432話

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*第432話:スープと魔法とその例外 ターニアは目を覚まして、体を起こしました。ベッドに寝ていたのです。 時間のほどは空が真っ赤に染まるころ。 部屋にはターニアが寝ていたものも合わせて四つのベッドがあって、そのうちのひとつにエリアが寝ています。 エリアさんは……顔色は少し悪いけど、大丈夫みたい、とターニアは思いました。 ベッドの隣の椅子にビビが座っています。 眠いのか、目をつぶったまま頭がこくりこくりと揺れています。 ターニアがベッドで寝たらいいのに、と思ったとたん、ビビの首ががくんと落ちて、完全に目を覚ましてしまいました。 「ごめんね、起こしちゃった?」 「…ううん、ちょっと疲れて、うとうとしてた  ええと、おねえちゃん、なにか食べれる?ちょっと待っててね」 そういって、ビビは部屋を出て行きました。 ターニアは見ていた夢のことを思い出そうとしました。 でも、幸せだったことしか思い出せないのでした。それがとても悲しく思われました。 廊下から、とたとたと足音が聞こえてきて、ビビが部屋に入ってきました。 ターニアはビビに話しかけました。自分が寝ていた間のことが知りたかったのです。 それに、悲しい気持ちをどこかにやってしまいたいとも思っていました。 「エリアさんの怪我、ちゃんと治ったんだ」 「うん。おねえちゃんが休んだ後に、リュックさんとわたぼうさんって人が来てくれてね…」 ビビが、エリアとレナ(近くにいたのに不思議なことですが、ターニアはレナと会ったことがないのです)のこと、 ロックがつれてきたバッツのこと、リュックとわたぼうが手伝いに来てくれたこと、 さっきソロとヘンリーから聞いたザンデの話、ザンデとピサロとロックが仲間を探しに行ったこと、 バッツがレナに会いに行ったこと、今はビビとわたぼうが留守番をしていることを話します。 隣にエリアが寝ているので、ビビはひそひそと小声で話し続けました。 ターニアが寝ている間にいろんなことがあったと知って、彼女はとてもびっくりしました。 そして、じわりと、悲しみに似た無力感に襲われました。 みんなで無事に帰れるといいな、といって、ビビが目線を落とし、 ターニアは、やっと彼がスープのカップを持っていることに気がつきました。 「みんなが外で話し合ってるときに、わたぼうさんが作ってくれたんだ。  でも、たぶん、ぬるくなってるから」 ビビは目を細めて何かをつぶやいて 「ファイア」 小さな炎がスープの中に現れました。 ターニアはカップをわたされたので、おそるおそる中をのぞいてみました。 炎はゆらゆらと揺れています。でもなかなか消えません。 なんだか健気でかわいい、とターニアは思いました。 「すごい。魔法の炎って、水の中でも消えないんだ」 「うん、でも、魔力を送るのをやめると消えちゃうんだ」 こんな風に、とビビが言って、ス-プの中の炎は小さくなって消えました。 ターニアは手の中のぬくもりを転がしながら、もう少し見ていたかったと思いました。 「どうやったら、私も魔法が使えるようになるのかな」 ふと口に出した言葉は、なんだかとてもいい考えに思えました。 ビビみたいな小さな子供でも立派に魔法が使えていることは、ターニアをとても驚かせていたのです。 ターニアは過去に一度だけ、お兄ちゃんに魔法を教わろうとしたことがありました。 魔法を使えるお兄ちゃんたちに、実はこっそり憧れていたからです。 旅の途中、会いに来てくれたお兄ちゃんに一度だけでいいから、とねだってみたのです。 でも、ターニアに才能がなかったからなのかどうかはわかりませんが、お兄ちゃんは「やっぱり職に就かないと…」と、訳のわからないことをいって、すぐにあきらめてしまいました。 (ターニアは怒って、謝ってくれるまでお兄ちゃんと口をきかなかったのはいうまでもありません) ビビ君ならきちんと教えてくれるかも、とターニアは考えたのです。 