524話

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*第524話:あらくれ仮面・SPIRIT でも、やっぱり許せないって! 天使のような脳内ユフィちゃんに反論しながら、投擲のモーションで残っている手を素振りする。 というのもカイン黒幕説に触れて、怒りの矛先がそっちに向くにつれてほんの少しだけフリオニールに同情が湧いたから。 アルスにこてんぱんにやられたらしい、というのも感情を鈍らせる。 悪いのはカインなのに、問答無用でフリオニールをぶち殺せる? なんて天使ちゃんの問いかけに即答できない。 許せないって曖昧に逃げることはできる。 けど、黒幕カインに騙されて利用されてた可能性があるのに問答無用に殺しちゃえってのには流石に抵抗がある。 エッジの仇なんだし、だから許すことなんてできないのは間違いないんだけど。 ボロボロになってるとこにトドメ刺さなきゃとまでは……どうなんだろう? 後ろをちらりと振り返る。 ついさっき、オルテガの仲間っていうザックスって人が増えて後続は三人になっている。 今は、オルテガとアルスがそのザックスに事情を説明しているところ。 ザックスは喋れなくて、だから地面での筆談を交えながらひたすら二人が解説してる。 彼は、フリオニールに対してどういう答えを出すのだろう。 あたしと同じ立場のアルスは迷った結果殺さなかった……だっけ。 オルテガは多分会ってから判断するつもりなんだろうな。 ここは多数決に従って、やっぱりあたしも、問答無用ってのは無しかも。 それで反省の色ナシ、だったらもう情状の余地なんてみんな無いだろうしさ。 なんとなくもやもやが晴れた気がして、なんとなく冷静になれた気がして、 説明ラッシュを終えて立ち上がったザックスに明るく声を掛けた。 大剣を得物としている彼はなんとなくクラウドと重なって見える。 「よろしくね、ザックス。一緒に頑張ろう!」 無言だけど力強い頷きが返ってきた。 オルテガが豪快に笑い、少し沈んでいたアルスの顔にも釣られて少し明るさが戻る。 こういうの、仲間っていいものだなー、って実感できるなあ。 そんなワケで、あたし含めて4人に増えた一行はカズスの村を行く。 もう何十年も廃墟だったみたいに変わっちゃった村の姿にはちょっと寒気がする。 そういえば、あの大爆発は一体なんだったんだろう? オルテガもアルスも、ケフカもラムザもその話については詳しく知らなかった。 誰が何をやったのか。 いろいろ大変で忘れていたけれども結構重要なことじゃない、コレ? ―――なんて余計なことはここまで。 「皆、戦闘体制をとれ。向こうからおでましだ」 覆面の奥から低く響くオルテガの声が警戒を呼びかける。 それを合図に一気に全員の緊張感が高まった。 斧と大剣が臨戦態勢で跳ね上げられ、あたしも風魔手裏剣を手にしっかりと握る。 少しだけタイミングが遅れてラグナロクを構えたアルスの顔は真剣すぎて見てらんなかった。 「捕まえるんだよね?」 「抵抗するなら力で制圧することになるだろう。その時はそうだ。  だが、まずは自分自身の安全を第一に考えるべきだな。特にユフィ、単身で戦うな」 「了解っ、あらくれ隊長! コンディション完璧なら負ける気しないけど仕方ないか」 「あらくれ隊長……? ほほう、なかなかの響きだな。  ではあらくれ隊長こと私が先頭に立つ。アルス、ザックス、ユフィ、支援を頼むぞ!  誰かが独りにならぬようしっかり相互でサポートするのだ」 「おー!」 「はい、父さん」 覆面の奥からの信頼の視線がみんなを見回す。ザックスも無言で頷く。 それから、オルテガの向いた先へとあたしもみんなも目を向けた。 寒々しい廃墟が広がり、遠くで暗闇に溶けている。 正直、こんな暗いのに良く見えるなって思う。