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*第109話:日没
アリアハンの大地が夕日に照らされる。
アルスとシドはその大地の上で、地平線に近づいていく夕日を見つめていた。
「絶景だな」
「綺麗だろ?僕の故郷だからね」
濁りの無い海は、赤い光を受けてキラキラと輝く。
ここが殺し合いの会場だという現実を忘れてしまいそうなほどに、綺麗だった。
「暗くなってきたわね…」
セリスが窓の外を見てつぶやく。
彼女の目の前には、ベットに座って紅茶を飲む少年――パウロがいた。
セリスのつぶやきに、パウロはカップを置いて身を震わせる。
「あら、どうしたの?」
「…いいえ…夜は、怖いなと思って…」
セリスは、その理由に苦笑しながら答える。
「確かに…そうね」
そうして、また窓の外へと視線を動かす。
(一体、これまでにどれだけの人が死んだのか…? ロック…貴方は無事でいる?)
窓から見える夜空には、ぽつぽつと星が見えはじめていた。
今この部屋で耳に届くものは、パウロが紅茶をすする音だけ。
静かだ、とセリスは思った。――しかし。
ドオオォォォォン――――――――!!!!
突如、大地の裂けるような轟音が響いた。空気が、大地が大きく震動する。
パウロは突然の揺れに悲鳴を上げ、紅茶の入ったカップを床に落として割ってしまう。
ドサドサと音を立てて棚から本が滑り落ち、ぎしぎしとベットが大きな音を上げた。
セリスは必死で自分の身体を支える。――この地震は、いや、地震にしては何かがおかしい?
彼女がそう、思うと同時に――あの、魔女の声がアリアハンの大地に降り注いだ。
星の見えなくなった、闇のような空が裂ける。
そこにぼんやりと映し出される姿――ゲームの主催者、魔女アルティミシア。
「生贄共よ…最初の日はどうであったか?」
地獄の底まで響くような声。
聞くだけで絶望を感じさせられるようなそれは、大陸のどこにいたとしても否応なしに耳に入るだろう。
「この地で魂を無くした、ゲームの脱落者達の名を知らせておく。
一度しか言わぬぞ…貴様らの下らぬ友情を交わした人間の名が無いか、心して聞け。
「ブライ」「カンダタ」「アモス」「ローラ」「イル」
「クルル」「キノック老師」「ビッケ」「ガーネット」「ピピン」
「トルネコ」「ゲマ」「バレット」「ミンウ」「アーロン」
「竜王」「宝条」「ローザ」「サンチョ」「ジークフリート」
「ムース」「シャドウ」「リヴァイアサンに瞬殺された奴」「リチャード」「ティナ」
「ガーランド」「セシル」「マチュア」「ジオ」「エアリス」
「マリベル」
三十一名…予想以上に良いペースだな。その調子で裏切りと殺戮を繰り返すが良い。
脱落者の名は、これから日が落ちる時と上る時…一日二回読み上げる。
…それから、下らぬ馴れ合いをしている者がいるようなので忠告しておこう。
隣にいる者を殺さなくては、いずれ殺される事になるということを…忘れぬようにな。
…期待しておこう。次の放送時間には、貴様の殺めた者の名を読み上げられる事をな…」
アルティミシアは、微かに不気味な笑い声を上げた。
空気の振動が収まり、闇に覆われていた空に星が戻り始めてからも…暫くの間、笑い声だけが微かに大陸に響いていた。
【アリアハン大陸:昼→夜へ】