501話

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*第501話:やさしさの結実:そこに残るもの 結局のところ、手にしているエクスカリバーは役に立っていない。 理由は単純に戦術面、わたぼうとのユニットにおいてでは (威力は出ないとはいえ)白・黒魔法が使える自分がサポートに回るべきだということ。 そのわたぼう、頼りにする相棒は予想以上に頼もしい存在であった。 夜の黒と照らす火の赤が入り混じるレナの頭上をバトルステージにして ふわふわもこもこは素晴らしいスピードを駆り巨獣を翻弄していた。 先程送り届けたブリンク、プロテスはきっと役に立ってくれるはず。 二匹の対比はノミとクマ程ではあったが、それでもノミは良くクマを抑えているよう見えた。 問題があるとすれば―― 天より降る炎と熱がひとしきり辺りを包み、とっさに呼吸器をかばったレナの肌を炙っていく。 そう、問題があるとすれば、明らかに出会い頭とは「使い方」を変えてきた炎。 小範囲を焼き尽くすのではなく広範囲に放射される集団を逃がさない炎熱の吐息。 あの怪物の荒れ様では何かの戦略まで考えているはずもないだろうが、 体力差と回復魔法の減衰により今の消耗戦を続けていては自分達も危険だし、それどころか村はますますめちゃくちゃになっていくだろう。 それでは勝ち目もみんなを、エリア達を守る目的達成も見えない。 分散しているだけ威力の落ちている炎を振り払い、逃がさないぞと言わんばかりに地面を槌打つ拳をかわし、 口中で編み続けたケアルガを頼れる相棒へ送り放つ。 何かどうにかしなければならない打開の一手が必要なのはわかっていたから、次に準備したのはサポートの白ではなく、黒魔法。 相手のそびえる巨大な体自体を足場に使い小うるさく三次元の空中を跳ね回るわたぼう。 全身の筋力を用い遺憾なくそのパワーを振るう巨獣を翻弄できるスピードは星降る腕輪のおかげだろう。 大きく虚空を薙いだ豪腕は魔法効果による虚像をかき消し、わたぼうに足場を提供する。 ところで。 モンスターというのは確かに危険な存在で――でも、それはとっても純粋の裏返しなのだ。 それだからこそ、容易に邪悪な雰囲気や負の感情に染まってしまう。 逆に親しみの心をもって接すれば仲良くなる事だってできる。 だからといって村一つ炎上させた相手に対してこの期に及んでまだそういう思考ができるのは精霊としての立場ゆえか、性格か? あるいは魔女の悪意に満ちたこの世界に影響されるモンスターという存在への憐憫か。 あるいは嗅覚に訴えかける彼の深い傷に対して構わずにいられない優しさか。 ともかくこのときわたぼうが描いていた考えは文にしてみると短い。 つまりは……「コミュニケーションできない、かな?」 と言う間にも相手だって行動しているわけで。 スピードでかわすことのできない、上のわたぼうから下のレナまで空間を埋めるように吐き散らされる炎にツッこまれ、地面へ。 久々の地面にふたんと着地、炎の熱さは以外に近くから届いた癒しの光に解かれた。 突破すべき、対峙すべき方向に背を向けて狙いは仰角45度、夜空へ向けて左手をかざす。 解き放たれたフレアは小さな光を空間に数粒撒き散らした後で爆裂。 あたりをただの火炎と性質を異にする光、そして音が埋め尽くす。 それに対して期待した通りのものと予想の外からのもの、時間差を置いて二つの反応があった。 期待通りなのは注目と取れる様子を見せた見上げる巨獣だ。 余韻を残して散っていくフレアの残骸から紅く重い視線はこちらへ移ってくる。 そう、それでいい。あなたが戦うべき、いや追うべき相手は私。 怒りか興奮か、真っ直ぐに自分を狙い打ち下ろされる一撃が地面に刺さるのを背にしてレナは駆け出す。 予想の外からやって来たのはいつの間にかのすぐ傍からの声。 「ねえ、レナ」 勝手に局面を動かした事について追認を求めねばならないこと、 もっと直言すれば自分の覚悟に巻き込んだことに後ろめたさを感じながら振り向いた方向には追走してくる相棒の姿があった。 予想外だったのはその目の光。 問いかけのための茶目っ気をまといながらその実、奥に強い意志を湛えた光。 『協力してくれないかな?』でシンクロした気持ちは不謹慎ながらどこか心地よかった。 「村から引き離すんだよね?」 「ええ。でも……巻き込んじゃって」 「いいよ、ボクももう少し頑張ってお話してみたいから」 「お話?」 「うん。あのね、モンスターってのは本来はとっても純粋で――ぇええっと!」 語尾は驚きに変調してはねる。 既に開始された誘導作戦。会話を打ち切らせたのは当然そこにある追いくる巨大な気配だ。 