あたしには何も見えない。 けれどオルテガの言葉を信用し、息を詰めたままじっと凝視。 やがて不意に、しかし確かに満ちていた緊張感がいくらか弛緩した。 「あれ……逃げた?」 肩透かしを食ったあたしの間抜けな声にかぶって、 びしりと効果音がしそうな勢いでムキムキの腕が真横に突き出され、後ろに停止を促す。 「一人とは限らんし、罠の可能性もある。  誘いに乗ることなくパーティの利点を生かして動くぞ。  アルス、最後尾を頼んだ。ユフィは左、ザックスは右を守れ。  確認するが私より前には出るんじゃないぞ。いいな!」 二つの返事と一つのアクションがその言葉に続いた。 静かにそれを確認し、先頭を切ってオルテガが動き出す。 それぞれが、担当する方位に注意を配りながらゆっくり灼けた地面を踏んでいく。 雰囲気がぴりぴりしてるのは重厚な声質で気を引き締められたのと、 相手を追っているというシチュエーションのせいだ。 それでもなんだか安心感があるのはオルテガが大きな大きな精神的支柱になっているから。 マントが砂塵混じりの夜風に翻る背中を追ってると、それが感覚で理解できるんだ。 なんていうか、一緒に戦ってる人に勇気と自信を与えてくれるっていうの? うちの親父にも見習って欲しいくらいだなー。 なんていう間にぽつぽつ残っている建物を抜け、広くぽっかり開けた場所へたどり着く。 ステージバックに岩山を従えた、ひどく荒れ果てた広場。 ここが爆心地なんだって、感覚が告げる。 その荒涼とした広がりの真ん中に安置されて、二人がいた。 一人はそう、彼女。うつ伏せの小柄な身体、結い上げられた赤い髪、細い手足。 一人はそう、彼。仰向けの大柄の身体、遠目に分かる大きな損傷、力ない太い手足。 少しずつ近づくにつれて目に入ってくる情報が二人の死体を彩っていく。 物としての気配しかまとっていないそれらは明確に、死んでいた。 後ろから、風に乗って小さく歯軋りが聞こえた。 「どうやら向こうはやる気らしいなあ。全員要警戒だぞ。  狩られているのはこっち、とまでは言わぬが嫌な雰囲気……待て、アルスッ!?」 さくっと軽い音を立てて砂を蹴り、あたしとザックスの間を抜けてアルスがオルテガの前へ出る。 どうして、オルテガの指示に従わなかったのか。 何がアルスを突き動かしたのか。人の心の事なんて分からない。 ただひどく怒っていることだけはわかったけれど、その時あたしにはもう時間がなかったんだ。 「いかんッ!!」 ひときわ強い風が背後から吹き抜けていった。 それに気付いたオルテガが鋭く振り向いたのと。 それに気付いたあたしが反射的に防御姿勢をとろうとしたのと。 砂の下から魚のように飛び出したそいつ――フリオニールが魔法を呟くのと。 同時だった。 「フレアー16」、そんなふうに聞こえたような後、熱さと痛みがあたしの全身を抉っていく。 あー、こんなヤツ一瞬でも同情するんじゃなかった。 こんなんで、終わりって…… 重力から解放されたような一瞬があって、それから地獄に墜落みたいな衝撃が響く。 何を見てるんだか分からない視覚も何が聞こえているんだか分からない聴覚も、みんな一緒に途切れた。 話に聞いた爆心地は一様に吹き飛ばされた砂と石の世界。 明らかな意図をもって横たえられた二つの死体、自分の指示に反したアルスの行動、 砂の上を一際強く吹きぬけていった一陣の風。 結果として生まれたわずかな遅れ。 不覚、の二字が頭の中を駆け巡る。 下は石混じりの砂地。 だから罠の1つとして、地中からの襲撃も警戒して当然のことだったというのに。 だったというのに、現実ではなんら対策を取れなかった。 それでも、歴戦の経験と神経は全身に動き出すよう指令を飛ばす。 死体のように砂中で息を潜めていた恐るべき襲撃者を打つべく反応する。 