「魔法は、どうやって使うの? ビビ君は、どうやって魔法が使えるようになったの?」 わからない、深くかぶった帽子の中から、そう聞こえました。 「ボク、う、生まれたときから、魔法が使えたから……」 でも、と彼が顔を上げて続けます。 「例外があってね、おねえちゃんの持っているあの杖とか、魔法の力がこめられてるものを使えば、  ほかには何もしなくても魔法が使えるよ」 「本当!?」 「効果は薄いことが多いし、いつか壊れたり、つかえなくなったりするけど……」 昔から宝石やきれいな石には魔力があるといわれていますし、 ビビの世界では、殴られると怪我が治る不思議な杖までありました。 いろんな世界の武器が集まるのなら、とビビは思ったのです。 ティーダさんからもらったターニアの杖は、いったいどんな効果があるのでしょう。 「そうだ!お姉ちゃん、よかったら、これも使う?」 ビビがザックから取り出したのは大きな鉄の塊でした。 「これ…これと似たものを見たことがあるような気がする……」 ターニアが銃を見たのは、暗い森の中。女の人がターニアに向けた拳銃です。 暗いせいもあったのですが、女の人の怖くてきれいな顔の印象が強くて、拳銃のことはよく思い出せません。 「ピサロさんも使い方がわからないっていってたし、おねえちゃん、使ってくれる?」 うん…、と返事をして、ターニアは自分のザックに、そのよくわからない武器をしまいました。 拳銃と散弾銃は形が違いすぎます。 ですが、ぽっかりとあいた深くて真っ黒な穴に、ターニアはからだが芯から寒くなるような感じを覚えたのです。 話すことに夢中になって忘れられていた、あたたかいスープに口をつけました。 微妙な味がしました。 おおよそスープだとは思えないような味でした。 これは大変です。ターニアはわたぼうに料理の作り方を教えることを心に誓いました。 ターニアはぎこちない笑みを浮かべましたが、ビビは彼女のことを気にせずに、 彼の世界の魔法にまつわることを、彼なりの言葉で話しています。 ターニアが調理場へ行き、わたぼうの作ったおそろしい料理の数々に悲鳴を上げるのは、もう少し先の話です。 夕焼けが差し込む部屋の中で、一人の穏やかな寝息と二人のひそひそ話は続きます。 闇が世界を覆っても、この穏やかな時間があったということは、忘れられません。 いつのまにか、空の色はにじむような朱色から薄紫へ移り変わっていました。もうすぐ群青色になるでしょう。 それでも、今このときだけは、暖かな光がこの世界にくまなく降り注いでいるのでした。 (いえなかったなぁ……ボクが例外だってこと………) 例外。 戦うために、戦争のために生まれた、黒魔道士。 魔力と霧で、スープをことこと煮込むようにして作られた、人形。 いつか動かなくなる日が来る。 ジタンやフライヤ、サラマンダーに、会いたいと思った。 でもそれ以上にクジャに会いたかった。 生きる意味がわからないと言った彼は、どうしているだろう。 スープを飲み干し、わたぼうさんにスープの御礼をしないと、といって笑うターニアに ビビは帽子を深くかぶりなおしながら、少し、笑った。 【ターニア 所持品:微笑みの杖 スパス 第一行動方針:料理を作る 基本行動方針:イザを探す】 【ビビ 所持品:毒蛾のナイフ 第一行動方針:休息 基本行動方針:仲間を探す】 【エリア(体力消耗 怪我回復) 所持品:妖精の笛、占い後の花  第一行動方針:睡眠中】 【現在地:ウルの村 宿屋内部】 【わたぼう 所持品:星降る腕輪 アンブレラ  第一行動方針:料理を作っている  第二行動方針:アリーナの仲間を探し、アリーナ2のことを伝える  基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す  最終行動方針:アルティミシアを倒す】 【現在地:ウルの村 宿屋調理場】

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