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郁乃専属メイド ~ep3~ :小牧郁乃


柚原家での食事はそれは楽しかった。
同じ年代の友達とバカを言い合いながらのご飯がこんなにおいしいなんて
私は人生の半分を無駄にしてたんじゃないかとさえ錯覚するほどに。

食事が終わり、再びこのみの部屋へ戻り
柄にもなく恋話などをに花を咲かせる。
これまで恋愛経験のない私からすれば、皆が羨ましくもあった。
皆の話に耳を傾けているうち、外が真っ暗になっている事に気づいた。
時計を見ると夜9時。そろそろ帰らないと、何かあっても一人では対応しきれない。

「じゃあ皆、私はそろそろ帰るわ」
「あ、じゃあ私らも帰るっしょ!キツネ?」
「わかってる」

すでに帰り支度を整えた山田さんに合わせて荷物を抱え立ち上がる私。

「春夏さん、お邪魔しましたー!」
「お世話になりました」
「お邪魔しました」
「何のお構いもしませんでごめんなさいね。また遊びに来てね」
「おかーさん、私郁乃ちゃん送って行くね」

このみのその言葉に何故だかわからないけど焦る私。

「いいっ、一人で帰れる。」
「だって郁乃ちゃん…」
「大丈夫だってば、それに私の家まで来たら今度はこのみが心配になる」
「もー!郁乃ちゃんひどいよ」
「心配するなこのみ。私達が途中までだが送っていく」

いまいち納得してない様子のこのみだったが、
最終的には途中まで吉岡さんと山田さんに送ってもらう。それで納得してもらった。

二人との分かれ道まで何事もなく辿りついた。
ここから結構近いので大丈夫だろう。

「じゃあまたね郁乃ちゃん」
「また会う日まで」
「ありがとう。こちらこそこれからよろしく」

二人と別れ、数メートル先の自宅へゆっくり向かう。
危険だという理由で夜に出歩いた事はなかったけど
夜は夜で予想通り楽しいものだった。
早く完治してのんびり出かけたいものね。

自宅前に着くとリビングに明かりが点いているのを見てシルファの存在を思い出す。
あの子、今日は何してたんだろう。
気にはなったが、今朝の通学を思い出し考えを振り払う。損はしたくないし。

当然のように玄関の鍵は開いており、難なく入る事が出来た。
柚原家を思い出し、靴をきちんと揃えて部屋にあがる。
シルファはどうしてるのかとリビングを見回すと、
片隅で正座をしていた。しかし、少し様子がおかしい。
あれは寝てるのかしら。主人じゃないけど主の帰りに気づかずに寝てるなんて。
文句のひとつでも言ってやろうと近づいたところで気がついた。
テーブルに置かれたオムライスと手紙。そしてシルファに続くパソコンの画面。
丁寧な文字で書かれた、私に宛てた手紙。
『お夕飯は何が良いかわからなかったのでオムライスにしました。
もしお嫌いでなければ召し上がって下さい。
充電が切れそうなのでスリープモードに入りますが、郁乃様のお迎えが出来ず残念です。』
そしてディスプレイ映る文字。
『スリープモード開始時刻21時。終了予定時刻6時。充電20%』

ぎりぎりまで待っててくれてたのね…。悪い事したかな。

夕飯はこのみの家で食べたので、とても食べられそうになかった。
申し訳ない事をしたと一瞬思ったが、柚原家での食事が決まった時、
電話は繋がらなかった。そう、悪いのは私じゃない。
そう言い聞かせ、寝る為の準備に入る。
お風呂から上がった私は申し訳なさも手伝い、お腹が減っている訳でもないけど
オムライスを食べる事にした。

「なによ。意外とおいしいじゃない」

ロボットの作る料理がどんなものか興味はあった反面、
ちゃんとしたものなんて作れるはずがない。とタカをくくっていた分
この料理は少し衝撃だった。
本来なら、ペロリと食べきってしまってもおかしくないぐらいおいしかったけど
さすがに2食は食べられない。2口ほど食べたらすぐにお腹がいっぱいになってしまった。

おいしいので明日の朝ご飯にする事を心に決め、
戸締りをしてから寝床に着く。

「よく考えれば人がいたって寝てたら意味ないじゃない。無用心ね」

明日の朝はオムライスのお礼と戸締りに関する注意をしよう。
いつ電源が切れたり、ブレーカー?なんてあるのかしら。が落ちたりするかもわからないし。
でも、未だに今朝の挨拶しかしてない分、どうやって話しかけたものか。
何事もなかったように?それともメイドだってのならあくまで主的に?
シルファとの接し方について考えていたが、気がつけば深い眠りについていた。

