277話

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*第277話:砂に沈む惨劇 魔女に与えられたタイムリミットを半分以上残して、エドガー、デッシュ、ザックス、シンシア、ランドの五人は、 ようやく砂漠の中ほどにある旅の扉を見つけた。 しかし、扉を目前に五人の足は止まった。 正確にはデッシュによって止められた。 彼の持つレーダーが、一見して砂しかない自分達と扉の間に、何者かの存在を警告してきたのだ。 「…また墓とかじゃないのか?」 「その割には死臭がしない」 ランドの疑問を一蹴し、ザックスはスネークソードを構えその地点に近づく。 残り時間を考えると戦闘をしてでもこの扉に入るべきだと判断したのだ。 だいたい、わざわざ扉の目前で砂に隠れて隙をうかがうような乗り乗りな奴が、そう易々とここから退却させてくれるとも思えない。 「ちょっと待ってくれ」 呼び止めたのはエドガーだ。 「私にはもう使えそうにないからな。これを君に渡しておく」 そう言って、ザックからバスターソードを取り出す。 バスターソード程の大剣を、使い慣れてもいないものが左手一本で扱うのは確かに無理がある。 「ありがたい。じゃああんたらは下がっててくれ。シンシアもだ。ランド、みんなを守るんだぜ」 「ん、ああ」 ランドは多少身を硬くして答えた。 その視線が、デッシュの持つレーダーをチラチラと覗き見ていることにザックスは気づいたが、 敵を警戒しての行動だと思い、特に気にしなかった。 砂に身を沈めると、周りの気配が良くわかる。 視界から得られる情報を遮断してはいたが、ここに何者かが近づいていることはわかった。 砂を踏みしめる足音からして、四、五人だろう。 殺気を消しつつも手に持つ鋼鉄の剣に力が入る。 だが、彼らの足は止まった。 (…気づかれたか?) そんなはずはないとも思う。 気配を完全に殺し、あの暗殺者の男をつけていたときのように動いてもいない。 しばらく様子を伺おうと、さらに彼らのほうへ意識を向ける。 (何か話しているな…) 十メートル以上距離がある所為か、内容までは聞き取れない。 すると、何故か一人だけがこちらに近づいてきた。 その者は、ほのかに殺気を漂わせている。 (…これは、まずいな) どういう訳か、彼らは自分の居所を察知したようだ。 互いに位置を把握した状態で殺りあうなら、身動きがとり難いこちらが不利である。 そうこう考えている内に、距離は詰められ殺気は大きくなるばかり。 (ええい…!!!) ピエールは、己に被せた何億何兆という砂粒を一気に振り払い、向かってくる男に一撃を浴びせた。 これは相手の隙をつくための行為ではなく、己の身を守るために必要な行為である。 故に、ザックスはこの攻撃がくることを容易に想像していた。 鋼鉄の剣は巨大なバスターソードに受け止められ、 重量に物を言わせた薙ぎにより宙を舞い、二十メートル近く離れた砂に突き刺さった。 砂の中から現れた潜伏者が魔物であったことに、五人は僅かな驚きを覚えた。 だがそれは本当に僅かなもので、人間同士の殺し合いの舞台の上ではむしろ、 敵が容赦する必要のないものであったことへの安堵が含まれている。 間髪いれずザックスはバスターソードを振り下ろす。 ピエールは何とかそれを避け、体勢を立て直しつつザックから青龍偃月刀を取り出す。 足場の悪い砂場であって弾力のあるスライムボディは、ともかく機動力の面では勝っているようだった。 一旦距離をとる。 バスターソードより長い青龍偃月刀の間合いを測り、そこで相手を見据える。 ピエールは、このまま距離をとって戦いたかった。 だが、本体であるスライムのすぐ傍の地面をえぐる、銃弾。 「ザックス、そいつの本体は下のスライムだ!!」 マテリア『みやぶる』によって弱点を検索したデッシュが叫ぶ。 釣られてランドもオートボウガンを打つ。 ウインチェスターもオートボウガンも、使い手が人並みだが有能でない以上避けきることは可能だが、 飛び道具に気を使ってはザックスと互角には渡り合えない。 ピエールは決断も行動も早かった。 すぐさま青龍偃月刀をなおしダガーを構えてザックスの懐に飛び込む。 接近戦に持ち込めば敵の援護射撃も止めざるを得ないだろう。 ピエールの思惑は図に当たった。 デッシュもランドも、ザックスに当たることを恐れ援護を止めたのだ。 だが、状況は決して好転したわけではなかった。 ピエールの得意武器は鋼鉄の剣などの中型片手剣である。 ダガーは短剣。 扱ったことがない訳ではないが、もともと好んで使う戦闘スタイルではない。 一方のザックスのバスターソードは接近戦には向かない大剣ではあるが、ザックスはこの手の剣を最も得意としていた。 得意武器というものは、戦士の能力を最大限生かす。 