511話

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*第511話:走る風 巡る炎 村北部の森を抜けたところで、2人は少しの間、呆然と立ち尽くしていた。 目前で村を燃やす炎を吐く者のあまりの大きさに圧倒されたのである。 「こ…こんなモンスターも参加してるのか…」 「…バッツさん…まずは宿屋を…」 互いに、元いた世界で同じくらいの大きさの敵も相手にしてきた。 だがこの世界に来てから、モンスターではなく、人間ばかりを相手にしてきた2人にとって、 村で咆哮を上げているブオーンの姿はあまりに非現実的だった。 そもそもこの世界自体が、非現実の元に成り立つものなのだが。 バッツとソロの2人は、村の北の森で行方不明となったヘンリーを探していた。 そこで村の中央部の異変に気づいた。凄まじい地響きが伝わり、モンスターの咆哮が聞こえたのだ。 2人は、宿屋に残っているエリアたちの危機を感じ、村へ戻ることを決めた。 ヘンリーのことはもちろん心配だが、彼は戦闘技能を持っており、武器も所持している。 それに対して、宿屋の3人はあまりに無防備だ。 場所も分かっているし、彼らを助けるのが先決だろう…それが2人の結論だった。 幸いなことに、ブオーンは、2人には気づいていないようだ。 彼らのほうには背を向けて、西の森に向かって炎を吹いている。それが宿屋の方向でもないことに2人は少し安堵した。 ソロとバッツは村の広場へと続く道を急いだ。まわりの木々には燃え移っている場所もあり、熱い大気に皮膚が焼けるような感覚を覚える。 炎のライトアップで、宿屋の様子が見えてきた。炎は上がってないようだが、すでに半壊状態のようだ。 2人共、同じように焦りの表情を見せていた。 2人は宿屋の北隣の建物までやって来た。 だが、ここから宿屋までまだ少し距離がある。敵に気づかれぬよう、一気に走り去らないといけない。 建物の陰に隠れて、ソロが敵の様子を見た。今、怪物はこの建物の方を向いている。 急ぎたいが、奴が背を向けるまで待とう、とバッツに言った。この建物を破壊されないことを祈って。 「レナやリュックはどうしてるだろう…」 森からここまで全力疾走して来たために荒くなった息を整えながら、バッツが言った。 「わかりません…火事に巻き込まれていなければいいですが…」 彼女たちは戦闘能力があるから大丈夫…さっきまではそう思っていた。 しかし、あの怪物相手を相手にして、彼女たちが無事でいられるだろうか? エリアさんたちを助けなければならないのは当然のことだが、彼女たちやヘンリーさんはどうする?炎に囲まれる前に合流できるか? 誰かを見捨てなければならない…そんな考えが頭に浮かんできて、ソロは自分が嫌になった。 だがこの状況、全員と合流することは…せめて後で合流しようということだけでも伝えられたら…。 「おい、もう大丈夫じゃないか?」 急かすようなバッツの声で、ソロは巡る思考を止めた。怪物は今、宿屋とは逆の方向を向いていた。 「よし、行きましょう」 ソロは宿屋に向けて駆け出した。まずはエリアさんたちを助けることだ、後のことはそれから考えよう。ソロは無理矢理、自分の頭の中に浮かんでくる様々な考えを排除した。 2人は建物と宿屋の丁度中間あたりまで到達した。ブオーンは依然として彼らに背を向けている。 絶対にこっちを向くな…ソロは横目で怪物を確認しながら全力で駆けていた。 その時、ブオーンが一際大きな咆哮を上げた。 轟音に大気が振動し、ソロはたまらず立ち止まり耳を塞いだ。バッツも同じように立ち止まったようだ。 「っ……!バッツさん、行きましょう!」 ソロは再び走り出そうとした。だがバッツは動かない。巨大なモンスターの方を、呆けたように口をあけて見つめている。 「バッツさん!バッツさん!?」 バッツは宿屋に向かっていながらも、まず考えていたのはレナの安否だった。 精神不安定な状態は抜けたが、レナは武器を持っていなかったはず。 魔法があるとはいえ、あの巨大な怪物に襲われたら、無傷では済まないだろう。 だが、ソロが言うように、エリアたちが危機にあるのも事実。 レナの無事を祈りながら、エリアたちの救出を最優先にしていた。 ブオーンが轟音を上げた瞬間、バッツは思わず耳を塞ぎ、立ち止まってブオーンの方を見た。 そこで初めて、それまでは夢中で走っていたから、怪物の方は見てなかった自分に気づいた。 怪物の足元に見覚えのある剣が刺さっていた。炎による赤い光を浴びて輝く剣。 あれはエクスカリバーだ、なぜあんなところに?