294話

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*第294話:悪い夢のような/悪い夢のように 昨日から、怖気を奮うような光景を何度も目の当たりにしてきた。 理解を超えた情景など、見飽きたつもりだった。 だが、さすがに眼前で起きた出来事は。 今まで見てきたどんな事柄よりも、カインの精神力をごっそりと奪った。 ――今までとは別の意味で。 地面をこすりながらゆっくりと動く、馬車ごと乗れそうな大きさのカーペット。 砂埃にまみれてノロノロと進んでいく姿には哀愁さえ感じられる。 その上に乗っているのは、苔むした小さな山。 いや、良く見ると手足があるようだからこれは巨大な生き物なのか。 どちらにしてもシュールな光景であることには変わらない。 まず、なぜ絨毯が動くのかがわからない。 次に、こんな巨大な生物がここにいる理由がわからない。 仮にこの生物が参加者なのだとすれば、こんなものを参加させる魔女の意図がわからない。 それから、この生物が絨毯に乗る理由がわからない。――どう考えても歩くか走るかする方が早いだろうに。 どこから何を言えばいいのかわからず、自分が幻影を見ているのだと願って、カインは隣を見た。 しかし、やはりと言うべきか。フライヤも頭を抱えて首を振っている。 どうやらこれは幻や悪夢ではないらしい。だとすると現実か。 『地面を引き摺って移動する絨毯に乗る巨大生物』。ああ、魔女は一体何を考えているんだ? 二人が頭痛を感じている間に、巨大生物は木々を薙ぎ倒しながら山脈の向こうに姿を消した。 ……といっても、体の大部分が見えなくなっただけで、頭はしっかりと見えている。 多分旅の扉に入るまで、あの生物の『姿が見えなくなる』ことはないのだろう。 「世の中は広いモノじゃの……」 フライヤの呟きに、カインはうなずく。 うなずいただけで、コメントを返す気にはなれなかった。余計に疲れそうな気がしたからだ。 「全く……スミスが早く戻ってきてくれるといいんじゃが」 ため息をついて、フライヤは空を仰いだ。 スミスは今、旅の扉を探すために単身で上空を飛んでいる。 本当はスミスに乗って三人で移動できれば良かったのだが……「二人も乗せられない」と言われて断念した。 さりとて、一人だけ置いていくわけにはいかない。 カインはフライヤを見逃すつもりはなかったし、フライヤも――純粋な善意から――カインを一人にはしておきたくなかった。 結局、身軽なスミス一人が斥候に赴く形になったのだ。 「……そういえばスミスの奴、随分遅いな。もう一時間近く経つぞ?」 カインは苛立ち紛れに天空を仰ぐ。 すると、どこからともなく聞き慣れた翼の音が響いてきた。 「おお、戻ってきたようじゃな」 フライヤは空を見上げ、青い飛竜に声をかけた。 「大分時間がかかったようじゃが……どうじゃ?」 「バッチリさ!」 スミスは笑って応えた。 ――人間の言葉を喋れるということだけは、フライヤにも伝えておいた。 『言葉を話せるということを隠す必要などないだろうし、下手に隠して後でバレると厄介なことになりかねない』というカインの判断だ。 それ以前にスミスとしても、いちいちカインを通して会話をするのは面倒くさかった……という事情があるのだが、それはさておき。 「自分でもびっくりするぐらいに上手く行ったよ」 スミスはそう言って胸を張る。だが、フライヤは首を傾げた。 「うまく……行った?」 スミスはしまった、と言わんばかりに、慌てて口を塞ぐ。 「それはどうい……」 「スミス。お前、旅の扉を見つけてきたのではないのか?」 問い詰めようとするフライヤを遮り、カインが話し掛ける。 スミスは一瞬ぽかんとした表情を浮かべ、ややあって、引きつったように笑った。 「ごめん、忘れてた」 「………」「………」「………」 ため息をつき、カインは踵を返す。 「行くか、フライヤ。全力で探せばなんとか時間内に見つかるだろう」 「そうじゃな」 フライヤも肩を落としながら地面を蹴った。 二人の竜騎士は跳躍を繰り返し、常人にはあるまじきスピードで斜面を駆け上っていく。 (そんなぁ、酷いよー! 僕だって遊んでたわけじゃないんだよ! 聞いてよカインー!) テレパシーで必死に呼び止めるが、カインの足は止まらない。 