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「246話」(2008/02/15 (金) 23:21:13) の最新版変更点
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*第246話:偶然と勘違い、そしてすれ違い
静かな海を前に、ティーダは膝を抱えていた。
岩場の影で、ずぶ濡れの身体をぶるぶると震わせていた。
――と言っても、別に寒いわけではない。
薄着だし、海水で濡れているし、火にも当たっていないのだし、真夜中だし、確かに寒いことは寒いのだが……
彼にとってそんなことは大した問題ではないし、寒さなど気にしていられる状態ではなかった。
彼を震わせているのは、不安。
頼れる仲間も、知り合った人も、話し合える相手もいない……そんな孤独感。
殺されるかもしれない、逃げられないかもしれない……そんな恐怖感。
それらがない交ぜになって、彼を苛んでいた。
数時間前の話だ。
その頃、ティーダは一人で森を歩いていた。
さすがに真夜中に山越えをする気は無いし、見晴らしのいい平野で野宿をする気もない。
今日は適当な場所で休んで、夜明けになったらレーベの村にでも向かってみようか……
そんなつもりで南西方向に進路を取り、歩いていた。
そして彼は、木立の向こうに一人の少女の姿を見た。
栗色の髪が少しだけエアリスを連想させたけれど、彼女よりずっと若い……
自分よりも年下に見える少女を見かけた。
声を掛けようと思い、彼は片手を上げた。
けれど声を出す寸前、それに気づき――そのまま動けなくなった。
彼女の足元にあった、脳天を銃で撃ちぬかれた男の死体。それを見つけてしまったから。
少女はティーダに気付いた様子もなかった。
良い物を見つけた、と言わんばかりににこにこ笑っていた。
無邪気で明るく、純粋で愛らしい、太陽のような笑顔で笑っていた。
そして彼女は、死体の傍に落ちていた変わった鞭を手に取った。
ティーダは少女の挙動を見ながら考える。
(銃を持ってる様子もないし、あんな風に笑える子が人殺しだとは思えないッス……
あの子があのオッサンを殺したってワケじゃなくて、オレみたいに通りがかって死体を見つけただけなのかも……
うん、きっとそうッスよ。そうに違いないって。
心細くて、武器を漁ってるだけだって……うん、そうに決まってる)
だからティーダは、気を取り直し、改めて声を掛けようと一歩踏み出した。
――その時だった。
少女が鞭を振るって、死体を打ち据えたのは。
(くぇdfrtgyふじこpl;@㌧△㌦■ラ㍑◎!?)
ティーダの、声に出ない悲鳴にも気付かず、彼女は手を振り続ける。
風を切る音、鈍い音、衣服が裂かれる音、肉が弾け骨が砕ける音。
死体の原型が無くなりかけたところで、少女は手を止め、鞭をまじまじと見つめた。
「この破壊力……やっぱり本物のグリンガムの鞭だわ! あたしってばラッキー!」
場違いな印象さえ受けるセリフ、喜びに満ちた声のトーン。
(あ、ああ……)
恐怖のあまり、ティーダは座り込んだ。
何が起きたかわからなかった。
彼女が何を言っているのかもわからなかった。
「それにしても……この鞭に、こんな便利な装飾品まであるのに殺されるなんて……
このオジサン、よ~っぽど弱かったのね。
あーあ。オジサンみたいな人がこんな上等なモノ持つなんて、おかしいわよ絶対」
肉片と血のこびりついた鞭を巻き取りながら、少女は言う。
そして――無造作に片足を上げた。
「あたしね……弱いくせに身の程をわきまえない奴が一番嫌いなの」
陶器を砕くような、柔らかい何かを踏み潰すような音が響く。
