460話

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*第460話:疑心暗鬼は猫と関係ない 沈滞していた屋内へと流れ込んでくるさっきまでとは質の違う空気を肌で感知する。 それから、物音、加えて複数人による声の応酬が鼓膜を叩いて、 床に身を横たえたままのギルガメッシュは薄く瞼を押し開ける。 暗く荒涼とした街路に人の姿は見えない。 だからアルガスは立ち並ぶ建物を探索することを主張し、ライアンはそれに追従する。 持ち主のいない、故に施錠も何もない扉を極めて注意を払いながら押し開け、 レイピアを構えるライアンを前に、用心深く暗がりを注視するアルガスを後ろにして忍び込む。 「次は…マジックアイテムの店か? 今度こそ使えるものの一つもありゃあいいがな。いくぞ」 丁寧な行動も三軒ほど空振りに終わり心中に苛立ちが波立つアルガスだが表情には出さないように努める。 それを察してか扉を指す仕草に無言でうなずいて静かに扉に張り付くライアン。 滑稽な事に店主などいないのにも関わらずかかっている看板からはそれが何らかの店舗であることを察することができた。 決意を胸にザックスは去り、いくら待てどもサイファーは帰ってこない。 三人に減った室内はランタンさえ灯さずに暗く重い雰囲気に漬かっていた。 地に足のつかない思考をループさせるイザ、ただ静かに祈りを捧げるロザリー、起きる気配のない赤い男。 時間の経過を感じられなくなりつつあったその空間で扉の動きが立てる微かな物音をイザの耳が拾う。 (……静かに!) 同じ音を聞いたのであろうロザリーとすっかり闇に慣れきった目でアイコンタクトを交わし、 手振りとほとんど音を伴わない声で動きを制止する。 緊張が手の先、足の先へと伝わっていく。傍らの剣にゆっくりと手をかける。 明らかに誰かの気配を感じ、じっとその方向を睨む。 来訪者が持っているのだろうランタンの光でやってきた誰かの輪郭が黒い像となり認識できた。 イザが自身を駆り立てるための動機にはそれだけの情報で十分で、その手の剣が空間を舞う。 異常とも言えるほどに慎重であったことはけして伊達ではない。 闇から来る不意打ち、それを予期していたかのように前に立つライアンは冷静沈着に対応してみせる。 精霊の剣と細身の刺突剣が金属音をあげてぶつかり小さく火花が散る。 「待たれよ! こちらは敵対する意思はござらん! 我が名はライアン、バトランドの王宮戦士!」 打ち合ったイザは警戒を解かず動ける体勢を維持するがこの戦士との二合目が訪れることはなかった。 後ろから驚きと親しみの混じった声が今しがた名乗られた名を繰り返したから。 「ライアン様? ライアン様なのですか? ああ…良くぞご無事で。私です、ロザリーですっ」 「ロザリー殿!? なんとロザリー殿ですか!? 確かにその声は…」 奥の部屋から飛び出して戦士の手を取るロザリー、 その姿を状況の変化を確認して入ってきたアルガスの手にある光源が照らす。 「…おまえらかよ。チッ、おどかしやがって」 「アルガス……君、……か」 朝方別れたばかりの既に知っている同士。お互いの認知は緊張した空気をとりあえず収拾する。 かたや喜び、かたや微妙な温度に包まれた二つの再会。 久しぶりに自分の意志をもってわずかに上体を起こしたギルガメッシュの目はどこかで会った姿を捉えていた。 思い出すのはほんの12時間ほど前の惨劇、彼もまたその渦中にあった人物。 惨劇の記憶、放送の声、省みる失望が渾然となってギルガメッシュの中で渦巻いていく。 会話が聞こえる。ライアン。そうだ、あの男の名はライアン、旅の扉の前にいた男。 既に過ぎた12時間はギルガメッシュにあの事件を冷静に振り返ることを可能としている。 被害者は三人、自分が見ることが出来たのはそのオープニングだけだ。 …しかし、フリオニール1人であの場の残り全員を敵に回しさらにワルぼうとフライヤを殺す、 そしてあまつさえ逃げ延びるなどということができるだろうか?つまり…… つまり、あの場に奴に手を貸した者がいる? あのタイミングはやつと誰かに計画されたタイミングだったのか? 容疑がかかるのはレオンハルト、カイン、スミス、ライアン。 カインとスミスは仲間、フライヤを失っている。可能性は低い。 残るはフリオニールと同世界の仲間であるレオンハルトと、目前の…壮年の男。 「おおおおおぉぉっっ!!」 自身のザックから探り出した剣を引き抜きつつ気合の掛け声と共に全身を使ってだんっ、と跳ね起きる。 その場のすべての会話が中断し、全員の目がその音源であるこっちを探るために差し向けられる。 わずか半日でこれほど体が鈍るものか?という重さを引きずりながら ギルガメッシュは埃を巻き上げつつ定めた相手へと突進する。 会話していた女性を咄嗟にかばうように前に出たライアンの剣とギルガメッシュの剣がこの屋内に二度目の激突音を響かせた。 そのまま鍔迫り合いへ。弱い光の中二人の目が合う。 「お主は……!」 競り合いは本来受けに向かないレイピアの剣身が限界を超えて折れることで終わった。 しかしギルガメッシュの剣は戦士を捉えることは無い。 横合いからイザが割って入ったからだ。 垂直に床へ振り下ろされたイザの一撃を引いてかわし、ギルガメッシュはぐるりと見る。 1対4。数的不利。出口を目の端で確認。 最も入り口に近い位置にいたランタンの男を弾き飛ばしてギルガメッシュは夜闇へと消えていった。 「ギルガメッシュ殿! お待ちくだされ!」 その背中を追ってライアンも飛び出していく。 残されたのは再度臨戦のスイッチが入ったイザと立ち尽くすロザリー、そしてわめき散らすアルガス。                             ・・ 「…んだよっ、あいつはッ! ……おいお前ッ、また、かよッ!!  ?…??…あぁー!? ザックが一つ無いッ! う…が……クソッ、クソーーッ!!」 思い切り壁に八つ当たり、足の痛みにまた聞くに堪えない雑言を吐き散らす。 「俺の奴…はある。こいつは…はずれの奴……これは移動用…  じゃ盗られたのはデジカメのザックか! ~~~~ッッああーーッ、畜生!!」 必要以上に血が上っているアルガスと対照的に表情も暗く沈んでいるイザ。 「…あまちゃんが。慈善活動気取りでいるからこんなことになるんだッ!  ああ? 失策ばかりじゃねぇか! だいたいな……」 「アルガスさん、それくらいに…喧嘩はよくないです」 見かねて声をかけたロザリーはアルガスに睨み返されて少しだけ怯むものの、 精一杯の笑みを崩すことはなく、その手はイザのザックから不釣合いな剣を引き出す。 何か言いかけたイザに目配せしてアルガスに話を持ちかける。 「えーと、アイテムの交換なんて…どうでしょうか?  ほ、ほらこの剣見てください。すごく立派な感じですよ。あの…どうですか」 不機嫌そうな舌打ちはするものの持ち出された剣はいわくありげな魅力的な代物に見える。 アルガスはふん、と鼻を鳴らしてロザリーの手からそれを引ったくりなめるように値踏みする。 「……正直あきれているがまあ確かにお前等を責めても全く建設的じゃない。  こいつはまあまあってとこの剣だな。じゃあな…こいつと交換な。  文句いうんじゃねぇ、釣り合わない分は迷惑料込みだ。これでも大サービスだと思えよ」 「ありがとうございます。もう言い争いはやめましょうね」 そう答えるロザリーの手に渡されるのは奇妙なアクセサリー。 ギルガメッシュを見失ったと戻ってきたライアンから広場への移動を提案されてアルガスは時計を覗き込む。 探索しても何かを得られる可能性は低そうだ。確かに潮時かもしれない。 使い物にならなくなったレイピアの代わりにライアンに兵士の剣を「貸し」ながら、 ようやくアルガスはサイファーの不在に気付く。 イザとロザリーはザックスのことも含めて放送後のことを説明した。 