誰かあいつと戦ったのか? そして、紅蓮のライトアップの中、バッツは見てしまった。 偉大な騎士剣の側に横たわる桃色の髪を。血で染まる仲間の姿を。 「レ…ナ……?」 呆然と立ち尽くす男を、赤い狂気の目が捉えた。 絶望の炎が、2人の男を包んでいった。 ウルの村の南方、開けた草原にスコールとヘンリーをかついだマッシュは来ていた。 「…このあたりでいいだろう、人に見つかりやすいが、森は延焼の危険があるからな」 スコールがそう言って、そばの岩に腰掛けた。マッシュはヘンリーを草原に寝かせた。 「さて、これからどうするんだ?あの村をこのまま放っておくわけにはいかないだろ?」 マッシュが尋ねた。赤い炎が村を襲っているのがここからでも見える。時折、獣の咆哮のようなものも聞こえる。 マッシュとしては、あの村にエドガーがいる可能性だってあるのだ。村の状況が気になるのは当然である。 しかし、とスコールは横たわる緑髪の男を見る。 スコールとしては、この緑髪の男を放っておくわけにもいかない。救出したとはいえ、この男がリノアを殺めた者である可能性もあるのだ。 「…マッシュ、おまえ一人で見に行ってもらえるか?」 スコールは少し考えて、こう言った。今の状況では、これしか選択肢がないように思えた。 「…まぁ、そうなるよな。よし、ちょっと様子見てくるわ」 マッシュも状況を理解できる能力は持っている。特に質問もなく、スコールの問いに答えた。 「気をつけろよ。おそらくモンスターがいるだろうからな」 「わかった。必ず戻ってくるからな、そこ動くなよ」 その言葉を聞いて、スコールは心の中で苦笑した。 必ず戻ってくる、なんてこの世界でどれほど頼りのない約束だろうか。 だが、この男が言うと、何故か信用できるものになるような気がする。 「…ああ、だが不測の事態の時は互いに臨機応変に動こう。おまえがいなくても俺はやっていけるからな」 「あたりめーだ、恋人同士じゃねえんだぞ」 マッシュはニヤッと笑った。それに応えて、スコールも口はつむったままだが笑みを浮かべた。 「じゃあな、また後でな」 「ああ」 マッシュが風を切るように駆け出した。それを見てスコールは、マッシュが今まで自分に合わせて、全速力で走ってはいなかったことに気づいた。 足の速さじゃ、格闘家には勝てないな…そんなことを考えながら、スコールはマッシュの後ろ姿を見送った。 一人になり(隣に気絶している男はいるのだが) スコールはぼんやりと空を見上げた。 マッシュと同じ格闘家のゼルはどうしてるだろう?あいつが死ぬような状況を思い浮かべない。 きっと、いつものテンションのままで危機を抜けているのだろう。 ……この世界に来て、いろんなことがあった。 マッシュたちと出会い、そしてアーヴァインと最悪な場面で会ってしまった。 アーヴァインは今どうしてるのだろう、まだ殺人を続けているのだろうか。 そしてこの緑髪の男。武器は取り上げておいたので、目覚めてすぐに暴れるとかいうことはないだろう。 この男は、リノアの死に関わっているのだろうか。 …リノアの死。 それにティナの死、マリベルの死、エーコの死、アイラの死、そしてラグナ…親父の死。 信じられないほどの死があった。今でも信じたくない、全ては夢ではないのか。目が覚めれば、いつもの俺の部屋じゃないのか。 だが、これは現実。非現実的な真実。 そしてこの悪夢を生み出した元凶が魔女アルティミシア。 あの魔女の目的はわからない。だが、奴だけは絶対に許せない。この手で必ず倒してみせる。 しかし、この世界から脱出する方法はあるのだろうか。そう考えながら、脱出を阻む最初の関門を手で触ってみる。冷たい金属の感触が伝わる。 マッシュの兄、エドガーならばこの首輪を外せるのだろうか。 自分もSeeDとして、初歩の機械工学は学んでいるが、この首輪に関してはほとんどわからない。おそらく盗聴器がついているのだろう、というところか。 (…そう言えば、マッシュと離れるのは初めてなのか) この悪夢の始まりからずっと一緒にいたので、1日半以上行動を共にしていたことになる。 まるで恋人同士じゃないか…そう考えてスコールは先ほどのマッシュと発想が同じであることに気づき苦笑した。 一緒にいると、考え方まで似てくるのだろうか。 その時、スコールは南方から何かが近づいてくることに気づいた。素早く身構え、暗闇に目を向ける。 (速い…だが小さい…子供…?いや…) そこまで考えると、接近してくる者の姿がハッキリと見えた。 見慣れた4本足。ある意味、自分の最大の嫉妬相手だった者。 