まず最初に追いついたのは空中から降るいなずまで、レナは身を投げ出して伏せる。 わたぼうは――驚くことにまるで自分が電撃を引き受けるかのように跳躍していた。 降りしきるいなずまを耐え、平気で着地するわたぼうの右手がひらひらと振られる。 「大丈夫だよ、はげしいほのおの方はこうはいかないけど」 「…本当に、大丈夫?」 「うん! でさ、あの子のすごい怪我…気付いた?」 「火傷。ずいぶんひどいみたい」 「あれはきっとすっごく痛いよ」 最初の対面から異臭のことにははっきりと気がついていた。 光量も情報も足りないせいで詳細までは分からないが、それが尋常な怪我ではないことも。 「それであんなに凶暴だっていう予想は…できるかもしれない」 「暴れまわるのは良くないけどさ、火傷して苦しそうでカワイそう。  できれば何とか戦わずに仲良くなれたらさ、いいよネっ」 無邪気な笑顔がそれを言う。可能性の低さに躊躇わない笑顔が。 それはとても愚かなこと、でも何かを切り捨てた心にはとても綺麗で清らかなもの。 「説得する気なの?」 「あはは、そーだね。まず叩いちゃった事は謝らないといけないかなぁ」 「…そんなこと本当にできると思って――本気?」 「もちろん。あのね、モンスターだって結構ちゃんと考えて生きてるんだよ?  心を通わせて一緒に戦う人だってホントにたくさんいるんだ。  それに――」 「それに?」 「この世界には…なんていうのかな、モンスターにわるーい影響を与えちゃう邪気がないんだよね。  魔女はあんなに悪そう、ううん、わるーいのに」 「影響する邪気?」 「そう、モンスターって純粋だからすぐそういうのに影響されて暴れだしちゃうんだ。  でも、ヘンだけどこの世界はそうじゃないから。きっとあの子にも何か理由があるんだよ」 「理由……か」 自分達とモンスター達の対置、戦う理由なんてそんなに深刻に考えたことはなかった。 ただ、大事な目的の前に立ちはだかるから戦わなければならない。そう割り切ってきた。 だって天秤にかけられるような物ではなかったから。 けれどもゲームの参加者として対等の立場に置かれ、モンスターは純粋なんて意見を聞かされ、状況に選べる枷を取り去られ、 優しさと理性はこの深刻な問いに改めて興味を示す。 「だからお話しするんだ。えと、協力して…くれる?」 「……優しいのね、わたぼうは」 「そうかな? 照れるな~」 「いいわ、もちろん協力させてもらう。あなたを信じる。  無理矢理連れてこられたゲームの被害者なのはみんな一緒…ですもの」 「ありがとう! レナだって優しいよ。きっといいモンスターマスターになれるよ!」 「?? ありがとう」 「よーし、それじゃあ、がんばるぞっ」 稲妻に遅れて近づいてくる巨体に気付き、わたぼうは軽やかにびしりと親指を立てた手を突き出した。 ほんの一時、一人と一匹、状況とは不釣合いなほどに心地よく笑いあう。 それを無くしていいものなのかどうかは分からないけれども 重なり響きあった心のうちに迷いや気がかり、ためらいは消えていた。 常軌を逸する暴力を誇る巨獣相手にいかに強くとも人間一人とちっぽけなモンスター1匹の1対2。 それでも回復魔法減衰の制限がなければもっとまともな戦いも選択出来たろう。 執拗に襲い来る炎は確実に体力を削り取り、一人と一匹を死の入り口へと押し込みつつあった。 それでも。 わたぼうの翻弄、レナのサポート、南西方面への後退。 豪腕と炎、いかずちの舞う苛烈な戦闘は挫けぬ心に支えられて続く。 挫けぬものは胸のうちに二つ。 一つは、希望。 無論、根拠さえない――けれど、信じるに足る精神が彼らのうちにはある。 私達が宿屋へたどり着くことはできないけれど、彼らはきっと代わりにやってくれる。 私は、そのための時間を支えきればいい。あとはバッツ、ソロ、リュック達に任せよう、信じよう。 だから、立ち続けられる。 一つは、信頼。 ともに戦ってくれる仲間――死地に付き合ってくれる仲間がいる。 モンスターは純粋なんて言っちゃう純粋なモンスター。 手にした武器じゃなくて言葉で、気持ちで立ち向かうことを選んじゃうような子。 彼が諦めないうちは私だって一緒。 だから、立ち続けられる。 真正面で物理攻撃を引き受けるわたぼうはすでに、戦闘の領域には立っていない。 炎に焼かれ時に打撃を被弾しながら、モンスター同士のコミュニケーション、いわゆるまじゅう語を用いて語りかけ続ける。 『ねえ! ねえってば! 返事してほしいな~』 耳が反応している。だから、聞こえていないことはない。 スライムから死体から無機物まで可能なことだ。意思の疎通が図れないとは思えない。 