284話

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*第284話:その生の理由は アリアハン西の山岳地帯を、一人歩む男がいた。 「盲いた眼では山道は嶮しい…か」 そう言いながらも、杖を手に、汗一つ掻かずに男は傾斜を登っていく。 ただ真っ直ぐ、東に向かって。夜明けの太陽の熱を感じた、その方向に向かって。 開始時に見た地図によると、東には洞窟があるはずだった。 いざないの洞窟と魔女が言ったが、おそらくそのことだろう。 だから、其処に向かっているのだ。 彼には特に生への執着心があるわけではない。 ただ、賢者とは何たるかを考えたときに、このまま朽ちていくことの無意味さを感じたのだ。 知は、栄誉や名声の類のためのものではない。自己満足のためのものでもない。 ――生かさずして知は真の力となるか。 まだ、生きる意味は、ある。 ――脱出の可能性を、自分の力に見出すことはまだ出来てはいない。 だが、盲いた眼にも一筋の光が確かに映っているのだ。 賢者として皆を導くこと――まだそんな使命が残されているのだから。 彼はちょっと歩くスピードを緩め、右手を前に差し出した。 すると、一匹の小鳥がその掌に止まり、小さい声で鳴いた。 「鳥よ…私に言葉が分かればよいのだが」 無い目をその小鳥に向け、クリムトは少し溜息をつく。 小鳥は小さい声で鳴き、その翼は彼の掌を撫でる。 「幼少の頃は、動物達と会話をしたりしたものだが…。どんなに知識を得ても、あの頃の穢れなき姿には戻れぬか……む?」 小鳥は羽ばたいて天空に舞った。クリムトは小さく呟いた。 「…気づいたのだな」 この向こうで何かの気配がする。…異質な空気は、おそらく人間が齎すソレだ。 そして同時に――血の匂いを嗅ぎ取った。 「何か、あったな」 彼は歩くスピードを速め、眼の見えぬ男とは思えぬほど正確に、その場所へと急いだ。 あーあ。せっかく眠りについたのに。 すぐに地震あって、それで起きたら放送あってさ。 二時間で移動しろっての?こっちの身も考えてよね。 まだ満足に動けないってのにさ。でもこのまま死ぬのはゴメンだし。 あーあ、誰か助けに来てくれないかな… …もちろん、助かった後は容赦しないけどさ。 ――アリーナは、一人で呟き、にやりと笑った。 …って、笑ってる場合じゃないわよッ! 本当にこのまま死ぬなんてさ。 あのモヒカン男――許さないんだから… 其処で思考を止め、耳を澄ませる。 すると、足音が聞こえた。こちらに向かっている。 …ラッキー!やっぱ神様に祝福されたのかも! あ、でも殺しをやってる人だったらどうするのよ。 こんな状態じゃ逃げようが無いじゃない! うー、取りあえずどんなやつか見極めて… 今度は、完全に思考が止まった。 早足で歩いてくる男には――見覚えがあった。 「うそッ!」 思わず叫んで、慌てて口を手で押さえる。 もっとも、そんなことは彼の次の行動には何の意味も成さなかったが。 「…成る程…さて、こんな所で何をしているのか」 どうやら彼は、既に彼女が誰であるか気づいたらしかった。 ――冗談じゃないわよ! 彼にトドメを刺さないでおいたのは、『私』が私を追いかけるのを防ぐためだったのに。 重症な上に眼が見えない人を置いていくことは無いと思ったからなのにさ! それなのに、この人、眼が見えないのに一人でここまで来たの!? 「…起き上がれぬのか。怪我をしているのだな」 彼は、見えないくせに顔をアリーナのほうへ向けたまま歩いてくる。 …死を悟った。 何故か、包帯の下には無いはずの目が、自分を見据えているように感じた。 さっきよりも覇気があって…スキが無い。 恐ろしく強い戦士に思える。 圧倒的な威圧感を持ち、彼は仰向けのアリーナの傍で足を止める。 「…もう、さっさと殺しなさいよ!」 半分自棄になり、叫んだ。 眼が見えないのにここまで歩いてくるくらいだ。 普通じゃないんだこのジジィ――! 「私には人を殺める気など無い」 彼は静かに言った。 「そう欲したことも無い。欲する価値も必要もあるとは思っていない」 アリーナは唖然とした。 「え?何?」 「私はそなたを殺さぬと言っておるのだが」 呆然とするアリーナ、そして再び歩き出そうとするクリムト。 アリーナは、ハッと我にかえると、別の言葉を彼にぶつけた。 「じ、じゃあ、殺す気がないなら助けてよ! このままだと死んじゃうかもしれないわよ!呪文とか使えるんでしょ!?」 「…生に固執しておるのかね」 ゆっくりと彼は言った。 「――そのような物は、生きる意味を見つけてから執着するがよい」 「ちょ、ちょっと待ってよ!あたしにだって――」 「生きるために生きる、或いは殺すために生きることは、生きる意味を見つけているとは言えぬ」 それだけ言い、彼は歩き去った。 アリーナは起き上がり、遠ざかる彼の背中に、最後の罵声を浴びせた。 「ちょっと!あたしをこのまま生殺しで放置しとくの!?…くたばれクソジジイ!あんたもソロも皆殺して絶対に生き残ってやるんだから!」 アリーナは、後はただひたすら意味の無い言葉を喚いていた。 喚き声を背中に受け、クリムトは東に歩き続ける。 一人でも多くの者をこの狂気から解放する、それが課せられた義務だ。 …だから彼は、歩き続ける。 人を傷つける事を欲する心など、一度たりとも養われることは無かった。 …だから彼は、歩き続ける。 殺す事でなく、生かす事で、この戦いに終焉を齎すために。 今、賢者として皆を狂気から救うことだけが、彼に見える唯一の光なのだから。 「――どうしろっていうのよ!」 アリーナは、クリムトの背中が消えた方向に毒づく。 ――とんだ神様の祝福ね!あたしに向かって、人を殺さないなんて言いやがった。 ――絶対に後悔させてやる…! 力の入らない足を無理やりに立たせ、傷だらけの四肢を少しずつ宥め騙して動かしていく。 「…有言実行!」 ――皆殺して絶対に生き残る! アリーナは、クリムトの消えた方向を鋭く見据え、痛む身体を鞭打って、ゆっくりと歩き出した。 【クリムト(失明) 所持品:力の杖  基本行動方針:誰も殺さない。  第一行動方針:東へ行き、旅の扉を(視覚以外で)探し、次世界へ  最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】 【アリーナ2(分身) (HP 1/9程度) 所持品:E皆伝の証 E悪魔の尻尾  第一行動方針:いざないの洞窟or最東端の旅の扉へ  第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない  最終行動方針:勝利する 】 【現在地:いざないの洞窟西の山岳地帯】

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