を目指す方の参考になるかもしれません.私が多産な研究者だったら,もっと説得力があったでしょうね.しかし研究できる環境を整えることには,ある程度注意を払っています.(もし重要なファクターで制御可能なものを見落としていないとすれば,あとは「やるだけ」なんだよね.それは分かっているのだが……)特にこだわりがないもの(国語辞典など),いいものが見当たらないもの(日本語類語辞典など)は省きます.

目次



英語辞書と Corpus

完璧な日英翻訳ソフトウエアが現れるのはまだまだ先かもしれません.しかし「コンピュータとインターアクティブに対話することによってほぼ完璧な英文を作成できるような英文解析ソフトウエア」が開発されるのは,それほど先のことではないのかもしれません.たとえば下にあげる Collins COBUILD を発展させれば,それが明日にも実現するのが当然のような気がします.そのため私は20世紀末の未開社会に逆戻りして不便を味わっている未来人の気分で,絶えず新製品に注目しています.それまではとにかく原始的な道具である辞書に頼らざるをえません.ここでは英語を書くときに必要になる道具について書きます.英語を読むためや,翻訳をするためには,英和辞典も買っておいたほうがいいでしょう.

英語の辞書とCorpusの活用については倉島保美の英語ライティングのサイトが参考になるでしょう.

辞書

英米人向けの辞書は,われわれが英語を書くためにはあまり役に立たない.外国人英語学習者をターゲットにした辞書をおすすめする.

何種類もの辞書を一括で検索するには Jamming のような検索ソフトウエアを使うといい.(検索ソフトが対応していれば,Windows 用の CD でも Mac で利用できる.) 詳しくはそれぞれの検索ソフトの説明や上記島倉のサイト「推奨電子辞書」を参照.私のばあい,たとえば旧版の LDOCE3 を EPWING規格に変換する必要があった.(EBStudioの実行だけはWindows を利用.)

CD を挿入した状態で使うようになっている製品でも,たいていの場合はハードディスクにコピーして使う方法がある.検索ソフトの説明を参照.最後の手段として (私の環境ではこの手段に訴える必要はなくなった),Mac OS X の Disk Utilityで CD の中身のディスク・イメージを作ってそれをマウントする方法があり,CD を挿入したときと同様に使える.一般に (辞書にかぎらず),CD をいちいち挿入するのが面倒なときは,ディスク・イメージを作っておけばいつでも気軽に利用できる.

  • Collins COBUILD English Dictionary
ひじょうに特色のある,生き生きとした辞典.私がペーパーを書くときは,これをもっとも頻繁に用いている.Collins COUBILD on CD-ROM には,この Dictionary のほか Usage,Grammar,Thesaurus, Wordbank を収録していて便利. Cobuild Home Page を参照.なお Jamming で English Wordbank を調べるには「前方一致」ではうまくいかないかもしれない.
  • Longman Dictionary of Contemporary English
  • Oxford Advanced Learner's Dictionary
年配者に定評のある Hornby を受け継ぐ.長年他の辞典の追随を許さなかったが,その状況は現在変わった.
  • CD-ROM 版 新編 英和活用大辞典 (The Kenkyusha Dictionary of English Collocations), 研究社 (Macintosh, Windows 対応)
  • ジーニアス英和・和英辞典
  • Cambridge Advanced Learner's Dictionary
  • 英辞郎
英辞郎ビューアという簡単な検索ソフトでよく利用している.日本語の訳語を探すのに役立つ.英語を書くために役立つというひともいる.
  • E-DIC (朝日出版社)

Corpus concordancers

単語を入力すれば,その単語の前後にもってくることのできる単語をふくむ文例を,膨大なデータベースから引いてきて一覧表示する.利用目的は上にあげた研究社活用辞典に似ている.詳しくは上記島倉のサイト「Corpusの活用」を参照.

私のばあいは,辞書で解決出来なかった疑問を解決するために使うことが多い.Mac OS X の spolight による全文検索で論文 pdf ファイルをコーパス代わりに利用する以外は,もっぱらインタネット上のものを利用している:
  • Google
Web サーチなら検索フレーズを"search words"のように引用符で囲むといい.
数学の文例に特化.
速くて見やすい.最近利用頻度がいちばん高いコーパス.
マニュアル中特に Defining a CQL Query に注意.以前よく利用したコーパス.

