第276話:黙祷
朝の日が闇を振り払う。
それと同時に騎士の指にはめた指輪が、小さな音を立てて崩れ落ちた。
ピエールは、すでに空となっているアモールの水のビンと共に、それを適当な岩陰に隠した。
どのような跡から危険が迫るか分からないこの状況で、用心に越したことは無い。
すでにそこは、そこにピエールがいるという事実のみを除いて、何者かがいたという形跡をものの見事に消し去っている。
そこまでの工程を終えたと同時に、それはやってきた。
--放送。
それをピエールは、驚きをもって迎えた。
無論リュカは呼ばれていない。けれど…。
(…レックス様!!)
驚きに悲しみはない。己がこの手で殺すことさえ覚悟していたのだから。
けれど、一度もまみえることなく、己の全く関与しない場所で死に至ってしまうことの覚悟を、果たしてしていたのだろうか?
目を閉じる。
死者に黙祷を捧げるその時間は、何秒ともなかった。
かつても平穏な日々。魔王を倒し、失うことの危険もようやくなくなった、あのわずかな時間。
ピエールはその瞬間に、その日々を思っていたのだろうか。
それは違う。
感傷に浸るのは全てが終わってからでいい。
全てが終わり、己が死ぬそのときでいい。
だから今は、あの小さな金の髪の少年の思い出を、深い、とても深いところに仕舞い込む。
朝日を右手に、ピエールは歩き出した。
砂漠の砂は夜の冷気によって、程よく冷たい潜伏場所となるだろう。
旅の扉を目的とする参加者達をどう狙おうか考えているピエールの眼差しは、放送前と変わらず、どこまでも冷徹なままであった。
【ピエール(HP4/5程度)
所持品:鋼鉄の剣、ロングバレルR、青龍偃月刀、魔封じの杖、ダガー、死者の指輪
第一行動方針:西部砂漠の旅の扉へ向かう 第二行動方針:旅の扉の近くで砂に紛れ潜伏し、参加者を襲う
基本行動方針:リュカ以外の参加者を倒す】
【現在位置:レーベ南西の山脈地帯最南部→西部砂漠】
最終更新:2008年02月17日 23:27