143話

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*第143話:『人殺し』 「魔石、か……」 緑色に輝く石を見つめ、スコールは小さく息を吐いた。 ティナの魂が宿るそれは、安らぐようなぬくもりを残したまま、静かに明滅を繰り返している。 ――人を殺した少女の化身とは、とても思えない。 (ティナ……誰があんたを狂わせたんだ?) 答えはない。それ以前に、問い掛ける気になれなかった。 聞いたところでどうしようもないし、何より、自分の考えを肯定されたくないというのもある。 「……ともかく、それを使えば彼女を幻獣として召喚できるわけだな?」 頭に浮かび続ける陰鬱な思考を振り払うために、スコールは今までの話題を思い返して言った。 「ああ。ただ、ティナ自身の意思が応じてくれた時じゃないと無理だ。  無闇に呼んだら、ティナに負担がかかっちまう」 「でも、すごい力よね。あれほどの傷を治せるなんて……」 アイラが呟いた。(もっと早く気付いていれば……)と思いはしたが、言葉にはしない。 マリベルのことは、仕方が無かったのだ。 割り切れるわけではないが、そう思わないとやっていられなかった。 「う……ううん」 「おっ、お嬢さんのお目覚めだぜ」 マッシュの言葉に、アイラが顔を上げる。 「私が相手をするわ。二人は少し離れててくれない?」 「何故だ?」「なんで?」 首を傾げる男たち。彼女は大きくため息をついた。 「なんていうか、外見的に、ちょっとね。  錯乱してる相手をこれ以上怯えさせたりしたら、余計に話がこじれると思うから」 「…………」 スコールとマッシュは憮然とした表情で顔を見合わせたが、反論はせず、大人しく後ろに下がった。 アイラの説得は、まあ、上手くいった方だろう。 少なくとも自分たちが敵ではないことを飲み込ませ、戦意を解く事には成功したのだから。 けれども、ティファが完全に納得したかと言えばそうでもない。 「火傷を治してくれたことにはお礼を言うし、戦う気がないってこともわかったわ。  でも、あなたたちは人殺ししても生き延びるつもりなんでしょ? それで信用しろって言われてもね」 きっぱりと言い放つティファに、アイラも、話を聞いていたスコールとマッシュも眉をひそめる。 「人殺し? 俺たちが?」 「そうよ。黒髪の女剣士に、金髪の格闘家に、黒尽くめの男の三人組。  あなたたちのことでしょ? 他に誰がいるっていうの?」 彼女がそこまで言った時、急にスコールが前に進み出て、彼女の胸倉を掴んだ。 「……もしかして、あんたにそれを教えたのは、コートを着てボウガンを持った茶髪の男か?」 呆れとも悲しみとも怒りともつかぬ表情で、スコールが問い掛ける。 剣幕に圧されながら、ティファはスコールの腕を振り払って答えた。 「確かに、コートに茶髪だったけど、ボウガンなんて見てないわ……その人がどうしたっていうの?」 「人殺しはそいつの方だ」 その意味が飲み込めなかったのか、彼女はぼんやりとスコールを見る。 それからしばらくして、苦笑を浮かべた。 「……嘘」 スコールは声を抑えて言葉を続ける。 「嘘じゃない。アーヴァインは、四人……最低でも二人は確実に殺してる」 「人違いよ、きっと。あの人はそんな人じゃないわ」 ティファは力なく反論したが、スコールの話は止まらない。 「そうかもしれないな。だが、俺とマッシュとアイラが一緒にいることを知っている人間は三人しかいない!  そのうち二人は奴に殺された。生きているのは、あいつだけだ!」 「……嘘よ。本当に人殺しなら、私が生きてるわけないじゃない!」 「あんたに俺たちを殺させるために、わざわざ生かさせたんだ。  その方が効率もいいし、手間も掛からずに済むからな!」 「違う! あの人はそんな人じゃない!  だって、あんなに優しくて……火傷の手当てまでしてくれて……生きろって励ましてくれた!」 「騙されてるんだ、あんたは! いい加減に理解しろ!」 苛立ちのあまり、スコールは見えない壁に叩きつけるように拳を振った。 マッシュとアイラが、慌てて二人の間に割って入る。 「落ち着け、スコール! 彼女に当たってどうなるってんだ!」 「ティファさんが言うように、人違いって可能性もあるわ。  もしかしたら、彼によく似た格好の人が、近くで私たちのことを見ていたのかもしれない」 (そんなこと、あるわけないだろ!) スコールは唇をかみ締め、泣きそうな顔のティファを睨みつける。 ――正確に言うなら、ティファの後ろに立つアーヴァインの幻影を。 「ともかく、早く戻りましょう。  ラグナさんとイクサス君とエーコちゃんだったかしら、その人たちも心配していると思うわ。  ……マリベルとティナの名前は、放送で聞いただろうしね」 「ああ」 アイラの言葉に、スコールは歩き出した。 少しばかり進んでから、唐突にぽつりと呟く。顔を前に向けたまま。 「……すまない。言い過ぎた」 「……」 「ただ、これだけは信じてくれ。俺たちは人を殺す気はない」 「………」 「生きるために剣を取ることはあっても、自分から誰かを殺そうとは思わない。  