英語用法の解説書

  • 原田豊太郎. 理系のための英語論文執筆ガイド: ネイティブとの発想のズレはどこか? ブルーバックス. 講談社, 2002.
「英語の冠詞は情報を受け取る側に立って,特定,不特定,限定,非限定などの意味を名詞に与える」「マクロの話は複数.ミクロの話になったら単数にする」 などの説明が分かりやすかった.
  • 綿貫陽,マーク・ピーターセン『表現のための実践ロイヤル英文法』旺文社,2006.
八田達夫 (『ミクロ経済学 II 』の文献案内) もおすすめの,例文が生き生きした文法書.説明が簡潔なわりに分かりやすい.(平凡助教授の感想)
  • 野水克己『数学のための英語案内』サイエンス社,1993.
英語用法にかんする断片,文章添削の例,数学のための短文集(約420例),をふくむ.
  • 小田忠雄.数学の常識・非常識---由緒正しい TeX 入力方法.dvi file / tex file
日本人数学者のまちがいやすい英語用法についても簡単に記述.
  • Berry, B. Collins COBUILD English Guides 3: Articles. HarperCollins, 1993.
いつか読もうと思っている,120ページの小冊子.

その他.崎村耕二,松本安弘・松本アイリン,正保富三,マーク・ピーターセン,小笠原林樹,熊山昌久,ジェイムズ・H・M・ウエブ,Strunk and White など.一部は読んだが,文書を作成しながら参照するには不向き.Quirk et al. Comprehensive Grammer...大きすぎて使う気がしない.いい CD が出れば,これらの本は要らなくなるかな?


論文の書き方ガイド


  • 木下是雄『理科系の作文技術』中公新書624,中央公論社,1981.
必須.説明の必要もないか.本屋で買ってください.
  • Thomson, William. The young person's guide to writing economic theory. Journal of Economic Literature, Vol. 37, pp. 157--83, 1999.
経済理論で論文を書きたい人は目を通すといい.以下ピックアップ: いいペーパーを書くには,何度も書き直さなければならないのはあたりまえ.読まなくても重要そうなところを拾えるように書け.自分がやったことが興味深くかつ以前やられていないことをはっきりしめせ.一般的な議論と具体的な議論とを行き来せよ.見当がつくようなノーテーションをもちいろ. 条件の名前は覚えやすいものにせよ.新奇な定義には,それを満たす例,満たさない例,満たさなさそうで満たす例,満たしそうで満たさない例をあげよ.いちど定義した用語から離れるな.定理はそれだけ拾って見ても分かるようなシンプルな英語で書け.むずかしい定義のインフォーマルな説明は,定義の後ではなく前にせよ.条件間の関係をベン図で表せるまで調べろ.関連するふたつの定理はその同じ部分とちがう部分がはっきりするように共通の形式で述べよ.主要結果のバリエーション(定理の条件あるいは結論を少し変えるとか)をいろいろ調べて,重要なものについてコメントせよ.具体的な数値例よりも,一般的な議論のほうが分かりやすいこともある.「それがどんなふうに誤解されうるかを完全に知ったうえでなければ,ある事柄を理解したといえない」というのは教育にも役立ちそうなお言葉.
  • Thomson, William. A Guide for the Young Economist. MIT Press, Cambridge, Massachusetts, 2001. (ウィリアム・トムソン, 経済論文の書き方, 東洋経済, 清野一治 訳, 2006.)
上記 JEL ペーパーを拡張.翻訳が出るとは思わなかった!

  • McCloskey, D. N. The Writing of Economics, Macmillan, 1987.
The Rhetoric of Economics の著者による簡潔な(63ページ)マニュアル.

  • van Leunen, Mary-Claire. A Handbook for Scholars. Revised edition. Oxford University Press, 1992.
いちおう持ってはいるが,あまり読んでいない.

  • Hacker, Diana. The Bedford Handbook for Writers. 4th ed. Bedford Books of St. Martin's, 1994.
文法上や語法上の複雑なケースには対応できないことも多いが,体裁がコンパクトで見やすいので,とりあえず調べてみようという気にはなる.評判が良いのかどうかは知らない.

  • ハワード・S・ベッカー,パメラ・リチャーズ『論文の技法』佐野敏行訳,講談社学術文庫.1996.
初心者はまずは木下 1981 などで論文作法の標準を学ぶべき.しかしそれでうまく処理できるとはかぎらないのが世間.書くことの壁を取り払うことに重点を置いたエスノグラフィー.評判はいい本.これが出たころにはたぶん似たような主張をする本があまりなかったのかもしれない.現在読んでみるとそれほど真新しさも感じないし,やや読みにくくてあんまり頭に入らなかった.著者が癒し系を狙っているため,斬れる議論を展開するのにこだわっていないということか.

