406話

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*第406話:天に皇帝 地に勇者 サスーン城の場内に足を踏み入れた途端、アルスは足を止めた。 「レオンハルト、気配を消せ」 「既にやっている。……誰かいるな」 そう、城の中には彼らのほかに先客がいるようであった。 アルスの感じた気配は複数。 「どうする? 接触するか?」 レオンハルトの言葉にアルスはしばし考え込み、首を横に振った。 「いや、相手が何者かわからない以上、今は不用意に接触するべきじゃない。  もしも好戦的な相手だった場合、怪我をしている君を庇いながら戦うのは  少々厳しい物がある。相手は複数のようだから尚更だ」 アルスはシドを失ったことから、このようなことには慎重になっていた。 しかしその言葉はレオンハルトの自尊心を著しく傷つけたようだ。 「言ってくれるではないか、小僧。  俺は貴様に気遣われるほど柔な人生は送ってきてはいないぞ」 「冷静になれ、レオンハルト。僕たちには敗北は許されない。  確実に相手を倒さなければこれからの犠牲者を防ぐことにはならないんだ。  もう、逃げるのも逃げられるのも僕は嫌だ。  その為には、今の君は足手纏いでしかないんだ」 レオンハルトは歯を強く噛みながらアルスを睨む。 「だが僕は君の強さは信頼している。君が万全となった時が僕たちの動くときだ」 アルスもその射抜くような視線から目を逸らさずにきっぱりと言い放つ。 しばし睨みあい……レオンハルトはフッと息をついた。 「フン、忌々しいが貴様が正論だな。  それでどうするつもりだ。この城を出て他の拠点に向かうか?」 「嫌、それは効率的じゃない。幸いにも僕たちの存在はまだ相手に気取られていないようだ。  彼らは東の塔に陣取っているようだから僕らは西棟に潜伏しよう。地下でもあれば最適だ。  そこで傷と疲れを癒し、その後に先客たちと接触してみようか」 「わかった」 そして二人は歩き出す。 アルスは一つだけ間違いを犯していた。 彼は自分達が気配を消した後も相手の気配が動かないので気取られていないと判断したが 実はたった一人にだけはその存在に気付かれてしまっていたのだ。 その人物とは、マティウス。 かつてのパラメキア皇帝であり、レオンハルトとは浅からぬ因縁を持つ人物である。 彼は戦士として他の追随を許さぬ力量を誇っており、その為の感覚も常人より遥かに鋭敏であった。 デールの急襲が起こった後だったため、更なる襲撃を警戒していたせいもある。 城の空気に僅かに伝わる流れ。石畳を打つ足音の僅かな振動。 押さえ込まれていても僅かに漏れ出る生命の波動。そんなものをマティウス感じ取っていた。 マティウスが感じた気配は城に入ると明らかに進路を変え、西棟に移動している。 こちらの存在に気付いた上で接触を避けたようであった。 (ならばすぐさま警戒する必要もない、か?) 相手がこちらとの接触を避けたということは、非好戦的な輩か負傷しているかであろう。 アグリアスを失った自分達や、更に立て続けに悲劇に見舞われているタバサたちのことを考えると 自分から接触を試みてみる気にはなれない。藪から蛇を突付きだす恐れがあるからだ。 (相手が動きだすまで皆にこのことは伏せておくか。いらぬ心労をかけてしまうからな。  放送後になっても動かないようであれば接触を試みてもいいかも知れん。  その頃には我々の状況も落ち着いているであろう) そう考えていたマティウスだが、不意にその二人の気配が消えてしまい戸惑う。 「ぬ?」 (こちらから遠ざかっていたようだがまさか、城から出たのか?  随分と行動が早いがそれならば気にすることもあるまい) 「どうした、マティウス?」 「いや、何でもない。気のせいだったようだ」 ゴゴの問いに気もなく答える。 マティウスは消えた気配に興味をなくすと、今後のことを考え始めた。 リュカとエドガーががサスーン城を訪れるのはもう間もなくである。 アルスたちは西棟を探索し、二階で隠し通路を見つけるとこれ幸いと地下へと向かった。 隠し通路が見つかったのは偶然の賜物である。通常では一瞥して発見されることはないであろう。 そして二人が地下に向かい、たどり着いた先には泉の湧き出ている石造りの部屋があった。 マティウスが二人の気配を感じ取れなくなったのは単純に二人が地下に入ったため 距離が離れた上に、気配を伝える空気や振動が伝わらなくなったためであった。 「理想的だ、ここに陣取ろう。  レオンハルト、肩を出してくれ。治療を始める」 レオンハルトはアルスの言葉に自嘲すると、おとなしく上着を肌蹴た。 「どうした?」 「いや、弟のような年齢の小僧に主導権を握られているかと思うと自分が可笑しくてな」 「気に障ったか?」 「いいや……不思議と嫌な気分になるようなことはない。  