138話

第138話:英雄の責務


大地震、放送。
それすらも、彼らの闘いを止める事は無かった。

依然として、デュランとメルビンの闘いは続いている。
だが、その力の差を一瞬一瞬メルビンは噛み締める。
(これでは…負ける…)
いまや相手の剣の一閃を避けるのに全ての神経を費やすしかない。
剣を失った。魔力も底をついた。
対して相手は魔族の強みである無尽蔵な体力と強烈な破壊力を誇る剣を前面に押し出しメルビンを圧倒する。
それでも未だ生を失っていないのは、ある意味仲間達のおかげかもしれない。

――メルビン、次の職業どうしようか?
フィンの声がした。
――メルビン、踊り子なんてどう?
アイラがクスクスと笑う。
――ウェー、おっちゃんの踊り、またステテコダンスか?
ガボが吐く真似をする。
――まぁ、少しは若返りの効果があるかもね。私は見たくないけど。
マリベルの声だけが、少し霞んで聞こえた。
――身かわし脚とか、受け流しとかさ。結構使えると思うんだよね。
フィンが言ったソレが、今の自分の生を保っている。

「うぉぉぉっ!」
一声吼え、再び襲い掛かる剣をかわす。
直後に起きる爆発は予測済みだ。一寸後ろに飛び跳ねればある程度は避けられる。
「貴様、しぶといなっ!」
デュランのほうが圧倒的有利である筈だ。
だが、魔王の剣に完全には捉えられること無くここまで来た。
…あの日、皆にからかわれながら踊り子などという職業に就いた。
それが、今、彼を魔王の剣から救っているようで。

(なかなか、捨てた物じゃなかったでござるな)
…だがそれはある意味強がりだった。
魔王の振るう剣はかわせても、その後に襲い掛かる爆発を完全にかわすことは出来ない。
今や彼の身体中には無数の傷が刻まれている状態だ。
それは少しずつ彼の動きを鈍くし、最後にはデュランに捉えられてしまう事になるだろう。

魔王の剣を再びかわした時、彼の目にある物が映った。
直後の爆発による閃光で、一瞬だけそれを捉えることが出来たのだ。
…やはり、それしかあるまいな。
メルビンは大きく飛び上がり、ムーンサルトを放つ。
これも、メルビンをスーパースターに仕立て上げたなんとも微笑ましい仲間達のおかげだった。
「貴様の攻撃はもはやその程度か!」
デュランはそれを悠々と避ける。
だが、それはメルビンの期待通りだった。
別の理由があったのだ。デュランの反対側に移動したのは。其処にあった物を、拾うために。
膝を突き、メルビンは着地する。同時に、右手でそれを拾い握り締めた。
「戯けた事をするものだな!」
デュランは振り返り、剣を構える。どうやらそれには気づいていないようだ。
メルビンは立ち上がり、デュランを睨み付ける。
…右手は、デュランに見えない様に。
デュランはメルビンめがけ突撃を開始した。
デュランは今、魔力に頼る気は無かった。最後まで真剣勝負だ。
思い切り剣を振りかぶる。
「避けられるかッ!?」
「…避ける気など無いでござるよ」

――英雄の役目は、魔王を倒し平和をもたらすこと。
――フィン殿、アイラ殿…真に倒すべき敵は任せたでござるよ。
――神よ!これがメルビン最期の生業でござる…!

デュランの剣がメルビンの胸を切り裂くのとほぼ同時に、
メルビンの握り締めた、刃だけとなり落ちていた鋼の剣が、デュランの喉に突き刺さっていた。
「これが、英雄として願った最期でござるよ」
それは、魔王と相討ちする事。
身を捧げて平和をもたらす事を夢見た。
神の加護は、きっと――
デュランとメルビンは、同時に、背中から地面に倒れていった。

「避けられたはずだ…」
喉に剣の先が突き刺さっている状態で、デュランは呟く。
魔族は喉を突いても言葉を発することが出来るのか、とメルビンは思った。
「…魔王など、生かしておくワケには行かないでござるよ…英雄として。だから決断したのでござる」
メルビンは、自らの切り裂かれた胸の前で、両腕を十字に組む。
「フフフ…いい勝負だった…が、まだ引き分けというところだな」
クッ、とデュランは苦痛に表情を歪めた。
「あの世でもう一度手合わせをしたいものだ」
「…魔族は地獄、正しい人間は天国へ逝くと相場は決まっているでござる…」
メルビンは、自分の声が少しずつ小さくなっていくのを感じた。
「…だから、それでは戦いなど出来ないでござるよ」
「フッ、そうかも知れぬな…」
デュランは皮肉を帯びた笑みを浮かべる。
「…ゴホッ…おぬしは地獄へ…」
「…フン、貴様も…天国へ行くのだな…」
「神の元へ…」
擦れていった声に耳を傾けるのは、森の木々のみ。
二人の猛者は、何処か満足したようにゆったりと意識を闇に溶かしていった。
そしてもう、何も聞こえることは無かった。

【現在地:岬の洞窟北西の森】
【デュラン 死亡】
【メルビン 死亡】
【残り 103名】

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最終更新:2008年02月17日 23:50
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