62話

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*第62話:Amnesia? (なんで僕、結局この人と一緒にいるんだろう) ソロはため息をついた。その傍らでは、ヘンリーが袋に頭ごと突っ込んで中身を探っている。 「おっかしーな。俺の袋、肝心の武器が入ってないぜ? 食料やなんやらは入ってたのに」 多分、さっき落ちた時に投げ出されてしまったのだろう。 ソロは仕方なく、自分の袋に入っていた剣を差し出した。 「これでよければ貸してあげますけど」 「え? でも、君が困るんじゃ」 「もう一振りありましたから、大丈夫ですよ」 ソロは微笑みながら言う。けれども、心の中では別のことを考えていた。 (なぜ、僕はこんな見ず知らずの人に親切にしているのだろう。 だいいち、治療だけしたらさっさとレーベに行くつもりだったのに。 なんでこうして、一緒に茂みの中を歩いているのだろう?) ――この男が正気を取り戻すのが予想外に早かったせいだ、とソロは思おうとした。 でも、本当は単に放っておけなかっただけだ。死なれたら目覚めが悪いとかいう以前に、心配になったのだ。 やっぱり、自分は根っからのお人よしなのかもしれない。仲間たちが口を揃えて言うとおり。 「悪りぃな。迷惑ばかりかけちまって」 そんなソロの気持ちを知ってか知らずか、ヘンリーは頭を下げる。 「いえいえ、危ない――じゃなかった、困っている人は助けるように親からも良く言われてたので」 「そうか……きっと、優しくて良いご両親なんだろうな」 自分の両親や継母のことを思い出したのだろうか、心底羨ましそうにヘンリーは言った。 「で、ヘンリーさんでしたっけ。これからどうするんですか?」 「うーん、そうだなぁ。皆で茶でも飲むか。確か、マリアさんやリュカやピエールもいたし」 ……この状況でお茶だなんて、楽観的すぎるにもほどがある。ソロは唖然とした。 「あのですね。あなたに戦う気がないのはわかりましたけど。  ここは一応、殺し合いの会場ですよ? 向こうが殺る気満々だったらどうするんです!」 「殺し合い? なんで俺達がそんなことしなきゃいけないんだ?」 ソロは本気でずっこけそうになった。踏みとどまれたのは奇跡に近い。 「あのですねぇ! あのティアマトとかいうでっかい竜の話聞いてなかったんですかっ!?」 「でっかい竜? あー、聞いたかもしれねえ。  いや、聞いた聞いた聞いてた。今まで忘れてたけど」 本気でなんなんだろう、この人は。打ち所が悪すぎたんじゃないだろうか。 ソロの心配を余所に、ヘンリーは元気よく腕を振り回しながら言う。 「なーに、相手がやる気ならこっちも受けて立つさ。  何か知らねぇけど、今ならガンガン戦えそうなんだ。  ちょっとやそっとの呪文じゃあ死ぬ気がしないっつーか」 ――もし、この場にリュカやマリアがいれば疑問に思っただろう。 自分の妻を、「マリアさん」などと他人行儀に呼んだことに。 そしてもし、この場にガーデンの関係者がいれば、思い当たったことだろう。 様々な力と引き換えに記憶の喪失をもたらす――G.F.の存在に。 けれどもソロはヘンリーの知人でもないし、ましてやG.F.など知るはずがない。 『後頭部強打による記憶の混乱、あるいはこの若さなのに痴呆症』。それがソロの見立てだった。 「そりゃあ戦いに出るのは八年ぶり――いや、七年? それとも十年だっけか?  ……いや、わりと昔の話だけど、呪文や剣なら今でも使えるからさ」 「そうですか」 もう勝手にしてください、と、ソロは再びため息をついた。 それでも身体がヘンリーの後を追っていってしまうのは……もはや、一生直らない性分なのだろう。 【ヘンリー 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可) 雷鳴の剣  第一行動方針:知り合いを探す、自衛以外に戦う気はない】 【ソロ 所持品:さざなみの剣 水のリング  第一行動方針:ヘンリーのお守り&仲間を探す 第二行動方針:少しでも多くの人が助かる方法を探す】 【現在位置:レーベ近くの茂み→レーベの村へ】

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