雲の切れ間から差し込んだ残酷な月明かりが、少女と足元にあるものを照らす。
見たくない、と思った。けれど見えてしまった。見てしまった。
無邪気な微笑み ブーツについた血 地面に降りた片足 どろりと濁ったナニか
飛び散った白い破片 土の上に転がる眼球 草に撥ねた脳漿 赤黒く汚れたナニか――
「――ッぁああぁぁぁあああああぁぁああああああああああ!!」
彼は叫んだ。悲鳴を上げて走った。少女から逃げるために走り続けた。
彼の存在にようやく気付いた少女が何か叫んでいたけれど、彼の耳には聞こえなかった。聞くだけの余裕もなかった。
ただ、少女から一刻も早く、一メートルでも遠くへ離れたかった。
――頭に焼きついた光景を、一秒でも早く忘れたかった。
「ひッ……はぁ、はぁ……はぁ……」
どれぐらい走っただろう。
ティーダはようやく我に返り、少女が追ってきていないことを確認して足を止める。
そして適当な木にもたれかかり、ずるずると身体を預けた。
サディスト、人の心がない、イカれてる、悪魔のような――様々な単語が頭に浮かぶ。
「……冗談じゃ、ないッスよ」
人殺しには見えない。そう思った通り、確かに『男を殺した』わけではない。
死体を傷つけただけで、ティーダ自身もエアリスに同じ事をしたのだから、どうこう言う権利もないような気がする。
しかし、しかし、しかし――それでも彼女の行為は異常だ。
死者に対する尊厳の気持ち、道徳心や良心……そういった、人が持つべき精神が存在していないのではないか。
そうでなければ、あんな真似できるはずがない。
ティーダはしばらくうずくまっていたが、やがてよろよろと立ち上がった。
「もうイヤだ……早くスピラかザナルカンドに帰りたいッスよ……」
そんな弱音を吐きながらも、ふらふらと歩き出す。
数十メートルほど歩いて、その足がまたもや止まった。
視界の先に見つけてしまったものが信じられず、呆然と立ち尽くす。
木々の向こうに、俯いている少女がいた。
とんがり帽子を被った栗色の髪の少女がいた。
走って逃げてきたはずなのに、自分が進もうとした先にいた。
そして彼女は彼の方に顔を向けて、何かを呟いていた――
「……あたしの手で、必ず捕まえる……」
その言葉だけが、やけにはっきりと聞こえた。
それから一体どこをどう走ったのか、ティーダは覚えていない。
恐怖に駆られるまま、悲鳴すら上げられずに走り続けて――気が付いた時には、砂浜にいた。
打ち寄せる波に向けて、真っ直ぐ走っていた。
そのまま海に飛び込んで、水しぶきを上げながら水面に顔を出し、大きく息を吸い込んだ。
そうやって深呼吸を何度か繰り返して、やっと落ち着きを取り戻すことができた。
ティーダはしばらく波間に漂いながら、周囲に人影がないことを確認する。
そして身を隠せそうな岩場を見つけると、海から上がってそこにうずくまった。
夜風の寒さよりも、恐怖心と不安に身を震わせて。
「……ユウナ、リュック……ワッカ、キマリ、ルールー……」
みんな、今ごろどこで何をしているのだろう?
そんな思いから、ティーダは仲間達の名前を呼ぶ。
縋る者を求めて、大切な人の名前を呼ぶ。
見知らぬ場所で独りでいることが、誰の助けもないことが、こんなにも心細いものだとは思わなかった。
いや、一度だけこんな気持ちになった時があったような気がする。
そう……あれは初めてスピラに来た時。リュックに会う前、遺跡の中で消えかけた焚き火を見ていた時……
助けはない、ここがどこかもわからない、死ぬかもしれない、理不尽に……
あの時に似た、そしてあの時よりもはるかに強い不安が、自分の中にある。
「……ミレーユさん、ターニア……」
二人は無事なのだろうか?
