156話

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*第156話:温もり―回復―移動 目が覚めたのは、痛みのせいだった。 ゲームが始まってすぐに負った重度の傷は、未だ治る兆しを見せない。 無造作に投げ出された足を枕にするように、少女がスースーと無防備な寝息をたてている。 木に寄りかかり、それまで眠っていた男―ピサロは、顔をしかめながら辺りを見回した。 周りは暗く、凝視しなければ何がどこにあるのかも判らない。 ビビの姿は見当たらない。あの得体の知れない武器をもった女を探しているか、さもなくばもう殺されているかだろう。(…動けるか?) 全身を走る痛みに耐えつつ、ゆっくりと体を動かしてみた拍子に、肩にかけたままの焼け焦げたザックから、 ボトッという少し重い音と共に、彼の足元に握り拳よりもすこし大きいぐらいの石が落ちた。 (?) 訝しげに手を伸ばし、触れた瞬間、石はピサロの手の中で淡く輝きだし、まるで生きているかのような温もりを発した。 驚いて思わず手を離し、もう一度、慎重にに触れてみる。 すると再び石は輝きを発し、彼の手に温かい何かを伝えた。 「これは一体…?」 ピサロは右手で石を暫く持ちつづけ、石から感じる「何か」の正体を探ろうとした。 温もりは手の中に広がって腕を伝い、体全体を満たしていく。 「何か」が体を巡る感覚は実に心地がよく、それまで彼を包んでいた痛みをも忘れさせるほどだ。 「もしや…この感覚は…」石を凝視し、口に出して行ってみる。 「魔力…?」 彼の疑問に答えるように、魔石バハムートは一際強い輝きを発した。 そういえば昔、古い文献で読んだことがある。 「幻獣」と呼ばれる特殊な魔物が死する時、その身を小さな石に変えてしまうと。 石には膨大な魔力が秘められ、その魔力は半永久的に尽きることがないと。 「ほう…あの伝説は誠だったか。しかし全身にみなぎるこの魔力、尋常ではな…」 そこまで言って、ピサロは突然閃いた。 今ならできるかもしれない。体が魔力に満たされている今なら。 満身の力をこめ、傷口にむかって自分が知る限りの回復魔法を唱えた。 それでも左手から放たれる癒しの光はどこか頼りなく、傷口を完治するには至らない。 「しかし、まあ、これで戦えるようにはなったな。」 一人呟き、頭上に広がる星空を見上げる。 「ロザリー…」 彼の愛する人の名…なぜ彼女までゲームに参加して、否、させられたのだろう。 ピサロの足元には、武器をその小さな手に持った事すらないであろう少女が眠っている。 あの邪悪な雰囲気をたたえた魔女は、なにを考えているのだろう。弱い物をゲームにいれた所で、ただ死ぬだけなのに。 いや、それが狙いなのかもしれない。 ゲームの参加者にとって大切な人が成す術もなく死んで行く姿を見せるためか? 例えば、ビビが親しい人―ガーネットと言ったか―を失ったと知った時、ひどくうなだれたように。 例えば、今自分がロザリーの死を何よりも恐れているように。 ある者は、ゲームに乗り狂ったように他の参加者を殺し、 ある者は、迫り来る死から泣き叫びながら逃げ惑い、 ある者は、親しい人を亡くしてしまったことに絶望する。 「傍から見れば、究極の娯楽ということか。」 しかし、その中に放りこまれた者達はたまったものではない。 ロザリーはまだ―少なくとも日が沈む前までは―生きている。何としても今一度再会し、護ってやらねばなるまい。 このゲームの、邪悪な思惑の通りにならないように… ピサロがそうこう考えていると、近くで足音がした。 ゆらゆらと揺れるランプの灯火に、ふらついているような妙な足取り―ビビだ。 「お姉ちゃん…いなかった」 ピサロの元に辿りつくや否や、幼い黒魔導師は肩で息をしながら言った。 「ターニアちゃんは?」 「気が動転していたので呪文で眠らせた。」 「あ、そう…」 それからしばらくして、彼に起こった変化に気がついた。 あんなに苦しそうに息しながら、木に寄りかかっていたピサロさんが――立ってる。 「あれ?傷はもういいの?」 ビビが首を傾げると、彼は「ああ」と言い、懐から例の石を取り出し、「お前も触ってみろ」と手渡した。 ビビの手に触れた瞬間、魔石は輝きと魔力を発し、黒魔導師はうわあ、と声を上げて石を取り落とした。 「この石の魔力のおかげでなんとか回復できた…完全ではないがな。」 ピサロはそう言うと、深刻な眼であらぬ方向を睨んだ。 「それよりもあの女は逃げたか…厄介な事になりそうだ。ここから離れねばな。」 呟くと、足元でガサガサと紙を広げる音がした。 「あのね、ピサロさん。考えがあるんだけど」 ビビはいいながら、地図に記された森を指差す。 「ここがボク達が今いるところなの。それで、ここから西に、レーベっていう村があるんだ。」 「…それで?」 「今日はここで休まない?村ならちゃんとしたベッドもあるだろうし。」 「なるほどな。では、そうするとしよう。」 ピサロは言うと、眠ったままの少女を担ぎ上げ、ビビと並んで歩き出した。 村なら、他の参加者も集まるだろうな…ロザリーも来るだろうか? 歩きながら、そんなことを期待する。 しかし、彼女に気を取られていたせいか、ゲームに乗った者が村に現れるという可能性までは頭が回らなかった。 【ピサロ(HP3/4程度) 所持品:スプラッシャー、魔石バハムート(召喚可)  行動方針:レーベの村へ行き体を休める】 【ビビ 所持品:不明 行動方針 同上】 【ターニア(睡眠) 所持品:微笑みの杖  行動方針 ?】 【現在位置:レーベ東の森をレーベに向かって移動中】

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