貴様が本音を隠さずに物を言う性格だったせいかもな」 フリオニールのことが頭に思い浮かぶ。 (俺は……良い兄ではなかった。良き友にもなれなかった。  ならばせめて命に代えてもお前のすることを止めなくては、な) 『だから、本当に簡単な話だ。まず、他の参加者を全て殺す』 『そして俺が最後の一人になった時に、あの魔女にマリアを返してもらう。単純明快だ』 (フリオニール、お前を必ずその闇の思考から解放してやる。  かつての俺のようにはさせん。必ず、お前を救ってやる) それはアルスの意志とは反する想いだろう。 アルスとの契約はこの殺人ゲームに乗った者を殺してでも止めること。 しかしフリオニールに関してはレオンハルトは殺すつもりはなかった。 (結局俺は、この男をも裏切ることとなるか。  一度魔道に身を堕とした者は、いつまでも魔道からは逃れられぬということか。  ククク、いかにも俺に相応しい人生ではないか) 「良し、傷は塞がった。後は休息を取ろう」 アルスの声にレオンハルトは思考の淵から意識を現実に戻した。 「レオンハルト、君は睡眠を取ってくれ。僕が見張りとなろう。  放送前には起こす。そして放送を聴いて状況を確認した後に行動に移ろう」 「何? だが今お前は魔力を消耗したばかりだ。  お前が先に休息を取るべきだろう」 「いや、それほど消耗はしていない。君の肩はすでに魔術で大方回復していたからな。  それに僕の方も起きている、というだけで休息は取る。心配するな」 それにアリアハンではろくに行動しなかったからな、とアルスは笑う。 一方、レオンハルトのほうは動き詰めだ。確かに疲労もかなり溜まっていた。 「では、その言葉に甘えるとしようか」 フリオニールは強い。あの強力な剣とも相まって、疲労状態を押して勝てる相手ではないだろう。 説得をするにしても、まず動きを止めねば話にもなるまい。 アルスのいうとおり、万全の体勢となる必要がある。 レオンハルトは壁を背にして腰を下ろす。 そしてふと見るとアルスはザックから何冊かの本を取り出していた。 気になったので尋ねてみることにする。 「アルス、それはなんだ?」 「ああ、これは暇を潰そうと思ってね。これから読もうとしていたんだ。  先ほど話したシドの……形見さ」 それを聞いてレオンハルトに複雑な思いが去来する。 フリオニールが殺したというアルスと行動を共にしていた男。 心に何かがずっしりと圧し掛かるのを感じ、レオンハルトはそれ以上聞くのを止めた。 その時、ふと本の表紙が目に入る。 【女僧侶の妖しい肉体治療~真夜中は別の顔~】 そんな文字が扇情的な絵と共に並んでいる。 亡き友の形見という物に抱いていた幻想を完膚なきまでに打ち砕かれた気がして レオンハルトは目を閉じた。……全てを忘れることにする。  『うふふ、これはどうかしらサックス? 気持ち良い?』  『ああ、駄目です……こんなこと、許されることでは……』  『まだそんなことを言っているのね、じゃあこれでどう?』 「うーん、相手役のサックスというキャラの個性が弱いなぁ。  これでもう少し積極的か、逆に気弱だったらヒロインに喰われる事もないだろうに  どっちつかずで損をしている」 小声でアルスが官能小説に駄目出ししている。 ……レオンハルトは聞こえない振りをした。 「それにしてもこの二重人格という設定にそこはかとなく既視感を感じるな。  アリアハンにあった本だし、もしかして彼女をモチーフに……」 ……レオンハルトは溜息を吐き、ゆっくりと身体を起こした。 拳に息を吐きかける。 (とりあえず黙らせるか) 【レオンハルト(MP消費)  所持品:消え去り草 ロングソード  第一行動方針:サスーン城で潜伏  第ニ行動方針:フリオニールを止める   最終行動方針:ゲームの消滅】 【アルス(MP3/5程度)  所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 官能小説3冊  第一行動方針:サスーン城で潜伏し、放送後にフリオニールを追う  第二行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす  最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】 【現在位置:サスーン城 地下の泉】 【マティウス(MP1/2程度)  所持品:E:男性用スーツ(タークスの制服)  基本行動方針:アルティミシアを止める  最終行動方針:何故自分が蘇ったのかをアルティミシアに尋ねる  備考:非交戦的だが都合の悪い相手は殺す】 【ゴゴ(MP1/2程度)  所持品:ミラクルシューズ、ソードブレーカー、手榴弾、ミスリルボウ  第一行動方針:マティウスの物真似をする】 【現在位置:サスーン城 東塔】

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