叶うなら……二人ともう一度会いたい。敵ではないあの人たちに会いたい。
いいや、彼女たち以外でも……敵でなければ誰でもいい。
ただ、一緒にいてくれるなら。
あの恐ろしい少女に狙われてしまったという恐怖を、少しでも紛らわせてくれる相手なら。
言葉が通じなくてもいい。種族や世界の違いなんて気にしない。
ただ、この孤独と恐怖から遠ざけてくれる……そんな『仲間』が欲しかった。
――ティーダはついに気付かなかった。
少女が二人いたということに。
もう一人の少女の発言の真意と、彼女と話していた相手の存在に。
「あいつは……もう一人のあたしは、あたしの手で必ず捕まえる。
それがあたしの責任だから……だから二人の気持ちは嬉しいけど、一緒に行くことはできないの」
少女は――アリーナは言った。
木陰に寄りかかっている金髪の女性と、その足元に立つもこもこした魔物に向かって。
「そっか……頼りになる仲間を見っけたと思ったのに。ちょっぴし残念だな~」
「ごめんね」
「仕方ないよ、そういう事情なら。
それよりこっちこそ、偽者の行方わかんなくてごめんね。
あ、でも……ナニか他に、あたし達でも出来そうな事があるなら遠慮なくズバッと言ってよ」
「そうだよアリーナ、ぼくも協力するから!」
「ありがとう……リュック、わたぼう。
……あの、それじゃあ、一つだけ頼みがあるんだけど」
「ナニナニ?」
「あたしの知り合い……ソロと、ライアンさんと、ミネアと、ピサロと、ロザリーさんって言うんだけど……
その人たちにあったら、偽者のこと伝えて欲しいんだ」
「ふむふむ……えーと、この緑髪の子と、こっちのオジサンと、この紫の髪の人と……」
「この男の人と、こっちの女の人だね?」
「そう。ミネアとピサロは、まだ大丈夫だとは思うけど……
ソロとライアンさんとロザリーは、間違いなくあいつに騙されちゃうと思うから」
「オッケーオッケー。
腕輪を着けてなくて、手袋を着けっぱなしなのが偽者だって伝えればいいんだね?」
「うん。あたしはずっと手袋外しておくから。
それと、あなたたちのことを知らないってことも付け加えておいて」
「りょーかい! 任せといてよ、バシッと見つけてビビッと伝えておくから」
「ほんと、ごめんね。迷惑かけちゃって」
「わたわた、迷惑なんかじゃないよ」
「そーそー。困ってる人を助けるのもカモメ団の役目です! なーんて言ってみたりして。
……だからね、ホント、アリーナも一人で無理しないでさ。
何か困ったことがあったら相談してよ。あたし達でよければいつでも力になるから」
「ありがとう、二人とも……」
リュック達は気付かなかった。
近くを走っていった青年の存在に。
ティーダは気付かなかった。
自分の勘違いに。
そして、お互いに気付かなかった。
すぐ傍にいた、仲間の存在に――
【ティーダ 所持品:鋼の剣 青銅の盾 理性の種 ふきとばしの杖〔4〕 首輪×1
第一行動方針:しばらく身を潜めて休息 第二行動方針:レーベに移動し、仲間になってくれる人を探す
最終行動方針:ゲームからの脱出】
【現在地:レーベ北東の森・海岸】
【アリーナ 所持品:プロテクトリング
行動方針:アリーナ2を止める(殺す)】
【現在地:レーベ南の森(最北部・草原との境目付近)→移動】
【リュック(パラディン)
所持品:バリアントナイフ マジカルスカート クリスタルの小手 刃の鎧 メタルキングの剣 ドレスフィア(パラディン)
【わたぼう 所持品:星降る腕輪 アンブレラ
第一行動方針:アリーナの仲間を探し、アリーナ2のことを伝える
基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す 最終行動方針:アルティミシアを倒す】
【現在地:レーベ南の森(最北部・草原との境目付近)→移動】
【アリーナ2(分身) 所持品:グリンガムの鞭、皆伝の証
第一行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない 最終行動方針:勝利する】
【現在地:レーベ南の森(南部)】