562話

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*第562話:絶望の中の温もり、しかし…… まただ。また僕の周りの人間が沢山死んだ。 ゴゴに、エドガーに……オルテガさんまで……。 ああ、リュカさんの死もピエールの死も告げられたっけ。 今僕が背負ってるジタンの名前も……あはは、当たり前か。 そして相変わらず僕だけがのうのうと生きています、ってねぇ。 あはは、参ったなぁこれ。 あははは……ふふっ、ははは……。 なんなんだよ。 なんなんだよ、もう。 知らない。 ばか。         ◇        ◇        ◇ ――ジタンが死んでも、時間は変わらず進み続けていた。 放送も滞りなく終了し、魔女の姿はもとっくに消え失せていた。 気付けば森を抜け、目の前にはサスーン城への入り口がある。 隣には同じく暗い表情のままのセージが、ジタンの遺体を背負っている。 その遺体の損傷はごく僅かで綺麗なまま。セージの呪文のおかげだ。 「ジタン、あのさ……重いんだけど」 しかし彼はセージの言葉に返答する事は無い。 当然だ。死んでいるのだ。名前も既に呼ばれているのだ。 そして話しかけた本人もそれを知っている。認めている。 それでもしばし別れを惜しむように話しかけていたが、 「まぁいいや……じゃあね……」 やがてそれを終えるように背中から彼を下ろし、地面に横たえさせた。 そのまま彼の隣に手を翳し、セージは詠唱を始める。 紡いだ呪文は、爆破の法だ。 セージは「イオ」という名のその呪文で地面を穿ったのだ。 出来た穴は人一人がすっぽりと収まるサイズで――墓には丁度良かった。 「プサンさん……これで……」 搾り出す様な声にプサンが賛同し、ジタンの体を穴へとゆっくりと入れる。 それを終えると、今度は辺りに散った土の塊を被せていった。 プサンは無言だ。セージも無言だ。 辺りに響くのは土の音だけ。 「プサンさん……ちょっとだけ、一人に、なりたいんだけど……良い、ですか?」 作業を続けるプサンに、セージは尋ねた。 その問いには様々な感情が込められているように思え、プサンは少し悩む。 饒舌だったはずの賢者は、一時相棒となった盗賊が死んでからはずっとこの様子だ。 仕方が無いだろうが、同一人物にも見えないようなこの状態ではあまりにも心許ない。 果たしてこのまま一人にして良いものだろうか。 神として、そして今は一人の人間として、自分がついていたほうが良いのではないか。 だがここまで考え、自分がついていたところで出来る事は少ないと結論付けた。 相手は疲弊している。少女と別れ、仲間が死に、心は磨り減り、護るべき青年も、止めるべき相手も失っている。 今の自分がそれを癒す事は出来ない。言葉をかけて行動を起こしても、悪戯に彼の心の傷を抉るだけだと判断したのだ。 「構いませんよ。ジタン君の埋葬は私が続けます。では後で……待っていますよ」 故にプサンはセージの言葉を、願いを肯定した。笑顔を作り、させたいようにした。 「ありがとう、ございます……」 するとセージは暗いままの表情で礼を言い、城へと視線を流す。 プサン自身も、そんな彼の姿を無意識に眺めて続けていた。 彼の表情は相変わらず暗い。目も虚ろで、言葉にも覇気が無い。 恐らく、放送で見知った人物の名が上がった所為だろう。 いや、それだけではない。恐らくこの様子では、彼の世界での仲間も既に―― 「なに見てるんですか……」 突然、相手がこちらを向いて文句を飛ばしてきた。視線が突き刺さっていたらしい。 思いの他じろじろと見すぎたか、とプサンは彼から視線を逸らす。 だがそれでも彼のことを心配に思ってしまい、再び両目はセージを捕らえ始めた。 視線の先には、こちらに背を向けてサスーン城へと向かうセージがいる。 そこで、気付いた。 セージの体に、黒い靄のようなものが近付いていた。 それはあっという間に彼の体に同化するように吸い付き、這うようにうねる。 「セージ……さん……?」 彼の能力なのか、それとも自分の見間違いか、それともこの空間独自の現象なのか。 プサンが様々な憶測を立てる間も、その靄はセージの身を陵辱するかのようにうねる。 だがそれもつかの間、靄は彼の長い髪に混ざり込むかの如く姿を消してしまった。 最早跡形も無い。全てが謎。だが幻覚や夢の類にすら思えるような光景だった。 消えたのか、消したのか。 見えなくなったのか、見せなくなったのか。 黒い靄の正体は、見当がつかなかった。あんなものは見た事が無い。聞いたことも無い。 ただ、嫌な雰囲気ではある。あれは野放しにしてはいけないような、そんな気がする。 嫌な予感がしてしまう。彼を止めるべきかもしれない。 けれど彼の痛々しすぎる様子を見てしまうと、止めるものも止められなかった。 あの黒い靄のようなものが気になるが、ここで呼び止めるのも気が引ける。 今の話が出来るまで、今は彼を一人にして落ち着かせておこう。 彼の「ちょっとだけ」という言葉を信じ、少しずつ前に進んでいこう。 その間に黒いものの事を突き止めてゆっくりと解決していこう。 ふらふらと城へ入っていくセージの姿を、プサンはただただ眺め続けていた。 彼が戻り、そして次の世界へと共に歩める事を信じて。         ◇        ◇        ◇ 変わらず、ふらふらとした足でセージは城を歩く。 