542話

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*第542話:A point in the dark 彼女は、背を向けてひたすらに走っていた。 表向きの理由をあげるなら、それは仲間の魔物を殺した男から逃げるため。 だから、進むルートどころか足元さえ闇に覆われた森の中を振り返りもせず、 小さな身体で樹や土に何度もぶつかって小さな傷を作りながら、ひたすら進める方どこまでも背を向けて走っていた。 けれど足を止められないのは後ろから男が追ってきている気がするから、だけではない。 彼女が本当に恐れているのは、殺人鬼なんかではなく答え――真実――だ。  ピエールはどうして戦いを止めてくれなかったのか?  どうしてお父さんはああならなければいけなかったのか?  自分は一体何から逃げ続けているのか? 止まったら、考えてしまったら答えに追いつかれてしまいそうで、少女はただひたすら背を向けて走っていた。 どれくらい時間が経ったかなどもうタバサにはわからない。 少女の体力はペースも何も考えず動き続けたことで消耗し、森の中では歩くほどの速度もでていない。 それでも止まることは出来ず、恐れと焦りに背中を押され無理やりに手足を動かし続ける。 暗闇の中でもがき続ける。 『タバサ!』 正常な感覚を持ち、正常な精神状態にあればタバサも後方からかけられた声に気が付いたはずだ。 それから振り向いて誰、何? くらいのリアクションは返すはず。 けれど暗闇をただひたすら背を向けて突き進む状態が正常とは言いがたく、 まして後ろから来るものなんて今の彼女にとっては恐怖の対象以外の何物でもなかった。 殻に閉じこもるみたいにギュッと身を縮め、つまずいた身体をつき手でギリギリ支えて声に背を向け前へ進んでいく。 『おい、待てって!』 もう一度、今度はいくらか必死さを帯びた声が追いかけてくる。 少女は恐怖が見せる恐るべきやり口に肩を叩かれないように、背を向けたままひたすらに逃げた。 思考は体力と共に削ぎ落とされて、追いつかれないために逃げなくてはいけない、というごくシンプルなレベルに落ち込んでいる。 息を切らせ、苦しみに喘ぎながらそれでも何も見ず、聞かずに走り続ける。 終わりは突然。 突然その肩を誰かの手で強引につかまれ、タバサの逃走は終わりを迎えた。 急に体勢を崩されてタバサは柔らかく、しっとりと湿った苔の香りのする地面に肩から突っ込む。 錯乱した、悲鳴以外にとりようのない小さな甲高い音が彼女の口から洩れた。 それでもなお背を向けて逃げようとした彼女の腕に誰かの実体のある手が伸び、逃がすまいと引っ張る。 「オレだ、ジタンだ。敵じゃない、頼むから信じてくれ」 暗闇がそう言った。同時に別の手も伸びてきて無理やり声に向かって正対――つまり後ろを向かされる。 暗がりの中、ごく近くに誰かの吐息がありそのずっと後ろに小さな火が揺れていた。 それから、ジタンと名乗るごく近い吐息が何か優しく喋りかけていたこと自体はタバサも覚えている。 けれど、話す内容もそうだし、そもそもジタンがどこで出会った誰であるかなんてことさえ彼女は思い返していなかった。 彼女は今、限界ギリギリの崖っぷちで背後を振り向かさせられていた。 体力と精神の両面から責められて一つの行動を求め続けるレベルまで細っていたタバサの頭脳が、 強引とはいえ身体の動きを制御する役目を止めさせられて、形而上の仕事に押し戻される。  ピエール、お父さん、ピエールを殺したおじさん。 続けざまに振り切ってきた映像に追いつかれ、タバサはただ怯えたように鬼火のように灯った赤を見つめていた。 上下左右に揺れながらゆっくりゆっくりと近づいてくる火は、 タバサの中でとっくの昔に溶け合って一つの形を成した答えをさあ耳に脳に身体に刻み込んでやるぞと、 完全に優位に立った悪役がやるようにゆっくりゆっくり煽り立てながらタバサに迫ってくる。 ほんの少し、そうほんの少し。 混乱と恐怖と錯乱にとりつかれたタバサの耳でも聞き分けられる声が来るのが遅かったら。 暗闇に向けて彼女は何か、取り返しの付かないことを唱えていたかもしれなかった。 けれど、そうはなっていない。まだ取り返しは付く――多分。 「タバサちゃん!」 磨り減った頭ではすれ違うようにしか関わっていないジタンは思い出せなかった。 