237話

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*第237話:別れた明暗 アルカートは北から城に近づくと、城下町を囲む城壁を回りこんで入り口へと向かった。 街はところどころが燃えあがり、時折大規模な爆発が起こっているが、 今の彼女にはどうでも良い事柄だった。 街にそびえる半壊した城の中に、彼がいるような気がして。 彼がまだ、生きてそこにいるような気がして。 不意に、入り口の近くで竜巻が起こった。次に、3回くらいの大きな爆発。 相変わらず死んだ眼でそれを見届けると、なおも城壁に沿って歩いた。 そうして城下町の正面、入り口へ回り込んだその時――黒いマントのような服を着た、血塗れの男と鉢合わせした。 セフィロスはよろめきながら、街の出入り口を目指していた。 武器防具屋から剣を手に追いすがる白コートの目をトルネドとフレアの連発でくらまし、 その隙になんとか逃げたはいいが、クラウドとあの魔物のような男から受けたダメージがそろそろ深刻になってきた。 傷口からの出血が止まらない。 吐き気がして視界が揺れ、意識がぐらつくなか街を出た時――黄色い奇妙な服を着た女と鉢合わせした。 目の前の男は全身が血に塗れている。 手にしている剣――厳密にいうと、剣ではなく忍者などが使う刀という武器だが――も血の色に染まっている。 …誰かを殺したのだろうか。 …この男は彼を、ジオをも殺したのだろうか。 そこまで思考が回ると、何か自分でもよくわからない感情が込み上げてきた。 「あなたが、ジオさんを、殺したんですか…?」 もちろん、そんなはずがない事は分かってはいた。だが、理性が押し留める間も無く体は次の行動に走る。 「許さない…」 それだけ言って、右手に握ったグラディウスを振り上げた。 いきなり振り下ろされた刃を寸でのところで避け、数歩後ろへ退く。 どうにも女は正気ではないらしい。死人のような目をしてこちらに迫ってくる。 最悪だ。 重症を負っている所へ、今度は狂人ときた。 どうしてこうも悪すぎる状況が続く?運のステータスならそれほど低くない筈だぞ? そんな考えを巡らせていると、女の左手が淡く輝き出した。 攻撃魔法か――瞬時に予測し、セフィロスも手に蒼い光を呼び出す。 「ホーリー!」「フリーズ!」 二つの青色の閃光は激しくぶつかり合うと、威力に差が合ったらしい、彼はのけぞるようにして後ろに倒れこんだ。 (…ホーリー!?) 起き上がりながらまず考えた事は、彼女が使った魔法の名だった。 彼の知る限り、ホーリーとはメテオと対をなす究極の魔法だったはずだ。 それにしては威力が小さい気がする。ただ偶然に名が同じなだけか? 有無を言わさず、次の光が目の前に迫る。 それを今度はフレアで相殺するが、やはりダメージを負った体では威力が弱く、またも後ろへ吹き飛ばされる。 右手に持った村正で斬りかかろうにも、2人の間には少し距離があり、重症をひきずって接近するにはリスクが高過ぎる。 ……このままではいつか直撃を受けて倒されてしまう。何とかして活路を見出さねば…… 状況を打開する方法を模索していると、三度目のホーリーが詠唱され始めた。 アリアハンの赤々とした光がいよいよ近づいてきた。 宙を浮いて引っ張られる感覚にも慣れ、一部が崩れている城壁が目の前に迫った頃、リディアは二つの人影を見た。 一人は黒いマントのようなものを身に纏い、もう一人はリスのような一見かわいい着ぐるみを着ている。 どうも2人は争っているようだ。魔法の応酬を続けているが、怪我をしているのか、黒いほうが徐々に押し負け始めている。 やがて黒い人が魔法の直撃を受け、派手に吹き飛ばされた。 起き上がろうとしているが、ダメージがひどいのか、立てないでいる。 「ギード!イザ!」 「わかっておる!」 