373話

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*第373話:二つの願い、二つの奇跡 赤い色彩を撒き散らし、森の中に倒れた少女。 その脇に立つ、少女と同じ姿をした『何か』が呟く。 「なるほど……あの小娘に継承したか」 金色に輝く瞳を遠くに向けて、それは無表情に笑う。 「広間に集めたのは失敗だったかもしれぬな。  あのわずかな時間で、私以外の継承者を見出していたとは……な」 魔女の力の継承は面識が無くてはできない。エルオーネのジャンクションと似たようなものだ。 見知らぬ相手に意識を接続できないように、見知らぬ存在に継承を行う事は魔女の力を持ってしても不可能。 だからこそ、魔女アデルは己の後継者を探し出すために少女を狩り集めた。 しかし――例え名前を知らなくても、顔を見ていればそれは『面識』として成り立つ。 大魔女バーバレラの後継者として生まれ、今では夢の世界の身体しか持たぬ少女。 そんな特異な存在だからこそ、リノアの遺志と魔女の力を惹き付けて、己の元まで導くことができたのか。 あるいは、時空の魔女と全く同じ力を持つリノア・ハーティリーだからこそ出来た芸当だったのかもしれないが。 「称えてやろう。伝説の魔女よ。  死に瀕してなお、私に抗う……その愚かさだけは」 微笑むこともせず、されど邪悪に満ちた瞳は死した少女を確かに嘲笑い。 「……さて。愉快なモノが見れそうだ」 黒い髪を白銀に煌かせ、闇色の翼をはためかせて。ソレは骸に背を向けると、静かに歩み出した。 舞い落ちる羽。白い翼。 あの青いワンピースにも描かれていた、彼女の象徴。 けれど――そこにいるのは赤い髪の少女。リノア・ハーティリーではない、別の誰か。 鉱山から出てきたゼルは、その光景を前に立ち竦んでいた。 少女を包んでいるのは、紛れもなく魔女の力だったから。 リノアだけが持つはずの力だったからこそ、その意味を理解できなくて。 されど、少女がゆっくりと手を掲げるのを見て、ようやく動く事を思い出した。 「ロラーーーーン!! 逃げろぉおおおおお!!!」 全力で叫んでから、一気に走り出す。 炭鉱内にではない。そんなことをすれば、閉じ込められてしまう可能性がある。 魔女の力が生み出す真の魔法の恐ろしさは十分に知悉しているつもりだ。 だからこそ外へ。リルムを腕の中に抱え込み、少女から少しでも遠ざかるために。 後ろを振り向く時間はなかった。ただ、祈るしかなかった。 ロランが何とか逃げきってくれることを。魔法が紡がれる前に、仲間達の元へたどり着くことを。 ゼルの叫びを耳にして、サラマンダーもようやく少女の異変に気が付いた。 鳥のそれであるにも関わらず、竜を思わせるほどに大きな白翼を背負い。 異形に変じた彼女は、どこも見ていない金色の瞳を二人に向ける。 トランス。サラマンダーの脳裏にその単語が浮かび――しかしすぐに違うと気付いた。 トランス状態は、単に自分の潜在能力を引き出せるだけに過ぎない。 魔法として紡がれていないのに風を起こし、電撃が這うような感覚を与えるほどの絶大な魔力。 数千数万の魂を集めてトランスしたクジャですら、ここまでの力を持ってはいなかった。 ロランも気付いた。 全てを滅する力を持つ存在が、そこに現れたのだということに。 (ゼル……) 彼は逃げろと言った。 事実、逃げなければ、この恐るべき天使がもたらす死に飲み込まれるだけだろう。 満ちる魔力は目に見えるオーラとなって、虚空を震わせている。 彼女が何を望み、何をするつもりかは知らないが、――『それ』が成された時、自分が生きているとは思わない。 (……リルム、ゼル、サックス――フルート) 仲間の顔が浮かぶ。ムースとパウロと同じ、掛け替えのない友の顔が。 死を前に挫けそうな心を奮い立たせてくれる。そんな守るべき人達の顔が。 