その他.日本物理学会,科学英語論文のすべて.


経済学の世界で生きていくためのガイド

以下の2つはペーパーのパブリケーションにまつわるもろもろのことについて簡潔にまとめている.Kwan については Disclaimer があるのを忘れずに.
  • Hamermesh, D. S. The young economist's guide to professional etiquette. Journal of Economic Perspectives 6(1):169--179. 1992.
  • Choi, Kwan. How to Publish in Top Journals.

  • 野口悠紀雄『「超」勉強法』講談社1995.
効率的な勉強法を追及.学生におすすめ.
  • 野口悠紀雄『「超」勉強法 実践編』講談社1997.
  • 坪田一男『理系のための研究生活ガイド:テーマの選び方から留学の手続きまで』講談社1997.
  • 諏訪邦夫『発表の技法:計画の立て方からパソコン利用法まで』講談社 1995.
まだきちんと読んでいない.スライド (OHP シートも) を日本語で書くことをすすめている.英文を見せながらそれを日本語で読む発表はたしかに分かりづらい.私の場合は,スライドは英語でつくることが多い.ただし英文を見せるときはそれをいったんそのまま読んで,その後日本語で説明するようにしてきた.
ここで発表に限らず論文にも当てはまる不満をひとつ.記号を一度導入してしまえば,二度目以降はそれが何であったかをまったく述べずに平気で同じ記号を使う人がいる.しかもこういう人にかぎってやたらといろいろな記号が出てきたり,つまらない省略を多用する!あれじゃ聞くほうはついていけませんよ!(法学者の場合はもっとひどくて,最初から乙だのB だのとか平気で使う.まあたいていは猫とか真珠とかではなくて自然人か法人なので,それでもいいのかもしれませんが.)私自身はこの問題はあまりおこしていません.忘却力が強いので.

  • 経済学大学院留学ガイド
  • ロバート・L・ピーターズ『アメリカ大学院留学:学位取得への必携ガイダンス』木村玉己 訳.アルク1996.


ファイリングシステム

  • キャンパスホルダー,個別ホルダー,クリアホルダー
文書を挟むだけですむ.閉じる方式のものは後々面倒になるので避けた方がいい.文書の大きさはすべて A4 またはレターサイズで統一する.分類法については場当たり的にやっている.ひとつひとつの文書の属するフォルダは仕事に応じて入れ替わる.(野口悠紀雄『「超」整理法:情報検索と発想の新システム』(中公新書 1159, 中央公論社 1993)は時間軸で分類することをすすめている.ひとつの代案です.)
アイディアを思いついたとき(コンピュータで文書作成中でも)に,それを書き留めておくのに便利.もちろん印刷をするためにも紙は必要.


コンピュータ関係


別サイトを参照.


場所・気候

私は周りに人がいると頭の回転がストップしてしまいます.(すでに理解しているアイディアをアウトプットすることはできる;新しいアイディアを理解してインプットすることができない.)だから,他の人とオフィスをシェアするような環境はだめです.窓際で猫の世話でもしろと命じられていたでしょう.幸い香川大学では広い個室を与えられているので,この点では問題ありません.

部屋にほこりが溜まるのは気になりません.もっとも本を持ち上げたらほこりがどっさりとついてくる,というのは嫌ですが.舞い上がらなければ,いい.でも悪臭は気が散りますね.(試験のときにそばに悪臭をまき散らす人がいたら,絶望的な気分になりませんか?)大阪で住んでいたアパートはなぜか排水溝が臭うことがありました.塩素系除菌クリーナを流し込み,部屋には消臭剤を散布し,「微香空間」(ニオイ喰い)を部屋の隅に置きました.

都会がいいか田舎がいいかと言えば,人里離れたところがいいですね.タヌキが出そうなところ.人工の音はなにも聞こえないところが最高.エアコンの音くらいならいいが.ガス水道電気Internet 車は必要.高松でも大阪でもぜんぜんそうではないのが不満.高松にも大阪にもそれに近いところはあったのだけど.

音のいいパイプオルガンがあって,ときどき誰かが演奏しに来てくれるというのもいいですね.四国学院大学のチャペルにあるくらいのやつでいい.J. S. Bach とか M. Dupre とか.室内楽もいい.オーケストラはいらない.オルガン以外の現代音楽はなくてもいい.

湿気が高いのも集中の邪魔です.その点ミネソタはよかった.