それどころかますます速度を上げている。焼け石に水どころか、火に油を注いでしまったらしい。 魔女の僕と名乗る魔竜も、こうなっては形無しである。 「待ってよ、僕が悪かったよー! カイン、フライヤー!」 スミスは情けない声で一声鳴くと、慌てて二人の後を追った。 「いい子ね、大人しくて」 レナは、そう言って飛竜の頭を撫でた。 ギルバートの埋葬を終えた彼女とエリアは、身を隠すために山脈へ行く事を提案した。 そして例の放送を聞き、そのまま旅の扉を探すために山の中をうろついていたのだが―― 先ほど二人は、信じられないものを見かけてしまったのだ。 『絨毯に乗って動く山』。 こんな言葉で説明したところで、殆どの人は「頭、大丈夫?」と言ってくるだろう。 だが、二人が見たものはそう表現するしかない代物だったのだ。 当然のごとくエリアは怯えてしまった。 腰の抜けかけた彼女を木陰に隠し、レナは一人で『動く山』の後を追った。 しかし、数百メートルも行かないうちに、地面の上で休んでいた飛竜を見かけ――今に至ったという次第である。 レナは飛竜が好きだった。 タイクーンの飛竜は家族同然だったし、クルルの飛竜とも仲は良い。 その二匹とはまた別の飛竜といえ、こんな異国の地で、絶滅寸前と言われている飛竜に巡り会えたことが嬉しかったのだ。 だから山を追いかけることも忘れて、青い飛竜を撫でている。 飛竜――スミスの方も、気持ちよさそうにノドを鳴らした。 その表情は恍惚の色に染まり、カインやフライヤのことなど忘れ去ってしまっているかのようだ。 ――だが、誤解しないでほしい。 この行動には理由があるのだ。 スミスにとって、カインに協力するよりも重要な理由が。 ……決して元人間の男として美しい女性には弱いとか、柔らかな胸が目の前にあって以下略とかそういうことではない。断じて。 (そろそろ頃合かな……) ひとしきり至福の一時を過ごしたスミスは、突然身体を震わせると、ゆっくりと顔を上げてレナを見つめた。 彼女の心の中はとうの昔に探り終わっている。 『仲間を殺されて、仇を逃がした』――スミスの持つ読心能力では、そこまでしかわからない。 だがそれとは別に、スミスは彼女の事を知っている。 殺された人物――ギルバート・クリス・フォン・ミューアを陥れた男と、彼は共に行動しているのだから。 (レナ……) 虚ろな視線を向けながら思念を送り込むと、レナは驚いたように身を竦ませた。 続けて、スミスは語りかける。 (僕だよ……レナ、忘れたの?) 声と違って、口調以外を真似する必要がないのが楽だ。 弱りきった途切れ途切れの思念で、曖昧なことを言っていれば、後は勝手に向こうが解釈する。 「……ギルバート?」 その問いかけに、スミスは茫洋とした表情を作り、機械じみた動きでうなずいてみせた。 焦点をわざと合わせず、しかし瞳だけはしっかりとレナに向ける。 (レナ。会いたかった。……ああ、寒いんだ、体が冷たくて、痛いんだ) レナの顔は面白いくらいに真っ青だ。 信じられない。けれど、信じたい。そんな色が露骨に表れている。 だから言ってやった。 (寒いんだ。胸が痛いんだ……心臓の辺りが冷たくて、痛いんだ) ギルバートはアーヴァインという男に刺殺された。スミスはカインからそう聞いている。 それも心臓を一突きという、中々に鮮やかな手並みだったらしい。 もちろん、カインだって死体を見たからこそ語れたわけで、知らなければ語れるはずもない。 殺された当人以外は。 つまり―― 「ギル……バート」 小道具に使えるということだ。 偽りを真実に見せかけるための。 「あなたなの? 本当に……」 レナはふらふらと後ずさりし、ぺたんと座り込んだ。 スミスは心の中で嘲笑する。 聞いてくるということは、信じているということだ。こんな臭い芝居を! (レナ……痛いよ。あいつに刺された傷が痛むんだ。  どうして僕の仇を取ってくれないの? レナ、レナぁ……) うろたえる少女を見下しながら、スミスは苦しみに嘆く亡霊の真似を続けた。 レナは震える声で答える。 「ギルバート……お願い、聞いて。  私は仇を討ちたかった。貴方の仇を取ってあげたかった。その気持ちは嘘じゃないの。  だけど、仇を討ったところで貴方は返ってこない。