FFDQバトルロワイアル3rd資料編@wiki 437話

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第437話:今ひととき、いつかの夢を


昔の夢を見ている。蜂蜜色の髪の女性の夢。
『テリー』
呼ぶ声は、まぎれもなく懐かしい姉のものだ。
『まだ起きているの? もう寝る時間でしょう』
寝台の上で縫いぐるみを抱えた彼女は、すこし怒った顔でこちらを見つめている。
『夜更かししていたら、魔物にさらわれてしまうわよ』
自分の姿は幼い頃のもので、「姉さん」の声に応えようとして、しかし、彼女の名を思い出せないことに気付いた。
いくつかの名が浮かんで消えるのに、彼女に似合うものが思い出せない。

ファリス? いや、その名が思い出させるのは鮮やかな薄紅色の髪だ。
それにこの「姉さん」とは、振る舞いも、声も、何もかもが違う。
男装で、ぶっきらぼうで、男のような喋り方のファリス。
そのどれもが、今そこにいる「姉さん」と重ならない。
けれど。
『思い出せ! 君の瞳と同じ色の髪を持つ、あの勇ましい女性の事を!
 緑色の瞳を持つ、優しい女性の事をッ!
 妹を、君を、家族を思いやる気持ちを持った――君の姉さんの姿をッ! 』
彼女を傷つけられるのを恐れるがために敵とも味方とも知れない者たちを排除しようとする俺を、彼女は何度も押しとどめた。
このゲームの中では、いつ誰に殺されるかなんてわかったものじゃないのに、それでも、人を殺そうとする俺をとがめた。
優しい、ファリス姉さん。
ああ、そうか。
綺麗な緑の瞳が、そして何よりその優しさが似ているんだ。

目の前の「姉さん」を見つめる。
不思議そうに笑うその顔は、彼女の、ファリスのものではない。
そう思い、そしてそこに何か違和感を感じた。
浮かんでしまった疑問。
……目の前の彼女と違うというなら、ファリスはどんな顔だった?
思考がそこで停止する。唐突に浮かびあがってくる記憶。
彼女を護る為に魔物を切り伏せようとして。
(首が)
一瞬映ったその忌まわしい映像が消される。
それは思い出すべきじゃない。
思考を、意識を、全力で今の悪夢から逸らす。
俺にはもっと他に、思い出さなければ、憶えていなければならないことがあったはず。
――そうだ、憶えておくべきなのはレナのこと。
ファリスが教えてくれた生き別れの妹。
俺が守るべき、ファリスの、俺の妹のことだ。
――それに、思い出さないと。
ずっと探していた姉さんが目の前にいる。
すぐそこに答えがあるのに、忘れるはずなんてないのに。
それなのにわからない。
思い出す事を恐れてしまう。
忘れたくなんかないのに思い出したくない自分に、どうしようもなく苛々する。

そんな時。
どこかから彼女のものとは違う掠れた声が聞こえた。
ひどく遠く感じるのに、何故か彼女の声よりはっきりと。
『……ミレーユよ、どうか、このクリムトにテリーを、おぬしの弟を――』
呼ばれた名のうち二つには覚えがあった。

『おやすみなさい。テリー』
姉さんの声。
寝台の横へ置かれた縫いぐるみには、今聞こえた彼女の名前が大きく書いてある。
――のもの。
こんな大切なことをどうして忘れていたんだろう。
眠りにつこうとしている姉さんの顔がほんの少し寂しげに見えた。
そう、俺の姉さんの名前は。


クリムトは足を引きずり、杖をついて歩く。
見えない瞳は、導く者もいない見知らぬ場所では大きく体力を削る。
背には青年が一人。
その重みは潰れそうなほどだし、彼には左腕がないためバランスも悪い。
杖がなければ、躓き転び、この歩みはとうに止まっていただろう。
それでも、テリーを背から降ろしはしない。
決して、見捨てはしない。
けれど、その道行きの途中にたった一度だけ、弱音が口をついて出た。
「ぐぅ……、く、ミレーユよ、どうか、このクリムトにテリーを、おぬしの弟を助けるための力を貸してくれ……!」
祈りは彼女に。
今はもういない、誰よりも彼を大切にしていた、優しい彼の姉に。
テリーが黒い波動のうちにあってもなお、失うことなく探し続けていた女性に。
その祈りがとても大事な言葉だったことにも、そしてある思い違いにもクリムトは気付かない。
町は見えない。
この遅々とした歩みでは辿り着くにはまだ幾許かの時間が必要だし、何よりすぐ目の前にあったとしても、彼の両眼がそれを映すことはない。
気力のみで進み続ける、立ち止まれば倒れてしまう、そんな危うい歩みは今はまだ止まらない。


その背で青年は呟く。
「おやすみ、ミレーユ姉さん……」
彼を背負う者は、彼を救うためにその見えぬ眼でただ前を見据え、あまりに小さすぎた声の意味を知ることはない。
テリーのその眼はまだ何も映さず、幸せであった頃の夢の中にいる。
大切な姉を忘れようとした理由を、今はまだ思い出さないままに。


夕闇が彼らに迫る。
――まもなく、彼は束の間の夢から覚める。
――まもなく、無慈悲な魔女の放送が響く。
テリーは家族を求める想いが見せた思い出の夢の終わりに、ようやく大切なその名前を思い出す。
テリーが一日にも満たぬ間とはいえ共に過ごし、姉と呼び慕った女性の名前がもうすぐ呼ばれる。
真実も偽りも、目覚める彼にもうすぐ突きつけられる。
この夢とその声が、何をもたらすのか知る者はまだいなかった。

【テリー(DQ6)(HP1/4程度、左腕喪失、左足骨折、浅い睡眠)
 所持品:なし
 第一行動方針:不明
 基本行動方針:不明】
【クリムト(失明、HP2/3程度、MP消費、極度の疲労) 所持品:力の杖
 第一行動方針:テリーを背負い、カナーンへ向かう
 基本行動方針:誰も殺さない。
 最終行動方針:出来る限り多くの者を脱出させる】
【現在位置:カナーン北東近辺、カナーンへ移動中】