「アルス! ザックス! 討つぞ!」 雄叫びのような指示を率先して実行すべく大地も断ち割らんとばかりに斧を振り下ろす。 その脅威をすり抜け、吹き飛んだユフィの支給品を手にすべく伸ばしたフリオニールの腕は、 手のひらの半ばほどでザックスの剣によって切り飛ばされた。 音としてはガ行に属する事は間違いない怪鳥か獣を思わせる叫びがあがる。 挟み撃ちの形、私は逃がさんとばかりにその根源へと殺戮の旋風たる斧を差し向けた。 だが敵もさる者、腕の痛みを抱えながらも横飛びに死地を逃れ去る。 傷跡から生温かい飛沫が跳ね、露出した腕に触れた。 刃を並べた私とザックスと、無手の男とが正対する。 思い返すは冒険の日々、唯一人で魔王打倒のため世界を旅した日々。 ある者は無謀だと言うが、多くの人が英雄だと褒め称える一人旅。 どうしてそんなことをしたのか? それは、自分が仲間の命に責任を持てぬことに耐えることができなかったからだ。 信頼に値する仲間を危険に曝すことに我慢がならなかったからだ。 冷静に、かつ悪し様に分析すれば他人の能力に対する信頼が欠けていたに他ならない。 やがて私は唯一人自分を危険に立ち向かわせるようになり、 人々も単身戦う私をものすごい勇者であると称えるようになっていったわけである。 だが、誰がどれほど称賛しようと忘れてはいけない。 単に私は傲慢で勝手で命知らずなヒーローなのだ。 いざ、目の前で仲間が吹き飛ばされるのを見て思い返した自分のありかた。 魔法の使用を許さぬように私の斧とザックスの剣がフリオニールを追い詰める間、 不思議とそんなことを考えつづけていた。 だが猛省せねばなるまい、 我ら二人の刃に追われつつも巧みに逃げつづける男に対しては甘いというものだ。 隙に誘われひときわ力強く打ち込んだ斧は砂地に食い込む。 私の身体を壁とするようにザックスの追撃を封じ、男にとって待望の距離が空く。 生き残っている手に魔力を集めフリオニールが妖しげな身振りを見せはじめた瞬間、 にわかに空中に緊張が満ち魔力が渦巻いた。 構わんとばかりにフリオニールが唱えた術を真っ向から打ち消すように、恐ろしいほどに厳粛な声が呪文を紡ぐ。 「ギガデイン」 背後からのその声は記憶にある息子の声のいずれとも一致しない。 たちまちに空には白い稲妻が夜空を引き裂き、天罰としてフリオニールを撃ち抜く。 負けじと大地から噴き上げるように炎が巻き上がり、こちらを襲う。 光とシンクロした雷鳴がカズスに何度も何度も轟く。 炎の呪文に対して防御姿勢をとった目の前には、空を裂く剛剣と共に躍り出た我が息子の姿があった。 舞い上げられた砂と石の雨が降り、埃の雲が晴れていく。 荒涼たるカズスの砂漠の上に倒れたフリオニールと真っ直ぐにそれを見下ろすアルス。 その背中がこう言った。 僕が決着をつけます、と。 責任と決意に満ちた宣言。 そこに見出すのは自分と似通った孤高、そして自己を危険に投げ出す意志。 ともかく私も、ザックスも、アルスが背負っている決意の重さに割って入ることができない。 一跳びに間合いを詰めたアルスの一撃を死体のように倒れていたフリオニールが転がって回避する。 そこから、灼けた砂の上での一見地味にも思える二人の攻防が始まった。 展開自体は先ほど我ら二人を相手にした時とほとんど変わらない。 ひたすらに刃から逃げつづけるフリオニール、それを許さじと追いつづけるアルス。 異なるのは、一筋、また一筋と男をかすめ傷を増やしていくアルスの剣。 単純に、アルスの剣の冴えが男を追い詰めているのだとはどうしても思えなかった。 自分の斧が触れもしなかった相手に息子は傷を付けて見せている、 そんな優劣を認めたくないためにそんなことを言っているのはない。 拭いがたい違和感があるからだ。 