FFDQバトルロワイアル3rd資料編@wiki 561話

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第561話:グランバニアの黄昏


放送にはまだ多少なり時間がある頃――
パルメニ盆地の中央に横たわる森の中はまだ夜明け前の闇の中だ。
暗闇にわずかな濃淡を作り出しながら小さな陰が暗黒の中を駆けていた。
荒い息遣い、悲壮の表情、疲労の滲む肉体。
新しいすり傷をあちこちに作りながら、タバサは闇の中を行く当てもなくさまよっていた。
地面から突き出た小さな根のコブに足を取られ、転ぶ。
まともに受身さえ取れず、したたかに身体の前面が強打された。

誰かの死に触れるのはもうたくさん――もう見たくも聞きたくも無い――
もう何も、何も――

タバサは根と苔と土でできた地面に横たわったまま起き上がろうともしない。
前を向こうと、下を見ようと結局目の前にあるのは闇だ。
土や苔の匂いを感じることもできず、転んで打ちつけたせいで流れ出始めた血の味と感触だけが
気味悪く喉や肌を伝っていた。
そこにはもう希望はなく、どころか今のタバサには絶望の現実を考える気力さえない。
残っているのは無気力に沈み込む心と体の滓だけ。

……………、……………、………………、…………、
もう、何もしなくても…………? ………………

考えることを放棄した頭、二日間の大きな疲労が一気に表出した身体、
暗い森の闇の底の底に這いつくばったすべてが活動を止めていく。
やがて闇の中で現実と非現実は曖昧になっていき、
踏み外すようにタバサは眠りへと……堕ちていく。

湖の南に位置する森の中。
湖畔での戦闘に影響を受けない程度の距離を置いて、出現している旅の扉。
そのそばでパパスは夜の森の中、いずこかに行方をくらました孫娘を思い後悔の念に襲われていた。
あの時からそれこそ夜を徹して森の中を探し歩いた。
だが深い森、まして夜の闇。ただ怯えるように逃げて行った子供一人を見つけ出すのは容易ではない。
次第に増していく焦りと責任感を心の奥にじっと押し込め、
たった一人で黙々と暗黒の茂みを切り払い、飛び出た根から根へと渡りながら森を往き――
やがて朝が訪れた。

リュカよ、オルテガよ、許せ。彼らの魂に安息のあらんことを。
……そして、後のことは私がすべて預かろう!

偶然森の樹が何かになぎ倒され遠くの山の形などを見渡すことができるようになっている場所に行き当たり、
パパスは幸運にも大体の位置を知ることができた。
でなければ、旅の扉の位置を告げられてこれだけの短時間でここにたどり着くことはできなかっただろう。
誰もが、次のフィールドへ生きて進むためにこの二時間は旅の扉を目指すはず。
パパスの足を旅の扉へ向けさせたのは常識的な思考から来る一つの賭けであり、
もう再会は叶わない戦友オルテガや愛息リュカらの名前を聞いた後で命を捨てるような行動に
潜在的に拒否感を抱いたからにほかならない。

だが本当にこれで良かったのだろうか?
こうしている時間を探索に当てていればもしかして見つけられたのではないか?

浮かび上がる最悪の可能性――自棄のあまりタバサは命を捨ててしまうのでは――を必死に打ち消す。
厄介なことに自分を傷つけなくとも、わずか二時間の無為でそれは完了してしまう。
こちらを選んでいれば、こうすべきではなかったか、後悔は尽きない。
いまや自分の命にかかる遺志と、身内の少女の命。天秤になど、かけられない。
情けないほどの無為を痛感しながら、ただ辛抱強くパパスは待っていた。

"………! ……サ! 起きなさい、朝だよ……"

どこから聞こえてくるのか分からないどこか懐かしい囁きにタバサはうっすらと瞼を押し開けた。
影の黒に混じり弱々しいながらも光があたりの様子を浮かび上がらせてくれている。
世界は夜を通り抜け、森にも朝が訪れていた。

"ホラ、早く目を覚まして……行かないと……"

うつぶせで地面に触れている耳を通し、土がさざめくように鳴った。
何となく顔だけを上げてみた樹の暗い影の部分が――人の形をして、立っているように見えた。
朝? ええと、そうだ、さっきの声、よく知ってる暖かな……
「お父さん?」
両腕に力を込めて苔むした地面を押し、タバサはうつぶせのまま上体だけを起き上がらせる。
もう一度しっかり影に目を凝らせば、闇の濃淡が、そこに二つの塊を作り出している。
少なくともタバサはそれを見ていた。
「お父さん! ピエール!」

"…………、………。……、……………"