だが、少なく見ても一と四分の三日程。この非日常の世界で行動を共にした彼の名はまだ呼び起こすことが出来た。  セージおにいさん。 どこか闇の中にそれほど大きくない人一人分の質量が着地する気配。 姿が見えないため、自然とタバサの脳裏に浮かんでいた三人の顔にセージが加わった。 だが、やはり取り返しは付かないのかもしれない。 結論から言えば状況も、時間も、場所も、方法も、人選も、この闇の中の一地点はすべて何かを間違っていた。 暗闇から返事が無いことにセージはほんの少しだけ落胆し、 それから目の前で家族と仲間が相討ちするという出来事が少女に与えたダメージを慮り痛み入る。 「タバサちゃん、僕だ。セージお兄さんだよ」 確認させるような二度目の声にも返事は無く、雰囲気が重くなっていく。 本当にタバサがそこにいるのかさえ疑ってしまう。 とにかく、時間が必要になるだろうとセージは考える。 彼女を癒せるのはたくさんの時間とそばにいる誰かの優しさだけだ。 今はまず、待つことから始めるしかない。 共通支給品のランタンの明かりが最後の障害を越えて三つの息がある森の中の空間へ到達する。 同時に、暖かな赤っぽい光が真っ暗だったタバサの網膜に像を結んだ。 逆光だけど、セージ、そしてジタン。光源の傍にいるのは、プサン。 ゆっくりとランタンを手にしたプサンが二人に近づき、大体同じあたりに並ぶ。 それでもまだ、マッチを擦って現れる幻みたいにそれが虚像なんじゃないかとタバサは疑った、いや信じたかった。 幻だったら、死んだりはしないから。  お母さんは、一緒にいたのにどうにもできなかった。  お父さんは、一緒にいたからわたしをかばった。  ピエールは、わたし達と会ったからああなった。 自分にとって重すぎる三つの死を、タバサはすべて自分を軸にして認識するほかなかった。 悲痛すぎる出来事を客観的に見ることが出来るほどに彼女はまだ大きくはなかったから。 けして十分でない光量の灯に照らされた三つの顔。 だが、現実はもっとも非情な方法で彼らが現実であることをタバサに対して証明する。 鋼鉄の盾を鋼鉄の剣で思いっきり叩いたような音が連続して闇を切り裂き。 槍を思いっきり樹にでも突き込んだようないくつもの音が鈍く、しかしはっきりとその音に応え。 灯火が掻き消えた夜の闇の中で嗅覚が、何が起こったのかを断片的に証言した。 答えはやはり、繋がっていたのだ――これまでも、これからも。 ごく狭くしかし重要で大切な、少女の世界でこの二日の間に起きたことが恐怖と溶け合って出来た答えはつまり、 自分に関わったせいでみんな傷付き、倒れ、死んでいく―― 死の足音を鋭敏に感知したタバサは恐慌ともいえる状態に一押しで立ち戻ってしまった。 原因をどうにかしないといけない。つまり、自分がここにいてはいけないんだ、と。 このまま一緒にいたら、必ずみんな死んでしまう。そう信じてタバサは反射的に呪文を紡いでいた。 次の銃撃から彼女をかばうつもりでセージが闇の中、タバサの名を呼んでいる。 その彼に向けて、タバサは別れの呪文を完成させる。 『マヌーサ』と。 もともと視覚が役に立たない闇の中ながら、生まれた幻がセージの目にかすかな視覚情報を与える。 その誤った手がかりに踊らされる彼に背を向けて、彼女は再びひたすらに走り出した。 耳元の発射音を押しのけて入り混じった複数の命中音が闇の奥から聞こえた。 きっといくつかは樹じゃない何かに当たってる。でも本当にそんなの聞き分けられるんだろうか? なんてことを考えながら、凶弾を放った人物――ユウナは手馴れたガンプレイを終えたばかりの銃を 指先でくるりと一回転させてしまいこみ、感覚的に南の方、つまり彼のいるキャンプの方向へと身を翻した。 視覚情報が制限される真っ暗の森の中において、あたり前だが対人レーダーほど対人警戒に役に立つ道具はない。 朝までの時間を潰すかのように、あるいはキャンプに戻るための心の整理……どちらでもいいけれども とにかくウロウロしていたユウナが最初に見つけたのは、動きの遅い光点一つだった。 こんな時間にこんな暗い森を一人で動き回る奴がまともな人に思えるはずもなく、彼女もまずは警戒から入った。 接触する気など毛頭なく、レーダーの利を生かして回避することがこの時点での彼女の方針。 けれどもその一つの点を追うように三つの光点が現れたとき、ユウナは別のことを想像し始めた。 