246話

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*第246話:偶然と勘違い、そしてすれ違い 静かな海を前に、ティーダは膝を抱えていた。 岩場の影で、ずぶ濡れの身体をぶるぶると震わせていた。 ――と言っても、別に寒いわけではない。 薄着だし、海水で濡れているし、火にも当たっていないのだし、真夜中だし、確かに寒いことは寒いのだが…… 彼にとってそんなことは大した問題ではないし、寒さなど気にしていられる状態ではなかった。 彼を震わせているのは、不安。 頼れる仲間も、知り合った人も、話し合える相手もいない……そんな孤独感。 殺されるかもしれない、逃げられないかもしれない……そんな恐怖感。 それらがない交ぜになって、彼を苛んでいた。 数時間前の話だ。 その頃、ティーダは一人で森を歩いていた。 さすがに真夜中に山越えをする気は無いし、見晴らしのいい平野で野宿をする気もない。 今日は適当な場所で休んで、夜明けになったらレーベの村にでも向かってみようか…… そんなつもりで南西方向に進路を取り、歩いていた。 そして彼は、木立の向こうに一人の少女の姿を見た。 栗色の髪が少しだけエアリスを連想させたけれど、彼女よりずっと若い…… 自分よりも年下に見える少女を見かけた。 声を掛けようと思い、彼は片手を上げた。 けれど声を出す寸前、それに気づき――そのまま動けなくなった。 彼女の足元にあった、脳天を銃で撃ちぬかれた男の死体。それを見つけてしまったから。 少女はティーダに気付いた様子もなかった。 良い物を見つけた、と言わんばかりににこにこ笑っていた。 無邪気で明るく、純粋で愛らしい、太陽のような笑顔で笑っていた。 そして彼女は、死体の傍に落ちていた変わった鞭を手に取った。 ティーダは少女の挙動を見ながら考える。 (銃を持ってる様子もないし、あんな風に笑える子が人殺しだとは思えないッス……  あの子があのオッサンを殺したってワケじゃなくて、オレみたいに通りがかって死体を見つけただけなのかも……  うん、きっとそうッスよ。そうに違いないって。  心細くて、武器を漁ってるだけだって……うん、そうに決まってる) だからティーダは、気を取り直し、改めて声を掛けようと一歩踏み出した。 ――その時だった。 少女が鞭を振るって、死体を打ち据えたのは。 (くぇdfrtgyふじこpl;@㌧△㌦■ラ㍑◎!?) ティーダの、声に出ない悲鳴にも気付かず、彼女は手を振り続ける。 風を切る音、鈍い音、衣服が裂かれる音、肉が弾け骨が砕ける音。 死体の原型が無くなりかけたところで、少女は手を止め、鞭をまじまじと見つめた。 「この破壊力……やっぱり本物のグリンガムの鞭だわ! あたしってばラッキー!」 場違いな印象さえ受けるセリフ、喜びに満ちた声のトーン。 (あ、ああ……) 恐怖のあまり、ティーダは座り込んだ。 何が起きたかわからなかった。 彼女が何を言っているのかもわからなかった。 「それにしても……この鞭に、こんな便利な装飾品まであるのに殺されるなんて……  このオジサン、よ~っぽど弱かったのね。  あーあ。オジサンみたいな人がこんな上等なモノ持つなんて、おかしいわよ絶対」 肉片と血のこびりついた鞭を巻き取りながら、少女は言う。 そして――無造作に片足を上げた。 「あたしね……弱いくせに身の程をわきまえない奴が一番嫌いなの」 陶器を砕くような、柔らかい何かを踏み潰すような音が響く。 雲の切れ間から差し込んだ残酷な月明かりが、少女と足元にあるものを照らす。 見たくない、と思った。けれど見えてしまった。見てしまった。  無邪気な微笑み ブーツについた血 地面に降りた片足 どろりと濁ったナニか  飛び散った白い破片 土の上に転がる眼球 草に撥ねた脳漿 赤黒く汚れたナニか―― 「――ッぁああぁぁぁあああああぁぁああああああああああ!!」 