ピエールは致命傷を避けつつも、劣勢に追い込まれていた。 (作戦を変えねばならないな…) リュカのことを思えばここで全員殺すべきなのだが、今はまだ、無理をすべきときではない。 バスターソードがピエールの腕を打つ。 衝撃に耐え兼ねダガーを取り落とす。 けれど、ピエールはダガーを拾おうとはしない。 もちろん青龍偃月刀を取り出そうともしない。 ザックスが次撃を構える。 ピエールは、魔法の言霊を紡いだ。 「イオ」 爆発の魔力は誰を襲うことなく周囲の砂を舞い上げる。 (しまった!!) ザックスは、己の手の先さえ見えぬ砂煙のうちに残された。 急いで敵の気配をさぐっても、もうすぐ傍にはいないということしか分からなかった。 ザックスと敵とを包んだ砂煙に、四人は一様に警戒を強める。 そして煙の内より出てきたのはザックスではなく、青龍偃月刀を構えた…。 デッシュがウインチェスターを、ランドがオートボウガンをそれぞれ構え、 エドガーはとにかくイエローメガホンを手に取り、シンシアは魔力を高める。 しかしピエールは四人が次の行動をとる前に、もう一度同じ言葉を紡ぐ。 「イオ」 結果も同じ。 四人は視界の利かぬ煙に飲まれた。 デッシュは砂色の闇の中で動く光を捉えた。 己の外からではなく、中から。 対人レーダーが、自分に向かって急接近する『人』を捉えていた。 鈍い、青い閃光が走った気がした。 さっきまでデッシュがいた空を、すっぱり切り取っている。 間一髪だ。 そして煙が晴れる。 騎士の目と、スライムの目。 四つの眼が自分を睨んでいた。 (また、居所を知られた…?) 視界は完全に塞いでいたはず。 人間である相手が、嗅覚だけで二度も正確に当てることができるだろうか? ピエールは考える。 そしてデッシュの手に大切に握られているものを、視界に捉えた。 右手にはウインチェスター、左手には対人レーダー。 「「デッシュ」」 視界を回復させたザックスが、エドガーが、同時に叫ぶ。 ザックスは駆け出し、エドガーはイエローメガホンを振り上げ襲い掛かる。 ピエールはエドガーを軽くいなし、もう一度デッシュと対人レーダーを見る。 (何故そんなに大切そうに抱えている) (戦闘に関係ないものなら、ザックの中に入れておけばいいだろう?) スライムが、笑った。 ザックスは間に合わない。 エドガーは力が及ばない。 ピエールは青龍偃月刀を下から薙ぎ上げ、それを宙に飛ばした。 対人レーダーを、抱えていた腕ごと。 「貴様!!」 バスターソードを掲げたザックスが、一撃を放つ。 ピエールは受け止めずに避け、そして。 「イオ」 またしても。 「みんな動け。標的を定めさせるな。見えないのは一緒だ!!」 ザックスはあらん限りの声で叫びつつ、全身の神経を研ぎ澄ませる。 自分に襲い掛かるなら返り討ちにする自信がある。 けれど相手の狙いは戦闘能力の低い奴等の掃討だ。 そして今一番危ないのは、五体不満足なエドガーとデッシュ。 「うぅ…」 デッシュはウインチェスターを持ったまま、右手でもぎ取られた左腕を押さえていた。 ザックスが何かを言っている。 痛みが、脳みその集中力を削いで言葉の理解を放棄してしまっているようだ。 デッシュは、立ち尽くしていた。 危険を知らせるレーダーを、持たないまま。 ふと、ザックスは後ろに気配を感じた。 振り返ると、誰かの影が見える。 影は、片腕のない男が立っているものだ。 「デッシュか?絶対に俺から離れるなよ」 影は答えない。 そして、煙が収まりかかる。 完全ではないが、肩から上位は見える。 「キャアアァァァーーーー!!!!」 悲鳴が上がった。 シンシアが、こちらから目をそらしている。 ザックの足に何かが当たった。 丸い、何か。 まだ足もとは砂が待ってよく見えない。 だから、影のあったほうを見る。 デッシュの首が、なくなっていた。 そして糸の切られたマリオネットのように、首のないデッシュは崩れ落ちた。 ランドは二度の砂煙を、とにかくシンシアの手を引いて煙の外に出ることに努めた。 煙の外で視界を確保すれば、オートボウガンでの反撃もできる。 シンシアだけを連れたのは、デッシュやエドガーとは多少なりとも距離を置いていたことと、 彼ら二人とシンシアを天秤にかけたからであった。 結果的に、ランドはシンシアを守り、デッシュを見捨てた。 シンシアの悲鳴が、そのことを糾弾している。 ランドにはそう聞こえた。 (お、俺はそんなつもりじゃ…) (あいつだって銃を持っていたじゃないか。自分の身ぐらい守れるだろ!?) 煙のむこうに敵を見出す。 ザックスは駆ける。 ランドは茫然と、視線を落とした。 腕があった。 腕の先には手があり、あれを握っていた。 対人レーダー。 デッシュの腕が、こんなところまで吹き飛ばされている。 「これさえ、あれば…」 呟いた。 