妙にりりしい顔をした亀は叫び返すと、赤い光をバックにたたずむ人影に一気に突っ込んだ。 「…カハッ…!」 腹に焼けるような痛みを覚えて宙を舞う。 あの女の魔法の連射についていけず、とうとう直撃を受けてしまったのだ。 セフィロスは腹から地面に叩きつけられ、女は不気味なほどゆっくりとこちらに近づいてきた。 立ちあがろうとしても、耐えがたい苦痛がそれを許さない。本格的な限界が来ているようだ。 (く…こんなところで…倒されるわけには…) なんとか動こうと足掻く彼を見下ろし、アルカートは手に持ったナイフを高々と振り上げる。 と、彼女のわき腹に円の形をした何か大きな者がぶつかった。 まるで投げ円盤のような動きで、 今まさに人を殺そうとしていた女にギードが体当たりした。 彼女は一瞬避けようとする素振りを見せたが、その次の瞬間には棒きれか何かのように突き飛ばされ、城壁に叩きつけられた。 ギードは一先ずため息をつくと、すぐに倒れている男の方へ向き直る。 「おぬし、大丈夫か?」 「大丈夫なわけがないだろう…」 大地にうつ伏せに転がったまま唸る彼をイザが仰向けの姿勢に直す。 瞬間、その傷の深さにアッと目を見張った。 左の肩が大きく裂かれ、全身にレンガか何かで打ったような跡が認められる。 腹にある焼かれたような傷は今の魔法によるものだろうが、他の傷はあの妙な格好の女性がつけたものとは思えない。 城下町の中で、どれほど激しい戦闘があったかが伺えた。 とにかく、彼はとんでもない重症を負っている。なんとかして助けないと… 「ひどい傷じゃな」 言いながらギードが倒れている男に近づき、口に淡い光を宿らせる。 光は男の肩の傷口を少し塞ぐと、消えた。 「ケアルラ一回では無理か…イザ!リディア!お主らも手を貸してくれ!」 そうしてギードとイザは魔法と呪文で男を治療し、 黒魔法しか使えないリディアは彼の服の裾を破いて即席の包帯を作り、傷口を止血する。 数分間そうしていて、やっと男に回復の兆しが見えると、リディアはふとギードが突き飛ばした女性の方を見やった。 壁に叩きつけられた時の打ち所が悪かったのか、あれから倒れたまま微動だにしない。 それからすぐに、その後ろで燃えあがっている街が視界に入った。 ここに来る途中、誰かが助けを求めていたとギードが言っていた。 浜辺で見た隕石といい、赤々と燃えている建物といい、傍らに転がっている男の人といい、 この城下町で何かが起こっているのは確かだ。 一刻もはやくギードとイザの言う「仲間」を助けに行かなければならないが、 まずはこの黒い服の人を何とかしないといけない。 その時、後ろから「…助かった」と重い声がした。 大分軽くなった体を起きあがらせると、落ちていた刀を拾う。 「あ、気をつけて下さいね。まだ完全に治ってませんから」 「わかっている。だがまあ、戦うのに支障はきたさなさそうだ。礼を言う」 村正を鞘に収め、黒づくめの男は気遣うように念を押すイザに答えた。 「…お主、見たところかなりの使い手じゃな?」 ザックを背負いなおし、乱れた服を整える彼を見据えながら、ギード。 「…だったら、どうしろと?」 足元の亀――にしては随分大きいが――を見下ろしながら、セフィロス。 「短刀直入に言う。手を組まんか?」 なぜ?と言いたげな表情を作るセフィロスを前に、ギードが続ける。 「わしらは今このゲームから抜け出す方法を探っておる。  ここから西に行った所にある搭にも仲間がおるし、この城下町にも助けを求める者がおる。  この忌まわしいゲームから脱出しようと考えている者はそこら中におる…」 「…それで?」 「お主ほどの実力者が仲間になってくれれば心強い。  まず、城下町で危機に瀕している者達を救わなければ。  それにお主、先程まで街の中にいたのだろう?何が起こったかも詳しく…」 「――悪いがそれは出来ない相談だな」 「…?」 