336話

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*第336話:死せし魔物と魔物使い (このゲームに死んだはずの参加者がどれぐらいいると思ってる?アルティミシア様は偉大だ。  死人を一人か二人蘇生するなんてわけないよ) それは先程、銀髪の剣士をけしかけたとき、自分が言ったセリフ。 青い渦の中で、何故そんなことを反芻しているのか、スミスには分からなかった。 足が草生い茂る地面についた後も、その言葉に、彼は捕らわれ続けていた。 「ねえ、カインは優勝狙ってるんだよね。優勝したら、アルティミシア様何かお願い叶えてくれるかもしれないよ。  それこそ、死んだ誰かを生きかえすことだってさ」 突然振られた話題に、カインは足を止め、眉をひそめる。 「あの銀髪に言ったことか? でたらめかと思っていたが、魔女は優勝者の願いを叶える気があるのか?」 「さぁねぇ。アルティミシア様の御心なんて、僕が推し量れるわけないじゃないか。もしも、の話だよ」 仮定の話など、今はやって意味あるとも思えないが、ついカインは考えてしまう。 初めに浮かんだのはローザの顔。次いでセシル。 どちらか一方しか生きかえせないのなら、あの世でよろしくやっている二人に恨まれることだろう。 もし二人共を生きかえすのなら、それはそれで、自分が道化にしかなりえない。 カインは、自嘲気味に笑った。 「蘇らせたい奴なんかいないな。別に願いを叶えてくれると言うなら…、いや、今はまだ、そんなことに頭を使う余裕はないな」 取らぬ狸のなんとやらになっては目も当てられないだろう。 「そういうお前はどうなんだ。蘇らせたい奴はいないのか?」 ほとんど話の流れの惰性で、カインは問い返す。 「え、僕? 僕は…」 (マチュア!!!) 誰かが、何処かで叫んだ。カインには聞こえていない。 (マチュアを、生きかえすことができる?  でもその為には、優勝しなきゃいけない。誰かを、殺さなきゃいけない。いやだ!! 僕は、殺したくない。  やめてくれ。もう、殺したくないんだ。誰かが死んで、誰かが悲しむ。僕は…) (五月蝿いなぁ) スミスは、ようやくその声が、思念が、誰のものであるか理解した。 そしてそれにもっと強い思念を送り込む。 (今さら出てきて何のようだ? お前は死んだんだ。おとなしく消えてろよ) 思念は、ぷっつりと途絶えた。 「見くびらないでよ、カイン。僕はアルティミシア様の忠実な僕だよ。自分の願いなんかあるはずないじゃないか」 ならばこの間は何だったのかと、カインは気になったがあえて問うことはなかった。 それはその双眸が、新たな獲物を捕らえたから。 男と、子供、少女だ。 まるでピクニックをしている親子、或いは兄弟のようではないか。 「無駄話はこれまでだ。行くぞスミス」 「よーっし、頑張るぞ!!」 もしもの時の為の警戒も怠らず、一人と一匹は歩を進めた。 「つまり動物の言葉が分かるというわけじゃなく、何を考えているのかを感じ取れるってこと?」 「う~ん、そうかもしれない」 落ち着くためにはまず話を、ということで振った話題は、タバサの動物との会話能力についてであった。 実は、セージは随分この能力に興味をそそられていたのだ。 昔ダーマ神殿で噂に聞いた、失われし職業「魔物使い」 タバサは彼女の父親からその力を受け継いでいるそうだ。 彼女の仲間に魔物がいることは昨日の昼中に聞いてはいたが、そのときは物好きな魔物がいるものだという風に思っていた。 確かにその魔物たちは全体から見ればごく少数なのだが、彼女や彼女の父親、そして死んでしまった彼女の兄は、 魔物たちを引きつける魅力と、魔物たちを理解することのできる心とを持ち合わせているのだろう。 それが「魔物使い」の能力なのだろう。 「魔物の心を開かせるなんて、大したもんだねぇ」 「お兄さん、それ、ちょっと違うよ」 「え?」 「魔物さんたち、本当はまっすぐに心をぶつけたいの。でも、いつもはそれができないの。  お父さん、魔王の呪縛だって言ってた。それを浄化するのがエルヘブンの力なんだって」 「エルヘブン?」 「うん、お父さんの母方の里なの。不思議な力を持った一族が暮らしてる」 「ふうん、魔王の呪縛ねぇ。そう言えばゾーマを倒した後、野生の魔物たちが急に大人しくなってたな」 「魔物さんたち、戦いが好きな子もいるけど、平和でいたい、仲良くしたいって思ってる子も、たくさんいるんだよ」 そんな話をしながら、セージはちゃんと彼らに近づく二つの気配を察していた。 タバサを後ろに下がらせて、気配に向かってナイフを構えた。 「初めに言っておく。我々に戦う意思はないが、お前達がそうでないのなら…」 カインはランスオブカインを構えたまま切り出した。 その瞳は真剣で、悪意を微塵も感じさせず、少し余裕を失っていたセージには、彼の秘める思考を読み取ることはできなかった。 「こちらも同じく、戦う意思はない。構えを解いてもらえないかなぁ。レディにあまり物騒なものを見せるべきではないだろう?」 