服装

柔らかい服.腕時計など一切しない(普段もしませんが).パジャマ以外のズボンと靴下と靴は履かない.だが裸では寒いので,それもよくない.大学では身なりにかんする条件を満たしにくいので,研究しません.家でします.たいていラウンジウエアを着ている.


伴侶

特に必要ではないかもしれないが,いるとしたら,○○○○○○さんがいい.(○の数に意味はありません.)私が研究のことばかり考えてい(たとし)ても逃げていかないひと.仕事を突然辞めると言っても,文句言わないひと.一週間に3日くらいの同居がいいだろうか.良く分からない.


酒・食事

渡辺昇一の『知的生活の方法』にはこのテーマもあった.無視できないテーマではあるのだが,ビンボー生活がばれるのでここではあまり触れない.ちなみに私が炊飯器を手に入れたのは帰国してから4年目の1998 年であった.それまでは家でご飯を炊くことはなかった.以前東京にいたころ炊飯器を使ったことがほとんどなかったから,あえて買う必要を感じなかった.ミネソタでは炊飯器なんて持ってなかった.他の東洋人は持っていたようだ.現在は帰国後1年(1996 年夏;引用参照)のころよりマシになりました:
「僕の住んでいるところでは料理もできません.コップとティーカップはあるが,お茶碗はない.もちろん炊飯器とかトースターとか電子レンジなんていう贅沢品はない.(レンジはいつか買おうと思っているうちに1年たった.)コンロは妹が遊びに来たときに自分の珈琲をつくるのに置いていった携帯式のものならある.ラーメン用のいれものもないので,いつも麺はカップ入り.」


騒音対策

Syntonic Research, environments 1: The Psychologically Ultimate Seashore. Compact Disc, 1987.
騒々しい環境では研究その他の活動ができない人に,この CD をおすすめします.ただし入手は困難かもしれません.私がもっとも最近入手したのは 1998 年で, Tower Records でみつけました. この CD は波の音にふくまれるホワイトノイズによって,たいていの気になる音を中和してくれます.ヘッドフォンを使えば効果的です.ロックやラップなどにふくまれる断続的な極低音のビートサウンド以外は,これでどうにかなるでしょう.(騒音がひどい場合には耳栓とヘッドフォンを同時に使用する手もありますが,来客や電話に気づかなくなるかもしれません.ひどい場合はまずは音量を下げてもらうように努力すべきでしょう.)

気になる音を消す方法には,耳栓をすることや音楽を流すことなどもありますが,欠点があります.耳栓には装着感が悪いという欠点があります.(McCloskey は飛行場のグラウンドで仕事をする人が使う耳栓をしろという;しかし大音響を和らげるための耳栓が大音響以外にも効果があるのか疑問.)音楽は聴くためにつくられたものが大部分なので,つい注意が音楽の方に向いてしまいがちです.New Age Music には意識的に聴くことを要求しないものも多いのですが, たいていはかけているうちに厭きるでしょう.波の音など環境音のテープであっても,音を体験してもらう 意図で作られたものは,音楽と同じ欠点をもちます.environments シリーズのように,厭きの来ないこと, バックグランドとして長時間自然に流せること,などをコンセプトにして開発されたものを選ぶのがいいでしょう.

ついでに言うと,セクシャルハラスメント予防として学生が教員のオフィス(研究室)に来たときドアを開けておくことを要求する議論が一部にありますが,困ったものです.ドアを開けたまま会話をすると,まわりに迷惑です.また,まわりからの音も研究室に入り,騒々しくなってしまいます.私のばあい,外部からの音や侵入者が気になって,学生への対応に集中できません.そんなわけで,学生が私のオフィスに来たときはドアを閉めておいてもらいたいのです.

そもそもセクシャルハラスメントが起こる可能性が出てくるという議論は「教員と学生は対等の関係でないから(power differential があるとかいうのかな),学生は教員の過度の要求を拒否できない」という前提にもとづいています.でもそんな弱者学生ってどこにいるのでしょうね.こちらの要求なんてなかなかきいてくれませんよ.「そのサングラスかっこいいじゃん.かけてみてよ」とか要求しても,(正当にも)拒否されたりします.イヤなことをイヤというだけでなく,「いけてる」と思ってることでもイヤという.(威厳がある教授だったら,「弱者学生問題」というのもまったく考えられないわけではないかもしれませんが.)へたすると学生の方の過度な(←「エッチな」という意味とはかぎらない)要求をこちらが呑まされるはめになるかもしれません.まあ,私は(うれしい要求でなければ)呑まないと思うので,いいのですが.


最終更新:2012年09月25日 22:44