392話

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*第392話:暗く狭いミスリル鉱山で 「…くそっ」 足下に転がる死体に、サラマンダーが毒づく。 ”あれ”が目の前に現れ、そして消えていってから、どれくらいの時間がたっているのだろう。 10分かも1時間かもわからない。 なにせあれからかなり長い間、呆然と立ち尽くしていたのだから。 それでも何とか思考を取り戻し、その思考が鉱山の中に逃げていったイクサスに伸び、 急いで様子を見に来たら…この有り様だ。 イクサスは右肩が大きく斬られ、心臓を一突きにされて死んでいた。 その顔には怒りのせいか恐怖のせいかはわからないが、歯をくいしばった表情が刻まれたまま。 辺りには彼の自作と思われる薬の入った瓶やボールが転がっている。ただしラケットは無い。 サラマンダーはとりあえずそれらを拾い集め、炭坑の奥へと用心深く進んでいく。 今となっては手遅れかもしれないが、あの女格闘家と剣士がまだいるかもしれないからだ。 実際、フルートとサックスはまだミスリル鉱山の、ゼルと別れた小部屋の中にいた。 フルートの重度の疲労――と言っていいのかはよくわからないが――は一向によくならないし、 何よりも全くの誤解で、あんな形で仲間に見捨てられたショックが未だに二人をそこから動かす気力を与えないのだ。 「クソッ…一体なんだってんだ…あいつら…」 まだ肩で息をしながら、フルートが呻く。 どういうわけか、まだ「あの人格」のままだ。 「あまり体を動かさないで。今は休む事が先決ですよ」 気遣うサックスだが、その心は重く暗い。 …当面はフルートの回復を待ち、この炭坑の中にこうして留まる他無い。 だがその後は?いつまでもここでじっとしているわけには行かないし、ロランの事も心配だ。 ゼルが何をどう誤解したのかはわからないが、あの様子ではもはやその誤解を解くことは出来ない。 しかもあのギルダーがマーダーに転落したという。あのいつも冷静で頼れる仲間だったギルダーがだ。 どうしていいかわからない。 サックスがそうして今後の事を考える余裕すら持てないでいると、入り口の方から足音が聞こえてきた。 「誰だ!」 奥から聞き覚えのある声が威嚇する。 どうやら、本当にまだいたらしい。鍵爪を装着しなおす。 少し間を置いて、サラマンダーは彼らの前に姿を現した。 「てめえ…!」 「お前は…!」 見ると、背後に格闘家を庇う形で、剣士――確かサックスと言ったか――がこちらに向かって剣と盾を構えている。 格闘家は相変わらずの満身創痍の様子だが、剣士はまだまだ健在だ。 サラマンダーの姿を見とめると、小部屋の手前、サラマンダーの立っている通路へと進み出た。 「…まさかとは思ったが、まだこんなところにいたのか」 言って格闘の構えに入る。 が、その時、サックスは急にある事を思い到った。 彼と剣を交えた男が、こうしてここに立っている… 「ロランさん…ロランさんはどうした?」 焦った声で言う。と、目の前の暗殺者は「…気の毒だな」と首を小さく横に振った。 「貴様…!」 「悪く思うなよ。これが戦いだ」 サックスは自分があの剣士を殺したと思いこんだらしい。 真実は少し違うが、まあサラマンダーにとっては都合が良い。 怒りは人を一時的にだが強くするからだ。イクサスはその好例と言えよう。 2人はしばし睨み合っていたが、やがてサックスの方から仕掛けてきた。 一気に距離を詰め、大上段に構えた草薙の剣を振り下ろすサックス。 サラマンダーはその一撃をアベンジャーで受け止めると、体を回転させて剣士の体を蹴りつける。 サックスは避けきれず、代わりに盾でダメージを防ぐ。が、その衝撃で壁に叩きつけられた。 「ええい!」 すぐに体勢を立て直し、サックスが再び斬りかかる。 サラマンダーは右腕の爪と左拳、さらには蹴りを繰り出して迎え撃った。 場所が狭い上にもともと本職の武器ではないので、ラミアスの剣は使わない。 サラマンダーの多彩な攻撃を盾で防御し、サックスは怒りに任せて剣を振るう。 許せなかった。 人を殺しても、まるでそれが当然だとばかりに振舞う目の前の敵が。 そして何よりも、ロランの死を防げなかった自分が。 イクサスに勝利してフルートを炭坑の中にかくまった後、すぐに救援に向かえば彼は死なずに済んだかもしれないのに。 しかし、今や何もかもが遅過ぎた。 先程まで彼に出来た事と言えばただ悩む事で、 今彼に許されているのは悔いる事と戦う事だけだった。 そうして幾度となく閃いた草薙の剣の切っ先が、ついにサラマンダーを捕らえる。 