まぁ、眠ってる事には気づいてないんだけどね。
朝にシルファに起こされてようやくその事実に気がついた。

「郁乃様そろそろお時間ですよ。起きて下さい」

シルファに起こされた私は目をこすりながら、リビングへと向かう。
さて、どうやって話かけようかな。起こしてくれてありがとう。
うん。これが無難かな。
そんな事を考えながら、ふとテーブルに視線を泳がす。

あれ?
テーブルの上にはきっちりとした和食が並んでいた。
ご飯に味噌汁、焼き鮭にお漬物。
文句ないぐらいの和食。ちゃんと早起きして朝ごはん作ってくれたんだなぁ。
でも、昨日のオムライスを予定していた私に取ってこれは裏切りだと思ってしまった。
私の我侭だって事ぐらいわかってる。でも…。

「ちょっとシルファ!昨日のオムライスはどうしたのよ」
「あ、お口に合わなかったのかと思って捨てました」
「え、捨てた…。もったいないとは思わなかったの!?メイドロボはお金持ちの家で働く事しか想定されてない訳?だから簡単に捨てたりするって事?」
「あの、違います…そろそろこの季節は食べ物が痛むのが早く」
「言い訳は聞きたくない。少しは庶民の立場も考えなさいよね。それに寝るなら戸締りぐらいきちんとして欲しいものね。貴女がいた所で寝てたら意味ないじゃない」

違う。こんな事が言いたい訳じゃない。
しかし、一度ついた火は止まらない。

「それに誰が和食にしろって言ったのよ!?私はパンが食べたかったのに」
「申し訳ございません…私が至らないばかりに」
「本当にそうね。今日は朝ご飯いらない。学校行って来る!ちゃんと戸締りしなさいよね」

シルファの言い分もろくに聞かず
そう言い残し、ドアを荒々しく閉めて私は学校へ向かった。

気分も優れないまま午前の授業が終わる。
今日は何を食べようかしら。お弁当もないし学食かな。
黒板を背伸びして一生懸命に消しているこのみの後ろ姿をぼーっと眺めていたけど
クラスメートの呼び声で現実に引き戻される。

「小牧さーん!シルファさんって人が来てるよー!」

シルファ?何をしに学校へ来たのだろう。
どうでもいい事だったら張り倒してやるんだから。
朝の憤りを未だに抱えた私は、少し不機嫌そうに教室の入り口を伺う。
少し不安げな顔でシルファはそこにいた。

「なに?」
「あの、お弁当をお持ちしました。今朝持って出られませんでしたので」

朝、あれだけの罵詈雑言を浴びせたのにわざわざお弁当を届けてくれたのだ。
正直、受け取る気分ではないかったがクラスメートがみているここで、
そのまま追い返す訳にも行かなかった。

「そう。ありがと」

弁当箱を受け取り、そのまま踵を返す。
スタスタと去り行く私の背中にシルファは声をかけてきた。

「あの、郁乃様!今日のお夕飯は如何致しましょう?」

学校の教室そんな事を大声で叫ぶシルファ。
ホンっトに何考えてんのかしら!?私をさらし者にしたいのかしら。

「何でもいいわよ!」

そう怒鳴ってそのまま席に着く。もちろんシルファの方なんかは見ない。
まだ何か言いたそうな気配はしたが、諦めたのかクラスメートにお辞儀をして帰って行った。
事の顛末を知らないこのみが日直の仕事を終えて、トテトテとこちらに歩いてきた。

「郁乃ちゃん!一緒にお昼食べよ!」
「私、今日は学食だから」

未だに尾を引いていた私は少しつっけんどんに返す。
きょとんとしたこのみの表情を見て気がついた。
しまった…このみには何の非もないのに…。
でもそんな私の気持ちを知ってか知らずか。

「でもそれ、お弁当箱だよね?」

さらにしまった!隠すのを忘れてた。私とした事が。

「私はこれ食べたくないのよ。だから今日は学食」
「でもシルファさんが作ってくれたんでしょ?」
「だからよ。さっきわざわざ持って来てくれたわ。頼んでもいないのに」
「そんな言い方ダメだよ。あ、じゃあ私がそれ食べたい!」
「はぁ?いきなり何を。それに2つもお弁当食べれるなんてどんな胃袋してんのよ」
「さすがに私でも2つは食べれないよ~」

ニコニコと笑っているこのみ。何が言いたいのかしら。

「だから、私のとお弁当交換しようよ。そうしたら無駄にならなくて済むでしょ?」

そういう事か。その提案は悪くない、と思ったので飲む事にした。
ただ単純にこのみがシルファの弁当に興味があっただけなのは、私が知る事はなかった。