これは、攻めているように見えてその実は様子を見られ続けられているのだ。 何か、奥の手のタイミングを待つように時を稼がれている。 アルスはそれに感づいているだろうか? 声をかけるべきか、迷いを抱えながらの目前で戦いは大きく展開する。 有効打をつかみ切れないもどかしさに先にアルスが動いてしまった。 気合の雄叫びが天に手をかざしたアルスから発せられ空気に緊張が満ちていく。 ギガデイン、叫びとともに召し寄せられた雷が再びフリオニールを罰する。 だが電光に呑まれる前、一瞬照らしだされた男の表情は不気味に笑っていたのだ。 巨体を走らせ、私は手を挙げたままのアルスへと駆け寄った。 激しい雷撃の嵐の余韻としてもうもうと辺りに砂塵が巻き上がっている。 その奥から異質な魔力をまとった「腕」が飛び掛る蛇のようにアルスを狙い伸びるのを確かに見た。 速度と腕力に任せ無我夢中でアルスを吹き飛ばし、その延長線へと割って入る。 実体無き魔力の腕は私にまといつき、その指で締め上げてくる。 正体不明の痛み、原因不明の疲労と虚脱が一斉に私を襲った。 苦悶の呻きが漏れ出すのを歯で食い止める。 だが、迷いも悔いもあろうはずがない! 精気に満ちた大きな生命力と魔力が全身に流れ込んでくる。 その心地よい感触に歓喜しながら全身を戦慄かせ、俺は立ち上がった。 1対4、1人吹っ飛ばして1対3の絶対不利な状況。 体力を削られ続ける俺が捕食者たるべく本能的に選んだ切り札こそ生命転移魔法:チェンジ。 その魔手は見事に獲物を捕らえたのだ。 さあ、生きるためには次に何を為すべきか? そう! 牙を突き立てるのだ。 喰い取った活力を全身に漲らせ、受けたダメージを嘘のように撥ね退ける。 少しずつ薄くなる煙幕が消える前に、獣の速度で飛び出していく。 その視界には動きを止めた覆面、砂の上で呆然としている少年、こちらへ駆けて来る大剣持ち。 誰が弱っているのかを瞬時に判断してさらに加速する。 さんざん苦しめられた斧や大剣が自分に届くよりも早く指の欠けた手が覆面の腹に触れる。 フレアー16、徒手空拳の自分が持つ最大の牙を解き放つ。 心地よい爆裂のリズムが腕を伝ってくる。 それで戦いは終わる、そうなるはずであった。 だが、さらに生きるために身を翻そうとした俺は伸びてきた万力のような力に片腕を捕らえられる。 全くの予想外に生じた虚を衝いて弱っているはずのその両腕は捻るように俺の体を投げ倒した。 地面に倒され、低い位置から見上げた俺の顔に垂れ落ちてくる生温かい液体。 その血腥さが生きよ、と呼びかける。 身体への命令権を取り戻して全身のバネを使い掴んだ手を引き剥がそうとするが、 大樹のように、朽ちかけてもなお威容を崩さない大樹のように戒めは解けない。 「――――、構うな!」 覆面が搾り出したような大声でそう叫んだ。 どこに向けられた声かはわかっていた。分かっていたが、戒めが俺に避ける術を与えない。 ならば、反撃して生きるしかない! 死命の刹那にそう閃いて自由な方の腕を殺意が来る方向へと構え――られない。 どうしてこれだけ動けるのか不思議なほどの力で、覆い被さられるように覆面に抱きすくめられる。 「放せーーーーーーッッッ!!」 見開いた目で闇に煌きながら近づいてくる大きな刃を睨み、俺は叫んでいた。 体重を乗せた剣先が近づき、そして胴へと食い込んでいく。 熱い感触がそこから体中へと拡散し、背の一点から噴き出していく。 背後から万力のように締める腕がその力を強め、全身がきしむ。 何かが弾けるような音が体内を反響していく。 何秒、いや何分、そのままだったろうか。 痛みと疲労、虚脱が渾然とした感覚が全身を満たし、 ようやく剣と万力から解き放たれた俺の身体は糸の切れた人形のように砂の上へ崩れ落ちた。 ―――もう、生きていられないのか? 