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*第485話:輝きと曇りと自嘲の輪舞
悪を逃してしまった。
仲間も未だに見つけられず、そして―――
仲間を守れなかった。
後悔と怒りが混ざる心の内を乱暴に足並みで表現しながら、アルスは消えた影を追って走り続けた。
(許せない――逃がさない―――)
手にした武具を力強く握り廃墟のガレキを踏み荒らし進むアルスの頭の中を守れなかった友の姿が去来する。
遠くへは行っていない。確実にいるのだ、この廃墟のどこかに。
そう確信を持ちつつ駆け続ける。二度も戦友の命を奪った憎き悪を追って。
アルスは叫んだ。友と同じセリフを。
「そこにいるのだろう、フリオニール! 姿を現せ! 剣を抜け! 尋常に、勝負しろ!」
一方でフリオニールはその足音を静かに聞きながら機を待っていた。
だが、先刻のレオンハルトとのやりとりがもやもやと蠢いているのを否定しきれず、彼もまた言い知れぬ不快感にとらわれる。
この不快感、どうしてくれるか。
あの少年をさっさと血祭りにあげてやりたい。
そんな彼を押しとどめるのはあの男が強いという認識と、もう一つ、銃声の中でかすかに聞こえたサックスの声。
「気付いているんでしょう! 自分が間違っているって!」
「聞いたか、あの説得を? だが貴様は、相変わらず愚考に取り付かれたままか?」
サックスの声とレオンハルトの声。二人の声が重なって苛立ちを募らせる。
(黙れ…黙れッ!)
だが、フリオニールが戦っているのはアルスでもサックスでも、ましてやレオンハルトでもなかった。
かつて仲間を取り戻したいと願った自分はすでに敵として認識され、影であったはずの自分がそれを必死に押しこめる。
二人の声が再び元の自分を浮き上がらせ、それを影は再び…
そんなやりとりを途切れさせたのは、すぐ目の前に迫った足音と、足下へと落とした視界に映った鉄の殺人兵器の輝きだった。
怒りに任せただ憎き敵を探し続けるアルス。
こみ上げる怒りを必死に抑えながら敵を狙うフリオニール。
対称的な二人が行動を起こすきっかけもまた、対称的だった。
怒りの炎が胸の奥で燃え盛る一方で、アルスの頭の中にはかすかによぎる言葉の数々があった。
それは無力で傲慢な自分というモヤの中に隠れてなかなか出てこない。
怒りの影で何となく、思い出す。
シドの快活な言葉遣い、レオンハルトの戒めの言葉。
二人からもらった鉄拳の痛み―――今となってはそれも微笑ましく忘れがたい思い出の一つ。
そしてそれを、あの悪魔は奪い去った。まして奴は自分が倒すべきマーダーだ。許すことはできない。
一向に見つからない敵の姿に苛立ちを覚えてドラゴンテイルを振りかざそうとしたその時、友の声が聞こえた。
モヤの中から、まるでその言葉が自力でモヤをかき分けてきたかのように。
「悪を絶つ、その覚悟は立派なものだ。
だが手にした正義の光の前に目を閉ざしてはいけない、盲いてはいけない。」
怒りが途切れた瞬間、かすかな物音に気付きアルスは咄嗟に跳んでいた。
フリオニールはひたすらに自分の影と戦っていた。
元は本来の自分だったはずの影が、あってはならない存在であるかのように忌々しくただ押し殺したい。
その思考が止まったとき、同時に近づいてきている少年の声がした。
「そこにいるのだろう、フリオニール! 姿を現せ! 剣を抜け! 尋常に、勝負しろ!」
自分を姿を消すという鬱陶しい手段で惑わせた忌々しい兄弟。
その男レオンハルトがさっき発したばかりのセリフに、影が全てを支配したフリオニールの怒りは一瞬だけボルテージを上げる。
モヤのようににじみ出てきた善の自分が、一瞬で完全に消えうせた。
だが、その一瞬の乱れた心が、物音を立ててしまった。
大型マシンガンを構えた瞬間の金属音。同時に互いの行動のきっかけを作った二人のうち、引き金を引くタイミングがかすかにずれる。
跳び退いたアルスを追って連射の反動に跳ね上がる銃口を動かすが、そのまま建物の影へと身を隠してしまったアルスに鉛と硝煙の死を与えることはできなかった。
「チィッ!」
舌打ちを残して急ぎマシンガンをかかえ、別の影へと移動するフリオニール。
奴は怒りに身を任せているせいである程度の判断力を失っている。何も今の一撃がすべてじゃない。やれる。冷静になれ。
そう言い聞かせて再びマシンガンを構える。今度は逃がさない。次の一撃で確実にその忌々しい口を引き裂いてやる―――
