498話

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*第498話:夜に見る光 自分の負の感情のままに作り出した不安定な状況は、しかし次の展開へとは至らない。 そんなただ徒に潰すしかない時間を前に、暴言へのたしなめと仲間の弁護を始めたライアン。 やれ「今は一致団結して苦難に当たるべき。不和を招くような発言はできるだけ避けたほうが賢明です」だの 「アリーナ殿にも何か止むに止まれぬ事情があるのでしょうぞ、理由なく力を振るう方ではない」だの 「戦う力を持つものが傷ついたもの、戦えぬものを守るのは当然のことですぞ」だの。 思ったとおりの仲間擁護に古臭い本にでも出てきそうな精神教条、そんなライアンを疎ましく思い、 感情的に衝突したアルガスは彼の制止も聞かず一人、カナーンの街を歩く。 脱出と勝利を両天秤にかけたアルガスの思惑はどこか中途半端のまま。 理由は自分でもわかっている。 どちらに乗るにしても、賭けるに足るだけの条件はまったく整ってはいないからだ。 だから、今のところ彼にできるのは夜風に向かって愚痴りつつ時間をつぶすことぐらいしかなかった。 一人気を紛らわせる場所を求めてコツコツと階段を上がり、風が吹き抜ける城壁上へ。 間抜けなことに保身を思考の中心においてきた男はこのとき、自身がどれ程危険な状況かが頭から抜け落ちていた。 その来訪者は、見た目を大きく裏切る軽く小さな着地音とともにアルガスの前に「降って」きた。 城壁の上だ、視界は悪くない。特に東に広がる城外の平原は良く見通せる。 だが上から来る相手など想像の外、驚きの叫びよりも先にアルガスの眼前には槍の穂先があった。 「盾」のいない今はまさに俎上の鯉。目の前の金属光は全身を冷たくさせる。 だが反省や後悔よりもアルガスの頭脳は打開策を求め、必死に言葉を繋いでいた。 時間圧縮もかくやの電気の閃光がニューロンを駆け、なんとか一つ活路をひねり出す。 「た、頼む、殺さないでくれ! 何でもあんたに従うから!」 喉から搾り出したかすれ声。情けなさ満点で命乞い。 われながら良い演技ができた…なんて自己評価は強がり以外の何物でもないが、これがアルガスの打開策。 不十分とはいえ計算可能な目がそこにあるのだ。 現れた男、こいつが正義面した奴なら自分に怯える相手を害することはないだろう。 たとえ殺人者であっても、こいつはすぐに自分を殺すことを選択しなかった。つまり交渉の余地はある。 目の前には動揺を見せぬまま冷たく輝く槍先。 フォローではなく沈黙と言う反応は相手は善人ぶっているわけではないことを教えてくれる。 前者であれば楽だったのだが、とにかく交渉に移れるところまで漕ぎ着けなければならない。 もう一押し。緊張感と半ば本音の気持ちを混ぜて叫ぶ。 「オレはまだ死にたくないんだ! なあ、殺さないでくれよ! なあ!」 失笑だろう、ククッ、と影が漏らす。 気に障るが、それは今は飲み込まなければならない。すべては最後に生き残ることで清算できる。 ともかくそんな屈辱の対価としてまずアルガスは殺人者から言葉を引き出すことに成功した。 「そんなに怯えるな。そうだな、この街は初めてでね。いろいろ教えてくれないか?」 「命さえ助けてくれるなら知ってることは何だって喋る。だから頼む、」 「わかったわかった、落ち着け。  ちょっと人を探していてね、今この街には誰がいるのか。知っている範囲で良い、教えてくれ」 第二ステップ、向こうからの提示。しかしまだこれは一方的な収奪だ。 情報を搾られるだけ搾られてゴミのように殺される、これではダメだ。 欲しいのは取引、自己の安全の確保。 とりあえずこの流れをぶち壊さないように留意して大きくわざとらしく深呼吸。 「何度でも確認する。あんたの知りたいことを喋るから、殺さないでくれ」 「それはわかっている。さっさと喋れ」 「オーケー、取引成立か。頼むぜ?  ってと、えーと、そうだな。街の広場の北の端のほうだったかな。  アリーナってぼろぼろの怪我人の女と、それを治療してる賢者の婆さんとおっさんがいるぜ。  そいつらの名前は……ウネとクリフト、あいや、クリムトだ」 「ふむ賢者、か」 「あと街の中心の橋のところにライアンって戦士がいたな。  でもそれはオレが最後に見た場所だ。カカシじゃあるまいしいつまでもボーっと突っ立ったままもないよ」 「戦士か。他は?」 「これだけさ。ああ、予想はついてるかもしれないがライアンと賢者連中はつるんでるぜ」 「だろうな。……で、お前は一時でも一緒に行動した人間を売るというわけだ」 「ああ、まあな。他人の命より自分の命、あんただってよーくわかってるだろ?  さて、ここからは取引といきたい」 「取引だと?」 何をバカな、と言うニュアンスを含んだ相手の一言を無視し、アルガスはザックを投げ出す。 開けてあった口から剣や盾、なにやら金属のケースの一部がごろごろと姿を覗かせた。 「そう、取引さ。あんたはこのオレを雑魚だと思っているんだろう?  ああ、わざわざ言うこともない。今だって風前の灯さ。  だがね、そんなオレはあんたにできないことができるんだぜ?」 生意気にもいくらか気勢を強めたアルガスの変化を鋭敏に察知し、男は立場を理解しろといわんばかりにゆっくりと槍先を近づけて見せた。 それから、言葉で押さえつけようとする。 「最初とは随分態度が変わったな。