なぜと問おうとした瞬間、ギードはいきなり蹴り上げられて宙を舞った。 「何をす「ベイルホース!」 イザが慌ててザックからきんきらの剣を取り出した次の瞬間には、 男の左手から発した蒼い光に吹き飛ばされて自分もギードと同じように宙を舞っていた。 咄嗟に盾にした剣は粉々に砕けている。原型を保っているのは握られている柄だけだ。 やがて、背中から大地に叩きつけられた。 「く…」 呻きながら、ザックから新たな剣――に良く似た棒切れ――を取り出して起きあがる。 逆さまになってもがいているギードに手を貸して起こさせ、二人が反撃に転じようとしたその時、 「動くな」 と太い、あの男の声がする。 「…この娘の、命が惜しければな」 みると、男は城下町の方を見ていたせいで反応が遅れたリディアを羽交い締めにしていた。 「…なんと卑劣な…!」 セフィロスを睨みながら、ギードが唸る。 「”賢い”と言ってくれないか?」 左腕一本でリディアを押さえ、盾にするようにしながら、セフィロス。 当のリディアは体を押さえつけている腕を掴んだり体を揺すったりしながら脱出しようとしているが、彼女の細腕ではとても抗えない上に、首を締めつけられていて魔法で反撃することもままならない。 「…まあ、死にそうだった所を助けてくれた事には素直に感謝する。ありがとう」 じりじりと、2人からセフィロスが少しずつ離れて行きながら、続ける。 「一つ良い事を教えてやる。  私はな、このゲームを抜け出すつもりなどさらさらないのだ。  …運が悪かったな。襲われていた人間を助けたつもりが、まさかマーダーだったとは」 「じゃあ、街を燃やしたり隕石を落としたりしたのは…」 「おっと、それは違う。それは私ではない」 エクスカリパーを油断無く構えるイザの問いに、余裕の笑みを崩さず答える。 「なら誰が…」 「…城下町を火の海に変えたのは私の仲間、メテオを使って隕石を落としたのは私が殺した奴だ」 なんてこった。 イザは目の前の男を睨みながらそう思った。 こいつはもう人を殺している上に、話し方からして1人や2人じゃない。しかも城下町にはこいつの仲間がいる… 今すぐにでも肉薄して叩き斬ってやりたいが、リディアを盾にされているせいでそうもいかない。 セフィロスは少しずつ、彼等から離れて行った。 「嫌…放してっ…」 セフィロスの腕の中でリディアが抵抗しつづけているが、 血で黒く染められた腕の力には勝てそうに無かった。 「やめろ!リディアを放せ!」 ギードが叫んでも、「なら動くな」と冷たい声が帰ってくるだけ。 やがて、セフィロスは彼等から十分な距離をとると、再び口を開いた。 「少々口が過ぎたようだ。そろそろお暇させて貰おうか。  お前達は命の恩人だ。私も何もしないでおいてやる。  …お前達2人には、な」 セフィロスは言い捨て、それまで体を捩ってなんとか逃げ出そうとしていたリディアを、 ――村正で一突きにした。 「な…」 言葉を失う2人。 その目の前で、リディアがドサッという音とともに崩れ落ちる。 「…放してやったぞ?」 とぼけるような様子で、セフィロスが不気味に立っている。 「それでは、私はこの辺で…」 「待て!」「縁があったらまた会おう」 イザが止める間も無く彼がそう残すと、突然目の前に巨大な竜巻が起こった。 周辺の瓦礫や小石、さらには生えていた雑草や土なども巻き上げられ、強い風圧で目を開けられなくなくなった。 ようやく竜巻が収まると、あの銀髪はもういない。 後には、胸から血を流して倒れたリディアが残されていた。 「なんということを…」「リディア!」 イザとギードが、倒れている少女に走り寄る。 傷はどうやら一つ。先程刀で刺されただけのようだ。 ただし、心臓が正確に、しかも完璧に狙われた物だが。 彼女の左胸からは血がとめどなく流れているし、2人が必死に治癒しようとしてもなかなか止まらない。 