問いかけを顔の前に限られた砂へとぶつけてみる。 墓場のような地面の冷たさと、小さく続く鼓動が答えだった。 こんな勇者がいるだろうか? どれだけ自分は無力なのか? フリオニールと父さんの死戦、二つの絶叫、そしてザックスの剣が二人を貫く間。 僕は後悔まみれの暗澹たる気持ちで立ち尽くしていた。 時間が止まっているというわけでもないのに、一歩も動けない。 声をかける、だとか回復呪文を、だとか出来た筈なのに、何も出来なかった。 わずか――けれど、何十倍にも感じられた――十秒程度の時間の後、決着がつく。 放り捨てられた影と、立ちつづける影。その上下が端的に勝敗を示している。 勝ち残った影……勇者オルテガはゆっくりと一歩、砂を踏みしめてこちらを向く。 それから覆面が外される。その暗闇の向こうに僕を見つめる優しい瞳を確かに感じた。 爆発と剣の残像、鼻をつく血の臭い。何を言えばいいのか分からない。 そんな僕に優しく、何事もないかのように父さんが語りかけてくる。 「はっはっは……オルテガ、一生に二度目の不覚……!  …………そんな顔をするなアルス。もう子供じゃないだろう?」 「父さん、……大丈夫ですかっ!?」 自分でも、間の抜けた言葉だと思っていた。 大丈夫でなんかあるはずがないのだ。 「なんだ……自分のせいだとでも言いたげな顔をして……  まったく、一人で動くは、一人で挑むは、一人で背負うは……  ふふふ、お前も……私に似て……傲慢で勝手、この上、ないな。  さすが、……私、の………息子、だ。…………安心したぞ」 ひたすらに、溢れそうになる涙を押さえつけていた。 途切れ途切れの野太い声、合間合間に聞こえる絶望的な息の音。 「勇者というものは……行為の後に続く、称号に過ぎん。  だが命を救う、悪を討つ……必要なのは……名前でも、名目でもない。  大事なのは……意志、だ。  私の不覚は、な。お前を犠牲にしての勝利など考えられなかった、傲慢勝手な意志、  そのせいだ。ははっ………お前の…自責と同じ、……だろう?  まあ、ユフィに聞かれたら……怒鳴られ、そう、だがな……  だから私…いや、人の意志を、責めるな。……そうして。……思うままに未来を、正せばいい。  ………はは、まったく。……今更私、がいないと……不安、か?  ……そうだな、不安、ならば……こいつ、でも……持っていけ」 ふわりと父さんの腕を離れた覆面がゆっくりと宙を舞い、僕の前に降りる。 震える手でそれを拾い上げた僕は一思いにそれを被って見せた。 「わっはっは……ぐほっ……さすが私の息子、よく似合う……ぞ。  心配……するな。お前はどう、歩い…ても……悪になぞ、なりきれん………  我が道を行け、あらく…れ、仮面……」 それきりで、すべては風の音の中にフェードアウトしてゆく。 僕は多分何かを絶叫したのだけれど、自分でもそいつをはっきり聞き取る事が出来なかった。 慣れない覆面に顔を隠されたのをいいことに僕はそのとき、静かに泣いていた。 だから、ザックスが砂を蹴って動いた理由を瞬時には理解できなかった。 慌てて涙を拭い、状況を見定める僕の目にはあの光、 父さんを絡め取っていったフリオニールが使う虚ろな光が飛び込んでくる。 大きく開かれたその魔手は一気に僕を掴もうと迫る。 フリオニールを殺すチャンスは確かにあった。 では僕は、そのときにそうしなかった事を悔やむべきなのか? ああ、そうだ。 さんざん人を手にかけることをためらった末が、この時間切れじゃないか。 戦い生きることを貫き通しているフリオニールに最後に負けるのも当然じゃないか! 出来もしないことを迷っていた僕の愚かさを責めるべきなんだ! 自らを責め、敗北を受け入れかけた眼前で、 しかし僕を捕らえかけた虚ろな光は不意に掻き消えた。 驚きとともに改めて夜に目を凝らす。 