「僕は……ロトの血を引く……破壊神を破壊した男だ……」 だからこそ、自分に言い聞かせるように呟き、 「だからこそ……勇者の血筋と、僕自身の誇りにかけて。  皆を、仲間を守るために……」 静かに剣を構える。 「君を、止める」 少女はふらふらと宙を彷徨う。 息を呑むサラマンダーには目もくれず、それ以前にどこを見るでもない瞳を街並みのほうに向けて。 彼女を包む光に共鳴するかのように、不意にラミアスの剣が鈍い光を放つ。 けれど、サラマンダーは気付かなかった。 少女に、そしてロランに気を取られていたから。 ロランは駆ける。 少女が右手を上げた。 ただ放たれていただけの魔力が渦を巻き始め、同時に、大地の神の名を冠した剣が閃く。 一瞬。 ガイアの剣が、無防備なバーバラの心臓を貫き。 収束した力が、閃光となって迸り。 血に染まった剣を握り締めるロランを、魔力を受けて鳴動するラミアスの剣を携えたサラマンダーを、 真紅の飛沫を胸から散らしたバーバラ自身を、 間に合わないことを悟りリルムを抱きかかえて地面に伏せたゼルを、 町の入り口にたどり着いたティーダたちを、 宿屋を、武器屋を、民家を、鉱山を、木々を、カズスの町を飲み込んで。 その光を切り裂くかのように、ラミアスの剣が輝いて―― 音無き轟音が、大地と天空を揺るがせた。  天空の剣。  あらゆる魔を打ち破り、無に帰すとされるその力は、天空の神が与えたものだという説が残されている。  そしてまた、一説には……竜神に力を与えたのは、育ての親である一人の魔女だったとも―― 原型を留めていない街並みの中で、焔色の髪を持つ男は立ち尽くしていた。 相対していた剣士は、左腕と顔の半分しか原型を留めていない。 後は肉片であり、骨片であり、血飛沫であり、炭としか呼べないものになっている。 (――なのに、何故、生きている?) その言葉は、果たしてどちらに向けたものか。 己自身か、目の前で言葉を紡ぐ少女か。 「……えて……こーるに……」 途切れ途切れに呟くバーバラ。その胸には、ロランの剣が突き刺さったままだ。 心臓を貫かれ。常人でなくても即死であるはずの傷を受けてなお、彼女はただ喋り続ける。 「あい……てるって……かれに……つたえて……」 「……彼?」 聞き返したサラマンダーに、バーバラは少しだけ首を傾げる素振りを見せた。 「すこーる……ううん、いざ……すこーる……」 言いかけて直ぐに訂正し、また先の名前を言う。壊れた蓄音機のように。 「そう、壊れかけ」 サラマンダーの思考を読み取ったかのように、誰かが囁いた。 「壊れかけの器。希望の竜に託す力も、あの剣に与えてしまった。  今は、魔女の力があるから動いている。動いているだけで、死ねないだけ。  だから何も出来ない。思いを伝えに行くことも、己の願いを叶えることも」 口ずさむように言葉を紡ぐ少女は、ゆっくりとバーバラに近づく。 アレクサンドロスの王女にも似た長い黒髪を風になびかせて。天空と同じ色の衣に身を包んで。 美しくも邪悪な、金の輝きを瞳に宿して―― サラマンダーは立ち上がり、バーバラと少女の間に割って入る。 深い理由はない。ただ、目の前の相手から言い知れない『何か』を感じたからだ。 それを見た少女は、無表情に手を振る。 ぱぁん、という音がして、身体が宙に浮いた。 見えない力で弾き飛ばされたのだと気付いたのは、地面に叩きつけられた後だった。 少女は……少女の姿をした邪悪な『何か』は、バーバラの傍に立つ。 「永遠に眠るがいい、夢の魔女よ。  お前の願いは届かない。リノア・ハーティリーの願いが届かぬように。   運命はいつだって残酷だ――誰の祈りも叶えはしない」 子守唄を歌うように囁きながら、ソレはそっとバーバラに触れた。 そして、止まった。 もがいていた指も、言葉を紡いでいた唇も、動いていた胸も、全てが止まった。 サラマンダーは息を呑む。 ようやくわかったのだ。目の前にいるものが何なのか。 