彼は叫んだ。悲鳴を上げて走った。少女から逃げるために走り続けた。 彼の存在にようやく気付いた少女が何か叫んでいたけれど、彼の耳には聞こえなかった。聞くだけの余裕もなかった。 ただ、少女から一刻も早く、一メートルでも遠くへ離れたかった。 ――頭に焼きついた光景を、一秒でも早く忘れたかった。 「ひッ……はぁ、はぁ……はぁ……」 どれぐらい走っただろう。 ティーダはようやく我に返り、少女が追ってきていないことを確認して足を止める。 そして適当な木にもたれかかり、ずるずると身体を預けた。 サディスト、人の心がない、イカれてる、悪魔のような――様々な単語が頭に浮かぶ。 「……冗談じゃ、ないッスよ」 人殺しには見えない。そう思った通り、確かに『男を殺した』わけではない。 死体を傷つけただけで、ティーダ自身もエアリスに同じ事をしたのだから、どうこう言う権利もないような気がする。 しかし、しかし、しかし――それでも彼女の行為は異常だ。 死者に対する尊厳の気持ち、道徳心や良心……そういった、人が持つべき精神が存在していないのではないか。 そうでなければ、あんな真似できるはずがない。 ティーダはしばらくうずくまっていたが、やがてよろよろと立ち上がった。 「もうイヤだ……早くスピラかザナルカンドに帰りたいッスよ……」 そんな弱音を吐きながらも、ふらふらと歩き出す。 数十メートルほど歩いて、その足がまたもや止まった。 視界の先に見つけてしまったものが信じられず、呆然と立ち尽くす。 木々の向こうに、俯いている少女がいた。 とんがり帽子を被った栗色の髪の少女がいた。 走って逃げてきたはずなのに、自分が進もうとした先にいた。 そして彼女は彼の方に顔を向けて、何かを呟いていた―― 「……あたしの手で、必ず捕まえる……」 その言葉だけが、やけにはっきりと聞こえた。 それから一体どこをどう走ったのか、ティーダは覚えていない。 恐怖に駆られるまま、悲鳴すら上げられずに走り続けて――気が付いた時には、砂浜にいた。 打ち寄せる波に向けて、真っ直ぐ走っていた。 そのまま海に飛び込んで、水しぶきを上げながら水面に顔を出し、大きく息を吸い込んだ。 そうやって深呼吸を何度か繰り返して、やっと落ち着きを取り戻すことができた。 ティーダはしばらく波間に漂いながら、周囲に人影がないことを確認する。 そして身を隠せそうな岩場を見つけると、海から上がってそこにうずくまった。 夜風の寒さよりも、恐怖心と不安に身を震わせて。 「……ユウナ、リュック……ワッカ、キマリ、ルールー……」 みんな、今ごろどこで何をしているのだろう? そんな思いから、ティーダは仲間達の名前を呼ぶ。 縋る者を求めて、大切な人の名前を呼ぶ。 見知らぬ場所で独りでいることが、誰の助けもないことが、こんなにも心細いものだとは思わなかった。 いや、一度だけこんな気持ちになった時があったような気がする。 そう……あれは初めてスピラに来た時。リュックに会う前、遺跡の中で消えかけた焚き火を見ていた時…… 助けはない、ここがどこかもわからない、死ぬかもしれない、理不尽に…… あの時に似た、そしてあの時よりもはるかに強い不安が、自分の中にある。 「……ミレーユさん、ターニア……」 二人は無事なのだろうか? 叶うなら……二人ともう一度会いたい。敵ではないあの人たちに会いたい。 いいや、彼女たち以外でも……敵でなければ誰でもいい。 ただ、一緒にいてくれるなら。 あの恐ろしい少女に狙われてしまったという恐怖を、少しでも紛らわせてくれる相手なら。 言葉が通じなくてもいい。種族や世界の違いなんて気にしない。 ただ、この孤独と恐怖から遠ざけてくれる……そんな『仲間』が欲しかった。 ――ティーダはついに気付かなかった。 