410話

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*第410話:賢者の問い、魔物の問い どうやら黒髪の追跡者は、ようじゅつしの杖の効果で遠くへ飛ばされたらしい。 さらなる追跡者も現れず、ピエールは緊張の糸を多少緩める。 と、それまで気力で抑え続けていた体の重さが、一気にぶり返してきた。 体の一部であるはずの騎士さえ鉛のように重く、ついに支えきれずにバランスを崩す。 (おのれ…、こんなところで…) 身体を引きずりそれでも進もうとするが、もうどの方角へ進んでいるかもわからない。 それも、進むといっても何センチかずつといった具合だ。 (行かねばならぬのだ、私は…) 安全な場所で休息を取る為か。 主のために一人でも多くの命を奪う為か。 不意に、レーダーがヒトの存在を告げる。 反応はひとつだが、この状況では危険極まりない。 精神を集中させて金縛りから脱出しようとするが、怪我と疲労があいまって、なかなかうまくいかない。 もはや逃れることは不可能か。 ピエールは最悪の場合も覚悟して、どうやら遠距離から攻撃を仕掛けようとはしない、そのヒトの近づくのを待った。 少しずつ、距離が詰められる。 殺気を感じないのは幸いなことだ。 目だけを、レーダーの反応のある方向へ向ける。 男だ。目に包帯を巻いている。盲ているのか? もしかして、こちらの存在に気づいていないのか? ピエールは知らない。 クリムトはじっと、ずっと、ピエールを”見つめて”いた。 そしてついに、二つの光の点は重なるように一致した。 クリムトは足を止め、ピエールに顔を向ける。 別にピエールを見るためというわけではなく、一応の礼儀のようなものだ。 その行動と、そしてクリムトの言葉によって、ピエールは自分の存在が気づかれていないはずはなく、 むしろ自分という存在を理由に、彼がここに足を運んだのだということを理解した。 クリムトは言った。 「そなたが、村の悪意の根源か?」 誰か、大切な者を探そうとしている者の気配が過ぎてなお、クリムトは村へと向かい続けていた。 そのときはもうすでに村のすぐ近くまで来ており、そして村の中にある死の気配さえ、感じ取れていた。 だがその直後空気が、いや、世界を構成する流れそのものが、一つの存在をクリムトに知らしめた。 殺意を持つものの気配。 自分をこの村に引き寄せたそれが、いま村を離れ北へ向かっている。 その光景を目で見ているより遥かに鮮明に感じ取り、クリムトは気配を追って北を目指した。 存在を鮮明に掴み取った感覚は一瞬の後には去っていたが、気配の位置だけは明確に分かっている。 その気配が、あるときからほとんど動かなくなっていたことも。 そしてようやく、クリムトはピエールの前に足を止めた。 「そなたが、村の悪意の根源か?」 ピエールは慎重に相手を観察する。 金縛りはようやく少しずつ改善されていた。 そっとスネークソードに手を伸ばす。 けれど…。 「やめるのだ。これ以上罪を重ねてはいかん」 視力を失った者に、どうやってこの微妙な動きを察知するすべがあったかは知らないが、 知られてしまった以上ピエールは堂々とスネークソードを構えた。 使い慣れない武器だ。 激しい戦闘になれば曲線を描く刃が自らさえ傷つける可能性もある。 だが、盲目の男を斬りつけるくらいは出来るはずだ。 「罪を重ねることに躊躇いはない」 吐き捨ているように言い放ち、杖一本の男に襲い掛かる。 クリムトは後退して杖を使って一撃を受け止めるのではなく、杖を捨て、前進して剣を持つピエールの腕を押さえた。 「己が行っていることが赦されざることと知ってなお、改めようとせぬのか?」 「赦されるつもりなど毛頭ないのだ。私はただ、成すべきことを成すだけ……っ!!」 クリムトがピエールを押さえられるのも、まだピエールの身体に金縛りの痺れが残っていたためだ。 時間が経てば、この痺れは治まる。 その時間を稼ぐために、ピエールは今出せる全開の力で押さえられた腕を動かそうと努めた。 しかし、時間が経てばもう一つの可能性も高くなる。 今度のそれは、あまりに短い周期で訪れた。 体が、一気に何倍もの重さを持つように感じられる。 意思の伝達速度が極端に落ち、重力に引き寄せられるように崩れる。 そのさなか、スネークソードは地面に先に落ちた。 ピエールも倒れ掛かるが、クリムトはその彼を抱きとめた。 「力を抜くのだ。抗えば、それだけ痺れは長く続く」 ピエールは言われた通り力を抜く。 というより、体力の限界がついに来てしまったのだ。 クリムトはピエールを地面に横たえて、そして、回復呪文を唱えだした。 暖かな光が、ピエールを包み込んだ。 幾らかの時が経った。 ピエールは地面に横たえられ、なお回復魔法をかけられ続けていた。 スネークソードは手の届く位置に放置されたまま。 クリムトは杖を脇に置いている。 この痺れが完全に取れれば、瞬く間も与えずピエールはクリムトを両断できる自信があった。 