533話

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*第533話:暁より、或る風に寄せて 風の音が聞こえる。体を吹き抜けていく風は冷たく、頬を撫でる草はくすぐったい。体がぶるっと顫えてしまう。 「ん?」 辺りの喧騒に目を開く。まず目に飛び込んできたのは、星輝く空と、その空をさぁっと流れていく雲、そして赤く輝く月。 記憶の糸を手繰り寄せる。サラマンダーと名乗る赤髪の男と交戦し、井戸に突き落とされ、無我夢中で魔法を放って。 「誰かが助けてくれたのか……」 一瞬夢だったのかとも思ったが、肌に冷たい濡てた衣服が、あれは現実だということを物語る。 すぐ傍には一匹の利発そうな犬がちょこんと座っている。 起き上がると、村が燃えていることに気付く。なんで村が燃えているのか。 直後に耳に入ってきたのが、雷でも落ちたかのような轟音、そして魔物の咆哮。 炎に照らされ、巨大な姿が見える。あれはブオーンという魔物に間違いない。 自分が行ってどうにかなるのか、という考えも一瞬浮かぶ。 何故か傷は完全に塞がっているが、水の中にて失った体力は戻っていない。 が、だからといってここで指をくわえて突っ立っているのは我慢できない。 村に向かおうとしたとき、突如犬が吠え出し、ピアスが鳴り始めた。 何事かと思って後ろを向くと、騎士風の男が見える。 男も、こちらに気付いたのか、向かってくる。 「こんばんは」 騎士は両手を頭の上に上げ、語りかける。 「敵対する気はありません。僕はサックス。あなたは?」 サックスは淡々と語りかけ、ヘンリーはそれにひどく違和感を覚えた。 後ろからは風に乗ってぼうぼうとものが燃える音が聞こえてくる。 犬はサックスを見て低い唸り声をあげている。 「ヘンリーだ」 質問には答える。腹の底で何を考えているのか分からない。 ただ、サックスという名をどこかで聞いた覚えもある。 犬は相変わらず唸り続けている。 サックスはどこ吹く風といったように犬を無視し、抑揚の無い口調で質問を続ける。 「ヘンリーさん、ですね。僕は森を抜けたところであの炎を見てやってきたのですが、  一体何が起こっているんですか? それと、あなたはこんなところで何をしているんですか?」 「巨大な魔物が村を襲っているらしいが、何が起こっているのか詳しくは分からん。  俺のほうはなんでここにいるのかも分からん。襲われて、井戸に落とされて、気付いたらここにいた」 「なんですか、それ」 「なんですかといわれてもな。誰かが俺を助けてくれたんだろうが、当人はいないし、  気付いたときにいたのはこの犬一匹さ」 「はあ…」 サックスがあらためて村のほうを眺める。サックスの表情が僅かに翳り、ため息をつく。 「俺は今から村のほうに向かう。あそこにまだ仲間がいるかもしれないしな」 そう言って、動き出そうとして、ふと足を止める。 「そういえばサックスとどこかで聞いたと思ったんだ、エリアの仲間だったな」 「……エリアに会ったんですか?」 「ああ、昨日の夜から一緒に行動している。お前のことも少し聞かせてもらったよ」 「ということは、今は村に?」 「ちょっと前までな。無事に逃げてくれていることを祈ってるよ」 ハッサンとルカを殺し、故郷の村のほうへ進んできた。森を抜け、初めに見たのは故郷が燃え上がる光景。 この世界は架空のものだと言い聞かせても、もう自分には帰る場所すらなくなってしまったのだと思わずにはいられない。 それでも進んでいくと、男と犬を見つけた。村から逃げてきたのか、村に火をつけた張本人なのか。 最初は殺そうかとも思ったが、相手は見た感じでは万全、一方で自分は体力をかなり失っている上に体の毒がまだ取れていない。 そこで相手の様子を伺った。 ヘンリーというこの男は村の中にいたらしいが、どうも答えが曖昧だ。 警戒しているのだろう。少なくとも、彼が連れている犬はあからさまに敵意をむき出しにしている。 が、少し話していると、この男はエリアと共に行動していたということが分かった。 このままだとエリアに会うことになるだろう。さて、そうなったときどうする? ……自分はエリアに命を救われた。それは事実。でも、だからこそ自分は生き延びないといけない。 ……この命を繋ぐために、死んでいった仲間のためにも、自分は最後まで生き残らないといけないのだ。 そう言い聞かせる。 さて、この男自身は信用に足るか? 否。 ゼル、リルム、ルカ、ハッサン、アルス、フリオニール、カイン、それにギルダー。