458話

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*第458話:闇にもう一度火をつけろ 夜闇の孤独の中を一人走るものの耳にも魔女の声は届く。 知っていた者、知り合った者、拳を交えた者が入り混じった多くの名前が数え上げられた。 敗者として呼ばれたクジャの名前には正直驚きを禁じえない。 だが、敗れ去り命を落としたものにどれだけの価値があるだろう? サラマンダーは見て分かるほどの反応は示さないままに、前進を再開する。 走りながら考えていた。 死ななければよい、命ある限り、生き延びている限りそれは勝利と同義だという考え方がある。 他面、挑み打ち勝っての勝利を欲する戦いに滾る自分もある。 自分は矛盾している。 先程は敗者には価値がない、と切り捨てたが自分もけして勝者ではない。 ウィーグラフとの戦闘は偶々痛み分けという結果になっただけで現実は自分の敗北だ。 そればかりか夕方の遭遇を思えば手強いと感じた相手に戦闘すら避けている。 間違いなく自分はまだ生きていたいのだ。 そして一方で、求める強者に勝利し勝利の栄光を手にしたいのだ。 行動の動機として方向性は同じ、どちらも正しく何も間違ってはいない。 だが考えるほどに生き延びる事と勝利する事の間にある戦いへの温度差で双方が矛盾しているように感じられてしまう。 心中の影があざ笑う。お前は死という究極的敗北を恐れているだけなのだ、と。 しかしどうすればいい。 事実上の敗北とその顛末が明らかにサラマンダーに影を落としていた。 今はとにかく行動するしかない、としか思考は着地しない。 戦うという意思はもはや不動ではあるが、まだサラマンダーの中には揺らぎが残ったまま。 彼が今、他の殺人者に対し劣っていたとすればその原因はこの蟠る一点にあるのだろう。 耳にアラームピアス、手にはデスペナルティ。 内には引継ぎし力、心には揺るがざる決意。 虚空へ向けて銃を構え、撃つ真似をする。 ヘンリーの脳内で想定した敵の像がこれまた空想の弾に打ち抜かれ、霧消する。 ソロと交代で宿屋まで戻ってきたリュックの背を見送ってから、一人。 話す相手もいないため緊張を張ったり緩めたりしながらヘンリーは周囲を警邏していた。 といっても宿屋の周りを文字通り見て回るだけだけれども。 平穏な気配、それを破ったのは村の東側の外に広がっている林の奥の奥に揺らめくあかり。 (誰だ!?) その光源が外部からやってきた事は間違いない。 緊張に身を引き締める。 どうしようかと思案するヘンリーをピアスが、指輪が、銃が、内なるG.Fが勇気付けてくれる気がした。 (まだ敵って決まったわけじゃねぇが…先んずれば敵を制す、だ。  第一今はオレが宿屋を守らないとな。ここはひとつオレが調べてやろう) 決断も勇ましく光の揺れている方角へとヘンリーは慎重に近づいていった。 しかし、勇敢といえば聞こえがいいが一歩外れればそれは蛮勇に変わる。 そして今回のヘンリーのケースはまだ失点に至らないにせよ失策。短慮による失念。 相手が複数だったら? 明かり自体が誘導だったら? 一人で敵わないような相手だったら? だが、強力な防御に初めて使う強力な武器。 つまりは皮肉にも手にした力こそがヘンリーの思考を曇らせ、守りから攻めへと変化させていたのだ。 ヘンリーが考え落としたこと、それは役目を全うするという精神。 何者かの存在を念頭に置き、気配を探るようにしながら暗がりを進んでいく。 獣道程度とはいえ道があったため、足元に不安はない。 まだアラームピアスは沈黙を保ったままだ。 「あそこは……? 明かりはその向こうか?」 木々が途切れ、ぽっかりと広がる空間へとたどり着く。揺れる光はどうやらこの空間の向こうのようだ。 夜闇のステージ、中央に鎮座しているあれは井戸だろうか。 念のために目で周囲を確認し、ゆっくりとその真ん中へ進み出る。 アラームピアスが警告を発したのはその瞬間だった。 林の中、低く張り出した枝に共通で支給されている小さなランタンが結び付けられている。 風でわずかに揺らぐその明暗とヘンリーの双方を見ていられる場所、その暗闇にサラマンダーは潜む。 暗殺者としてやっていくために身につけた技能がいくつかある。 常人に比べ遥かに利く夜目はその一つだ。 今、その目の前には誘導の罠に引っかかった男が映っている。どうやら一人のようだ。 もう一度だけ、自身の中で解決されない矛盾を思い出し、声もなく哂う。 くだらない。