397話

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*第397話:戦場の前で アルスは苦悩していた。 やはり迷いがあるのか、自分は。と自身を忌々しく思いながらもカナーンへと走っていた。 悪を殺そうという覚悟はできている。だがそれでも無血の道を模索しようとしている自分も、心の中で小さくも確実にいる。 ふと、自分はなんて傲慢なんだろうと思ってしまった。 例え仲間が悪と手を組んでいても、必要ならば仲間ですら斬ろうという覚悟もある。 ならばたとえ道中に独りになろうが、自分は悪を倒さねばならないのではなかったか。 しかし自分はフリオニールという悪を逃がし、一方でギルダーという悪にも出会えないままだ。 それに本来の目的―――仲間との再会も、ローグと会っただけでそれ以前もそれ以降も成し遂げられていない。 だが覚悟は出来たと人に嘘を言う。実際、昨夜はまだ迷いがあったのにシドには「覚悟は出来た」と嘘をついてしまった。 「矛盾、葛藤……くだらない、くだらないな僕は……」 だがアルスはそう呟きながらも、確実にカナーンへと向かっていた。 そして、アルス本人は知らないが父のいるあの場所へ辿り着こうとした時、アルスの足は止まった。 同じようにカナーンへと向かう3人の男女の存在に気づいたからだ。 そう、それはサイファーとロザリーとイザ。そしてまた彼らも、アルスの存在に気が付いた。 3人は数時間前からずっとカナーンへと歩いていた。ただ単純な話、近いという理由からだった―――最初は、だが。 だが爆発音を聞き、彼らは自分たちの進路について深く考えてみる必要が出てきた。 「まぁでも、戦いがあるっつー事は何か理由の一つや二つはあんだろ」 彼らは歩みを止めなかった。 海岸沿いにカナーンを目指し、歩き続けた。 そして、アルスに出会った。 「荷物を置け、んで両手を上に上げろ」 「………わかった、指示に従おう」 サイファーのこの言葉に、アルスは抵抗せずに従った。 そしてサイファーはしばらくそれを見つめると 「もういい。悪かったな」 そう言って、アルスの元へ近づき荷物を渡した。 「これくらいで信用するのか?」 「脅しをかけた方から歩み寄らねぇと、てめぇが損だろうが」 そして数メートル後ろにいたロザリー達も、サイファーのいる場所へと近づいた。 「あの…失礼だと思いますが、あなたは何をしてらっしゃるのですか?」 今度はロザリーがアルスに話しかけると、 「今僕はカナーンに急いで向かっているところだ」 「そうだったのですか。実は私たちも、その村に向かっているのです」 「ほう……」 アルスは普通に答えた。別に渋る情報ではないからだ。 そして答えを聞いたイザは何かを思いついた。 「じゃあ僕たちと共に行動しませんか?」 「断る」 しかしアルスは即座にイザの提案を却下した。 「……急いでいるんだ。他人の歩調に合わせる余裕等、今の僕は持ち合わせてはいない」 「そりゃなんでだ」 サイファーもアルスのその答えに即座に反応する。 そしてサイファーがこう問うと、アルスは暗く重い声で、 「ゲームに乗った人間を、殺す為だ」 こう、答えた。それを見たサイファーは、軽く咳払いをした。そして――― 「アルス、俺はな……今ロザリーの手助けをしてる  だから俺はイザの提案がロザリーの得にもなりそうだから、イザの意見に賛成したいところだ。  それに俺らも後々でかい奴を相手に戦う。その為の仲間も1人でも欲しい。俺自身は大勢と群れるのは好かねぇがな。  だからよ、てめぇが一緒に行動してくれるとありがたかったんだが……」 捲くし立てる様に、サイファーはそう話した。 そして更に、 「……この提案を跳ね除ける程の、人を殺す覚悟はどれ位だ?俺らがどれ程邪魔になる?長くなっても良い、言え」 驚くほどストレートに、尋ねた。 「……覚悟など、今の僕は十分すぎるほど背負っている。僕の殺した人間のかつての仲間を悲しませようが、僕は殺す。  そしてたとえ僕のかつての仲間が、僕が殺すべき悪と共にこの地で手を組んでいたとしても……必要であれば、仲間も殺す。  だからサイファー。とにかく仲間を探すお前と、かつての仲間と殺すべき人間のみを探す僕は必ずこの先道を違える。  現に今も確実に差異と壁と溝と違う未来がある。ただ、僕はこのゲームを確実に潰す。魔女如き僕の手で倒してやる。  だからいつか、僕の願いが、僕の望みがお前たちと合致した時……その時僕は改めてその話を受けよう」 一寸間を置き、アルスは自分の思いを語った。 そして自身の全ての思いと全ての言葉で、サイファーの言葉を否定した。 「ある意味、傲慢だな」 「ああ、そうさ。今の僕はとても傲慢だ。