致命傷だ。 ギードは四回目のケアルガを唱えながら思った。 あの男と目を合わせたとき、嫌な予感のような物は感じた。 しかし、急ぎ過ぎていて意にも介さなかった。 「ごめん…私のせいで…」 「喋らない方が良い。それに君のせいなんかじゃないよ。僕達がもっと早…」 そこまで言って突然イザの顔が引きつり、腹のあたりを押さえてうずくまった。 「イザ!どうした!?」 「だ、大丈夫です。大した事は…」 ギードの問いにそこまで答えると、イザは一層苦しそうに腹を押さえる。 「大丈夫なはずがなかろう!見せろ!」 ギードが強引にイザの腕を取っ払うと、その手は血に塗れていた。 手だけではない。彼の腹や胸が、血で赤く染まっていた。 細かくなった金色の剣の破片が突き刺さっており、取り除く事は出来そうも無い。 先程までは状況が状況だけに痛みを忘れていたのか、かなり深い傷だ。 「こんなところで痩せ我慢してどうする。ルカに合わす顔がなかろうに」 「そう…そうでしたね」 そういって笑うイザをリディアの隣に寝かせてやる。 …しかしどうしたものか。ギードは内心頭を抱えていた。 どちらか1人ならまだしも、2人も治療するとなると話は違う。 魔法もこれ以上使うのはできるだけ避けたいが、一刻も早くなんとかしなければ二人とも死んでしまう。 2人に気を取られていたせいか、 ギードはその背後でリスの着ぐるみを着た女性が、まるで幽鬼のようにゆっくりと立ちあがった事に気づけなかった。 そして、彼女の左手に蒼色の光が宿っている事にも。 アルカートは虚ろな目で横たわっている2人の男女とその傍にいる亀を認めると、 蒼く光る手を彼等にかざした。 重傷を負った二人に気を取られ、ギードは背後から放たれる殺気に気づくのが遅れた。 攻撃を避けようとした時には、既にその場をまばゆい閃光が包み込んでいた。 離れた地点であの青の光が放たれるのを、セフィロスは岩に腰掛けながら眺めていた。 あのホーリーの使い手が3人を襲ったらしい。 見せしめ程度にレオタードを着た娘を刺してから逃げたが、それも功をそうしたようだ。 実に好都合だった。これで奴らが追ってくることもないだろう。 ザックからパンを一掴み取り出し、乱暴に咀嚼しながら喉の奥へと押し込む。 あのお人好し達のおかげで傷口は塞がったが、やはり未だ不完全だ。 血だ。失った血を、遅くとも夜明けまでには作り直さなければならない。 口の中に残ったパンを水で流しながら、セフィロスは岩に穿たれていた空洞の中へ入り込んだ。 姿を隠すには不充分だが、この暗い夜の闇、しかも黒い服を着ているのだから見つかる事はないだろう。 「まあ、今日はもう動かずにいよう…」 今後の行動、クジャとの約束、ホーリーを使う女…とりあえず、夜が明けてから考えよう。 彼は冷たい夜風を体に受けながら、徐々に肥大していく疲労と睡魔に意識をゆだねていった。 【ギード(MP消費、ホーリー直撃) 所持品:不明】 【イザ(重傷、MP消費、ホーリー直撃 所持品:きんきらの剣(柄だけ)、エクスカリパー、マサムネブレード、首輪】 【リディア(瀕死、ホーリー直撃) 所持品:いかずちの杖、星のペンダント】 【第一行動方針:不明 第ニ行動方針:アリアハンへ加勢に行く】                【アルカート(自我喪失)  所持品:ナッツンスーツ グラディウス 白マテリア(ホーリー)  第一行動方針:? 第ニ行動方針:ジオの元へ行く(?)】 【現在位置:アリアハン城下町入り口】 【セフィロス(HP1/5程度、睡眠中) 所持品:村正 ふういんのマテリア  現行動方針:潜伏し、体力を回復する 最終行動方針:参加者を倒して最後にクジャと決闘】 【現在地:アリアハンから少し南、岩陰に潜伏中】

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