ゆっくりと逃げる一人、それを追いかける三人。 単純にこの世界のルールに照らし合わせると、それは機嫌を損ねた誰かをみんなで迎えに行くなんて軽い構図ではなく 恐らくは反撃にでもあった殺人者を反撃した三人がこの世の敵を一人狩るべく、追撃しているとしか思えない。  だったら―― 続きを考えかけ、ユウナはそこで思考を停止させた。 だったらどうだというのだろう。その三人がどんな三人かユウナにはまだ分からないのだから。 理由は無い。そう、その三人はきっとエドガーとは違うはず。殺す理由なんか、ない。 けれど、森のずっと向こう、 位置捕捉可能の円内、すなわち自分の射程圏を通り抜けて行く彼らの明かりである火が闇の彼方に揺れたとき。  だったら、撃ったって構わない、よね? 標的のランタンの灯以外は真の闇。ガンナーである今の自分。エドガーを殺めた銃。狙撃の状況は揃った。 さらに、素晴らしい理由も後押しする。  撃ったのはわたしじゃない。エドガーを撃った誰か、なんだから。そう……わたしじゃなくて。 もう、行動を妨げるものは何も無かった。 暗闇の一角に身を晒し、木々の間に揺れる火とレーダーの光点を眺めながらチャンスを待つ。 ランタンの火のそば、必ずいる誰かに対して引金を引くために集中を高めていく。 そして三が一に追いつき、揺れる火が一点に止まったとき。 彼女はクイックトリガーにより一つのミッションを滞り無く完了した。 「セージさん! 回復呪文を――急いで! これでは……」 持たない。そう言いかけて、プサンはいったい「何まで」持たないのかを考えた。 彼の膝にのしかかるように倒れているのはジタンで、その身体からはもう何かの意志が失われている。 あの瞬間、プサンが見ることができたのはランタンが吹き飛ばされたことと、 暗転した世界でジタンに、そう立ち位置からいって間違いなくジタンに、体当たりをくらったこと。 あとは、攻撃された方向とは逆であるはずの方から何かが飛んでジタンの身体に食い込んだことを感じただけだ。 彼に銃撃についての知識があれば、跳弾がジタンを襲ったことを察することが出来ただろう。 次第に左肩の痛みを思い出したのは興奮がわずかでも収まったからだろうか。 冷静に、つとめて冷静に頭を働かせる。 攻撃のうち、一発はランタンを吹き飛ばし火を消した。一発はプサンの肩を貫いている。 そして、不幸にも攻撃にわずかでも反応できたジタンは反応できなかったプサンを守って複数発の攻撃を浴びた。 下から支えるようにしているプサンにまで彼から流れ出ている生暖かい液体が流れついている。 「とにかくセージさん、お願いします!」 必死にタバサの名を呼び彼女を捜し求めるセージに対して悲痛ささえかもし出して叫ぶ。 魔石にかけた魔法を追えるプサンには、彼女がとっくにここを離れてさらに森の奥へ逃げていったことがわかっている。 「あなただけなんです! 落ち着いて……考えてください!」 同時に自分にも言い聞かせ、どこかに何か打開策を探す。 ランタンの火は消えた。闇の中、襲撃者は自分たちの全滅を狙ってくるだろうか? いや、採っている戦略から接近戦を仕掛けてくるほどの自信家とも思えない。つまり第二波はない。そういう気がする。 おそらくは反撃のリスクを恐れるはずだ。こちらの能力も人数も未知なのだから。 分析は何とか進むが、わかってくるのは自分たちの置かれた状況の危うさと今わかっても虚しいことばかり。  いやなことが重なりすぎる。 娘の前で恐らく相打ちになったリュカとピエール。闇からの予想外の襲撃とその結果。 この二日間でこれほどまで、戦闘では満足にバックアップもできないおのれの無力さを呪ったことは無かった。 肝心なときには間に合わず、間に合っていても守れない。現実を突きつけられる。 プサンには死に掛かっているジタンも、追跡する術だけがあるタバサもどうにもできない。 ようやくわずかに冷静さを取り戻したか、あるいは諦めたか。セージが呪文による回復を開始する。 冷えた空気と血の香りの取り合わせに憂鬱さを喚起されながら、それでも治療を行おうとする。 無言だった。 闇の中、自分たちが来た方向から誰かが追いついてきたときも、雰囲気自体は変わっていなかった。 もっとも雰囲気は感覚の領域だし、真っ暗闇でどれくらいそれが把握できるかは不明ではあるけれど。 