ここまで言葉を並べ立てたのに……まだ僕は悪を殺せていない」 サイファーのこの言葉を聞き、アルスは自嘲して答える。そう、傲慢だ。自分はなんて傲慢なのだろう。 これ程の覚悟があると散々人に語り、仲間に語り、これから先かつての仲間に語ろうとしている。 だがそれでも自分は悪を殺せず、悪を逃がし、悪から逃げ、そして今ここにいる。 アルスは、あのカナーンの村を見た。 サイファーも見た。相変わらず闘いは終わっていないのだろう。 「お前の覚悟はわかった。共闘するゆとりもなさそうだな、"今のお前"は」 「ああ、そうだ。傲慢な人間ですまなかったな」 「別にいい。そこまで俺はてめぇを傲慢だと思ってねぇ……だが」 「だが……?」 「だが、そこまでの覚悟があるなら必ずやり遂げろ。今生きてる"悪"とやらを全部殺すくらいでやれ。  それが出来なきゃお前は完全に傲慢な人間に成果てちまう……判るな?覚悟があるならやり遂げろ」 「………」 「それが出来てねぇ今のお前は、そのままじゃ本当に傲慢な人間になるだろうよ」 サイファーの言葉は静寂を生んだ。 イザもロザリーも、そしてアルスも黙ったままだ。 だがサイファーは続ける。 「必ず仕留めろ。生きている者に止めを刺さねぇ奴は傲慢らしい……なんかの映画で見た」 「エイガ……?まぁいいか、覚えておく。もしカナーンで会ったなら、その時はまた宜しく頼む」 問答を追え、アルスはカナーンへと走っていった。 それをサイファーが暫く見つめていると、ロザリーがいつの間にやら彼の隣にいた。 「サイファーさん……」 「いいだろーが、俺らもあいつと同じ事を目指してんだ。それに……覚悟だけ並べて何もしない奴は嫌いだ。  もし同じ志持ってる奴が、んな奴だったら反吐が出るからよ……ほら、行くぜ!」 「ええ、あのアルスさんという方の様に急ぎましょう。実は大変な何かがあるのかもしれないですから……」 そしてアルスは、相変わらず疾走していた。 そして思う。自分は次こそは必ず悪を討つ事が出来るだろうかと。 先程の彼らと会う前は、必ず討つと意気込んでいた。 だが、どうしても今の自分には無理なのではないかと不安が過ぎる。 サイファーにもただただ言葉を並べ立て、"嘘をついた"。 本当は自分は仲間が欲しい。 自分と同じ道を進む人間がいれば、全く同じ人間を討とうと考える人間がいればどんなに気は楽だったか。 だが少しでも道を違う可能性があるなら、自分は人と共に行動する事はできないのだ。 してしまえば、自分と他人は互いに邪魔をしてしまうだろう。 ………いや待て、違う。それは違う。ようやく判った。 つまり自分は、同じ考えを持つ人間と共に動き、そして自分一人に圧し掛かる重圧を軽くしたい、そう思っているだけなのだ。 なんて自分勝手で傲慢なのか。そうやって自分は、敵味方関係なく人を遠ざけたのではないか。 歩み寄る人間がいたはずなのに。かつての仲間にまで共に歩む気を起こせなかったのはこういう事だ。 苦悩の理由は自分の迷いじゃないか。 アルスは足をピタリと止め、笑った。自分への嘲りを全て吐き出し、笑った。 そして気づかなかった。その後ろに彼らがいたことを。 「よう、す~~~ぐ追いついちまったな。何笑ってんだ?」 サイファーは、アルスの顔を覗き込んでそう言った。 アルスは驚くものの、そのサイファーの問いに答える事もなく言った。 「……気が変わった。僕はあのカナーンの闘いを止める。  その時だけでいい……少し、僕に力を貸してくれ」 「……上等!!」 【イザ(HP3/4程度) 所持品:ルビスの剣、エクスカリパー、マサムネブレード  第一行動方針:カナーンの村へ急ぐ 基本行動方針:同志を集め、ゲームを脱出・ターニアを探す】 【サイファー(右足軽傷)  所持品:破邪の剣、破壊の剣 G.F.ケルベロス(召喚不能) 白マテリア 正宗 天使のレオタード ケフカのメモ  第一行動方針:同上 基本行動方針:ロザリーの手助け 最終行動方針:ゲームからの脱出】 【ロザリー 所持品:世界結界全集、守りのルビー、力のルビー、破壊の鏡、クラン・スピネル  第一行動方針:同上 基本行動方針:ピサロを探す 最終行動方針:ゲームからの脱出】 【第一行動方針(共通):セフィロスとクジャを倒す 第二行動方針(共通):ゲームからの脱出】 【アルス(MP4/5程度・疲労)所持品:ドラゴンテイル ドラゴンシールド 番傘 官能小説3冊  第一行動方針:サイファー達と共にカナーンへ行く  第二行動方針:イクサスの言う4人を探し、PKを減らす  最終行動方針:仲間と共にゲームを抜ける】 【現在地:カナーン北西・湿地帯→カナーンの村】

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