9話

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*第9話:ロマンティックな夢を求めて ロマンティックじゃねえな、とサイファーは思った。 このゲーム、この状況、不満に思うのは当たり前だが サイファーの抱えている不満は、普通の人が思うそれと少々ベクトルが違う。 殺しあうことに抵抗感があるわけではない。 敵の命を奪えないようではSeedはおろか、ガーデンにすらいられない。 問題は、自分が百人の中の一人に過ぎないということだ。 これがもし、「千人と戦って勝ち抜け」という内容だったら喜んで従っていただろう。 自分一人だけが受け立つ者だからだ。 千人の挑戦者を切り捨ててなお、会場に立ちつづけるチャンピオン。そこには英雄のロマンがある。 だが、今はどうだ。 チャンピオンでもない、魔女の騎士でもない。司令官でもない。 特別でもなんでもない、百個以上ある駒の中の一つ。 それが今の自分だ。まったくもって夢のない話じゃないか。 サイファーはふてくされたように、ごろりと地面に寝転ぶ。 「魔女の騎士、ロマンティックな夢……憧れてたんだがな」 現実は優しくない。まったくもって優しくない。 こう言ったのは誰だったか。別にどうでもいいことだが。 彼は半ば投げやりな気分で、重なり合う木の葉の間から空を見上げた。 本ですら知らない異郷の地でも、空の色だけはバラムと変わらない。 それがサイファーにわずかな安らぎを与える。 だが次の瞬間、そんな気分は呆気なく打ち砕かれた。 「きゃああーーーっ!」 絹を裂くような悲鳴が、森中にこだましたからだ。 反射的に身を起こしたサイファーの前に、一人の少女が飛び出した。 美しい少女だった。天使のような顔立ち、汚れを知らぬ瞳、エルフを思わせる尖った耳…まるで物語から飛び出したような。 「待て! 逃がすか!」 そして彼女のすぐ後ろから、一人の男が姿を見せた。 少女はこの男に襲われて、必死で逃げてきたのだろう。 手足は擦り傷だらけで、息は上がり、髪もドレスも乱れている。 「あ、あ……」 少女は、前に立つサイファーと背後の男を交互に見つめ、身を硬くした。 おそらく死を覚悟したことだろう。ここは殺し合いの会場なのだから。 だが、サイファーにはなぜか少女を殺めようという気にはならなかった。 「追われてるのか?」 サイファーの問いに、少女も男も呆然としていた。質問の意味がわからなかったのかもしれない。 「おい、こいつに追われてるのか?」 もう一度聞いた。少女はようやく正気づいて、かすかにうなずく。 サイファーは小さく笑って、少女を庇うように踊り出た。 突っ立っていた男が怒号を発する。「貴様、邪魔をする気か!?」 今だ震えの止まらぬ少女がか細い声を出す。「なぜ…?」 その答えは、正直なところサイファー自身にもわかっていない。だが、あえていうならば―― 「若き騎士が悪党に追われる少女を助ける、ロ~~~マンティックな話じゃねえか」 【サイファー 所持品:破邪の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能)  第一行動方針:少女(ロザリー)を助ける 第二行動方針:不明】 【ロザリー 所持品:不明  第一行動方針:ピサロに会う 第二行動方針:とにかく逃げる】 【現在位置:アリアハン南の森】 【リヴァイアサンに(略) 所持品:アイスブランド、不明  第一行動方針:ゲームに乗る】 【現在位置:アリアハン南の森】

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