が、暗殺者もとっさの回避で致命傷を交し、筋肉で固められた首元に小さく浅い傷を残すに留まった。 「チッ」 素早く後方に跳び退き、傷口に手を当てる。 その左手を見ると、その指は自らの血で紅く染まっていた。 「やるな…」 言い、にやりと笑うサラマンダー。楽しくなってきた。 サックスが追い討ちをかけようと、なおも剣を手に跳びかかる。 サラマンダーは先程とは違って、その場に立ち止まって受けて立つ姿勢を見せる。 そしてナイトが敵の心臓めがけて剣を突き出す瞬間――不意に、白い光に包まれた左手が突きつけられた。 とっさに水鏡の盾で防御しようとするサックス。 次の瞬間、暗い炭坑を白色の閃光が照らし、彼は後ろへと跳ね飛ばされた。 「がはっ!」 もといた小部屋まで吹き飛ばされ、壁に派手に叩きつけられる。 「…っの野郎!!」 それまで座り込んでいたフルートが、劣勢に追い込まれたサックスの代わりに立ちあがろうとする。 が、その行動は彼女のダメージの程を敵に知らせる以上の意味を持たなかった。 「フルートさん!」 サックスが慌てて起き上がり、膝をついて荒い息をしているフルートに駆け寄る。 「…いいのか?」 不意に、重く太い声が聞こえた。 見ると、サラマンダーが先程と同じ白い光を両手に宿らせてゆっくりと迫ってくる。 「戦いそっちのけで気遣い合ってよ」 「くっ!!」 フルートが咄嗟に剣を振るい、襲い来る光弾を跳ね返す。 白い光はあさっての方向に飛翔し、壁や天井に激突した。 雑魚散らし。 サラマンダーの極めた奥義の一つだ。 これは魔法とよく似た攻撃で、実際に魔力を消費する技だが、 彼独自の工夫が加えられており、連続で叩きこめば大型のモンスターでさえ一たまりも無い。 …はずなのだが。 (これは…たまげたな) 4発目、5発目と光弾を造り出し、撃ち出しながら、サラマンダーは小さく呟く。 なんと、剣と盾を駆使して雑魚散らしを弾き、サックスが徐々に前進して来るのだ。 彼に向かって放たれた光弾は全て跳ね返され、通路や天井に大きな音や振動とともにぶつかって消滅していく。 先程も言ったように、雑魚散らしは大型のモンスターでさえ葬る強力な攻撃だ。 それを何度も弾き返し、あまつさえそのままこちらに進んでこようとは。 壁に叩きつけられた時のダメージも結構な物だろう。 それすらものともしないのは、マーダーに対する怒りか、それとも仲間を護ろうとする意思か。 どちらかはわからないが、サックスは着実にサラマンダーとの距離を縮めていった。 もはや何発目かわからない雑魚散らしの閃光がサラマンダーの真横の壁を穿ち、岩石や坑木の破片を撒き散らした。 そしてサックスはとうとう彼を接近戦の間合いに捕らえ、剣を一閃させるが、鍵爪で受け止められた。 「やるじゃねえか剣士さんよ。やるじゃねえか」 「ふざけるな!まるでさっきから戦いを楽しんでるように…!」 宙返りで後退しつつ言うサラマンダーに、サックスは怒りの声を上げた。 「さて、こいつは防げるかな?」 そんな彼の叫びを無視し、またも笑いながら、サラマンダーは左手に魔力の塊を造り出し、 「そらよ!」 放つ。 「くそっ!」 サックスも盾を構え、今度は両足を地について攻撃を正面から受け止める。 だがその直後、間髪入れずに、それまでより少し小さい球体が彼を襲った。 サックスはほとんど反射的に、それを叩き斬ってしまった。 音もなく、真っ二つに割れる玉。 手応えがあきらかにこれまでと違う。 その中からふわりと、白い粉末が霧散し、サックスを包むように宙を漂う。 「な…?」 彼は訝ったが、その疑問のほぼ全てがすぐに解決された。 突然視界が揺らぎ、倒れかけてその場に膝をつく。 息が苦しい。体がうまく動かない。吐き気がする。 後ろからフルートが自分の名を呼ぶのがぼんやりとわかったが、よく聞こえない。 「やはり中身は毒だったか。イクサスもなかなか使えるモノを残したな」 サラマンダーの勝ち誇ったような太い声が聞こえた。 それまでと同じような攻撃と見せかけ、飛竜草の粉末が詰められたカプセルボールを投げつけたのだった。 皮肉にもイクサスの調合した毒薬によって、サックスは窮地に立たされた。 「カ…ゲホッゴホッ!…く…」 うずくまり、咳き込むサックス。 「…俺の勝ちだな」 サラマンダーは腕を組み、満足げに彼を見下ろしていたが、やがてアベンジャーの爪を剣士の喉元に突きつける。 「サックス…!」 フルートはサックスを助け出そうと立ちあがっては、その度に地面に倒れこんだ。 