267話

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*第267話:罪の重さと、償うということ 私が目を覚ましたのは、夜が明けるより少し前の事だった。 森の中にいた記憶がある。柔らかいベッドの中で寝ていたような気もする。 けれど……今いるここは、どちらでもない。 潮風の匂いがうっすらと漂う茂みの中で、私とビビ君は眠っていた。 驚いた私は、慌てて辺りを見回した。 見覚えのある銀髪の男性の姿を焚き火の傍に見つけ、ほっと息をつく。 だが、不安を完全に拭い去きれはしなかった。 なぜなら、知らない男の人が私の隣で眠っていたから。 そしてやはり見知らぬ人が二人、焚き火の近くで何か話していたから。 けれど、ピサロさんは彼らを警戒する様子もなく、暁の空を静かに眺め続けていた。 私は首を傾げながら、二人組に視線を戻した。 片方は私よりずっと年上の、緑髪の男性だ。 ごく普通の布の服を着ている……が、よく見れば上着以外のものは、それこそお城の方々が身に付けるような品ばかりだ。 そして片方は、ティーダさんと同じぐらいの年代の、若い男の人。 髪型と髪の色が、どことなくエアリスさんを思い出させる。 でも、ひどく元気がなさそうで……青ざめた顔を辛そうに歪めて、緑髪の人の話を聞いていた。 会話を聞く限り、どうやら二人はヘンリーさんとアーヴァインさんというらしい。 ヘンリーという名前には、何となく聞き覚えがあるけれど……やはり詳しくは思い出せない。 いったい、今までに何があったのだろう? 膨れ上がる疑問に、私は身を起こしてピサロさんに話し掛けようとした。 けれど……起き上がろうと手をついた時、突然、右腕に鈍い痛みが走る。 「……っ」 うめきながらうずくまった私に、アーヴァインさんがびっくりしたように駆け寄ってきた。 「だ、大丈夫!? どこか痛いの?」 私が右腕を抑えながらうなずくと、彼はますます顔を蒼白にさせる。 「僕のせいだ……ごめん、今すぐ治すから」 そう言って、彼はそっと右手をかざした。 回復の魔法なのだろうか。 「ケアル」という掛け声と共に柔らかい緑の光が輝いて、それで、痛み自体はすぐに消える。 でも……ほんの一瞬だけ、嗅いだような気がした。 鉄錆びに似た、それでいて生臭い匂いを。 そして何故か彼の姿に重なって見えた。 血染めのマントに身を包んだ、残忍な光を瞳に宿す男の幻を―― 「いやぁあああっ!」 ――気が付けば、私は彼を突き飛ばしていた。 彼は目を見開いて、驚いたように私を見つめていた。 「あ……」 我に返り、自分が何をしたのかに気付いて、私は謝るつもりで口を開きかける。 ところが。 「ご……ごめん。ごめんな」 ――そう言ったのは、彼の方だった。 「嫌に……決まってるよな。こんな…………から奪った魔法なんか使われても……  僕みたいな…………に近寄られるのだって……  ごめん、傷つけてばかりで……最低だ、僕は……」 自分を責めるように唇を噛みしめながら、アーヴァインさんは頭を下げ続ける。 私がおろおろしていると、背後から声が響いた。 「……あの、今度はどうしたんですか?」 目をこすりながら、隣で寝ていた男の人が二人を交互にを見やる。 「ああ、ソロ……起こしちまったか」 ヘンリーさんは複雑な表情で言った。 「いや、な。早く目が覚めちまったし、放送で知り合いの名前が呼ばれたら混乱するだろうと思ってよ。  こいつを起こして、今までの事情を説明したんだが……」 「ソロ……ごめん。本当にごめん……  散々迷惑かけといて、ひどい事しておいて、全部忘れたなんて……そんなんじゃ済まされないのにな。  バカだ。僕は。最低の大バカだよッ……ごめん。ごめんな、本当に」 向き直って土下座しだしたアーヴァインさんを見て、ソロと呼ばれた人はたじろぐ。 「い、いや……そんなに謝らなくていいよ。別にそこまで怒ってるわけじゃないからさ」 しかし、アーヴァインさんは首を横に振った。 「君が怒ってなくたって、僕がしてしまったことは変わらないだろ?  他にできることがあればいいけど、僕には……何も思い付かないから……  許してくれなくていい。でも、せめて……勝手かもしれないけど、謝らせてくれ……」 「………えーと」 ソロさんは『誰コレ? 何やったの?』とでも言いたげな表情で、ヘンリーさんを見る。 「言っとくけど、俺は現在の状況とこいつがやった事をそのまま説明しただけだからな?  それ以外のことは何もやってないからな」 「そ、そりゃそうでしょうけどね……」 ソロさんは困ったように頬を掻いた。 「えっと、とりあえず、君の気持ちはわかったけどさ……僕より先に、レナさん達に謝った方が……」 ――レナさん? 誰のことだろう? 私が首を傾げていると、ピサロさんが言った。 「小娘達ならとうの昔に発ったぞ」 「――え?」 「お前の気持ちを踏みにじる真似はしたくないが、アーヴァインを許す事も当然出来ぬそうだ。  