「……何故、だ?」 ソレは答えることもなく、ただ、くるりと身を翻した。 硬直するサラマンダーには目もくれず。 ゆったりとした優雅な足取りで、壊れた町の向こうに姿を消す。 サラマンダーは立ち尽くしていた。 とうの昔に見えなくなった魔女の後ろ姿を見つめながら、白銀の光を宿す剣を手に、いつまでも立ち尽くしていた。 『伝えたい』。奇跡を引き起こしたのは、その願い。 悲劇を引き起こしたのも、その願い。 視界は白く塗りつぶされ、爆風と衝撃が身体を翻弄し、宙に投げ出す。 地面に叩きつけられて、二、三度バウンドし、それでようやく終わった。 「……っー、なんだよ、一体!?」 悪態をつきながら身を起こしたティーダだったが、次の瞬間、息を呑んで固まった。 町が、壊れていた。 周囲を包んでいた森の木々は全て薙ぎ倒されている。 石造りの家並みは見る影もなく破壊され、一部は溶けてすらいる。 地面は抉られ、あるいは焼け焦げ、吹き飛ばされている。 今、自分がこうして生きている事自体が奇跡と思える。そんな光景が、目の前に広がっていた。 「……え……なに、これ?」 唐突に響いた声にティーダは振り返る。 アーヴァインが顔を上げていた。かつて町だったモノを、呆然と見つめていた。 「うそ……ねぇ、なんだよ、これ……ゼル、は? なぁ……なんで、なに、なん、………」 たどたどしい呟きは、やはり唐突に止まり――絶叫に変わる。 「ぅうぁああああああああああああああーーーーーッ!!!  ゼル、ゼルーーーッ!! ぁあああああああああああああああぁぁあーーっ!!」 記憶を失ってからというもの、何回みっともなく取り乱したことだろう。 けれど今からすれば、それなりに余裕が残っていたのだと思う。 自分を情けないと思ったり、外面を取り繕って言葉を選んだり、激情を隠すだけの余裕が。 でも、もう、無い。 「ゼルーっ! うそだ、いやだぁああああああああああーーーっ!!  うわぁあああああああああああああああああーーーっ!!」 自分でも信じられないぐらい大量の涙をぼろぼろこぼし、 自分でも何を言っているのかわからないほど、ひたすらに叫び続けて。 向こうに行こうと足を動かそうとして、けれど身体はついていかず、地面に躓いて、受身も取れずに転んで。 そんな自分の姿を無様だとか情けないとか、思う事も、気付くことすらも出来ない。 ティーダは立ち竦んでいた。ユウナは口を押さえながら、壊れた町を瞳に映していた。 プサンは無言で呆けているように見えたが、拳を固く握り締め、町のどこかを睨んでいた。 ただ一つの慟哭だけが、虚空に響き、木霊して―― 「ぎゃーぎゃー騒いでんじゃねぇよ、バカ野郎!」 ――どこかで、誰かが言った。 「あ……?」 アーヴァインの、涙でぶれた視界の向こうに、金色の輝きが映る。 最初は目を疑った。幻を見ているのではないかと。 それから自分の頭を疑った。現実を受け入れられずに、気が狂ってしまったのではないかと。 ――けれど、その人影は確かにそこにあり。 声も、紛れもなく空気を震わせて返ってきた。 「ケッ、テメーに泣かれたって嬉かねーよ。リノアやユウナならともかく」 「そーそー。モヤシ男なんかに心配される義理はないからね」 ティーダも、ユウナも、プサンまでもが目を見開く。 すぐそこまで、歩いて来ていた。 相変わらずの憎まれ口を叩くリルムを腕に抱えて。 閃光に飲み込まれたはずのSeed――ゼル・ディンが、呆れたように四人を見ていた。 「あ……あ、ああ・……」 ぐしゃぐしゃに汚れた顔を上げながら、アーヴァインが言葉にならない声を上げる。 「落ち着けってんだよ、バカ野郎。  オレ様があの程度で死ぬわけねーだろうが」 「いやいやいやいや、フツーは死ぬッスよ!?」 ぶんぶん首を振りながら、幽霊を見たかのような表情でティーダは叫ぶ。 ユウナとプサンも、ティーダに同意するかのように頷いた。 