そして暗殺者の爪が大きく振りかぶられたその瞬間、彼らのいる炭坑が大きく揺れた。 「…なんだ?」 訝しげにサラマンダーが辺りを見渡す。 すぐ近くの坑木がミシミシと高い悲鳴をあげた。 ――彼らがいるのは、鉱山に無理矢理穿たれた炭坑の中だ。 そして彼らはそこで戦い、壁や天井も雑魚散らしの連打でかなり破壊されている。 だから…落盤が起こるのも、当然と言えば当然だ。 サックスとサラマンダーの間に、一際大きい岩石が落下する。 暗殺者は大きく舌打ちし、一瞬恨めしげに彼を睨みつけた後、背を向けて入り口へと逃げ去る。 本格的な崩壊が始まった。 残された剣士は自由に動かない体の向きを変え、ぼやけがちな目で辺りを見まわす。 すると、満身創痍のフルートが視界の中に入ってきた。 彼女はなんとか起き上がろうとしているが、深すぎるダメージがそれを許さない。 その姿に、もう生きてはいないであろうロランの姿が被る。 彼が死んだ――あの暗殺者の言う事を鵜呑みにすれば、だが――のは、ほとんど自分のせいだ。 すぐに助けに行けば、死ぬ事は無かったかもしれない。そして今またしても、仲間が独りで死にかけている… そこまで思考が伸びたサックスは、重い体を引きずってフルートに駆け寄る。 そして飛竜草の毒がすでに全身にまわっていたにも関わらず、立てないでいる彼女を担ぎ上げた。 「馬鹿…モタモタしてると間にあわねえぞ…」 フルートが呻き、「早く…俺にかまわないで行け…」と続ける。 「いえ…けホッ、絶対に、見殺し、には、しません。絶対に」 彼女にそう答え、サックスはフルートを担いで崩壊し続ける炭坑内を歩き出した。 が、彼の努力はそこで終わった。 数歩も歩かない内に、強い眩暈がサックスを襲った。 彼はその場にまたも膝をつき、荒い息遣いで再び立とうとする。 が、今度は足がふらついて倒れた。 (だめだ…こんな、こんなところで…) そしてもう一度立とうと地面に手をつく間もなく、彼の意識は闇の中へと引きずり込まれて行った… 「おい…サックス!おい!」 フルートが剣士の体を揺さぶり、呼びかけるが、返事はない。 とりあえず苦しげに息はしているから生きてはいるのだろうが、この様子では今すぐに死んでもおかしくはない。 「起きろ!このままじゃ…うおっ!?」 なおも呼びかけようとする彼女のすぐ傍らに、岩が何個も落ちてくる。 フルートは今の彼女にもてる限りの力でサックスの体を引き、それらの岩石をさける。 それからは呆然と辺りを見渡す事しか出来なかった。 崩壊が落ちついた頃には、彼らのいる小部屋から炭坑の出口へと通じる通路は、完全に岩石によって埋め尽くされていた。 「危なかったぜ…」 一方、サラマンダーは炭坑の入り口から少し離れた所に座っていた。 支給品袋に手をかけ、中から毒入りのボールを取り出し、じっと観察する。 剣士との戦いの時、試しに使ってみたが、これは優れものだ。 武器やアイテムを「投げ」て攻撃できるサラマンダーにはラケットのような発射装置は必要無いし、 毒粉末の即効性と効果は申し分ない。 これを使えば一撃で敵の動きを止められるし、集団が相手でも優位に立てる。 不敵な笑みを浮かべてボールを袋の中に戻すと、村の外へと歩き出した。 待ち伏せがいかに効果のない戦法かは昨夜思い知らされている。 積極的に参加者を狩るべきだろう。 【サックス (負傷、重度の毒状態、意識不明)  所持品:水鏡の盾 草薙の剣 チョコボの怒り 加速装置 ドラゴンオーブ シルバートレイ ねこの手ラケット 拡声器  第一行動方針:不明 第二行動方針:なるべく仲間を集める  最終行動方針:ゲームから抜ける。アルティミシアを倒す】 【フルート(重傷) 所持品:スノーマフラー 裁きの杖 魔法の法衣  第一行動方針:同上 第二行動方針:同上 最終行動方針:同上】 【現在地:ミスリル鉱山内部・1F小部屋】 【サラマンダー(疲労、MP消費) 所持品:ジ・アベンジャー(爪) ラミアスの剣(天空の剣)  紫の小ビン(飛竜草の液体)、カプセルボール(ラリホー草粉)×2、カプセルボール(飛竜草粉)×2、各種解毒剤  第一行動方針:出会った参加者を殺す 第二行動方針アーヴァインを探して殺す  基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る(ジタンたちも?) 】 【現在地:カズスの町→移動】 ・フルートとサックスがミスリル鉱山の小部屋に閉じ込められました。

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