399話

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*第399話:送還 走っていた。 ダーツが抜け落ちた腕の傷からは赤い糸が伸びている。 胸の傷から流れる血は衣服を赤く染め、痛覚で激しく警告を発しているはず。 だが、今は伝わらない。 右腕には血にまみれた一振りのナイフを握り締めて。 顔は泣きつかれて憔悴しきったような表情を貼り付けて。 取り付かれた様によろよろと走っていた。 先発した二人を見送った後、 ザンデはじっくりと地図を見ながら今後の動きについて計画を練っていた。 明朝にここで待つことを宣言してしているから動ける時間は残り18時間程。 不測の事態に備えて、また目的のため丁寧に行動することを鑑みて、 ウル~カズス~サスーン城と移動、そこで折り返しここへ戻るというルートを定め、 それから魔王と呼ばれた男は移動を開始すべくゆっくりと腰を上げる。 出口直通の魔方陣で一瞬で外へ。 日光の下に出てすぐに、こちらの方へ向かってくる人物を発見する。 なんとも幸先の良い、という思いはその人物、レナの様子に裏切られた。 向こうからもこちらが見えるはずだが反応している感がない。それは明らかに異常な状態。 近づいてくるにつれ彼女が負傷していることが見て取れた。 「そこの女、どうした?」 声を掛ける。女の顔がこちらを向き、自分を認知した。だが、返事はまるで悲鳴のよう。 「嫌あぁぁあぁあぁぁああああぁっっっ!」 鋭い悲鳴と共に加速し、女は手にしたナイフを腰だめにして突っ込んでくる。 ザンデとレナ、二人が洞窟の前で交錯する―― だが、状態を省みない無謀な動きがほぼ万全の相手に通用するはずもない。 冷静に、ザンデはレナの直線的な動きを避けて足を払う。 逸らされた自身の勢いに抗しきれないレナの身体は受身を取らずに地面を転がり、うつぶせで停止。 彼女の一切の動きはそこまでで無くなり、どうやら気を失ったようだった。 さて、どうしたものか。とりあえずライブラ。 それで結構なダメージを負っている事を確認し、ザンデはとりあえず彼女を治療することにした。 かつてのザンデには考えられないことだが、いまは彼も協力者を求める身なのだ。 大きな外傷は胸に斬られた傷、他に左腕に何かに突かれた痕。流血も多い。 随分と錯乱した状態にあったようだが襲われて逃げてきたのであろうか。 しかし手にした刃物の様子、また傷の位置からして顔についている血は誰かの返り血だろう。 ならば、どちらが仕掛けたにせよ彼女は誰かと交戦してこうなったのだ。 では、彼女は他人に積極的な害意を持っているか? 否。なぜなら、悲鳴をあげていた表情が語っていたのは恐怖。世界の全てに怯えているような恐怖。 さらに警戒する様子も無く視野狭窄で走ってきた様子。 これらは仮にもここまで生き残っている殺人者のとる態度ではない。 状況に混乱して今は誰に対しても過敏に拒絶反応が出ているだけであろう。 最終的にザンデは推測を交え以下のように結論付けた。 仲間と共にいたところを襲撃され戦闘、仲間を失い自身も負傷して何とか逃れてきた。 現在は錯乱しているが落ち着けば常識的思考で味方とできるはずである。 万が一狂ってしまったのであれば…始末するしかないだろう。 阻害要因、不確定要因はできるだけ排除したい。 とりあえず不得手な回復魔法でレナの傷を塞ぐ。 そもそもザンデは大規模な、大雑把な魔法は得意だが細かい操作は苦手だ。 彼の癖になったライブラは苦手とする精密さへの憧れから。 それでもそこいらの平凡な魔道士になど比べるべくも無いレベルにあるのだが。 …話が寄り道に逸れたか。 とにかく時間も惜しいことだと、まだ目を覚ます様子のないレナを抱えて ザンデは自身の計画通りウルへと向かった。 実際に起こった事態の複雑な経緯や背景を含めた飛躍した推測などできるはずも無い。 だからザンデはレナを襲撃を受けた哀れな参加者と判断し、気を失っている彼女を連れている。 ウルで待つは彼女が傷つけた者、彼女の仲間だった者、彼女が誤って憎んでいる者、 加えてザンデのかつての所業を知る者。 二人の到着が何を引き起こすか、それはまだ不確定の未来。 【ザンデ(HP 4/5程度) 所持品:シーカーソード、ウィークメーカー  第一行動方針:仲間、あるいはアイテムを求め、ウルの村へ  基本行動方針:ドーガとウネを探し、ゲームを脱出する】 【レナ(気絶) 所持品:チキンナイフ、薬草や毒消し草一式  第一行動方針:不明】 【現在地:ウルの村の北】

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