例外は――アルティミシアが相手の時だけだ」 ティファは何も答えない。 ただ、彼女はゆっくりとスコールたちの後ろを歩き始めた。 ――今は、それだけで十分だった。 それからどれほど歩いただろう。闇は濃さを増し、星はますます冴え渡った光を放つ。 ようやく、道の向こうに広がる木々の群れが見え――だが、四人の足はそこで止まった。 ぼんやりと光るランプの灯と、三つの袋を抱えた子供の影を認めて。 「イクサス!?」 スコールとマッシュが声を上げる。それが聞こえたか、人影は立ち止まった。 少し遠いが見間違えはしない。影の主は、確かにイクサスだ。 けれども、彼の口から返ってきた言葉は、誰もが予想しないものだった。 「近づくな、人殺しの仲間が!」 子供のものとも思えない、敵意に満ちた声が夜の森に響く。 「お前らを信じようとしたオレがバカだったよ……  そうさ、人殺しの仲間は人殺しなんだよな! みんな……お前らのせいで殺されたんだ!」 「――みんな?」 嫌な予感が二人の背筋を捕える。 イクサスは憎しみのこもった視線を投げつけ、叫んだ。 「そうだ! マリベルも、エーコも、ラグナさんも!  みんな、みんな死んだんだよ! お前らが見捨てたせいでッ!」 ――時が凍りついた。ただ一人、イクサスを除いて。 「何でもっと早く戻ってこなかったんだ!? どうして、あの時行ったんだよ!  みんな、お前らの帰りを待ってたのに……マリベルはお前らを心配して行ったのに……信じてたのに!」 「お前らがずっとここにいれば、みんな死なずに済んだ! お前らはオレたちを見捨てて、みんなを殺したんだ!」 「お前らの仲間も、お前らも、同じだ――人殺しだ!!」 「返せよ! マリベルを、エーコを……ラグナさんを返せよッ!!」 そして、どうしようもない悲しみと、やり場の無い怒りと、全ての憎悪を込めて、イクサスは言い放った。 「もう、他人なんか信じるもんか……お前らなんか死ね! 消えろ! 二度と姿を見せるなッ!」 誰も、彼の後を追うことはできなかった。 スコールも、マッシュも、アイラも、ティファも、イクサスの小さな影が闇に飲まれていくのを見守るしかできなかった。 森の中、ギルダーは静かに剣を拭いていた。 刀身を濡らす血糊は、髪飾りをつけた少女と、中年の男のものだ。 この二人と、逃げた少年。詳しいことはよくわからないが、どうも自分を助けようとしたらしい。 誰かに襲われて気絶した被害者だと思い込み、魔法まで使って手当てをしたようなのだ。 本当は、疲れのあまり気を失っていただけで――誰かに襲われたも何も、襲撃者は自分だと言うのに。 全くバカな連中だ。 しかし、失われた体力も戻り、おまけに二人も仕留められたのだから、そこは感謝するべきかもしれない。 少年を逃したのは残念だったが…… 『マリベルに頼まれたからなぁ! イクサスまで殺させるわけにはいかねぇんだよ!』 ――ふと、男の最期の言葉が脳裏に浮かぶ。 武器も何もないくせに、少年を逃がすためだけに自分に挑みかかった男の言葉が。 少女を殺された時点で大人しく逃げ出していれば、もしかしたら助かったかもしれないのに。 「……本当に、バカだな。あんたも、そこのお嬢ちゃんも」 ギルダーは呟いた。その声には、少し、疲れたような響きが混ざっていた。 「はは……俺の方がもっと大バカか。なぁ、サラ、サックス。  ……でも、止まるわけにはいかないし……もう、止まれないよ」 ギルダーは帽子を被りなおし、立ち上がる。 夜という狩り場で、犠牲者という名の新たな獲物を探すために。 【イクサス(人間不信) 所持品:加速装置、ピクニックランチセット、ドラゴンオーブ、シルバートレイ、ねこの手ラケット  行動方針:一人で生き残る 【現在位置:アリアハン東山脈中央部→北へ】 【スコール 所持品:天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、セイブ・ザ・クイーン(FF8) 【アイラ 所持品:ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ 【マッシュ 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3)、モップ(FF7)、ティナの魔石  第一行動方針:不明 第二行動方針:ゲームを止める】 【ティファ 所持品:コルトガバメント(予備弾倉×5)、エアナイフ  第一行動方針:スコールたちについていく(?) 第二行動方針:不明】 【現在位置(四人共通):アリアハン東山脈中央部の森】 【ギルダー(MP消費) 所持品:ライトブリンガー・雷の指輪・手榴弾×3・ミスリルボウ  第一行動方針:ゲームに乗る 最終行動方針:生き残りサラの元へ帰る】 【現在位置:アリアハン東山脈中央部の森・川辺付近→移動】 【ラグナ 死亡】 【エーコ 死亡】 【残り 100名

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