「アンジェロ……」 村中央部の異変に気づいた時、リュックはヘンリーを探して、村北東の森の方に入っていた。 中央部でのモンスターの咆哮、そしてまもなく上がった赤い炎。 (ビビたちがあぶない!!) リュックは急いで中央部へ向かった。その瞬間、ヘンリーのことは彼女の頭からすっかり忘れ去られていた。 リュックは東側から村に戻ってきた。 中央部に近づくにしたがって周囲の空気の気温は上がり、汗がじっとりと出てきた。 前方に見える巨大なモンスター。どう見てもヤツがこの火事の原因である。 「はーっ、こんなデッカイのがいたんだー」 巨大なブオーンを前にしても、どこか気楽なリュック。 ブオーンはリュックの方を向いているが、少し距離があるせいか、まだリュックには気づいていない。 一方、リュックは巨大なモンスターの前の2つの物体に気づいた。 それは魔力の淡い光を放つソロとバッツの鋼鉄の像。先ほど炎に包まれる瞬間、ソロが唱えた究極の防御魔法アストロンによるものであった。 だが、彼女は当然そんな魔法のことは知らず――― 「ソロ!!バッツ!!」 彼女にとっては彼らは敵の攻撃で石化したようにしか見えない。 リュックの大きな声によって、ブオーンは彼女の存在に気づいた。灼熱の炎が彼女を襲う。 リュックは持ち前のスピードで素早くそれを避け、2人の像の元に向かう。やはり動かない彼らを見て、リュックは怒りの表情を浮かべて、ブオーンをにらんだ。 「よくもソロとバッツを!!絶対に許さない!!」 リュックは最強の剣、メタルキングの剣をブオーンに向けて激昂する。 「アンタみたいな図体だけデカイやつなんてね―――」 「―――リュ…さ…ん」 「この伝説のガードのアタシがギッタギタの―――」 「―――リュックさん」 「メッタメタにやっつけてやるんだからね!!」 「リュックさん!!」 「へっ?」 自分を呼ぶ声にようやく気づき、後ろを振り向くリュック。その無防備なリュックの上空を狙って、ブオーンの放った稲妻が落ちてくる。 間一髪、ソロが彼女を抱えて飛び込む。凄まじい轟音と光が炸裂した。 「ソ、ソロ!元に戻ったの?」 「僕は大丈夫です!リュックさんは宿屋のエリアさん達を!!」 「え、でも…」 「はやく!!時間がない!!」 ソロの言葉に圧倒されて、リュックは宿屋に向けて駆け出した。 だが、逃がしはしないとブオーンが彼女を狙って右腕を振り上げる。 「イオラ!!」 ブオーンの右腕を狙い、ソロが爆発の魔法を唱える。空気を振動させる大きな爆発音が起こる。ブオーンは右腕をつかんで倒れこんだ。 自分の背後での出来事に驚きながらも、宿屋へ走るリュック。そして、ソロは急いでバッツの方へ向かう。 「バッツさん!バッツさん!」 ソロがバッツの両肩をつかんで激しく揺らす。 「レナが…レナ…」 だが、相変わらず一点を見つめて動かないバッツ。その2人を狙って、起き上がったブオーンの左腕が狙う。 たまらず、ソロはバッツと共に建物の陰へ転がり込んだ。 「バッツさん!しっかりしてください!!バッツさん!!」 バッツさんはさきほどからレナさんの名前を呼んでいる。 現在、その方向は怪物がいるため確認できないが、怪物についた無数のダメージの跡を考えるに、レナさんはここでこの怪物と戦闘したのだろう。 そしてバッツさんが見たのはおそらく…。 だが、今は悲しんでいる時間はない。事態は一刻の猶予を争うのだ。 「バッツさん!しっかり!しっかりしてください!!」 「…レナが…死んだ…?」 依然、虚ろな目をしたままのバッツ。 「くっ…!!バッツさん、すいません!!」 そう言うと、ソロは右の拳を握り、バッツの頬を殴った。衝撃にバッツの体がふっとぶ。 それと同時に、建物が崩壊する音も聞こえる。あの怪物がこちらに進んできているようだ。 「バッツさん!苦しいけど、今は急がなきゃいけない!!」 「……」 「レナさんがいなくなったことが辛いのはわかる!だけど、ここでバッツさんが死んでしまってはいけない!  自分の命と、他の仲間の命を守ること!それが、生きている僕たちの役目です!僕たちにしかできないことなんだ!!」 バッツはまだボーッとした顔をしている。だが殴られたことで、少しずつ目に生気が戻ってきたように見える。 ソロは一気にまくしたてたことで、少し息が上がっていた。怪物は依然進行を続けている。 もうこれ以上ここに留まっているだけの時間は――― 「…すまない、ソロ」 バッツが言った。目はどこか遠くを見て、だがはっきりとした口調で。 「…レナが死んだなんて…信じられなくてさ…だけど…俺がこんなんじゃレナに怒られちまうな…」 「バッツさん…」 「俺はまだ死なない、そしてもう誰も死なせない。