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*第213話:小さな小さな
さっきのセージ達の戦いが恐ろしくてすぐに目が覚めた。
ハッキリと様子を見ていたわけではないのに、お腹のあたりがムカムカザワザワする。
戦いそのものには慣れているし、並の大人よりも長けている。
でも、人間同士が何の理由もなく殺し合う、そんな状況に居合わせていることが
未だに信じられなくて、気持ち悪いと思う。
だから、セージに止められたのに、迷惑や心配はあまりかけたくなかったけど、
最初で最後の無理を言って外の空気を吸いに出た。
「危なくなったら、イオラあたりを一発ぶちかましてくれればすぐにとんでくから」
そう言ってくれた。
ちょっとだけ、多感なお年頃だし、一人になりたかったというのもあったかもしれない。
撫でるように、タバサの頬を夜風が通り過ぎる。
――風がこんなに気持ちいいのに。
――空気がこんなにおいしいのに。
目の前の荒れた大地を見ると、さっきの戦闘が生易しいものじゃなかっただろうとわかる。
いくらセージでも傷を負っただろうけど、たぶん自分で治してしまったんだろう。
セージが呪文で頂点を極めていても、こんな状況が続いたら限界はいずれ来る。
――私もみんなを助ける呪文がもっと使えたらいいのに。
父や兄のように。
そうすればセージの負担も軽くなるし、多くの人の命を救えるかもしれない。
サンチョやピピンみたいな人を増やしたくないし、親しい人の死を知って悲しむ
自分のような人も増やしたくない。
「回復呪文はさ、相手をいたわる気持ちが大事なんだよ。
マヒャドなんか使ってる冷たいタバサにはそれが足りないんだろうね~」
兄が冗談交じりにそう言う度に
「あれあれ?いいの、怒らせて。使っちゃうわよ、イオナズン」
なんて言ってやった。
父に相談したこともあった。
「人には向き不向きがあるからね。
お父さんやレックスが敵を引きつけてる間にお母さんやタバサが強力な
攻撃呪文で蹴散らして、もし怪我をしたらお父さん達が治す。
そうやってみんなでお互い協力して戦うんだよ。
それに、タバサのバイキルトはお父さんもレックスも大助かりだよ」
実際リュカの言う通り、それでうまくやってきた。
それにレックスの言うこともあながち間違いでもない。
タバサは人を守りたいと思うよりも、どちらかというと理解したいというか、
解り合いたいと思う気持ちが強かった。
だから動物達や、モンスターまでもお友達になれた。
レックスはそれを「絶対おかしいよ!」と言って、双子なのに早速解り合えなかったけど、
サンチョに「リュカ坊ちゃんやマーサお祖母様もそうだったんですよ」と言われると
誇らしさでいっぱいになった。
自分と同じような父が、人を守る呪文も得意なのが実はうらやましかったけど。
急に……今、何か聞こえて……タバサの顔が引き締まった。
ちょっとぼ~っとしてたけど、確かに近くで音がした。
闇の中、陰に紛れるようにほこらから離れないようにして座り、
できるだけ身を縮めていた自分が誰かに見つかったとは考えにくい。
何よりセージがレムオルをかけてくれたし。
透明人間になれる呪文なんて初めて知った。
念のため、いつでも立ち上がって戦えるようにちょっとだけ腰を浮かせている。
また、今度はハッキリとすごく近くで草が動く音がした。
その方向を凝視すると、そこには、こちらの様子をうかがっている野ネズミがいた。
「おいで。ごめんね、ビックリさせちゃった?あなたをいじめるつもりはないのよ」
安心したタバサは元の縮こまった体勢に戻り、囁くように言う。
本当はビックリしたのは自分だったのだけど。
そろそろと野ネズミが不思議そうに近寄ってくる。
――お母さんやお兄ちゃんなら、汚いとか言って追い返しちゃうのかな……。
そんなことを考えて野ネズミを見ていると、暗くてよく見えないけど、
確かに火傷のような痕があった。
さっきの戦いにでも巻き込まれたのだろうか。
なんだか、こんな小さな命がちゃんとあることにほっとして、嬉しくて、
でもちょっと申し訳なくて、悲しくて。
「おいでよ。おねえさんがその怪我治してあげる。だからもっと近くにおいで」
ちょっと戸惑っていた野ネズミが、とっとっとっとっと近寄ってくる。
「ほいみぃ!~~~ぃ?……ダメ?」
まあそうだろうと思ったけど、何の変化も起きなかった。
「そんなにすぐ出来るようになったら苦労しないよね」
野ネズミはタバサの伸ばした手に顔をすり寄せている。
「ごめんね、ちょっと期待させちゃって。やっぱり私には無理みたい」
突然、野ネズミが飛び跳ねた。
すごい勢いで。
そうかと思った瞬間には、すでにそこに野ネズミはいなかった。
タバサが目をパチクリさせる。
――いじめないって言ったのに。
――……そろそろ戻った方がいいかな。今度はお兄さんに寝てもらおっか。
――悟りの書もちゃんと読みたいな。
――そういえばお母さんの寝顔ってすっごい綺麗。
――どこかのお姫様みたい。あ、お姫様は私だっけ。
――ギルダーさん、だったかな?お母さんも起きたら私達に話したいことがあるって言ってたっけ。
野ネズミが消えていった闇を見つめて、静かに、ほこらの中へと戻っていった。
――魔女は恐いけど、こんなことに言いなりになるなんてやだし、
もっとお兄さんやお母さんの力になれたらいいな。
巣穴に戻った野ネズミは、先ほど感じた恐ろしい気配に身を震わせていた。
それは、人間の言葉で言えば、『魔王』。
自分の火傷の痛みが消えてかけていることに気付く余裕はなかった。
【タバサ(透明・すぐに解ける) 所持品:ストロスの杖・キノコ図鑑・悟りの書
第一行動方針:休息ついでに悟りの書を読む 基本行動方針:家族を探す】
【現在位置:いざないの洞窟近くの祠すぐ外→内部の部屋】