523話

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*第523話:カーネイジ(NO FUTURE) 咆哮と稲妻。 それがマッシュとブオーンの開戦の合図。 手負いの獣、そんなありふれた表現がぴたりとはまる相手。 降り注ぐ雷の第一波を覚悟を決めて弾丸のように突き抜け、巨体へと肉迫しながら格闘家の目は冷静に相手のダメージを見定める。 ヤツの左眼は見えていない。全身はあちらこちらが火傷、そうでなければ裂傷、あるいはその両方。 とりわけ右肩には深い傷がある。 重傷を負っている巨体には似つかわしくない反応速度で叩きつけられる右腕を紙一重にすり抜け飛び上がる。 スピードと体重を乗せた拳は遠慮なくモンスターの顎を下から叩いた。 鋼鉄の感触と相反する弾力。 分厚い肉が可能とする防御力に臆することなく続けざまに数発の打撃を打ち込んで地面に降りる。 こんな化け物をよくここまで追い詰めたもんだ、と感心するマッシュの目の前で緩慢に口が開かれ、赤い光が見えた。 「遅いぜ!」 薙ぎ払う炎に言葉だけを残してマッシュの肉体は跳躍する。 眼下を赤い波が過ぎていく。かわした、さあ反撃だと思った刹那、衣服からぱちりと静電気の囁き。 暗がりの向こう、カッと見開かれた鈍い光と目が合った瞬間、マッシュの視界が白く塗りつぶされる。 墜落、地面に打ち付けられる直前で身体のコントロールを取り戻し、何とか受身を取る。 片膝ついた低い視点から見上げる巨体はまるで負っているダメージを感じさせず、難攻不落の要塞のようだった。 「なんてやつだ……」 豪腕。被弾すれば大ダメージは免れ得ない。 火炎。あたりを火の海に変える受けることのできない吐息。 稲妻。避けがたく射程も広い破壊の光。 手負い? 追い詰めた? いや、この化け物はただただ凶暴性を増してきただけじゃないのか? 村の惨状、モンスターの傷、「誰か」の存在をぞくりと実感する。 兄貴のことだとか、緑髪だとか金髪だとかを超えて寒い想像が脳裡を這い回る。 だが、嘆く暇も悲しむ暇も迷う暇もない。眼前で再びモンスターの大顎が緩慢に開かれていく。 「ッの野郎ッ!!」 さっきのように跳んでしまえばここは開けた草原、稲妻の良い的にされるだけだ。 だからマッシュは今度は横の動きで吹き付けられる炎をかわす。 続けて大気が軋むような音を立て、それを呼び水に稲妻が雨の如く降り始めた。 だがそこにはもう誰の影もない。 放たれた矢のような目にも留まらぬ速さで格闘家の鉄拳は巨敵へとめりこむ。 「爆裂拳!」 力任せの破壊ではなく堅い防御を貫いて内部を破壊する技。 ならばこそ、モンスターの口から怒りとも苦悶とも取れる呻きが漏れた。 間髪入れず大岩の如き腕がマッシュめがけて振り下ろされてくる。 「来い!!」 自らを鼓舞するように一喝、頭上で両手を十字に組む。 襲い来る隕石衝突のようなインパクト、けれど鍛えられた肉体、力、精神は一歩も引かない。 鈍い音が掻き消え、衝撃が散り去る。一瞬、すべてが静止、そして。 「うおおおーーーッッ!!」 気合の叫びを後押しにして腕に込められた力が、爆裂するように大岩を弾き返した。 予想外どころかこのモンスターにとっては生まれて初めての経験かもしれない。 ともかく、自分の意思に反する力を腕に加えられ、巨体がそのバランスを崩す。 それを見逃さない。 ロック・クライマーが挑む壁のような身体自体を足場に使い、上へ上へと駆け上がる。 肩越しに見える夜空に浮かんで無防備を曝しているモンスターの顔がある。 この一撃、慈悲なく容赦なく叩き込む。 そう意を決して練り上げた気を両腕に集めていく。 見上げる暗がりに見開かれた鈍く光る一点を標的に上昇、そして淡く輝く腕を構えて。 