242話

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*第242話:献身の正義 確かに彼は見た。 その映像は酷く不鮮明で、まともに見ることが出来たのは一割ほどに過ぎなかったけれど。 確かに、見た。そして、聞いた。 助けを求める必死の叫びを。 美しい桃色の髪をしたエルフの少女の声を。 …どうか…助けて… 懇願するような表情の少女に手を差し伸べようとして、ハッサンは目覚めた。 ――闇の中に彼は自分を見出した。先程の、少女の背景に見えたどこかの城下町のイメージなど微塵もない。 目の前に――といっても数メートル離れて――座っていた紫の髪の女性が、目が覚めたのですかと優しく聞いてきた。 おぅ、とだけ答えた。表情は引き攣ったままで、彼女が誰かを思い出すよりも先に。 …アレは夢とは思えなかった。 夢の世界は別に存在する、と言う概念があろうとなかろうと、関係ない。アレは真実を伝えているのだろう。 そして、助けを求める者を無視する、そんな概念は、彼には存在しなかった。 城は、ここから西のほうにあった筈だ。 行かなくては。 彼は立ち上がり、その足は一歩を蹴り出そうとして―― ――彼の身体は、宙に舞った。 爆音が、揺れながら聞こえるのを感じた。 直後、激しく地面に叩きつけられ、身体が悲鳴を上げた。ハッサンは表情を歪める。 大丈夫ですか、というミネアの慌てた声が、遠くで聞こえた。 大丈夫だがあんたは、と出来るだけ冷静に返す。 私は大丈夫です、と返ってきた声を聞くと、彼は再び立ち上がった。 腕を上げると、身に着けている物の中で唯一傷一つ創る事無く存在している呪われし指輪が、鈍く光った。 彼は、吼えた。 自分の不運さに、否、自分の無力さに、吼えた。 ――俺の生きている証明、正義さえ、奪おうとするのかよ。 ――いや、奪わせてたまるかよ、ここにいる証明を。俺の正義を。 ――死に至ることはねぇ。助けを求める者がいる。なら、するべき事はひとつじゃねぇか? この身体が何度爆発しようとも、プライドを奪われるよりはマシに決まってる。 そう思った彼は、その足を再び前に進めようとした。 だが、すぐに止まった。 彼の腕を、近くに来たミネアが掴んでいたから。 「どうしたって言うんですか?」 「……」 「何かあったんですか!?」 ミネアの表情は真剣だった。 「…夢で、助けを求められたんでな」 先程までの、低いけれど親しみやすい声とは、一寸異質な声をしていた。 殺気すら感じる、暗い声の響き。 怒りが、自分への怒りが、彼の声をそうさせているのか。 「…それは?」 「…エルフの女の子がよ、夢ん中で俺に助けを求めて…」 エルフ、と言う言葉に彼女は瞬時に反応する。 このゲームに参加しているエルフは、一人しかいない筈だった。 「その人は、きっと、ロザリーです。私の仲間でした」 仲間、と言うと少し違うが、其処まで説明することもない。むしろ、共に邪悪に立ち向かったのだから、それは仲間だ。 「じゃぁ余計、助けに行かなきゃな」 彼は、ちょっと其処まで、という感じで吐き捨てるように言い、再び足を進めようとする。 だがミネアは、その腕を必死に掴んだ。 使命感、そして正義に固執する彼。 きっと彼にも、彼の生き方があるのだろうし、何かに導かれて正義を貫いてきたのだろうから、それも正しい。 だからこそ、止めなくてはいけないと、思った。 失わせることは出来ないと、思った。 「行くのなら行って下さい」 ハッサンの腕を掴み、まるで彼に寄り添うようにしてミネアは言った。 この距離でいれば、ハッサンの起こす爆発が、確実にミネアをも巻き込むだろう。 だからこそ、そこに身を置いた。 「ですが、傷ついた身体で助けに行っても力にはならないでしょう」 今、彼が目の前で傷ついて行く姿を見るのは、辛い。 「だから、今は耐えてください」 彼は正義の人間だ。だから、無理やり進むことが私を傷つけることになれば、それは出来ない筈だと思った。 ふぅ、とハッサンは息を吐いた。 「…わかった。この身体じゃあ、な」 彼はそう少し寂しげに言い、地面に腰を下ろした。 ミネアは、ようやく少し安心したように、微笑んでみせた。 「大丈夫です、ロザリーが呼びかけているのなら、他にも、もっと万全な状態の人が、助けに行くでしょうから」 ――ピサロさんなら、きっと飛んでいくでしょう。 まだ晴れない表情をしているハッサンのすぐ横に、ミネアは同じように腰を下ろした。 朝になれば状況が改善するとも思えないが、今は耐えるしかなさそうだから。 彼が無理をして動き出さないように、常に傍にいることが自分の役目なんだと、納得して。 彼は、私がいないとだめだから―― 頭をよぎったロザリーの顔を、振り払った。 【ハッサン(HP残り1/16+α) 所持品:E奇跡の剣 E神秘の鎧 E爆発の指輪(呪)  行動方針:指輪を外す 最終行動方針:仲間を募り、脱出】 【ミネア 所持品:いばらの冠 嘆きの盾 悪魔の尻尾 行動方針:ハッサンが動き出さないように彼に密着】 【現在位置:いざないの洞窟西の山岳地帯】

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