嘆く人が増えるだけだからって、ソロ君が……」 ソロ? 聞かない名前だ。いや、宿屋にいた連中の一人にそんな名前の奴がいたとか言っていたような気もするが。 ともかく、そいつが一枚噛んでいるのか――スミスは考えを巡らせるが、決して顔には出さない。 出さないまま、無防備になった心に探りを入れる。 そうして、ソロとレナの間に起きた出来事をわずかながら知った彼は――彼女にこう語りかけた。 (ひどいよ、レナ……どうしてあいつを逃がしたの? なんであいつと仲良くしてるの?  ねぇ、レナ、痛いよぉ……僕の仇を取ってよ、この胸の痛みを消してよ……レナぁ) こう言ったところで、レナはソロとの約束を盾に拒むだろう。 スミスの予想通り、レナは首を横に振る。 「ダメよ。私や貴方が何と言ったって、ソロ君はあの男を……アーヴァインを庇おうとする。  傷つくのはソロ君だけで、きっとあの男は逃げ切ってしまうわ……」 わかっている。わかっているから、スミスは空々しくも問い掛ける。 (……アーヴァイン?) 「貴方を殺した男よ。茶髪の、背の高い……にやけた、最低の男」 憎悪もあらわに言い捨てるレナに、スミスは言った。 (違う) 「……え?」 (僕を刺したのは、緑髪の男だ) 一瞬の間。驚愕する事すら忘れて、レナは無表情に立ち竦んでいた。 スミスはさらに畳み掛ける。 (話していたんだ……君が言う、茶色の髪の男と。でも、急に胸が痛んで……後ろを向いたら……  ああ、笑っていたんだよ、あの男は。緑髪の男が、僕を見て笑っていたんだ。  真っ赤な剣を持って、笑ってた……ああ、痛いよ、痛いよ……レナぁ……レナ……  お願い……あいつを殺してよ……僕を、助けて。レナ、レナ……レ、ナ……) 最後はわざと弱々しく告げた。 それから、目をパチパチとしばたいて、夢から覚めたかのようにキョロキョロと辺りを見回してみせる。 「……ギルバート?」 虚ろにレナが呟いた。 残念ながら、演技はもう終わりだ。これ以上彼女に付き合う理由はない。 スミスは一声だけ鳴いて、翼をはためかせて舞い上がる。 「ギルバート! ギルバート!」 残されたレナは叫ぶ。叫び続ける。居もしない亡霊に向かって。 叫んで、叫んで、息が切れた頃、声を聞きつけたエリアが木々の向こうからふらふらと歩いてきた。 「レナさん、どうしたんですか!? レナさん……! ………!!」 遠くなっていく二人の声を背に、スミスは笑った。 レナは思惑通りにソロとかいう男を殺してくれるだろうか? アーヴァインという人間はまだ使い出がありそうだから殺さないで欲しいものだが。 まぁ、彼らを殺す事が出来なくとも別に構わない。 スミスの狙いは別にある。 自分は騙されていたのかもしれない。裏切られたのかもしれない―― そう思わせることが、真の狙い。 彼女の心を疑惑と不信で満たして、誰も信じられなくなるよう仕向ける。 そうして育った『不信』は、やがて周囲に伝染し、殺し合いを加速させていくだろう。 「おお、戻ってきたようじゃな」 ほくそ笑むスミスの耳に、フライヤの脳天気な声が届いた。 「時間がかかっていたようじゃが……どうじゃ?」 スミスは今一度邪悪に唇の端を歪め、それとは裏腹な明るい声で答えた。 「バッチリさ! 自分でもびっくりするぐらいに上手く行ったよ」 【フライヤ 所持品:アイスソード えふえふ(FF5)  第一行動方針:旅の扉を探す 第二行動方針:カインと仲間を探す】 【カイン(HP 5/6程度) 所持品:ランスオブカイン ミスリルの小手  第一行動方針:フライヤについていき、攻撃の効かない原因を探る  最終行動方針:フライヤを裏切り、殺人者となり、ゲームに勝つ】 【スミス(変身解除、洗脳状態、ドラゴンライダー)  所持品:無し 行動方針:カインと組み、ゲームを成功させる】 【現在位置:レーベ南西の山岳地帯】 【レナ 所持品:エクスカリバー  第一行動方針:不明/旅の扉を探す 基本行動方針:エリアを守る】 【エリア 所持品:妖精の笛、占い後の花  第一行動方針:サックスとギルダーを探す】 【現在位置:レーベ南西の山岳地帯(カイン達とは離れた場所)】

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