「オーラキャノン!」 極太のレーザーのように、爆裂の魔法のように、まとめ上げた気をその光へと撃ち込む。 聞いたことのない苦痛と悲痛に塗れた獣の絶叫を上げ、巨体がのたうった。 見上げた空から、白く綺麗な光が降ってくる。 その光はやがて視界すべてを覆いつくし、そしてブオーンから光を奪った。 もはや肉体的な苦痛など感じなくなっていたはずのブオーンを、忘れていた痛みが襲う。 「グフォオオオオォォーーッッ!!」 空気を振るわせる絶叫、けれど彼の眼には一片の光も戻ってはきやしない。 失った何かを探すように、ただ闇雲に、手足をバタつかせる。 傷付いた身体を自ら掻き毟り、鉄槌のように腕を脚を地面へ叩きつける。 そうして触れる確かな地面と振り回す肉の重さにようやく己の生存を確信し、ブオーンは静止した。 取り付いた執念が考えことを促す。 どんな逆境にあってもくじけてはいけない。絶望するな、必ず道はある。だから出来ることをやれ。 諦めるな、くじけるな、信じろ! 内なる声がそう諭す。 だからブオーンは、さらに狂気と凶暴を深めていくのだ。 何としても生き残る、そのためには、この暗闇の世界すべてを破壊しつくすしかない。 ………ぜったいに、くじけない。 のたうちまわる巨獣にわずかばかり憐憫の情を抱きながら、マッシュはそれが動かなくなるまで睨みつけていた。 ねじが切れるように巨体がすべての動きを停止してもただじっと見つめ続ける。 まだ終わりじゃない。 現実に相手は動きを止めているが、確証はなくとも確信がある。 久方ぶりの静寂、途切れない緊張、引き延ばされた時間。 濃密な領域に割って入ったのは、背後に出現した気配だった。 惑わされることなく気迫ある視線を構え続けていたマッシュも声が届くに至り、ついにそれを崩した。 振り返ればそこには信じられないという表情の茶髪の男が立っている。 「……本当に、やったのか……?」 驚きを込めて呟いた男は付け加えるようにバッツ、と自己紹介した。 俺はマッシュ、シンプルにそれだけを返してから、語気を荒げる。 「何故来た? 下がってろって言っただろ!?  お前は巻き込まれないように緑髪の男を連れてできるだけ離れるんだ!  まだ……終わっちゃいない!」 「まだ!?」 小山のような巨体をじっと眺めるバッツの眼には疑いと納得が、納得優勢で混在して浮かんでいた。 その納得が体験に基くものであろうことを察して薄ら寒い想像が甦る。 「……ともかく、とりあえずでも今は動きを止めてるんだ。  なあマッシュ、俺たちと一緒に来てくれないか? 今ならみんなと合流できる」 「みんな?」 「…………みんなさ。リュックはきっと上手くやってくれてるし、ヘンリーもきっと無事だ」 暗くなったトーン、「きっと」などという言い回し。 真剣な眼を伴った確証を得て、薄ら寒い想像はマッシュの中で現実化した。 燃え盛る村の中に取り残されている「誰か」がいる。 ティナ、ラグナ、エーコ、イクサス、アイラ、ティファ、バーバラ…… 守れなかった顔がまばたいたまぶたの裏を通り過ぎる。 本来なら迷いなく駆け出すところ、それでも後ろ髪を引いたのは横たわる巨体に息づく確信。 判断に惑った数秒の間に、その確信もまた現実に姿を現すのだ。 突如白い閃光と、空気を切り裂く破裂音が耳目へと飛び込んでくる。 同時にその音の方向を振り返った二人の目の前でさらに三筋の稲妻が落ちる。 「こいつは!」 驚きに思考が続くより、事態の変化のほうが速い。 堰を切ったように今までにない規模でいくつもの稲妻が降り注ぎ始め、その一波がマッシュたちへ襲い掛かった。 ショックに耐える二つの呻きが重なる。 