『君は…えーと、なんて種族? ぼくはわたぼう、タイジュの国の精霊なんだ!  さっきは叩いちゃってゴメンね?』 息が漏れるのに付き従って鳴った小さなうなりは返事ではないだろう。 どちらかといえば、何かを紛らわすような。 『傷…火傷が痛いんだね。でもそれならさ、なおさら暴れてちゃダメだよ。休まないと』 耳に届く優しげな語り口は、彼のうちに苛立ちと拒絶のさざ波を立てる。 おしゃべりには嫌な記憶しかなかったから。 「う゛る゛さ゛い゛っ゛!!」 乱れた音、けれど人にも理解できる言葉でそう、言った。 顕れた変化にレナは確認するように巨体を見上げ、 わたぼうは何がその言葉に秘められているかを知らぬままに返答を無邪気に喜んでいた。 「やっと喋ってくれた! ねえ、君の名前は?」 「キ゛エ゛ロ゛ォ゛ォ゛!!」 「ぼくわたぼう! そんなに怒鳴らないで。モンスター同士お腹を割っていこ?  君だってあの魔女には腹が立ってるんじゃない?」 「ブォオオオオッッ!」 すべての破壊は、力あるものの究極の逃げ道だ。 湖より進撃を開始してよりブオーンは流れ星、光、敵と平穏でない刺激を破壊する反応を続けてきた。 そんな彼は今、目の前の小うるさい奴へ深く鋭い殺意が浮上するのを強く自覚する。 ただ、おしゃべりには嫌な記憶しかなかったから。 怒り紛れに激しく振り下ろされる腕が虫でも潰すようにわたぼうを襲う。 その一撃は確率上の偶発か、運命の必然か。 これまでのどれよりも速く、どれよりも強く、どれよりも感情の乗せられたそれが小さな相手を叩き落とす。 その先、結末は一方的であった。 繕われてきたバランスはそこからたやすく崩壊する。 鈍い震動が空気と地面のセットで伝わり、レナは唱えかけていたケアルガを静かにキャンセルする。 一箇所へ向けて狂ったように叩きつけられる腕の下――もはや生命は残っていないだろう。 尽くせるだけの時間を「戦い抜いた」幾許かの満足と充足の裏で心のどこかの支えが断ち切れた事を実感した。 いや、まだ命あるこの身、右手の剣、まだもう少しやれる。 全身全霊をかけてわずかでも縫い止めて時を稼ぐ――決めかけた最終作戦。 けれどいつか止んだ音に気付いて小山のように佇む影を眺めた時に思い至る。 この子が、遥か前に感じられる今朝方、前の世界で見たあの「動く山」だったとは途中で気付いていた。 怯えていたエリア、唖然とした自分を思い出して、彼に心を馳せる。 いかにも怪物然とした姿の彼が過ごした今日はどんな一日だっただろう。 まるで悪役を運命付けられたかのように怖がられて、追われて、戦って? その結果あんな――片目をつぶされ、身体を焼かれ、彼に残されたのは暴れるという行為だけ。 わたぼうが言う「純真な」獣の心は身体と同様に傷つき、当然に不信と狂気に染まっていったのだ。 彼だって立場は同じだったって言うのに。 極限の先に残った優しさが、踏み出す自分の足を縫いとめる。 拳に残る感触と何かのカス、それに消えた声が終わりを証明している。 破壊の充足は、荒れ狂う心の海にほんのわずかな静面を与えた。 わめき散らされた小うるさい声がそこにかすかにこだまする。 狂乱に浮かんだ戸惑いと不安はしばし波に漂って辺りを平静へ作り変えたが、 すぐに澱となって渦を巻き水底へと沈んでいった。 けれどブオーンの心は挫けない。 生き延びる、かつての生ではただ身を守るために戦えば願えた事。 しかしこの世界では他を殺し、勝利せねば願えぬ事。 その答えは正しいのだとくり返し繰り返しくり返し唱える。 心の嵐の目は通り過ぎ、再び獣性と暴力の嵐は吹き荒れる。 憐憫に囚われて足を止めてしまった王女の優しさは紅蓮の火と吠え猛る腕にかき消えた。 相手に同情の余地もなければ結果は違っていたか。 あるいは身を賭すほどの責任感を負っていなければどうだった。 人を先、自分は後の自己犠牲的精神がかけらも無ければそもそもここに落ち込みもしないか。 なんにせよ結末は、たった一つ。 優しさは、 勝利から目を閉ざさせ、 戦いから目を曇らせ、 自分の命から目を逸らさせた。 残ったものは、変わらぬ巨獣一匹とウルの村に与えられたいくらかの時間。 優しさは、今は彼の心の底にわずかな澱を残すのみ。 【ブオーン(左目失明、重度の全身火傷)  所持品:くじけぬこころ ザックその他無し  第一行動方針:暴れる  基本行動方針:頑張って生き延びる/生き延びるために全参加者の皆殺し】 【現在位置:ウルの村 南西の村外】 【わたぼう 死亡】 【レナ 死亡】 【残り 53名】

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