大剣を油断なく構えたまま前方を睨みつけるザックスがいる。 さらにその先には、もつれて砂の上を転がる二人分の影があった。 目覚めてみれば腕も動かないし、体中痛い、ヨロイもボロボロ。 繋がった五感は絶賛赤信号。 だからあのまま寝てればよかったなー、とも思う。 でもさあ、オルテガのあんな言葉を聞いてさ、 ぜんっぜん空気読まないヤツが余計なことしようとしてんのに気がついてさあ。 しかもそいつがフリオニールと来た。 これで見てるだけなんてできると思う? とにかく、あたしは無理やりに身体を動かして、乾坤一擲あいつに向けて飛び掛ったわけ。 すごく不気味な光の腕?がフリオニールから伸びていくのを見ながら。 腕は動かないから口にシュリケンをくわえてロケットみたいに急加速。 後ろにぜんっぜん気を付けてないあいつの首に鎧袖一触、刃を突き立ててやった。 あえなくバランスを崩してあたしとあいつはもつれあうように転倒する。 怒りに満ちた視線が至近距離からこっちを見つめる。 ざまーみろといわんばかりに見つめ返してあげる。 呪いでも悪口でも吐き出そうとしたあいつの喉からはもう風の音しかしない。 どうにもできない怒りに歪んでいくフリオニールの表情を見て、あたしは精一杯ニヤついてやった。 そのフリオニールの手のひらに魔力が集まっていくのが分かる。 音の出ない口がふ、れ、あの形を作ったのもわかった。 お前だけは確実に殺す、怨念の篭った目でそう言っていることさえわかってしまった。 それから二度と体験したくなかった爆発が相討ち上等の至近距離で炸裂し、 またまたあたしは重力から解放される。 それでまたまた地獄に墜落……じゃなくて、今度は何かに受け止められた。 はっと見上げた先にはヘンな覆面君。じゃなくて知ってるよ、アルス。 「あはは………アルスってばへんなかっこ……なにそれ~」 あれ、反応がないや。 そういえば左腕の感触も無いし、なんだか体が軽くて寒いな? 多分、ひどい顔してるんだろうな。 ……うん、わかってるよ。 耳はもう聞こえないみたいだし、癪だけどあたしはここまでみたい。 ギリギリ残った分の意識も、感覚も、どんどん鈍ってく。 ほんとのほんとで時間はもうない、みたい。 「こんなぼろぼろまで……がんばる、とかさ、  ……そんなはずじゃ……なかったんだけどなー……  ま、いまさら………しょーがない、か。  じゃ……………あとは、任せたっ、あらくれ仮面っ」 あー、うん。喋ったら疲れた。眠い、なあ…… それきりで、眠るように目を閉じた彼女はすべての動きを止めた。 かすかにユフィの体を覆っていた淡く輝く魔力のベールが消える。 それが、オルテガに続き彼女の命もまた失われた瞬間だった。 夜風は残酷にも変わることなく廃墟と化したカズスの砂の上を吹き抜けてゆく。 死せる者も生き残った者も一音たりとて発することなく、その場に佇んでいた。 【アルス(MP微量、左腕軽症)  所持品:ドラゴンテイル ラグナロク ロングソード 官能小説一冊 三脚付大型マシンガン(残弾4/10) E:覆面&マント  第一行動方針:ただ、悲しむ  第二行動方針:倒すべき悪(アーヴァイン、スコール、マッシュ、カイン、サックス、スミス)を…?  最終行動方針:ゲームの破壊】 【ザックス(HP1/3程度、口無し状態{浮遊大陸にいる間は続く}、左肩に矢傷)  所持品:バスタードソード  第一行動方針:哀悼する  基本行動方針:エドガーを探す  最終行動方針:ゲームを潰す】 【現在位置:カズスの村】 ※ユフィが装備していたフォースアーマーは大破。 【オルテガ 死亡】 【フリオニール 死亡】 【ユフィ 死亡】 【残り 48名】

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