それでようやくカインはランスオブカインを下ろした。 緊張していた空気が一気に緩む。 「僕はセージ。彼女はタバサだよ」 「ああ。俺はカインでこいつはスミスという」 「よろしく、かっこいいお兄さん」 和気藹々と、お互いに名乗り、情報を求め合う。 セージはビアンカとリュカや仲間の魔物たちを探していることを伝え、カインはエッジを探しているのだと言っておいた。 「黒髪には、会わなかったな。魔物にも、こいつ以外を見てはいない。  金髪の女性にも、この世界に着いたのがさっきだからな、流石に会ってはいない」 「そうか、すまないね。僕たちも余り動いていないから、その忍者風の男の人には会っていないよ」 次いでセージは、一応ヘンリーとデールについて尋ねた。 そこにきてカインは、そっと心の中で考える。表情には一切出さずに。 その二人については心当たりがあるのだ。だがその情報を、どの程度の精度でもって伝えるべきか…。 それをスミスに尋ねようと視線を移したときだった。 「泣いているの?」 少女の、高く可愛らしい声が、少し憂いを含んで、草原に響いた。 タバサはじっとスミスを見つめている。 周囲の誰もに、タバサがスミスに話しかけているようにしか映らない。 けれどスミスが泣いているわけでもない。 タバサを除く全員が首をかしげ、それは当のスミスも同じだった。 「えっと、お嬢さん。どうしたの? 僕、泣いてないよ?」 けれどタバサの耳には、否、心には、別の、すすり泣く声が聞こえている。 (優しいね、お嬢さん。でも僕に構わないで。早く僕から逃げて。僕が君を殺す前に。死んじゃ駄目なんだ。マチュアみたいに) 「マチュア、さん?」 タバサの言葉に、スミスの目が細められた。 (死んでしまった。守れなかった。会うこともできずに。だから僕は死んだんだ。僕は死んだ。なのに僕は殺し続けてる…) (失せろ!!) 別の声が、泣いていた者の声をさえぎり、もうそれっきり、その声は聞こえなくなった。 「お嬢さん?」 スミスはおどけた調子でタバサを覗き込んだ。 けれどタバサはまだ、その向こうにいた誰かを探していた。 「タバサ、どうしたの?」 セージも、スミスに倣って覗き込む。 タバサはようやく視線をセージに移し、なんでもない、と首を横に振った。 あの声の聞こえ方は知っている。 野生の魔物と戦うとき、戦いたくないと言いながら、死をものともせず戦わされている魔物の声と同じ。 魔王の呪縛を受けている。この場合は魔女の呪縛というべきか。 そのことをセージに伝えようか迷った揚句、タバサは口を噤んでしまった。 何もかもセージに頼りきりになっては迷惑になる。 ただでさえ、今は少し余裕を失っているところなのだ。 あの魔物を開放できるのは、エルヘブンの血を持つ自分なのだから。 一方スミスは。 隙をうかがって念を送るあの死人をうざく思いながら、結局は何もできないのだと高をくくっていた。 それよりも問題は、その思念を読み取るあの少女。 (ねぇ、カイン) タバサに気づかれぬよう、そっと相方に念を送る。 (あの子、できるだけ早急に殺してくれない? ちょっと邪魔なんだよね) カインは、やはり気づかれぬようそっと、首を縦に動かした。 「その緑髪、名簿を見る限りデールという名前の奴だが、かなり危険な奴だ」 「そうなの?」 「自分の義姉を殺し、村を一つ焼いた。そこで休息を取っていた人間を燻り出すためにな。俺も命からがら逃れた。  見た目に強敵だとは思わなかったし、実際確かに実力者ではないのだと思うが、あのキレ具合は異常だ。  殺すことに躊躇いがないなんてものじゃない。楽しんでいるわけでもない。それが当然のことのように殺す。  そういう奴相手に戦ったことはあるか?」 「いや、…ないね」 カインはここでため息を一つついた。 「このゲームは思った以上に人を狂わす。知り合いだからと言って油断はできない。だが信頼できる仲間は必要だ」 「願ってもないことだね。一緒に行動してくれるかい?」 「俺の仲間探しも手伝ってくれるのならな」 こうして、胸に様々な思いを秘めたパーティーが一組、誕生した。 彼らは城を目指し、森へと進む。 【セージ 所持品:ハリセン ナイフ  第一行動方針:サスーン城へ行く 基本行動方針:タバサの家族を探す】 【タバサ 所持品:ストロスの杖 キノコ図鑑 悟りの書 ナイフ   第一行動方針:スミスの呪縛を解く 基本行動方針:同上】 【カイン(HP 5/6程度) 所持品:ランスオブカイン ミスリルの小手 えふえふ(FF5)  第一行動方針:隙を見てタバサを殺す  最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】 【スミス(変身解除、洗脳状態、ドラゴンライダー) 所持品:無し  行動方針:カインと組み、ゲームを成功させる】 【現在位置:カズスの街北の草原からサスーン城方面の森へ】

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