降りだした稲妻には方向性も正確な狙いもないようだったが、森の木に、焼け跡の地面に、燃え盛る建物に、 村周辺を丸ごと包むほどのかつてない範囲を巻き込み無差別に獲物を求めて襲い掛かっていく。 「ああっ、ソロ!」 目の前でバッツが誰かの名前を口にする。 その視線の方向…二人を襲った雷が続けて向かった方向で、マッシュはその名前が緑髪の男のものだと悟った。 気を失っている男が何かの抵抗などできるはずもない。白光の向こうに跳ね飛ばされる影を見た気がした。 改めてぼろぼろのバッツの姿を見、同じくぼろぼろだったソロの姿を思い出す。 緑髪だとか人殺しだとか、そういう疑惑はバッツの眼の輝きが打ち消していた。 気付けば突き動かされるようにバッツの手へと澄んだ輝きを湛えた石を押し込んでいた。 「マッシュ?」 「行け、バッツ! あいつは引き受けた! お前はソロや……『みんな』を助けるんだ。  その石には治癒の力がある。きっと手を貸してくれるはずだ!」 「一人でなんて無茶だ!」 「そっちが言うなって。そんなボロボロのお前に頑張られてもこっちが責任持てん!  こいつは元気に動ける俺にしかできない仕事だろ? 任せろ!」 「しかし!」 「ははっ、心配か? 安心しろ、まぁだ切り札の一つくらいはある!  だから、そっちは『みんな』助けるんだぜ?」 降り続ける稲妻が無数の破裂音を奏で、地面を光と火で埋めていく。 その光に照らされて、バッツは大きく頷いた。 「……わかった。死ぬな、マッシュ!」 「当たり前よ! たとえ、裂けた大地に挟まれようとも、俺の力でこじ開ける!  その石……ティナが守ってくれる、信じろ!」 無言で再びバッツが頷く。 握り締めた拳をこつんとぶつけ合った。 もはや振り返ることなく、稲妻の雨に臆することなく駆け出したバッツを見送り、 マッシュは不気味なほどに不動を保つ巨体を再び仰ぎ見た。 天より不意に伸びた一条の稲妻に打たれるが、動じず相手を見据えて呼吸を整える。精神を集中する。 燃え上がる魂の鼓動が、全身全霊を震わす力がマッシュに漲っていく。 「待たせたか? さあ―――決着の第二ラウンドといくか!」 【ソロ(HP1/4 魔力0 気絶 体力消耗)  所持品:ラミアスの剣(天空の剣) 天空の盾 さざなみの剣 ジ・アベンジャー(爪) 水のリング  第一行動方針:?  第二行動方針:宿屋の3人(エリア・ビビ・ターニア)を助ける。  第三行動方針:ヘンリーを助ける。  基本行動方針:PKK含むこれ以上の殺人を防ぐ+仲間を探す ※但し、真剣勝負が必要になる局面が来た場合の事は覚悟しつつあり】 【バッツ(HP1/10 左足負傷)  所持品:ライオンハート 銀のフォーク@FF9 アイスブランド うさぎのしっぽ 静寂の玉 ティナの魔石  第一行動方針:『みんな』助ける  基本行動方針:生き残る、誰も死なせない】 【マッシュ(HP3/4) 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3) モップ(FF7) 神羅甲型防具改 バーバラの首輪  レオの支給品袋(アルテマソード 鉄の盾 果物ナイフ 君主の聖衣 鍛冶セット 光の鎧 スタングレネード×6 )】  第一行動方針:目の前の魔物(ブオーン)を倒す  第二行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す  第三行動方針:ゲームを止める】 【ブオーン(HP1/6 両目失明、重度の全身火傷 重度の裂傷)  所持品:くじけぬこころ ザックその他無し  第一行動方針:すべて破壊する  基本行動方針:生き延びるために、すべて破壊する】 【現在位置:ウルの村西の草原】

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