少女が二人いたということに。 もう一人の少女の発言の真意と、彼女と話していた相手の存在に。 「あいつは……もう一人のあたしは、あたしの手で必ず捕まえる。  それがあたしの責任だから……だから二人の気持ちは嬉しいけど、一緒に行くことはできないの」 少女は――アリーナは言った。 木陰に寄りかかっている金髪の女性と、その足元に立つもこもこした魔物に向かって。 「そっか……頼りになる仲間を見っけたと思ったのに。ちょっぴし残念だな~」 「ごめんね」 「仕方ないよ、そういう事情なら。  それよりこっちこそ、偽者の行方わかんなくてごめんね。  あ、でも……ナニか他に、あたし達でも出来そうな事があるなら遠慮なくズバッと言ってよ」 「そうだよアリーナ、ぼくも協力するから!」 「ありがとう……リュック、わたぼう。  ……あの、それじゃあ、一つだけ頼みがあるんだけど」 「ナニナニ?」 「あたしの知り合い……ソロと、ライアンさんと、ミネアと、ピサロと、ロザリーさんって言うんだけど……  その人たちにあったら、偽者のこと伝えて欲しいんだ」 「ふむふむ……えーと、この緑髪の子と、こっちのオジサンと、この紫の髪の人と……」 「この男の人と、こっちの女の人だね?」 「そう。ミネアとピサロは、まだ大丈夫だとは思うけど……  ソロとライアンさんとロザリーは、間違いなくあいつに騙されちゃうと思うから」 「オッケーオッケー。  腕輪を着けてなくて、手袋を着けっぱなしなのが偽者だって伝えればいいんだね?」 「うん。あたしはずっと手袋外しておくから。  それと、あなたたちのことを知らないってことも付け加えておいて」 「りょーかい! 任せといてよ、バシッと見つけてビビッと伝えておくから」 「ほんと、ごめんね。迷惑かけちゃって」 「わたわた、迷惑なんかじゃないよ」 「そーそー。困ってる人を助けるのもカモメ団の役目です! なーんて言ってみたりして。  ……だからね、ホント、アリーナも一人で無理しないでさ。  何か困ったことがあったら相談してよ。あたし達でよければいつでも力になるから」  「ありがとう、二人とも……」 リュック達は気付かなかった。 近くを走っていった青年の存在に。 ティーダは気付かなかった。 自分の勘違いに。 そして、お互いに気付かなかった。 すぐ傍にいた、仲間の存在に―― 【ティーダ 所持品:鋼の剣 青銅の盾 理性の種 ふきとばしの杖〔4〕 首輪×1  第一行動方針:しばらく身を潜めて休息 第二行動方針:レーベに移動し、仲間になってくれる人を探す  最終行動方針:ゲームからの脱出】 【現在地:レーベ北東の森・海岸】 【アリーナ 所持品:プロテクトリング  行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】 【現在地:レーベ南の森(最北部・草原との境目付近)→移動】 【リュック(パラディン)   所持品:バリアントナイフ マジカルスカート クリスタルの小手 刃の鎧 メタルキングの剣 ドレスフィア(パラディン) 【わたぼう 所持品:星降る腕輪 アンブレラ  第一行動方針:アリーナの仲間を探し、アリーナ2のことを伝える  基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す  最終行動方針:アルティミシアを倒す】 【現在地:レーベ南の森(最北部・草原との境目付近)→移動】 【アリーナ2(分身) 所持品:グリンガムの鞭、皆伝の証  第一行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない  最終行動方針:勝利する】 【現在地:レーベ南の森(南部)】

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