こんな男の傍になど、いつまでも居られないと言ってな。  エリアとかいったか……片割れの娘を起こして、話し合った末に二人で行った」 「俺が起きた時にはもういなかったぜ。  こいつも謝りたがったけどな……流石に追っかけるわけにはいかないだろ。  ま、あのお嬢さん達ならしっかりしてるし、二人でも上手くやっていくと思うぜ」 「そう、か……行ってしまったんだ……」 ソロさんは少しだけ悲しそうな表情でうなだれた。 東の空を見やったまま、ピサロさんは淡々と語る。 「小娘からの伝言だ。  『いつか泪を流さずに済む強さを身に付けることができたら、その時にもう一度会いたい』――とな。  ずいぶん一方的な約束だが……あの小娘なりの、決意というものなのだろう」 「そうか……」 ソロさんはピサロさんと同じように、ほの白く染まる空を見つめた。 ――その人達が歩いているのだろうか。二人の視線の彼方で。 「……また、会えるといいな」 ソロさんがそう呟いた時だった。 夕暮れ時と同じように、大きな地震が起こり――あの恐ろしい魔女の姿が空に浮かび上がる。 『定刻だ。夜の闇に魂を彷徨わせた者達の名を告げる……』 冷酷な言葉と共に、次々と読み上げられていく名前。 そこには……あの、ミレーユさんの名前があった。 「エ、エーコが……!? ウソだ、そんなの!」 愕然としていた私の傍で、激しい揺れに飛び起きたビビ君が叫ぶ。 「天空の勇者が……あの子が死んだだと……? ふざけるな……!」 ヘンリーさんが歯軋りしながら魔女の幻影を睨みつける。 「ミネア……」 ソロさんは涙を堪えるように唇を噛みしめ、ピサロさんは静かに天上の幻影を見据える。 そして―― 「ラグナ……ラグナ・レウァール……」と、ひどく虚ろな声でアーヴァインさんが呟いた。 「知り合いか?」 ヘンリーさんの言葉に、彼は首を縦に振る。 「友達のお父さんだ……ずっと会えなくて………つい最近、やっと……」 呟きの最後は、かすれて聞き取れない。でも、次に言った言葉は――はっきりと聞こえた。 「……僕が……殺したのか?」 一瞬、私は自分の耳を疑った。 けれど空耳などではない証拠に、「えっ?」とソロさんが声を上げる。 ビビ君も、ヘンリーさんも――ピサロさんでさえも彼を見つめる。 「……もしかしたら、僕が殺したのかもしれない。スコールを裏切って……  そうだ。きっと、そうだ……他の人たちも、きっと僕が殺したんだ……  あんたたちの仲間も、きっと……僕が、この手で……」 アーヴァインさんはゆっくりと自分の手に視線を落とし、震える声で呟いた。 まるで、その手が鮮血で濡れているかのように――そんな幻が見えているかのように。 ソロさんは慌てて、彼をなだめようと声をかける。 「ちょ、ちょっと待ってよ。君が殺したのは五人のはずだし、ラグナさんって人やミネアは……」 「そんなの、僕がそう言ったってだけだろ!? 本当に五人だけだって証拠はどこにもない!  僕が言わなかっただけで……僕が覚えてないだけかもしれないんだ!  現に、あんたたちまで殺そうとしてたんだろ? 罪の無い女の子を殺人者に仕立て上げたりしたんだろ!?  五人どころか、もっと――もっとたくさん殺してたっておかしくない!」 人殺し? 五人も殺した? 彼が? さっきから謝り続けているこの人が? 混乱する私を余所に、彼の叫びは続く。 「僕がみんなを殺したんだ……そうに決まってる!  僕は人殺しだ! アルティミシアの脅しに屈した人殺しなんだ!  自分の手だけじゃない! 他人の手まで汚させて、仲間さえも裏切って、アルティミシアに尻尾を振ったんだ!!  どれほど謝ったって……死んだって償えない罪を犯した最低の人間なんだ、僕は!!」 パァン、と威勢のいい音が響いた。 殆ど張り倒すような勢いで平手打ちを見舞ったヘンリーさんは、アーヴァインさんに向かって怒鳴りつける。 「大バカ野郎が……何を一人で勝手に思い詰めてるんだ、お前は!  謝ったって死んだって償えないだと!? 当たり前だ、バカ!  そんな後ろ向きな行動がいったい誰のためになるってんだ!! 寝言ばかり言ってんじゃねえよ!」 彼はアーヴァインさんの襟首を掴み、正面から睨み据えて言葉を続けた。 「ああ、確かに俺は知らないね! お前が何人殺したかなんて、神様とあの魔女以外にわかるわけねえよ!  だがな、ソロもビビも、人殺しとわかっててお前を生かしたいと思った!  エリアも、一番辛いはずのレナでさえ――結局、お前を手にかけないことを選んでくれたんだ!  誰を殺したとか殺さないとか勝手に思い込んでウダウダ言う前に、その意味を少しは考えろ!!」 それだけ一気に言い放つと、ヘンリーさんは手を離した。 呆然とするアーヴァインさんの肩に、ソロさんがぽん、と手を置く。 「……確かに、罪を償うことは難しいかもしれない。  死んだ人は戻ってこないし、過去は書き換えられない。