※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

郁乃専属メイド ~ep4~ :小牧郁乃


昨日も思った事だけど、やっぱりこのみのお母さんは料理がうまい。
お弁当用の味付けってのもあるんだろうけど、冷えたご飯でもおいしい。
色とりどりに揃えられたおかずのその一つ一つが丁寧で実にきれいだ。
シルファの作ったお弁当もそこらへんは負けてなかったけど。
さっき喜色満面で蓋を開けたこのみの顔をみたらわかる。
まぁ、味も宵のだろう。
下がりっぱなしの眉尻と

「えへ~、おいしいでありますよ~」

を連呼してるので、それは容易に想像できた。
昨晩のオムライスからも推して知るべしといったところ。

それにしてもますます話づらくなっちゃったなぁ…
どうしよ。せめて会うまでにもう少し時間があったら。
姉も姉よね、私の性格を知ってるなら…
知ってるからいきなり連れて来たのかな。
私が思ってるより自分の事をわかってる姉の困った顔を思い出し
つい苦笑がこぼれる。

「郁乃ちゃん?どうしたの?」

そりゃそうだ。急に苦笑なんてすればこのみじゃなくても変に思うだろう。
わざわざこのみに余計な心配をかける必要はない。

「なんでもない。おいしそうに食べるなぁと思って」
「おいしいよ!郁乃ちゃんも食べる?」
「いいって。私はこのみのお母さんのお弁当を堪能させてもらうわ。こっちもおいしいしね」

正面でえへへ、と笑うこのみにつられて思わずうすら笑いを浮かべる。
ん。なんか和んだかも。


午後の授業が終わり、特にする事もないし部活もやってない私は
まっすぐに帰る事が多い。
まだ十分に動く体でもないし、文化部に入るのもあまり気が乗らない。
姉は生徒会関係を推して来るが、柄でもないし
いきなり来た人間にそんな役が務まるとは思わないので、丁重にお断りさせてもらってる。
しつこいけど。

同じく部活に入ってないこのみと帰宅する事がここ最近多い。
今までは幼馴染四人で行動する事が多かったこのみも
ある時期を境にクラスメイトと過ごす事が多くなった。
まぁ理由なんてひとつしかないし、自分の肉親が原因である以上
そっちへ行けとも言えない。
このみと一緒にいるのが嫌な訳でもないし。
鞄を小脇に抱え、ちょこんと首を傾げるこのみを促し学校を出る。

帰りに参考書を見たいのもあって、二人で商店街へ足を運ぶ。
よくよく考えればすぐに思いつくのに。
もっとよく考えて行動するべきだったと後悔したのは、彼女に出会ってからだった。

「あ、シルファさんだ!こんにちはでありますよ~」
「このみさんに…ご主人様。お帰りなさいませ」

目の前に立つメイドロボ、シルファのその一言に商店街の視線を一斉に集めた気がする。
一般の高校に通う女子生徒がご主人様などと呼ばれれば気にもなるだろうなぁ。
シルファに限らず、メイドロボに場をわきまえろと諭したところで譲らない気がする。
もはや羞恥による怒りを通り越してあきれに変わった私の表情を見て
シルファの表情が若干曇ったような気もするが、いちいち気にしていられない。

「ただいまであります!シルファさんはお買い物?」
見ればシルファはこの近所にあるスーパーの袋をぶら下げている。

夕飯の買出しにでも来たのかしら?
当たり前の疑問は当たり前の答えで返される。

「えぇ、お夕飯の買出しに来たのですよ」

もう少し捻りのある返しは出来んのか。
芸人でもないシルファにそれを求めても仕方ないんだけど。
このみは無邪気にシルファと夕飯の話に花を咲かせている。

まともに喋れるんじゃない。
少し悔しい気持ちに駆られる。私の方が一緒にいる時間は長いのに…
…って、それじゃ私がシルファと仲良くしたいみたいじゃないの。
そんな風に考えた自分が憎い。

「それじゃあ郁乃ちゃん、また明日ね!ばいばーい」

いつもの分岐路でこのみは手を振り、元気に走って行った。
ホント元気な子。

「このみと何の話してたの?」

ずっと無言のままも気まずい。私が。
少しぶっきらぼうにはなってしまったが話しかける事にする。
シルファは一瞬びっくりしたような表情を見せるが、すぐにいつも通りの
何を考えているかわからない、凍りついたような表情に戻る。

「今晩のお夕飯についてお話してました」

これだ。この表情が嫌い。
びっくりする、なんていう表情も出来る技術を盛り込まれてるくせに。

「柚原さんのお母様は料理がとてもお上手なんだそうですよ」

何が言いたいのかしら。そりゃ私だって冷たい態度を取ってるかもしれない。
でもそんな顔してまでどうでもいい話を続ける。
ひどい違和感が私の思考を蝕む。

「そんなに柚原家がいいなら、柚原家へ行けば?」

何に対しての苛立ちか自分自身にもわからないまま、口をついて出た言葉がそれだった。
言った後に後悔する。どうしてこんな事しか言えないんだろう。
時間にしたら一瞬だったかも知れない。
シルファの苦悶に満ちた表情は私の脳裏に焼きついて離れなくなった。
少し下唇を噛み締めたあと、シルファの口から発した言葉。

「私は…郁乃様のメイドロボですから」


なにそれ?あくまでメイドとして世話するって事?
…わかった。そっちがそういうつもりならこっちだってもう気にしない。
姉とバカアキが帰ってくるまでせいぜいメイドとしてお世話になるとしよう。
少しでも仲良くした方がいいのかな、などと考えた自分が恥ずかしいわ。

それから私と、メイドとしてのシルファとの生活が続いた。
特に会話をする訳でもなく。
シルファは淡々と家事をこなし、私は淡々と学業に励んだ。

姉達の修学旅行も終盤に差し掛かろうという週半ば。
無言の夕食を終えてニュースサイトに目を通していた私の部屋に
控えめなノックの音が響いた。

「お姉さまからお電話です…」

「姉から?」
もうすぐ帰ってくるってのになんでわざわざ電話なんか…
お土産何がいい?とかだったら怒鳴ってやろうとも思ったけど
あの姉なら言いかねない。
少し苦笑しながら電話の子機を受け取る。

「もしもし?お姉ちゃん?」
「あ、郁乃ぉ~!元気~!」

こっちは気まずい空気が続いてるというのに、能天気な声の姉。
少し想像したのと、久しぶりの声に少し顔が緩む。
でも、シルファが近くにいる事を思い出しすぐに表情を正す。

「相変わらずよ。特に何もない」
「そ、そうなの?…あれぇ?」

姉が電話口の向こうで何かつぶやいてる。
後ろにいるであろう貴明とひそひそ話をしてるつもりなんだろうけど丸聞こえ。
気づいてないんだろうなぁ。

「で?何しにかけてきたの?」
「郁乃ぉ~ひどいよぅ…うぅ、郁乃が元気にやってるか心配だったのよぅ」
「はぁ?なにそれ、用事もないのにかけてきたの?」
「あうぅ~、郁乃が冷たい…しくしく」

呆れて言葉も出ない。まさかこんな事で電話してくるとは。
姉らしいといえば姉らしいんだけど。