まあいい、取引だと? できないことができる?  ――笑わせるな」 「ははっ、雑魚相手にそう凄むなよ。まあ聞けって。  あんたは孤独一匹狼の殺人者なんだろ。最後の一人まで勝ち抜くのが目標ってわけだ。  でもな、ぶっちゃけた話この世界から生きて逃げられるなら方法は問わない。同意してくれるよな?」 「………」 「一人勝ちってのはわかりやすいが、全員を殺すってのは実際ホネだぜ。  まああんたは身に染みてるのかもしれないけどな。ああ、気を悪くしないでくれよ」 「………」 「でだな、殺しに乗らない連中も連中で何とか脱出の策は考える。当然だ。  もし仮にそれが成果を出すとして、あんたはそれに乗れるわけがない。そこなんだ。  殺人者でないオレができることってのは」 「………」 「こいつは保険さ。双方に利益のある、な。  オレはあんたからの安全を手に入れ、正義面した連中の情報をあんたに流す。  あんたはオレから情報を手に入れ、そいつを殺しに活かせばいい。  脱出策が完成すればそれを利用し、一方で着実に数を減らす。両天秤で動けるわけだ」 「そして数が減ってきたところでオレを殺して自分が勝利すると言うわけか?  ふふ、一度裏切った人間は二度三度とやらかすものだ」 「だから雑魚に凄むなよな、そんなに自分に自信がないか?  そこにザックだって差し出してるんだぜ? 丸腰なのがわからないか?  だいたいあんたと戦って勝てるなんて思わないね」 存在を強調すべく、ほらよと足で蹴り転がしたザックからついに一本の剣が滑り出す。 それがアルガスにとって計算外の幸運をもたらした。 すぐ側まで転がって来た剣を拾い上げた男は突然、声を上げて笑い出した。 「…ふふっ、ははは、はーーっはっは!  いいだろう、その保険とやらを受けよう。貴様の名前は?」 「アルガス=サダルファス。あんたは?」 「カイン=ハイウインド」 「カインか、分かってくれて嬉しい。よろしく頼む。ところで話は変わるが怪我人なんざ切り捨てる対象だよな?」 「…いきなり何を言い出す」 「役立たずは切り捨てるべきってことだ。さっき話した4人!  賢者って言うなら何か知恵でもありゃ良いが…あいつらにはねえよ。  実際には無駄な他人助けばかり。こいつらは脱出には役立たず、前進もしない連中さ。  まずはこいつらの掃除からオレ達の関係を始めるといこうじゃないか」 「条件次第だ。別にオレは危険を冒すつもりはないぞ」 「ある程度の戦力は把握している。一人一人分断する任はオレが負ってもいい。  あんた、竜騎士…だよな? オレは空から降ってくる人間なんてほかに知らないぞ」 「……いいだろう。お前が一人ずつ誘き出せ。オレが奇襲で仕留める」 「決まりだな。その剣、気に入ったなら持ってって良いぜ。  おっと、一つ忘れてた。魔法屋に閉じこもってるイザとロザリーって若い男女がいる。  そいつらはオレの駒というか…とにかく殺さないでくれよ?  別行動中のオレの『盾』。理解してもらえるよな」 作戦の動きを打ち合わせてアルガスは再び街の闇へと階段を降りていった。 一人、城壁の上に残ったカイン=ハイウインドは手にした剣をかざす。 光の剣。 パラディンとなった『友人』セシル=ハーヴィが愛用していた剣。 皮肉にもこんなところで再会した死せる友人の剣。 正義を象徴する彼は早々にこの世界に屈し、裏切りにまみれた自分はまだ生き延びている。 この剣との出会い、裏切り者アルガスとの出会い。奇縁と言うものを感じざるを得ない。 だから、アルガスの案に乗ってみようと思った。 裏切り者が勝利するために。薄汚れた自分を最終的な勝利で清算するために。 まだ情報を隠していた点といい、少なくとも褒めるに値する度胸といい、アルガスは完璧に信用すべき相手ではない。 利用されているのもわかるし、再度の裏切りには注意しなければならない。 だが、『掃除』の話を出したときの態度からこの街では彼が裏切ることはないだろうことは予想できる。 私怨の影がそこには覗いていたから。 自分もかつて抱いていたことのある思い当たる感情をそこに見出せたから。 薄汚れた裏切り者が薄汚れた裏切り者をあれこれ評する。 まるで自分のことを語っているような気がして、漏れるは皮肉の笑いばかり。 城壁の内側の縁に立ち、暗闇に沈んでいるカナーンの街を一望してから、 カインは亡き友の正義の剣を自身のザックへと投げ込んだ。 【カイン(HP2/3程度、疲労)  所持品:ランスオブカイン、ミスリルの小手、この世界(FF3)の歴史書数冊、加速装置、  草薙の剣、ドラゴンオーブ、レオの顔写真の紙切れ、光の剣  第一行動方針:アルガスの策に乗り奇襲での一撃必殺を狙う  最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】 【現在地:カナーンの街】 【アルガス  所持品:カヌー(縮小中)、皆殺しの剣、ミスリルシールド、パオームのインク  妖精の羽ペン、ももんじゃのしっぽ、聖者の灰、高級腕時計(FF7)、  マシンガン用予備弾倉×5、タークスのスーツ(女性用)、エクスカリパー  第一行動方針:カインとの作戦を成功させる  最終行動方針:脱出・勝利を問わずとにかく生き残る】 【現在地:カナーンの街】

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