「な、何で……無事だったの?」 ユウナの問いかけに、ゼルは「死んだ方が良かったかよ?」と口を尖らせながらも答える。 「正直、オレにもわかんネェよ。  何となくヤベェってのがわかって、せめてコイツだけは庇おうと思って抱きかかえてうずくまってよ……」 彼は片目を抑えているリルムを地面に降ろし、言葉を続ける。 「気がついたら二人とも無事だったから、フツーに歩いて帰ってきた」 「……それ、ちっとも説明になってないっつーの」 「だからオレにもわかんネェっつったじゃねーか」 呆れ顔のティーダに言い返した後、ゼルはまだ泣き続けていたアーヴァインの肩を軽く叩いた。 ――本当は、ゼルにはわかっていた。 何で自分達が助かったのか。 一つは、G.F.ディアボロス。 勝手に発動して、自分を庇って消滅してしまった。いくら挑戦しても召喚できなかったのに、最期の最期で。 ――何かの理由で、魔女の封印が解けて、それで召喚できたのだろうか。 暴走した魔力が封印に干渉して、一時的に弱まってくれたのかもしれない。 ……あるいは、ゼル自身の思いにG.F.が応えて起こった奇跡だったのか。 『リルムを守りたい』。もうダメだと悟った時、本気で、心から願ったのはそれだった。 もしかしたらその願いが届いて、ディアボロスが力を貸してくれたのかもしれない。 己を犠牲にしてでも、守ろうと――そう、してくれたのかもしれない。 もう一つは、ロラン。 いくらディアボロスが庇おうと、二度も三度も魔法を喰らってたら、やはり死んでいただろう。 誰かが止めたのだ。敵と呼べる存在がいなくなるか、発動者が意識を失うまで止まらないはずのヴァリーを。 ……あの時、自分は逃げろと叫んだ。 けれどロランのことだから、逃げるよりも戦う事を選んでしまったのだろう。 だから、止まったのだ。魔法が一度放たれただけで止まったのだ。 きっと、『あの』ロランだから、彼自身の身がどうこうではなく。 ただフルート達やリルムやユウナ達や自分を生かそうとして―― 『守りたい』。それぞれが祈った、その願い。 奇跡を引き起こしたのも、その願い。 【サラマンダー(疲労) 所持品:ジ・アベンジャー(爪) ラミアスの剣(天空の剣)  第一行動方針:? 第二行動方針:アーヴァインを探して殺す  基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る(ジタンたちも?) 】 【現在地:カズスの村・ミスリル鉱山入り口付近】 *ラミアスの剣で天空の剣の効果(凍てつく波動)が使用可能になりました。サラマンダーは気付いていません。 【リルム(右目失明) 所持品:英雄の盾 絵筆 祈りの指輪 ブロンズナイフ】  【ゼル 所持品:レッドキャップ ミラージュベスト】 【第一行動方針:なるべく仲間を集める  最終行動方針:ゲームから抜ける。アルティミシアを倒す】 【ユウナ(ジョブ:白魔道士、軽傷)  所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子】 【プサン(軽傷) 所持品:錬金釜、隼の剣  第一行動方針:ドラゴンオーブを探す  基本行動方針:仲間を探しつつ、困ってる人や心正しい人は率先して助ける 最終行動方針:ゲーム脱出】 【アーヴァイン(身体能力低下、HP2/3程度+軽傷、一部記憶喪失)  所持品:竜騎士の靴  第一行動方針:自分の罪を償う/ゲーム脱出方法を探す】 【ティーダ(軽傷)  所持品:鋼の剣 青銅の盾 理性の種 ふきとばしの杖〔3〕 首輪×1  ケフカのメモ  着替え用の服(数着)  第一行動方針:ユウナ達と一緒にゲーム脱出方法を探す】 【現在地;カズスの村・入り口】 【ロラン 死亡】 【バーバラ 死亡】 【残り 68名】

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