だが当ても無く彷徨う訳ではない。彼はあの部屋へと向かっていた。 そう、今や真赤に染まったあの部屋。ビアンカとギルダー「だったもの」があった部屋だ。 ふと、別の部屋でフィンが眠っていたのを思い出したが――今の彼にはそんな事は最早どうでもよかった。 虚ろな表情で、寄り道をせずにまっすぐあの部屋へと向かっていくだけ。彼の足取りは、重い。 ――そして、辿り付いた部屋は相変わらずの様相を呈していた。 いや、一つだけ違う。そこには彼の見知った青い光が存在していた。 旅の扉だ。一日目の終わりのように、ここに飛び込めというのだろう。 バラバラになっているビアンカとギルダーの遺体。血。疑念渦巻いた過去。 その全てがそのまま残っている所為で、旅の扉の光が酷く浮いて見えた。 そんな部屋の中で、セージは静かに力無く座り込んだ。 そして虚ろな瞳で呆けた様に虚空を見つめる。 彼の頭の中では、今この瞬間までの出来事が浮かんでいた。 だがその思い出は、浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返すばかり。 今までの出来事が黒く塗りつぶされていくようだった。 思い出の中で今までに深い関わりを持っていた仲間とは、今は死別してしまった。 ずっと行動を共にし、互いに信頼していたタバサとも袂を分かつ形になってしまった。 更にはタバサの家族も全員死んでしまい、自分のするべき事は皆無だ。 何より、ローグとフルートももういない。彼らと馬鹿騒ぎすることも、もう出来ない。 最早自分が誰かの為に動く理由すら失い、自分は動けずにいる。 辛く、淋しい。このまま狂ってしまった方が楽かもしれない、とまで考えてしまう。 だが、まだだ。まだ、あと一人。 あと一人、自分と深い関わりを持つ人間はいる。 そう、アルスだ。天に選ばれた勇者のアルスがまだ生きている。 放送で彼の名は呼ばれてはいなかった。まだ生きている。 最早、セージの力の源はこれだけだった。 アルスが存在する事で、セージは自身が負へと向かうのをぎりぎりで防いでいるのだ。 そう、まだ彼がいる。自分を置いていく事など無いはずの人間が一人だけいる。 彼に会えば、このどうにかなりそうな衝動も抑えられるかもしれなかった。 ――人に依存して堕ちる堕ちぬを決めるこの考えは狂っているのだろうか。 ふと、自分自身に問いかける。 だが今はそんな事はどうでも良い。ただ今は自分を受け入れてくれるであろう彼と再会したい。 希望を感じたい。まだ自分は絶望の中で抗えるという自信を取り戻したい。 そう考えていると自然と立ち上がり、気付けばセージは青い光へと足を進めていた。 今となってはプサンとの約束すらどうでもよくなっていた。 ちょっとだけなどという言葉を護るつもりなどもう微塵も無い。 「人の為に動くのも……疲れちゃったなぁ……」 それにタバサとアルスの為ならともかく、今は他人の為に動く気にはなれない。 大体、こんな自分がいたところで何になるのか。 ――いや、腐っている暇は無い。一刻も早くアルスと再会したい。 万が一の事があってはいけない。早く再会しなければ。 気付けば、青い光は目前にまで迫っていた。         ◇        ◇        ◇ 僕はもう狂っているのかな……。 いや、きっとそうじゃない。まだ戦える、大丈夫さ。 アルスがいる限り、まだ戦う理由がある。 タバサとだって、時間が経てばまた解り合えるかもしれないし……。 いや、何よりもまずはアルスだ。全部その後。全部その後なんだ。 その後タバサを捜したり、ゲームから脱出したり……うん、それがいい。 アルスと一緒にタバサを見つけて、それから皆で……。 だから、お願いだから僕の前に姿を現してよ……アルス。 ローグもフルートもいない……皆いなくなっちゃったんだから。 もし君までいなくなってしまったら……僕は……もう……。 ……行こう。 ばいばい、ビアンカさん。ばいばい、ギルダー。 ……さようなら、この最悪だった世界。 【セージ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復 魔力1/4程度 精神不安定)  所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン      英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)  第一行動方針:アルスと再会する  第二行動方針:今はアルス以外とはなるべく行動したくない  第三行動方針:タバサやその他の事項についてはアルスに会ってから  ※アルスの存在によって精神を安定させています】 【現在位置:新フィールドへ】 【プサン 所持品:錬金釜、隼の剣 (左肩銃創)  第一行動方針:ジタンを弔いながらセージを待つ  第二行動方針:首輪の解析を依頼する/ドラゴンオーブを探す  基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】 (*旅の扉を潜るまでは、魔石ミドガルズオルムの魔力を辿って状況を探ることができます) 【現在位置:サスーン城前】 ※二人とも放送は聞いています。死者の名前や数も把握しています。

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