フリオニールは大きく、それでいて静かに息を吐いた。
建物の影に隠れたアルスは銃声が止むと同時にする足音を聞き逃がさなかった。
怒りに打ち震えていても冷静さを失わない。それはかつて仲間達と共に魔王に立ち向かったときもそうだった。
そんな彼の目をも曇らせた激しい怒り。それを覚まさせたのは友の声。
(レオンハルト…そうだった。怒りに身を任せて敵を殺すなんて、マーダーと変わりない)
殺さなければならないのは、どうしようもない悪だから。止まりようのない殺意だから。
フリオニールにはそれがあった。だからきっと、止めるためには殺すことだって選択肢に入れなければならない。
だがそれは、いかなる理由があろうと業になる。それを怒りで正当化するようなことはあってはならない。
それは勇者として母に、王に、仲間に教えられ、そして何より自分自身が心に刻んでいたこと。
(ありがとう、レオンハルト。君が願ったこと、僕が成し遂げる。シドも見ていてくれ)
同じ目的。だがアルスの目の輝きは今怒りに震えていた自分とは全く違う、勇者の輝きだった。
どれぐらいの時間が経っただろうか。実際には感じるほど長くない時間だったが、それでも互いの動きを探る二人にとっては十分すぎるほどに長く感じられる。
時間が経てば経つほどアルスは冷静さを取り戻す。
時間が経てば経つほどフリオニールの苛立ちは募る。
上昇と下降、鮮やかなⅩを描くように互いの距離を縮める二つの線。それが一つになった時―――
影が、動いた。
フリオニールは募る苛立ちを押さえつつも考えていた。ノコノコと獲物が出てくる瞬間を待ちながら。
奴が移動すれば足音がする。影と影を伝って接近してくるかもしれないからそれは十分に注意しなければならない。
おまけに相手はあの強力な魔法を使ってくる。迂闊にこっちの位置をバラしてしまえばあの強烈な電撃に晒されるだろう。
ならば隠れた所からこのマシンガンでじわじわと削り殺すのがいい。
にっくきレオンハルトと同じセリフを口走った腹立たしい少年に、この鉄の悪魔で死の制裁を加えてやる。
だが今動いたこの場所への足音は聞かれているだろう。ならば別の場所へ。もちろん、奴が移動する音も聞き逃さないように―――
フリオニールは移動するためにマシンガンを再びかかえようとした。
だが、その動きに使おうとした体内のエネルギーは方向を逸らし、銃声へと変わる。
予想外の場所から聞こえた音。
耳に神経を集中していた分余計に過敏に反応した体は咄嗟にその方向へ向けてマシンガンの引き金を引いていた。
だがそこには何もない。囮―――
気付いたときにはアルスはすぐそこまで迫っていた。
大型のマシンガンでは反応し切れない事を瞬時に察知しラグナロクを取り出してロングソードの一撃を受け止める。
さらにアルスが両手で握った剣から片手を離し、滑りざまに何かへ手を伸ばしたのと同時に昼間に使っていた盾がどちらにも持たれていない事にフリオニールは違和感を感じる。
その違和感は、ドラゴンテイルの連撃となってフリオニールの体に降り注いだ。
できる限りの反応でその連続した打撃のうねりをかわすが、その半分は体の至る所にヒットする。
少しでもダメージを減らすために距離をとり、すかさずマシンガンを拾おうと駆け寄るが、その動きをアルスは見逃さない。
「させるかっ!」
さらにドラゴンテイルの追い討ちがフリオニールに迫り、回避行動によってマシンガンとの距離を離される。
しかし攻撃を受けるだけでは終わらない。ラグナロクをダメージを受けつつも斬り返し、ロングソードを弾き飛ばす。
さらに一撃を入れようとラグナロクを振りかざすが、その一撃はアルスが取り出したドラゴンシールドに防がれてしまった。
一撃、もう一撃。だが昼間同様アルスはラグナロクの攻撃を受け止め続ける。
そんな不安定な均衡が崩されたのは、それほど後の話ではなかった。
昼間から硬く切れ味も鋭いラグナロクの攻撃を受け続け、ドラゴンシールドはあちこちが傷だらけで今にも割れそうだった。
アルスはその盾を頑固にも構えたまま守り一辺倒だったが、一度だけ。
そう、一度だけ、ラグナロクの上からの切り込みに対応するために構えた盾が二人の視界を遮った。
ラグナロクが盾に接触し、上に弾かれる。フリオニールはそれをそのまま頭上に大きく振りかぶり、重力を味方につけて振り下ろした。
(殺った!)
