141話

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*第141話:殺姉愛 レーベの村の南の森、さらにその奥深く、姉弟は対峙した。 一人はそれと知らぬままに…。 雷鳴の剣がうなる。 ミレーユの金髪が何本か、宙に舞った。 一撃を放った後の隙。そこに彼女の正拳突きが炸裂する。 「くっ…!!」 細身の腕から繰り出される予想外の威力に、テリーは顔をしかめた。 今度は距離をとり、体勢を立て直す。 だが、たったそれだけの短時間に、ミレーユは呪文を一つ唱え終えていた。 「バギクロス」 狙いはテリーではない。 彼が呪文をはじくことは、先の戦闘で思い知っている。 ではどこを狙ったのか、それは周囲にそびえる木々。 バギ系最大の呪文は、竜巻となって森の木々をなぎ倒す。 倒れる先には、血に飢えた肉親。 これ以上、弟に罪を重ねてほしくない。 止めなければならない、ただ一人の姉なのだから。 例え、殺してしまってでも…。 雷鳴の剣がいかに優れた剣であっても、全方向から倒れる木々全てをなぎ払えるものではない。 怒涛のごとき破壊の後、そこには張り詰めた沈黙が流れた。 はぁ、はぁ、はぁ…。 息が荒い。 倒れた木々から目を離せない。 あそこには、弟がいる。 助けて、ダメ、助けては、振り切りなさい、ミレーユ!! 何かを振り払うように、ミレーユは己で行った破壊の結果に背を向けた。 そして視界に映るのは、すでに事切れた男と瀕死の魔物。 ミレーユには、それは弟のもたらした破壊の結果だとしか映らなかった。 ならば、それまでに止められなかった自分にも責任があるのではないか。 私は、責任を取らねばならないのではないか。 弟が手を下そうとした魔物はまだ生きている。 彼女は手を差しのべてしまった。 事実は、彼女の結論とは多少ずれている。 けれど、ミレーユにそれを知るすべはない。 「大丈夫。…ごめんなさい」 そのとき、ピエールの意識は、またしても闇に囚われかけていた。 テリーの殺気により、主に対する忠誠心による気力のみで覚醒を果たし、さらには身を守る動きも出来た。 だがそれも限界に近づいてきている。 そこに、あたたかい、やわらかい光が降り注ぐ。 本来なら、どんな重傷の者でもたちどころに癒してしまう魔法の光。ベホマ。 今現在ではそこまでの効力もないが、ピエールの意識を完全に呼び戻すだけのことは可能であった。 「…よかった」 死より救い出してくれた女性は、ピエールの目にとても美しく映る。 けれど、彼の成すべきことは、一つ。 そっと、ザックの中に手を伸ばす。 その時…。 空に雷鳴が響き渡る。 と同時に眩いばかりの光とともに、天から一筋の雷が降り注ぐ。 雷は倒木を砕き、砂塵を撒き散らす。 それが晴れたとき、そこには一人の男の姿がある。 テリーは雷鳴の剣を高く掲げていた。 何をしようとしているのかはわかる。 雷鳴の剣をもう一度使うつもりだ。 選ばれし勇者しか扱えぬ雷の力を従えるつもりなのだ。 ミレーユは唖然と弟を見つめていた。 彼女とて雷鳴の剣の効力ぐらいは知っている。 けれど、手を下したはずの弟がまだ生きていることへの感情が、 喜びなのか悲しみなのか、あるいは恐怖なのかわからず、混乱している。 それが、彼女の行動を遅らせた。 テリーが雷鳴の剣を振り降ろす。 雷が落ちる。 ピエールはとっさに、しかし冷静に、伸ばした手の先のザックの中からいかずちの杖を取り出し、放り投げた。 その杖には雷鳴の剣と同じく、魔法の力が込められている。性質は多少違うが。 雷は宙に投げられたいかずちの杖に引き寄せられるように直撃した。 雷の力と炎の力が衝突する。 二つの魔力は集束し、そして大爆発を引き起こした。 「なっ…!!」 「あっ…!!」 「……」 爆発に怯むテリーとミレーユ。 しかしピエールはこの結果を予測している。 「今です!!!」 いまだ把握と理解と納得を出来ていないミレーユに、ピエールは言い放つ。 