何に葛藤しているのだ、俺は。 答えなど初めから一つしかないだろうに。 拳の武器は鈍い光沢さえ消えて暗闇に溶け込んでいる。 向こうも慎重なのだろう、ゆっくりとしかし確実に光へと近づく相手を視認。 夕方に見た奴らのような危険な気配は微塵も感じない。 タイミングを計って側面、樹上より――突っ込む。 十分に速度をのせて飛び込むサラマンダーと振り向いた獲物の視線が交錯する。 反応のタイミングが何処か不自然であったが、もう攻撃は停止できない。 自分の攻撃の方向をしっかり見定めた上でターゲットは飛び出すように攻撃軸から逃れた。 どうやら、ウサギというほど楽な獲物ではないらしい。 体勢を立て直している男の手には金属の武器が握られている。 かなり形は違うもののそれがどのような攻撃をするか、体験から直感的に推察できた。このゲームにはその類の武器が複数種類ばら撒かれているらしい。 予測されるその力に心中には不安と期待が入り混じり、サラマンダーは即時の追撃を止めた。 着地した場所で攻撃の構えを取ったまま男を睨みつける。 自分の力だけで今のが避けられたろうか? いや、それほどには自分を評価してはいない。 だが、今は相手の動きが良く見えた。回避動作も自分とは思えない身軽さで完了した。 その力の源泉をヘンリーは理解している。 アーヴァインが教えてくれた力。デールが遺してくれた数々。 手の内の銃を握り締め、身体を翻して突然襲撃してきた男に正対する。緊張した対峙がそのまま十数秒、だが不意にそいつが口を開く。 「…一つ聞く。貴様はこのゲームに対して何を考えている?」 「は? 何だと?」 「生きたいのか、戦いたいのか。貴様はどこへ向かっているのか」 唐突な質問の意図を測りかね、ヘンリーは口をつぐんで相手を睨み返す。 不動のままじっと目でこちらを気圧してくる相手は今のところ動く様子も無い。 不意打ちをかけられたはずなのにこの奇妙な時間はヘンリーが先に動くことを躊躇させていた。 ついに根負けする。 「ちっ…。俺は何とかしてこのゲームをぶっ壊してやるつもりで同じ事を考えている仲間と行動している。  魔女の甘言に乗るような馬鹿には容赦しない。お前みたいな、な」 仮に相手が人殺しだとして、なんで自分はこんな空気で会話しているんだろうか。 もし人から聞いたなら笑っちまいそうな奇妙なシチュエーションだが体験してみれば笑う気も起きない。 緊張は張り詰めたまま、下手に動けば確実に戦闘突入だ。向こうが何を考えているのかわかりゃしねぇができるなら無駄な戦闘は避けたい。 「俺はヘンリーだ。あんた名前は?」 「………サラマンダー、と呼ばれている」 「……なあ、サラマンダー。お前は人殺しなのか?」 時間が過ぎる。 「答えたくないなら答えなくていいさ。…なあ、でもよ、俺だって無駄な戦いはしたくない。  大体悪いのは全部あの魔女だって、わかるだろ?」 男は何も答えない。 「お前が誰と戦い誰を殺してきたかはわからない。  でも先に話しかけてきたのはあんただ。わかってんだろ? 迷ってんだろ?  本当は自分が間違ってるんじゃねぇかってさ」 夜風が吹きぬける音だけが聴覚を支配する。時間が長く感じられる。 「悩むくらいならもうやめにしたらどうだ? 俺達は何とか魔女のヤツに抵抗するつもりだ。  ……一緒に来ないか?」 更なる沈黙の後、ようやくサラマンダーと名乗った男は口を開く。 「一緒に、か。……ジタンもそう言うのだろう、な。だが、それは出来ない相談だ」 男の気配がヘンリーを押しつぶすような強い殺意へと一転する。 強い視線がヘンリーを射抜き、その目の前で暗赤色の巨体に力がみなぎる。 「長々と答えてくれたことには感謝する。己の弱さから来る迷いは晴れんが、一つ分かった。  俺が求めているのはそういう言葉ではない!」 わずかにたじろぎながらもヘンリーも慌てて臨戦態勢へ移り、サラマンダーは僅かに満足げな笑みを浮かべた。 「それでいい、俺は結局拳でしか答えを出せん。いくぞ!」 言い終わるや否や地面を蹴り飛び込まんとするサラマンダー。 それを制してその眼前でイオが爆裂する。 「畜生が! なんなんだよお前は! なんで無駄な戦いを選ぶんだよ!」 イオで迎撃、足止めして、銃で追撃する。 それを実行すべく狙いを付けるものの引き金を引くよりも早く爆発の余波から影が抜け出す。 素早い身のこなしで自分へ向買ってくる巨体からその腕が振るわれる。動きが良く見えた。 乱雑に銃口の向きを変えてデスペナルティが甲高い声を上げるも銃弾は空を切り裂いて闇へ消える。 