フリオニールの目から見てももう渾身の一撃を耐えるだけの余力はこの盾にはないことがわかる。
案の定盾は割れ、勢いは殺されても剣の刀身はその奥へと深々と食い込んでいった。
だが、その奥に憎い敵の姿はなかった。
次の瞬間、体中に降り注ぐ連続した衝撃にフリオニールの意識は途切れてしまった。
廃墟の殺風景な地面を赤に染めるように、血がしたたる。
二人の視界を盾が遮った瞬間、攻撃を受ける直前に横に大きく跳びのいたアルスだったが
ドラゴンシールドの割れた衝撃とさらに食い込んでくるラグナロクの攻撃が重なり、左腕に傷を負ってしまっていた。
「グッ…!」
低いうめき声をもらし、アルスはその痛みに視線を移す。
肘から手首にかけて、大きく裂けた傷が鮮血を噴出していた。
ベホイミをかけつつ傷口を押さえ、止血作業をしつつ、今しがた倒した男に目をやる。
(死んだ…?)
倒れた際にフリオニールが落としたラグナロクと囮に使った番傘、そして弾かれたロングソードを先に拾い上げ、その傍へと歩み寄る。
動かないフリオニールを見下して、アルスはロングソードを構えた。
まだ息がある。しかしこいつは何人もの人を殺している。これ以上尊い命の芽を摘む者達を見逃すことはできない。
「シド、レオンハルト!仇は取る!」
手にしたロングソードを逆さに持ち替え、横たわった体に刺そうとする。が、それはすぐにフリオニールの息の根を止めることはなかった。
レオンハルトの声、サイファーの声、ユウナとティーダの声…様々な声が今になって頭をよぎる。
そう、元は自分もそうだったはずだ。殺したくなんかない。その残り香が、自分の弱さがアルスの動きを止めた。
(僕は…いや、でもこいつを生かしておけば…ッ!)
アルスの中で何人もの自分のやりとりが繰り返される。
殺せ。やつは悪だ。レオンハルトの言葉を忘れたのか。だが許せない。相手は無抵抗だ。
殺せ。許せ。いや殺せ。だめだ、許せ。
ころせころすなころせころすなころせころすな
「うわああああぁぁぁーーーーっ!!!」
ロングソードが突き立てられる。フリオニールの体の、数ミリ横の地面に。
荒くなった息を乱暴に吐きながら、アルスは呆然と立ち尽くした。
どうしようもない悪は殺すんじゃないのか。目の前に横たわる男は少なくとも二人の友を殺した。放っておけばきっとまた殺す。
それなら自分がここでとどめを刺すべきだ。だが、相手はもう無抵抗。殺さずともいいんじゃないか。
決意したはずの心に、そんな考えがよぎり、アルスの判断を鈍らせる。
殺すことはできない。自分の体にそう命じても腕まで届かない。僕の内にある甘さが邪魔をして。
結局僕は傲慢なだけなのか。殺すべきマーダーですら殺せない。僕は誰も止めることはできないのか。
そんな僕の目に留まるのは、持ち主の手を離れた二つの武器。
フリオニールを放置して、アルスはカズスを去った。
無抵抗になってしまった人間を殺すことなど自分にはできない。ならばせめて人が殺せぬようにする。
いくつもの命を奪ったマシンガンというこの鉄の筒。そして一振りの剣を奪って。
このマシンガンは危険すぎる。これは僕の手で処分すべきだ。どこか海にでも棄ててしまおう。
これからの行動を考える。カインは逃がしてしまった。フリオニールと戦った時間もある。サックスも今では追いつけないだろう。
ふと、サイファーの顔が脳裏をよぎる。
「必ずやり遂げろ、か。何が決意だ。僕は…傲慢だ…ッッ!」
強く握られる拳。去り際に、フリオニールが未だ横たわっているであろう町を振り返り―――
そして、自分を嘲り笑った。
【アルス(MP1/4程度、左腕軽症)
所持品:ドラゴンテイル、ラグナロク、ロングソード、三脚付大型マシンガン(残弾4/10)、官能小説一冊
第一行動方針:マシンガンの遺棄、処分
第二行動方針:倒すべき悪(アーヴァイン、スコール、マッシュ、カイン、サックス)を「倒し」、PKを減らす(戦力を奪う)
最終行動方針:すべての悪を自分なりの方法で倒す(具体的には苦悩中)】
【現在位置:カズスの村出口】
【フリオニール(昏倒、MP1/2)
所持品:無し
第一行動方針:?
最終行動方針:ゲームに勝ち、仲間を取り戻す】
【現在地:カズスの村 廃墟の奥】