重傷を負っている自分では、怯んだ隙をうかがっても敵に一撃たりと入れられない。 ミレーユの混乱は、そしていまだ完全には整理の言っていない心は、まだ迷いの淵にいる。 けれどピエールの言葉は、迷いを持ったままのミレーユを決断の崖へと追い立てた。 もう、後戻りは出来ない…。 昔、魔王ムドーを倒し、ダーマ神殿を復活させたとき、ミレーユは願った。 仲間を守りたい。 …そして僧侶となった。 守り続ける力が欲しい。 …そして武道家となった。 二つの職を極めた彼女は、最後にこう願った。 守っていきたい。ずっと。だからもっと、力を。 (上級職たるパラディンならば、その願いをかなえられることもできよう) (では、神官様。お願いします) 爆発による熱風は、まだ吹き荒れている。 テリーは体勢を立て直し、またこちらに向かってくる。 だが隙がある。 本人がそれと気づかず焦っている。 ミレーユは、胸の前で十字を切った。 (私は、守りたい。…テリー、あなたを…) 聖なる十字架、グランドクロス。 魔法ではない思いの力。 どうかこの光が、彼の闇を消してくれますように…。 光が晴れた。 砂煙も晴れた。 テリーは地に臥している。 息は、ある。 ミレーユは彼の元で膝を折った。 「何故、止めを刺さない…?」 「あなたを殺したいわけじゃない。止めたかったの。こんな方法しかなくて」 「…止めるだと?」 テリーは鼻で笑う。その行為さえ苦しそうだ。 「いったい何が目的だ?」 「テリー、思い出して。私は、あなたの…」 何か、鈍い音が聞こえた。 その音がしたとたん、ミレーユは言葉を紡がなくなった。 喉に剣が生えていては、人間であるミレーユは言葉を発することは出来ない。 剣が抜かれ、金の髪が舞う。 彼女は崩れ落ちる。 スライムナイトが、真新しい血を滴らせる鋼鉄の剣を持っている。 昔どこか見た光景だ。 細かくは違う。 その時彼女は喉から剣など生やしていなかったし、そこにいた魔物はスライムナイトでなかったと思う。 しかし感じた絶望は、同じ。 「…姉さん?」 その時倒れた女性を呼ぶ。 今倒れた女性と同じ、美しい金の髪を持っていた。 「…姉さん」 呼んでも返事がないのも同じ。 「姉さん!!!」 ピエールは、また別の血を求めて、鋼鉄の剣を振り下ろした。 何かが体を走る。 痛みではない。もっと熱い何か。 振り下ろされた剣は、先程までテリーの頭があったところに正確に破壊をもたらした。 テリーは避けた。 生への執着心が反射的に命を守った。 しかし代償を払ってだ。 リフレクトリング。魔法をはじく実用性の高い装備品。 それをはめた左腕。 もう、ない。 目の前にある金の髪。 その髪を持つ女性の命も、 もう、ない。 「う、わぁああああぁああぁぁーーーーーー!!!!!」 テリーは走った。逃げるために。 命を狙う魔物からではなく、失ったという事象それ自体から。 逃げても、逃げ切れるはずがないのに。 右手には、最強の部類に入る雷鳴の剣を握ったままだというのに。 ピエールは追わない。 そんな体力など残っていない。 だが体を引きずりながら、アイテムの回収もせずその場を去った。 初めは竜巻、そして雷、爆発。 全く派手にやったものだ。 どこでもいい、とにかくすぐにでも身を隠せる場所を探して。 【テリー(DQ6)(左腕喪失&重傷) 所持品:雷鳴の剣 イヤリング 鉄の杖 ヘアバンド 天使の翼  行動方針:逃げる(走る)】 【ピエール(重傷)  所持品:鋼鉄の剣 ロングバレルR 青龍偃月刀 魔封じの杖 ダガー 祈りの指輪  第一行動方針:身を隠し、回復に徹する  基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す】 【現在位置:レーベ南の森(南部)】 【ミレーユ 死亡】 【残り 102名】

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