その為に俺はどう動けばいい?」 「2人であのモンスターを倒しましょう。最悪でも、宿屋から離して、みんなの安全を確保しましょう」 「わかった。行こう、ソロ」 その瞬間、2人がブオーンから隠れていた建物が完全に崩壊した。2人がいた場所に瓦礫が崩れ落ちる。 だが、2人はすでに動き出していた。 ソロはラミアスの剣と天空の盾を構えて、バッツはアイスブランドを右手で強く握り、ブオーンと対峙する。 「ったく、こんなに強く殴ることねえのに」 ソロから殴られたせいで口から流出する血を左手でぬぐって、バッツは不平を述べる。その目は先ほどとは違い、生気に満ちている。 「あなたがあんな情けない顔してるからです」 冷静に言葉を返すソロ。熱き眼差しは倒すべき悪へ。 ブオーンは大地を震わせる咆哮を放つ。その目に映るのは破壊対象のみか。 決意を固めた風の戦士。 心強き天空の勇者。 そして狂気の巨獣。 3者の熱き戦いが始まった。 【ソロ(魔力少量 体力消耗)  所持品:さざなみの剣 天空の盾 水のリング  ラミアスの剣(天空の剣)  ジ・アベンジャー(爪)   第一行動方針:目の前の怪物(ブオーン)を倒すor宿屋から遠ざける。  第二行動方針:宿屋の3人(エリア・ビビ・ターニア)を助ける。  第三行動方針:ヘンリーを助ける。  基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す ※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】 【バッツ(左足負傷)  所持品:ライオンハート 銀のフォーク@FF9 うさぎのしっぽ  静寂の玉 アイスブランド ダーツの矢(いくつか)  第一行動方針:目の前の怪物(ブオーン)を倒すor宿屋から遠ざける。  基本行動方針:生き残る、誰も死なせない】 【ブオーン(左目失明、重度の全身火傷)  所持品:くじけぬこころ ザックその他無し  第一行動方針:潰す  基本行動方針:頑張って生き延びる/生き延びるために全参加者の皆殺し】 【リュック(パラディン)  所持品:バリアントナイフ マジカルスカート クリスタルの小手 刃の鎧 メタルキングの剣  ドレスフィア(パラディン) チキンナイフ 薬草や毒消し草一式 ロトの盾  第一行動方針:宿屋へ行ってエリア・ビビ・ターニアを助ける  基本行動方針:テリーとリュックの仲間(ユウナ優先)を探す  最終行動方針:アルティミシアを倒す】 【現在位置:ウルの村中央】 【スコール 所持品:天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、セイブ・ザ・クイーン(FF8)  吹雪の剣、ビームライフル、エアナイフ、ガイアの剣、ヘンリーの武器(キラーボウ、グレートソード、デスペナルティ、ナイフ)  アイラの支給品袋(ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ)  第一行動方針:アンジェロに対応  第二行動方針:気絶中の緑髪の男(ヘンリー)の見張り。  第三行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す  第四行動方針:ゲームを止める】 【ヘンリー(気絶)  所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可、HP1/4) G.F.パンデモニウム(召喚不能)   アラームピアス(対人) リフレクトリング  基本行動方針:ゲームを壊す。ゲームに乗る奴は倒す)】 【現在位置:ウル南方の草原地帯】 【マッシュ 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3)、モップ(FF7)、ティナの魔石、神羅甲型防具改、バーバラの首輪、  レオの支給品袋(アルテマソード、鉄の盾、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧、スタングレネード×6 )】  第一行動方針:ウルの村の様子を見に行く  第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す  第三行動方針:ゲームを止める】 【現在位置:ウル南方の草原地帯→ウルの村】

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