63話

第63話:占われた者の――


爽やかな潮風と波の音を聞きながら、ビアンカは支給品の袋の中を探っていた。
彼女が放り出された場所は、周囲に人の気配もなく、静かなところ。
だが、子供達や家臣、仲間の魔物、そして愛する夫が側にいないという状況は
今のビアンカにとって不安を増大させるものでしかなかった。
「とにかく、自分の身は自分で守らないと…」
呟きながら取り出したのは、飾りけのないサークレットのようなもの。
自分の頭には少し小さいかもしれないが、防具には変わりないだろう。自分のような
非力な人間でも装備できそうだし、魔力を秘めた特殊な防具だったりして…。
ビアンカは、そんな希望を感じながらそれを身に付け――


そして、『それ』を見た。


「…え?」
胸に剣を突き刺されて倒れているレックス。炎に焼かれて地面に転がっているタバサ。
無残な子供達の姿の向こうには、最愛の人の後ろ姿。
「…リュカ…?」
呆然と呼びかけたビアンカの言葉に、彼が振り向く。
何かを言おうと、彼が口を開いたその瞬間、

ぞふっ。

あまりにも不鮮明な、耳障りな音と同時に、リュカの首が高々と宙に舞う――。

「…ゃ…いやあぁぁぁっ!?」
絶叫する。
全身ががくがくと震え、ビアンカはその場にへたりこんだ。
冷たい汗が吹き出し、青ざめた肌を流れ落ちていく。見開いた目から涙が溢れ出す。
「あ、ぁあああ…」
今のは何?今、私が見たのは一体何?
嫌だ、こんなのは嫌だ、こんなのは、こんな、こんな結末は、嫌だ。

『だって、これはそういうゲームでしょう?』

そう、確かに、そう、だけど、嫌、こんなのは違う、子供達が、リュカが、そんなのは嫌だ。

『でも、みんな誰かを殺そうとしている。いずれあの子達も殺される』

駄目、それだけは、嫌だ、絶対に駄目、殺されるなんて、そんな。

『殺されなくてすむ方法は1つだけ』

教えて、お願い、あんな、お願いだから、殺されるなんて、駄目、お願い!

『――彼らが殺される前に、みんな貴女が殺せば良い』

――ああ。

『殺せ。殺してしまえ。どいつもこいつも。みんなお前から大事なモノを奪おうとする。
 全て殺せ。みんなみんな。殺せば、もう殺せない』

そう、そうなんだ、そう、殺せば、子供達、リュカ、そう、殺す――

――?待って、アナタは、私に教えてくれたアナタは誰――


ビアンカは、ゆっくりと立ち上がった。
もう震えていない、叫んでいない、泣いてもいない。その替わり、その顔にはただ
凍り付いたような微笑が浮かんでいるのみ。
袋の中からもう1つの支給品、かつて光の戦士達が使っていた伝説の武器を取り出すと、
彼女はゆっくりと歩き出す。
美しい黄金の髪の上で、操りの輪が鈍い輝きを放っていた。

【ビアンカ(暴走) 所持品:操りの輪、 ファイアビュート
 第一行動方針:リュカ、子供達以外の全員を殺害
【現在位置:レーべ西の海岸→レーべの村に向かって移動】

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最終更新:2008年02月17日 23:14
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