186話

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*第186話:かつての思い出と今の現実 イクサスは山を下り、レーベの村へ向かっていた。 森の中は暗く、対象の植物を見つけづらいのと、毒薬の調合には、ある程度の設備が必要だからだ。 草をすりつぶしたり、加熱したり、乾燥させたり、溶解液を作るにあたって、支給品の着火器具や水では足りない。 それに、作れたとしても、液体状や粉末状の毒薬を直接持ち歩くわけにはいかないのだ。 できれば、入れ物も複数欲しい。 視界が開けてきた。レーベの村が向こうに見える。 「火事…」 おそらく戦闘が行われているのだろう。一段落するまでここで待つことにしよう。 と、袋が放置されているのを見つけた。食料も支給品もそのままだ。 紫の小ビンに、拡声器、あと、何かの説明書。それには、いくつかのモンスターの種族名が書いてあり、 【注:期限あり】とも書かれている。しかし、その説明にあたるアイテムは無い。それだけを持ち去ったのだろうか。 ふと、異臭を感じた。さきほどまで感じなかった臭い。 イクサスは思わず飛び退く。イクサスがいたところに、容赦無い一撃がたたき込まれた。 「くそっ、モンスターまでいるのか!」 腐った死体。体力と力が非常に高い上、痛覚がないため、倒れる直前まで攻撃を仕掛けてくるモンスターだ。 動きはのろいので、加速装置を使えば逃げ切れる相手だ。 だが、その腐った死体には首輪が付いており、その顔は… 「…スミス?」 イクサスの動きが止まる。そこ目がけて、スミスは腕を振り上げ、爪を立てて、振り下ろしてきた。 しかし、動きはゆっくりで単調なものだ。戦闘見学経験しかないイクサスでもかわすことができた。 「スミス、俺だ、分からないか!?イクサスだよ!」 スミスには何の反応も無い。まるで、人形のように無表情。 イクサスは先ほどマチュアの名前が呼ばれていたことを思い出した。 スミスにとって、マチュアの死は衝撃的なことだったに違いない。 「そうか、お前も…」 スミスは相変わらず無表情のまま、魔物の本能に乗っ取って襲いかかってくる。 魔物の姿はしていたけれども、強くて、気さくで、名物バカップルの片割れだった、かつてのスミスの面影はもうどこにもない。 イクサスは、加速装置をセットし、そこから凄まじいスピードで駆け出した。 スミスは追いかけることはしなかった。ただ、人間が一人去っていくのをうつろな瞳で眺めるのみだった。 このゲームで、大切なものを次々と失っていく気がする。 たった半日前に出会ったばかりの、リチャード、マリベル、ラグナ、エーコ、スコール、マッシュ、 みんな、ずっと昔からの仲間だったように思える。 キーファ、マチュア、スミス、ドルバ、彼らはみんな仲間だ。 でも、この半日の間に5人は死に、2人は裏切り、2人は自分の知らない姿になってしまっていた。 キャラバンで世界中を旅していたころに、リチャードと二人で話し合っていたときに、 ピクニックセットを囲んで談笑しながら3人の帰りを待っていたあのときに、できることなら戻りたい。 思えば、先ほど自分に襲いかかってきたスミスに話しかけたのも、思い出を取り戻したいと思ったからなのかもしれない。 でも、村で赤々と燃えあがる火柱や、血や、死体をみると、思い出はすべて幻想では無かったのか、 今までの生活すら偽物だったのではないかとさえ思えてしまう。 …幻想にふけるのはやめよう。今はあの4人を殺し、生き延びることだけを考えよう。 それが、きっと死んだみんなへの報いとなる。 どうせ、ここには敵か悪人しか残っていないんだ。 どんな方法で生き延びても、たとえ人を殺したとしても、みんなは許してくれるよな? 【イクサス(人間不信) 所持品:加速装置、ピクニックランチセット、ドラゴンオーブ、  シルバートレイ、ねこの手ラケット、拡声器、紫の小ビン  第一行動方針:器具調達&植物採集&毒薬作り  第二行動方針:ギルダー・アーヴァイン・スコール・マッシュを殺す/一人で生き残る 【現在位置:レーベの村近く】 【スミス(腐った死体) 所持品:無し  行動方針:魔物の本能に従う(無心状態、理性無し)】 【現在位置:レーベ北東】

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