だが、何故。 「何の真似だ。私はお前に襲い掛かったのだぞ?」 クリムトは回復の光を弱めることなく、答える。 「遠くにいても、そなたの放つ殺意は空気を伝わって感じ取ることが出来た。  初めは、その悪意を打ち払おうと、こちらへ向かったのじゃ」 「私は決して止まりはしない」 「うむ。それはそなたに直に接して実感した。だが、そなたと接してもう一つ感じ取ったことがある」 「……」 「そなたからは、私が思っていたほどの悪意を、邪気と言ってもいい、それを感じ取れん。  殺意は肌を刺す痛みのように伝わってくるのに、思いは驚くほど純粋なのだ」 「…だから助ける?」 「うむ。そなたは”悪”ではない」 男の言葉は、スライムナイトには馬鹿げたことにしか聞こえない。 自分は人を殺し、これからも殺し続ける。 今自分を好意で助けようとしているこの男さえ、殺してしまうことに何のためらいも生まれはしない。 「だが、それでも何故かは分からぬ。  そなたは悪ではなく、自分の行っていることの罪を知りながら、なお罪を犯し続けようとしている」 「…それを知ってどうする?」 「私なりに、そなたを救う方法を考よう」 ピエールは低く、笑った。 馬鹿馬鹿しいと、心底思ったのだ。 けれど一瞬先に、あるデジャヴを見た。 差しのべられる手と、深い瞳。 穏やかな笑み、暖かい、眼差し。 初めて、あの方と会ったとき。 傷つけたのは自分、勝利したのは彼。 赦したのも、彼。 思わず顔を背ける。 目の前の男はあの方とはまるで違う。 深い瞳も、澄んだ、温かい眼差しも持ちはしない。 何をためらうことがある? ”目を見れば、その命の本質が見える” あの方は言った。 この男の目は、どこにあるというのだ? 「どこを見た?」 「…何?」 「どこを見て、私が悪でないと判断したのだ?」 男は微笑む。 「そなたの、命を」 「私はどこを見ればいいのだ? お前には目がない」 「命を、見るとよい」 ピエールは目を閉じる。 この男は、このゲームには異質な存在だ。 狂気がない、敵意がない、殺気がない、怯えがない。 この男は、たとえどのような状況に陥ろうと、誰も殺しはしないだろう。 まっすぐに、顔を付き合わせる。 互いに互いは見えていない、けれど本質は見えている。 「私は、最後の二人になる為に戦い、殺し続ける。  お前は、最後の二人になったとき、どうする?」 「生き残る道を探す。二人共に」 「そんな道がなかったら…」 今はっきりと、この魔物の本質が見える。 最も大切なものを助けたい、ただそれだけを魔物は願っている。 罪を犯すこともいとわずに。 もはや、そのような願いを持つ者を、魔物とは呼べはしない。 ただ、この者は騎士であるだけだ。 「…もし、私が志半ばに倒れ、もしお前と、あの方が生き残っていたら…」 そんな状況に、ならせるつもりはないのだけれど…。 「死んでくれ。決して時を経たせることなく、決してあの方と出会うことなく」 時が経てば、あの方は自らの命を犠牲にしかねない。 出会ってしまえば、あの方はその死にさえ嘆き悲しむ。 「それが、そなたがここで、私を生かす条件か?」 ピエールは答えない。 頷くこともない。 けれど思いは、確実にクリムトに伝わっていた。 「罪を、悔い改めるつもりはないのか?」 無駄と知りつつクリムトは言う。 「罪を犯すものが私一人なら、罪を償うのも私一人だ。全ての罪を、私一人が受け止めればいい。  そして悔い改め、償うのは、全てが終わった後だ。私が、地獄に落ちた後」 「そなたは決して救われることがない」 「お前が私の言った条件を飲んでくれるのなら、私の心は救われる。  一度は闇の傀儡となった身だ。私には、こんな方法しかできないのだ」 「…今は、そなたの治療のことだけ考えよう」 答えをのばすことが正しいことだとは思わない。 だが悪意なく人を殺し、罪さえ受け止めようとするこの騎士をどうすれば救えるのか、 その答えをクリムトが出すには、時間が必要だった。 【ピエール(HP2/5程度) (MP一桁) (感情封印) (弱いかなしばり状態:体が重くなり、ときどき動かなくなります、時間経過で回復)  所持品:魔封じの杖、死者の指輪、対人レーダー、オートボウガン(残弾1/3)、スネークソード      毛布 王者のマント 聖なるナイフ ひきよせの杖[3]、とびつきの杖[2]、ようじゅつしの杖[0]  第一行動方針:クリムトの治療を受ける。  基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す 【クリムト(失明) 所持品:力の杖  第一行動方針:ピエールの治療  基本行動方針:誰も殺さない。  最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】 【現在位置:カナーン北の山脈の麓】

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