ともかく、絶望的が一人と、それに引きずられているのが二人。闇の中にいた。 「何が……あったのだ? …………まさか、小さな女の子に、などということは……」 その誰かが言う。 「いいえ、そうではありません……パパス王」 「! あなたは私を知っているのか!? 私は確かに……だが今はただのパパスだ。  ……とにかくこの血の香り、どうなっている? あなたは無事なのか」 「私は問題ありません。しかし……」 悔恨をかみ締めながらプサンが切々と状況を説明する。 パパスも探している少女、タバサに追いついたこと。 けれど想像力の不足による失策から闇の奥より襲撃を受け、ジタンが傷付いて倒れていること。 その間、セージは顔も上げず出来る限りの回復の呪文をかけたジタンの様子を黙々と看ていた。 「……追いますか――いえ、私たちに構わず彼女を追ってください。  あの子は、あなたの孫娘なのですから」 「しかし!」 「いいのです。  セージさん、動かすことはできそうですか? 私たちは城まで戻りましょう」 見えはしない。けれど、セージが顔を上げたのが闇を通して伝わる。 彼が何を言いたいのかをはっきりわかっていながら、プサンはタバサを追うようにもう一度強くパパスを促した。 暗闇の中、パパスはそれでも逡巡する気配を見せていたがとうとう再び森の中へと消えていく。 すまぬ、と複雑な思いを一言に込めて残して。 重傷者を抱え傷が増えた中で森は困難な障害であったがもうランタンを使う気にはなれなかった。 「見捨てるんですか」 暗がりをのろのろと戻る道中、セージは責めるでもなく恨むでも無く、ただぽつりと尋ねる。 プサンは答えない。 セージだって本当はわかっている。わかっていて、割り切れない分がわだかまっているのだ。 確かに何かをしているというのに、帰路にはまるで空疎な時間が流れていた。 そして。 夜が終わるのを待つことも無く。城にさえ帰り着くことなく。 体表の傷は癒えても複数の銃弾により掻きまわされた内臓の傷は如何ともできずに。 盗賊ジタン=トライバルの命の火は、消えた。 【セージ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復 魔力1/4程度)  所持品:ハリセン、ナイフ、ギルダーの形見の帽子、イエローメガホン      英雄の薬、厚手の鎧、般若の面、釘バット(FF7)、グラディウス、聖なるナイフ、マテリア(かいふく)  第一行動方針:サスーン城へ戻る  第二行動方針:タバサともう一度合流したい  基本行動方針:ゲーム脱出】 【プサン 所持品:錬金釜、隼の剣 (左肩銃創)  第一行動方針:サスーン城へ戻る  第二行動方針:首輪の解析を依頼する/ドラゴンオーブを探す  基本行動方針:仲間を探しつつ人助け】 (*旅の扉を潜るまでは、魔石ミドガルズオルムの魔力を辿って状況を探ることができます) 【現在位置:サスーン城東の森】 【パパス(軽傷)  所持品:パパスの剣、ルビーの腕輪、ビアンカのリボン  リュカのザック(お鍋の蓋、ポケットティッシュ×4、アポカリプス(大剣)、ブラッドソード、スネークソード)  第一行動方針:タバサを追いかけ、守ってやる  第二行動方針:ラムザを探し(場合によっては諦める)、カズスでオルテガらと合流する  第三行動方針:仲間を探す  最終行動方針:ゲームの破壊】 【現在位置:森林地帯中央部→移動】 【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復)  所持品:E:普通の服、E:雷の指輪、ストロスの杖、キノコ図鑑、      悟りの書、服数着 、魔石ミドガルズオルム(召喚不可)  基本行動方針:???】 【現在位置:森林地帯中央部→移動(行き先は不明)】 【ユウナ(ガンナー、MP1/3)(ティーダ依存症)  所持品:銀玉鉄砲(FF7)、やまびこの帽子、官能小説2冊、  対人レーダー、天空の鎧、ラミアの竪琴、血のついたお鍋、ライトブリンガー  第一行動方針:キャンプへ戻る  基本行動方針:脱出の可能性を密かに潰す】 【現在位置:森林地帯中央部→キャンプへ】 【ジタン 死亡】 【残り 42名】

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