誰にも聞こえない言葉――当然だ、リュカもピエールもそこにいるはずが無い。けれどもタバサは聞いている。
『おはよう、タバサ。さあ、出発しよう』

乾いた鼻血の暗い赤を顔に付けたまま、慌ててタバサは立ち上がり導かれるように歩き出した。
「待って、お父さん。すぐ追いつくから」
わたしは、何をしていたんだっけ? 冒険の途中だったかな?
"……………………………、………………"
「そうだったね。お母さんとレックスを探さないと」
ああ、そうだ。だからわたしとお父さんとピエールしかいないんだ。
"……………………。…………………"
「うん! だいじょうぶ、いつかみたいにきっと見つけられる!」

心地良い朝のそよ風が木の葉を揺らして葉ずれを奏でていく。
風が吹きつけた方向、金髪を揺らし立っている少女を見て、パパスは天に幸運を感謝した。
どうあれ絶望や怯えに耐え抜いてタバサはここまで歩いて来れたのだ!

「タバサ!」

両手を広げて大声で呼びかけ、パパスははっと少女の気持ちを思いやる。
これでは怖がらせてしまうのではないか?
昔から子供をあやすのはそれほど得意ではなかった。ちゃんと笑顔が作れるだろうか。
パパスは精悍さや、こんな世界で身に帯びてしまう刺々しさを精一杯の笑顔で打ち消そうと努力する。
だが――何かがおかしい。
タバサは逃げ出すでも怯えるでも泣き出すでもなく、ただ表情を変えずに立ち尽くしたままだ。

「タバサ?」
「寄らないでっ!」

思わず一歩を踏み出したパパスに対してタバサは杖を天にかざし、空いた手を突き出して構える。
それはまるで、いつでも呪文を唱えられると威嚇するようだ。
リュカの子供がむやみに誰かを傷つけるようなことをするはずが無い――
親バカにも似た、しかし『普通なら』的確な推測をしながらパパスは次の手を失って困惑する。
これほどまでに警戒心をむき出しにされてどうやって自分を受け入れさせるか、などまったく手立てが見えない。
リュカはこんなにも手のかかる子ではなかったが……
心の奥で愚痴りながらも、その瞬間までパパスは身内の見えない絆がいつかどうにかしてくれると信じていた。
その瞬間――タバサが何事かを呟いているのに気付くまでは。

「だいじょうぶよ、お父さん。わたしががんばるから、休んでてね」
「……タバサ?」
「おじさんは光の教団の人、ですね? 邪魔しないでください」
「何を――」

タバサの唇が小さく言葉を紡ぎ、突き出された手に魔力が集中する。
慌てて身を丸め防御姿勢をとったところに、爆裂呪文・イオラが襲い掛かった。
腕や脚に熱い痛みが走り、爆発の衝撃がパパスを背後の茂みまで後退させる。

「お父さんとピエールが戦えないから、わたしががんばらないといけないんです。
 だからもう、邪魔しないで」
「タバサ、何を――リュカと、ピエールだと?」

氷のような目でパパスをしっかり見、広げた掌を向けたまま。
タバサはしっかりとした足取りで旅の扉の青い渦のふちまで進んでいく。
だが、そこにいるのは小さな少女たった一人だけだ。
ずっと西の森の中で一緒に死んでいるリュカとピエールがそこにいるはずも無い。
何を言っているのだろうか。……幻でも見ているとでも言うのか。
青い渦のふちに立ち止まり呆然と立ち尽くすパパスに脅しを効かせるようにしばらく睨んでいたタバサが
ふと背後――その方向には誰もいない――へ振り返り、一転して彼女らしい明るい笑顔を浮かべた。

「次の世界でお母さんとお兄ちゃんが見つかるといいね!」

もう一度、敵を睨むあの目でパパスを一瞥してタバサが青い渦へと飛び込んでいく。
転送の術式が起動され一際強くなる青い光の中で、パパスは確かにそれを見た。
そんなものが今まで見えなかったのは一体どうしてなのか――しかし、今はそれが見えている。
タバサの身体にまといつくように染みのような、もやのような黒い、黒い何かが。
光の渦はすぐにタバサも黒いもやも一緒に飲み込んでいき、
あとには悪夢を見たような顔をしたパパスだけが一人残されていた。

【タバサ(HP2/3程度 怪我はほぼ回復)
 所持品:E:普通の服、E:雷の指輪、ストロスの杖、キノコ図鑑、
     悟りの書、服数着 、魔石ミドガルズオルム(召喚不可)
 基本行動方針:ビアンカとレックスを探す
 ※リュカとピエールと共に二人を探しているというストーリーを組み立てました。】
【現在位置:新フィールドへ】

【パパス(軽度ダメージ)
 所持品:パパスの剣、ルビーの腕輪、ビアンカのリボン
 リュカのザック(お鍋の蓋、ポケットティッシュ×4、アポカリプス(大剣)、ブラッドソード、スネークソード)
 第一行動方針:見たものに呆然と
 第二行動方針:別れた仲間を探し、新たな仲間を探す
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【現在位置:湖南の森、旅の扉】