「あー…単純馬鹿だな。まあ町を探してる奴がいるからそっちが見つけてるかもな」 「ロザリー殿にイザ殿も来ませぬか? アリーナ殿もおりますよ」 「まあ、アリーナ様もご無事なのですか? アリーナ様も…偽者なんてお気の毒な話です。  ですけど、サイファーさんがこちらに戻ってくるかもしれませんから」 「だから、アルガスにライアンさん。サイファーがいたらよろしくお願いします。  無事合流できたならまた後で会いましょう」 カナーンから遠ざかっていく孤影。ギルガメッシュ。 頭が冷えていくつれて一方的にライアンを攻撃したことを悔いるようになってきた。 いくら疑わしいといえど疑惑はグレーゾーンに留まっているのだから。 けれど心中に渦巻く他人への不信感は嘘ではない。 バッツとレナ以外の人物を信頼できるだろうか? いや、その二人だって今の自分は無条件では信じられない気がする。 (何を考えてんだ、俺は) 人を信じるとか信じないとかそういう軋轢を片隅に追いやる。 今しっかり見据えているべきは疑わしい面々ではなくて、確実に黒いあの男。 フリオニール。 あのうつろだった目、そして最後に見た明らかに異常な悪意ある眼を持つ男。 ――今はただ、復讐を成し遂げる。 「イザさん…」 二人の去った後。 託されたとはいえ助けたはずのギルガメッシュの態度、アルガスの追い討ち。 イザの雰囲気は話し掛けづらく、彼も口を開こうとせず思考にふけっている。 「ねえ、イザさん。ほら、見てください。似合ってますか?」 灯された淡い光に照らされて頭上にネコのミミを乗っけたロザリーの姿が浮かび上がる。 「………」 「…やっぱり変なのでしょうか。こういうアクセサリーは私には似合わないでしょうか?  ……ピサロ様は…なんて…言ってくださるのかな」 「あ、いやゴメン。ええと、あー、ええと、よく似合ってると思うよ。  ………ゴメン、気を遣わせてしまって。  どうしたって僕らは前に進むしかないんだから落ち込んでる暇なんてないはずだ」 「サイファーさんだって、ライアン様だって、リュカ様だって、  みんなここからどうにかして脱け出そうと頑張っています。私たちもその一員ですよ」 「…そうだね。ありがとう、ロザリー」 「いいえ、どういたしまして」 曇り空が晴れるようにイザがまとっていた暗い雰囲気は薄くなっていた。 小さなカンテラの光も心なしか明るさを増したように感じられた。 【アルガス  所持品:カヌー(縮小中)、皆殺しの剣、光の剣、ミスリルシールド、パオームのインク  妖精の羽ペン、ももんじゃのしっぽ、聖者の灰、高級腕時計(FF7)、  マシンガン用予備弾倉×5、タークスのスーツ(女性用)、エクスカリパー  第一行動方針:アリーナたちとの合流場所へ  最終行動方針:脱出に便乗してもいいから、とにかく生き残る 【ライアン 所持品:兵士の剣、折れたレイピア、命のリング  第一行動方針:同上  第二行動方針:アルガスに借りを返す】 【現在位置:カナーンの町】 【イザ(HP3/4程度) 所持品:ルビスの剣、マサムネブレード  第一行動方針:サイファーを待つ  基本行動方針:同志を集め、ゲームを脱出・ターニアを探す】 【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル、E猫耳&しっぽアクセ  第一行動方針:同上  基本行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】 【ギルガメッシュ(HP1/2程度・人間不信気味)  所持品:厚底サンダル、種子島銃、銅の剣、デジタルカメラ、デジタルカメラ用予備電池×3、変化の杖  第一行動方針:フリオニールを倒す】 【現在位置:カナーン北・北へ】

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