二発、三発と続くサラマンダーの攻撃を何とかかわす。 自分の力だけで今のが避けられたろうか? いや、それほどには自分を評価してはいない。 だが、今は相手の動きが良く見えた。その力の源泉をヘンリーは理解している。 それでも、接近戦を続けていてはサラマンダーへの勝ち目は見えそうにもない。 「結局魔女がほくそえむだけだって分かんねぇのか!? 俺たちの争いのどこに意味がある!?」 呼びかけも虚しく、サラマンダーは無言、迫る腕は止まらない。 徐々に後退していくヘンリー。後ろに井戸が迫る。 ここは強引にでも距離をとるしかない。 間合いを離されない様に後退するこちらを追ってくる相手の挙動にじっと注意しながらタイミングを計る。 上段から叩きつけられる左腕を一歩引いてかわし、足元から振り上げらて右腕が来る―――ここだ。 カウンター気味に…イオ! 自分を巻き込まない安全距離ギリギリの爆発。肌に感じる余波がその近さを実感させる。 今のうちに一旦距離を取って次の作戦を考えて…… 「っぐ……あ…?」 見下ろした視界の中で自分の腹に向け大きな力が乗った焔色の拳が、怜悧な爪が伸びている。 たたらを踏んで下がる。駄目だ、まだ倒れ――― 重力から解き放たれる感じ。それから、暗闇に吸い込まれていく。 合わされたタイミング、爆発が視界を覆い、身体の前面に痛みが走る。だが、この程度。 そこにいるであろう相手へ向け、止まることなくその腕で突いた。 手ごたえが、攻撃の確実なヒットを教えている。 男の口から意味を成さない音が噴き出しているのが聞こえる。 視界を取り戻した先には青白い光におぼろげに取り巻かれたヘンリーの姿。 それがなんなのか、サラマンダーには分からない。 分からないが、貫いた爪の感覚は逃れ得なかった事実として相手を捕らえている。 爪を引き抜かれた男は淡い青い光をまとったまま、よろよろと後退。 そこにあるのは、暗い口をあけた井戸。 まるで吸い込まれるようにヘンリーはそこへ落ちていった。 「戦いの意味、か……」 見下ろした井戸は暗闇の蓋の下。 ほんの少しだけ闇を凝視していたサラマンダーはまだ残っている手ごたえを思い出し、彼の死を予測する。 こちらも右腕から胸にかけて手痛い火傷を負わされているが今のサラマンダーには気にならない。 「…戦いを失った俺には一体なにが残るのか?」 誰にも聞こえないであろう小声の呟きが夜の空気に霧散する。 それからサラマンダーは村へ、見張りを失った宿の方へ向けて動き出した。 井戸の底。 入り口より広くなったスペースの片隅に横たわるヘンリーの姿があった。 そばには彼に宿るG.F、カーバンクルの姿が。 「……はは。また助けられたな、ありがとよ…ぐっ」 額のルビーを返事代わりにきらりと輝かせ、心なしか心配そうなその姿が消える。 ヘンリーを助けたのはサラマンダーが予想もしない力。宿した召喚獣の守り。 えぐられた腹は致命傷に至っていないようだが血を流し続ければ危険だろう。 いまさら改めて気付く星空が頭上に円を描いている。 おぼろに輝くそれは地上への出口。 どうやって出たものか。次はサラマンダーは村へと向かうはずだ。 とにかく早くここを脱出して…あいつを止めないと。 後悔と焦燥、そして鈍痛が消し飛んでしまいそうな意識を強引につなぎとめている。 暗闇の底にヘンリーは、生きていた。 【サラマンダー(右肩・左大腿負傷、右上半身火傷、MP1/5)   所持品:ジ・アベンジャー(爪) ラミアスの剣(天空の剣) 紫の小ビン(飛竜草の液体)、  カプセルボール(ラリホー草粉)×2、カプセルボール(飛竜草粉)×1、各種解毒剤  第一行動方針:宿屋へ向かう  第二行動方針:求める強敵を探して殺す  基本行動方針:参加者を殺して勝ち残る(ジタンたちも?) 】 【現在地:ウルの村 南東の井戸付近】 【ヘンリー(手に軽症、腹部重傷、HP1/2)  所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可、HP1/4) G.F.パンデモニウム(召喚不能)  キラーボウ グレートソード アラームピアス(対人) デスペナルティ リフレクトリング ナイフ  第一行動方針:井戸からの脱出  基本行動方針:ゲームを壊す。ゲームに乗る奴は倒す)】 【現在地:ウルの村 南東の井戸の底】

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