自分は数々の裏切りを見てきた。 彼らが何を考えていようとも、彼らのとった行動は自分にとっては裏切りでしかなかったのだ。 初めて会う人間などとても信用できるものではない。いや、ここにいる人間はもう誰も信用など出来ない。 口ではいくらでも上手いことは言える。今なら、イクサスの気持ちも少しは理解できるような気もする。 では、この男は利用するにはどうか?  今話した様子では、この男には何人もの仲間がいるようだ。 怪我をしている様子が見られないというのは、それだけ強いか、回復魔法が得意な仲間がいるということ。 毒に先ほど受けた傷、これ以上無理をするわけにはいかない。 なら、一時的に彼らの仲間として身を潜めるのがよい。 幸いにも、この男は自分のことを知っていて、なおかつさほどの警戒はしてはいない。 ゼルやリルムとはまだ会っていないのだろう。それは幸運だった。 「僕も行きます。エリアがずっと一緒にいたというなら、あなたは信用できる人間でしょうから。  ただ、僕らは負傷者や逃げ遅れた者の救助が先決でしょう。  僕の故郷ですから、地理は正確に把握しています。何より、いくら手負いとはいえ、  あんな怪物にバカ正直に挑んだところでどうにかなるとも思えない」 「ああ、そうだな」 ヘンリーは大規模な攻撃呪文も使えない。あの怪物を銃で撃っても、針で刺すようなものだろう。 戦いのことはリュカに聞いたことがある。残念だが、自分にあれと戦えるだけの能力はない。 「では、東から回りましょう。森がありますから、そこから村のほうへ入りましょう。  まだあまり火は広がっていないようですし、井戸のところだけは開けているので、もしかしたら誰か避難しているかもしれません」 犬が必死に吠える。まるでそちらに行ってはいけないとでも言うかのように。 「悪いな、確かに危険だが、行かずにはいられないんだよ。  この糞ゲームで一緒に生きてきた仲間だからな。  それに、向こうも俺のことを心配してるだろ。顔ぐらい見せてやらねえとな」 犬はその言葉をどう理解したのか、唸っていたが、突然サックスに向かって体当たりを仕掛けた。 だが、それに反応したサックスは水鏡の盾で見事に受け止める。 しかし、渾身の体当たりだったのだろう、弾かれて尻餅をついてしまった。 「あいたた……」 「おい、大丈夫か?」 「ええ、大丈夫です。ちゃんと受け止めましたから」 「お前、一体どうしたんだ?」 未だに唸る、いや、すでに戦闘態勢に入っているようにも見える犬に尋ねる。 といっても言葉は通じないのだが。 犬の代わりにサックスが答える。 「やっぱりあの怪物を本能的に怖がっているんじゃないですか?  それか、飼い主からヘンリーさんを動かさないよう命令されているとか。  僕がヘンリーさんをあの怪物の連れて行こうとしているように見えたんでしょう」 犬が身を翻し、南の森のほうへ駆けていく。 「そう…か、そうだな」 違和感をしまい込み、自分を納得させると、ヘンリーは風のように遠ざかっていく犬を見送る。 アンジェロはサックスから僅かな血の臭いを嗅ぎ取っていた。 それも嗅いだことのある臭い。きっとハッサンのものだ。 サックスが危険な男なのは明白。なのにそれを伝える手段がない。 意思疎通が可能だというのは、どれだけ便利なことか。 もしかすると倒せないかと強引にサックスを攻撃したが、防がれてしまっただけ。 どんなに吠えても、攻撃しても、無駄なのだろう。 それに、ハッサンたちに何が起こったか。嫌な予感がする。いや、もう彼らは…。 とめどなく湧き出る不安を抑え、アンジェロはルカたちのもとへと風のように駆けていく。 【サックス (HP半分程度の負傷、軽度の毒状態、左肩負傷)  所持品:水鏡の盾 スノーマフラー ビーナスゴスペル+マテリア(スピード)  ねこの手ラケット チョコボの怒り 拡声器  第一行動方針:ウルの村へ行く  第二行動方針:ヘンリーたちの仲間にもぐりこみ、利用する  最終行動方針:優勝して、現実を無かった事にする】 【ヘンリー  所持品:アラームピアス(対人)、リフレクトリング  第一行動方針:ウルの村へ行く  基本行動方針:ゲームを壊す(ゲームに乗る奴は倒す)】 【現在地:ウル南方の草原地帯→ウルへ】 【アンジェロ  所持品:風のローブ  第一行動方針:ルカ、ハッサンの元へ行く】 【現在位置:ウル南方の草原地帯→ウル南の森へ】

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