251話

第251話:殺意疾走


アリアハン城外の攻防から時間は少し戻る。

少女は走っていた。
枝葉を掻き分け、ただ一心に。殺意だけを持って。
深い森の中を北へと向かう。
あの男は北へと向かった。彼女の姿を見たあの男は。
彼女が死体から武器を奪い、試し撃ちとしてその死体を破壊する様を目撃したあの男。

邪魔だ。

あの男はこれから自分が行うことの邪魔になる。
あの男が他人に私の情報を渡せば、隙を突くことが難しくなってしまう。
そうなる前に殺さねばならない。絶対に見つけ出して破壊しなければならない。
何が何でもそうしなければならない。
それだけを思い、ただひたすらに男を追う。
小一時間も走っただろうか、森を抜け平原に出る。
僅かに乱れた呼吸を整え周りを見渡すが、一つの影さえも見えない。
完全に見失ってしまった。
奪ったザックから地図を取り出す。北西にはレーベの村、北には海しかない。
東は山岳地帯。地図にはその奥に洞窟と泉、祠が記されている。
あの男はどっちに向かったろうか。普通に考えれば村である。
だがこの異常なゲームにおいて、人の集まる場所は逃げ込む場所としては不適切な気がする。
最初に助けを求めたその人が新たな脅威かもしれないのだから。
北は論外。海岸で行き止まりだ。確かに隠れ場所は多い。
しかし追われる人間が自ら追い詰められるような場所に行くだろうか。

なら……東か。東の山岳地帯に逃げられれば捕捉は不可能に近い気がする。
海岸線より遥かに隠れ場所が多い上、範囲も広い。
きっとそうだろう。そうにちがいない。
どうする。どうすればいい。
もうあの男のことは諦めて村へ向かうべきか。
山岳地帯へと逃げたのなら村にいる者たちに自分の情報が伝わっていることはないだろう。
もし村へと逃げていたのなら改めてその男を殺し、情報が伝わった者たちも隙を見て全て殺す。
できるか?
脳裏にピサロ・ソロ・ミネア・ライアンの顔が浮かぶ。
ソロとミネアは隙を突くことは可能だろう。
ミネアがもし自分のことを見破っても正面から戦って勝つ自信はあるし、
仲間がいるなら姿を見せずに暗殺すればいい。
ソロはもっと簡単だ。彼の性格なら絶対に自分を殺せない。
しかしピサロ・ライアン…彼らには隙がない。自分の情報が伝わっていたら尚更だ。
伝わってさえいなければ騙し討ちも可能だろうが。
それに自分が知っている以外にも手練がいるかもしれない。
その時ふとアリーナ……自分のオリジナルのことを思う。
彼女は大丈夫だろう。自分自身のためにやっていることなのだから。
自分の不利益になることをしようとする筈がない。
彼女はオリジナルと自分が別の存在とは考えていなかった。
どんどんと思考が逸れていっていることに気付き、頭を振る。
そしてしばらく考えてとうとう結論を出した。どうしようもない。
もともとオリジナルと同じく深く考えるには向かない性格である。
どんな仮定をだそうと確証など得られる筈もないのだ。ならば村へ向かおう。
今なら完全に夜が明ける前までに奇襲できると思う。

そうして、レーベの村へと足を向けたその時。

……ド……ォォォ…ン……

遥か遠くのほうで爆発音が聞こえた。
本当に微かな、鍛えられた耳を以ってしても集中して初めて聞こえるような音。
ともすれば世界音にかき消されていたかも知れないほどに。だが…確かに聞こえた。
方向は、東の山岳地帯。
考えるよりも先に身体が東へ向かって走り出す。何よりどう動けば正しいのか判断しようもない。
ならば一つのきっかけで動きを決めるのも悪くはないだろう。
この先には何が待つのか分からない。
だが願わくばその場にこの殺意の対象があらんことを―。

そして彼女は加速した。

【アリーナ2(分身) 所持品:グリンガムの鞭、皆伝の証】
 第一行動方針:爆発音の音源を確かめる
 第二行動方針:出会う人の隙を突いて殺す、ただしアリーナは殺さない
 最終行動方針:勝利する
【現在地:レーベ東の平原→いざないの洞窟西の山岳地帯】

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最終更新:2008年02月17日 23:01
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