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*第347話:自由意志
この世界に飛ばされてから数十分、シンシアとエドガーは黙っていた。
とりあえず隠れて少し様子をみようと、手近な木陰に身を潜めているということもあるのだが。
――デッシュとランドが死んだ、目の前で殺された。
その事実が二人の、特にシンシアの心を打ちのめしていた。
この殺戮ゲームが始まってから自分を支えてくれていたザックスがこの場にいないのも要因の一つだった。
「行くか」
急に発せられた声に、シンシアはビックリする。エドガーが立ち上がり、荷物を手に取る。シンシアも慌てて立ち上がった。
「行くんですね」
「ああ。…とりあえず、もう一度仲間を探すしかない。ところでシンシア」
「はい?」
「本当に、行くか?」
「え?」
エドガーの言葉が意外なものであったため、シンシアはろくな反応ができなかった。ポカンと口を開けたまま、エドガーを見る。
「デッシュがいない今もう一度首輪を解析しようとすると道具もそうだが人も必要になる。…正直、勝算があるわけじゃない。
しかし私はやる。勝算があるとは言い切れないってことは、死ぬかもしれない」
『死』という直接的な言葉はシンシアをどきりとさせた。
「で、でも」
「一緒に行動しているとはいえ、私の考えで君を危険なことに巻き込みたくない。
おそらくザックスも私の立場ならそう言うだろう。だからここで君の意志を問いたい。
私は今言った。道具と仲間が必要だと。道具は―…まあ、その辺の民家で探すことにする。仲間を今から探す」
エドガーの言いたいことが、何となくだがシンシアには理解できた。
一個人を尊重するとでも言いたいのだろう。エドガーらしい考えではあった。
「そうですか…」
シンシアはうなだれた。自分は必要とされていないのか、と思った。
ここで行くか否か聞かれるということを「どっちでもいい」とシンシアは受け止めた。
エドガーは自分が一緒でなくても、一緒でも、結局どちらでもいいのだと。
いや、こういうことを改めて聞かれるってことは足手まといになってるからだろう、と
どこまでも後ろ向きな考えに陥ってしまった。
「…ンシア?」
「え、あ、ハイ!」
慌てて返事をする。きっと何回も呼ばれていたのだろう。
「仲間を今から探すんだが―…まずは身近な君からだ。もし良ければ、これからも私と一緒に来てくれ」
「え…?」
「さっき言っただろ。聞いてなかったのか? 仲間を探すって。君の意志を問いたいとも言っただろう」
エドガーはやれやれといった感じで言った。
「エドガーさん…」
瞬間、視界がぼやけてきた。
「君は信頼できる女性だ。巻き込んでしまうかもしれないが、
こんな馬鹿げたことをやめさせるために、協力して欲しい」
エドガーの言葉も、今のシンシアにはぼやけてしか聞こえていなかった。
―ああ、私は必要とされているんだ。
この殺人ゲームの中で、残った良心に。
私は、いらない人間じゃない。
私は、今、生きている。
泣いてる? 嬉しいから? 信頼できるって、エドガーさんに言われたから?
泣いている…なんで?
―そうか・・・生きているから!
嬉しさのあまり、シンシアの思考はいろんな方向へ飛んでいた。
しかしその思考を、銃声が遮断した。
「ここから近いぞ?!」
エドガーの緊張した声が、今度はやけにはっきりと聞こえた。
【エドガー(右手喪失) 所持品:天空の鎧 ラミアの竪琴 イエローメガホン
【シンシア 所持品:万能薬 煙幕×1(ザックその他基本アイテムなし)
第一行動方針:仲間を捜す 第二行動方針:首輪の研究 最終行動方針:ゲームの脱出】
【現在地:カズス北西の森】