ランドに、もう周りは見えていなかった。 対人レーダーに手を伸ばす。 それで終わった。 ピエールのロングバレルRに硝煙が上がっている。 シンシアは、先程まで自分を守ってくれていた人が、物言わぬ骸になった瞬間を見てしまった。 ランドは、自分が撃たれたことに気づかず逝った。 ゆっくりと、身体は求めていたレーダーに覆いかぶさるよう崩れた。 ザックスはその間の出来事をどれだけ目端で捕らえ、理解していただろうか? 確実に言えることは、ピエールがランドを撃ったことで、そこに隙が生じたこと。 ザックスの攻撃に対する防御も、回避もできなくなったこと。 けれど元から、ピエールは防御も回避もするつもりはなかった。 むろんここで死ぬつもりはない。 ザックスの攻撃は届かないのだ。 奴まで後三歩とない場所で、ザックスは青い光に包まれた。 それが何なのか判断できぬまま、光は強まり飲み込む。 ザックスは跡形もなく消え失せてしまった。 だが何故? くどくどと膝下あたりにまだ舞っていた砂がようやく完全に晴れて、エドガーはその理由を理解した。 ザックスが消えた場所には、青い渦を巻く、旅の扉があったのだ。 三度目のイオの新の狙いはこれである。 砂煙によって扉を隠し、自分を囮に最も厄介なザックスを、この場から退場せしめたのだ。 しばらく、ピエールはシンシアとエドガーに注意を払いつつ、その場を動こうとはしなかった。 確認を取っているのだ。 最初に集められた広間からこの地へ来るとき、その扉は一方通行だった。 だがこれもそうとは限らない。 タイムリミットの二時間だけ行き来が可能なのか、それとも一方通行なのか。 扉をくぐった先はランダムなのか、ある特定の場所なのか。 くぐった先のことはともかく、最初の疑問には答えが出た。 ザックスは、戻って来ない、来れない。 ピエールは動き出す。 武器を持たないエドガーとシンシア。 エドガーに至っては右手もない。 ザックスほどの戦闘力はないはずだ。 五人中四人。 皆殺しを諦めたピエールの、最良の結果だ。 魔物の姿をした『死』が近づく。 傍らには親しい人の骸。 あの山奥を思い出す。 (ソロ…。私は…、諦めない!!) あの時は自分がソロの姿をして死ぬことで、魔物を引き上げさせねばならなかった。 けれど今、死んではいけない。 生きるのだ。 ザック自体を盾に、シンシアが猛進する。 ピエールは青龍偃月刀でザックごと真っ二つに切った。 ザックに入っていた毛布が、一瞬だけピエールの視界を遮る。 シンシアは、避けていた。 手に持つ煙幕用の丸を落とす。 今度は、ピエールの視界が奪われる番だった。 「エドガーさん!!」 女の声を聞き、右手のない男のいた辺りを闇雲に薙ぐが、手ごたえはない。 数秒後煙は引き、二人の姿はどこにもなかった。 取り落とした武器と死者のアイテムを回収しながら、ピエールは己の慢心を恥じた。 一人はともかく三人も逃しては、やはり穴埋めをせねばなるまい。 この地での回復が困難なようにできているのは、昨日いやというほど思い知っていた。 べホイミもそこそこに、ピエールはイオラを放つ。 イオより大きな爆発は、そこに残る血を、死体を、砂の中に沈めてゆく。 旅の扉だけをアンコウの堤燈のように目立たせて、ピエールはまた砂に身を隠した。 次の獲物を狙って。 もうすぐ、制限時間が半分を切る。 【ザックス(HP9/10程度) 所持品:バスターソード スネークソード 毛布  第一行動方針:??? 最終行動方針:ゲームの脱出】 【現在位置:新フィールドへ】 【エドガー(右手喪失) 所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン  【シンシア 所持品:万能薬 煙幕×1(ザックその他基本アイテムなし)  第一行動方針:??? 第二行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】 【現在位置:新フィールドへ】 【ピエール(HP3/5程度) (MP1/2程度)  所持品:鋼鉄の剣、ロングバレルR、青龍偃月刀、魔封じの杖、ダガー、死者の指輪、オートボウガン、魔法の玉、毛布、      ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) 対人レーダー  第一行動方針:砂に紛れ潜伏し、参加者を襲う  基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す】 【現在位置:西部砂漠の旅の扉近くの砂の中】 【デッシュ 死亡】 【ランド 死亡】 【残り 84名】

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