それは事実だしさ」 ソロさんは少しだけ目を閉じた。 ややあって、再び静かな声で語りかける。 「けど……人を傷つけたなら、今度は守ってみせればいい。  誰かを殺めてしまったなら、その人達以上の人々を生かしてみせればいい。   そうしていけば、いつかはきっと赦される時が来るはずだよ。  ……だから一緒に行こう、アーヴァイン。僕らで、みんなが助かる道を探そう」 「そうだよ、お兄ちゃん……」 ビビ君が言った。 大きな目を瞬かせながら、自分の気持ちを伝えようと一生懸命に言葉を紡ぐ。 「人殺しの為に生まれたボク達だって、人を助ける事ができたんだもの。  クジャについて行っちゃった仲間達とだって、後で仲直りできたもの……  だからきっと、今からでも遅くないよ。いっしょにがんばろうよ」 アーヴァインさんは黙ってビビ君の言葉を聞いていた。 けれど、力なくうなだれたまま、首を横に振る。 「ダメだよ……行けないよ。一緒になんて……  僕が一緒にいたら……それだけで、みんなまで僕みたいな人殺しだと思われる……  それに、僕を恨んでる人だって……仇を討とうとする人だって、いっぱいいるはずだ。  これ以上、迷惑なんてかけられない……できないよ、そんなの……!」 そこまで彼が言った時、唐突にピサロさんが呟いた。 「――貴様のような人殺しを野放しにするのも、十分迷惑な話だがな」 アーヴァインさんははっと顔を上げる。 ピサロさんは表情一つ変えぬまま、冷酷に言った。 「記憶喪失など、その気になれば幾らでも演じることができよう。  それでなくても、貴様は人を欺き利用することが得意のようだからな。  真に心を入れ替えたのだという証拠が無いに等しい以上――監視がいなくては話にもならんわ」 「……ま、ピサロの意見はともかく、僕だって君が言ったようなことは覚悟してるさ」 突き放すようなピサロさんの言葉を遮って、ソロさんが話し掛ける。 「それでも僕は誓ったんだ。誰も殺させないし、誰も死なせないってね。  だから……僕のこと、信じてくれないかな?」 アーヴァインさんは黙っていた。 表情は見えない。うつむいたままだったから。 「……あ、あの」 意を決して、私は口を開く。 「さっきは……ごめんなさい」 言ってあげたい、伝えたい気持ちがあった。 でも、いい言葉が中々見つからない。 「事情は良くわからないけど……今までのあなたがどんな人なのか知らないけど……」 どういう風に言えばいいのか、迷って悩んだ末に――私はやっと言う事ができた。 「でも、今のあなたは……あなたが言うほど酷い人には……  ……人殺しには、見えません」 ――私の気持ちは、上手く伝わってくれたのかどうか。 彼はまた、自分の手のひらを見つめたようだった。 その肩は小刻みに震えていた。 「……ごめん」 すすり泣くようにか細く呟いて、彼は手を握り締める。幻影を振り払おうとするかのように。 そして両目を何度か拭って、彼は顔を上げた。 「迷惑ばっかりかけて、ごめん――ありがとう。本当に」 そう言った彼の表情は、絶対に人殺しのものなどではなかった。 【レナ 所持品:エクスカリバー  第一行動方針:エリアを守る】 【エリア 所持品:妖精の笛、占い後の花  第一行動方針:サックスとギルダーを探す】 【現在位置:レーベ北西の茂み、海岸付近→東方面に移動】 【ヘンリー(6割方回復) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可)  第一行動方針:デールを説得する方法を探す 第二行動方針:デールを止める(話が通じなければ殺す)】 【ターニア 所持品:微笑みのつえ  第一行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:イザを探す】 【ピサロ(HP3/4程度、MP3/4程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ  第一行動方針:旅の扉がある場所へ移動 基本行動方針:ロザリーを捜す】 【ビビ 所持品:スパス  第一行動方針:ピサロ達についていく 基本行動方針:仲間を探す】 【ソロ 所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング グレートソード キラーボウ 毒蛾のナイフ  第一行動方針:旅の扉がある場所に移動  第二行動方針:これ以上の殺人(PPK含む)を防ぐ+仲間を探す】 【アーヴァイン(HP2/3程度、一部記憶喪失(*ロワOP~1日目深夜までの行動+セルフィに関する記憶全て)  所持品:竜騎士の靴 G.F.ディアボロス(召喚不能)  第一行動方針:ソロ達についていく 第二行動方針:罪を償うために行動する】 【現在位置:レーベ北西の茂み、海岸付近】

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