230話

第230話:浜辺で


ザザン…ザザン…
単調に波が打ち寄せる音を聞きながら、リディアは呆然とその場に座り込んでいた。
セシルとローザの死体を見つけた後、2人と、それに顔も知らない4人の人のために墓を作った。
墓といっても砂の地面に穴を掘って亡骸を埋め、そのうえに墓標代わりの大きめの石を乗せただけだが。

6人全員の墓を作り終えて泣くのにも疲れた頃、
対岸の搭のようなところから一人の剣士が小さなカヌーに乗ってきた。
彼はこちらを警戒していたが、やがて5人の支給品袋を素早く掴むと、何処かへ行ってしまった。

それから今まで、彼女は微動だにせずその場に座り尽くしている。
ふと、セシル達とともに旅をした時の記憶が蘇る。
その旅でも、かけがえのない仲間が犠牲になる姿を目にしてきた。
全滅の危機に瀕したドワーフの軍勢を救うために捨て身の覚悟で敵の攻撃を妨害したヤン。
敵の追っ手を振りきるため、爆弾を抱いて飛空艇から飛び降りたシド。

あの時も、自分はなにもせず、何も出来ずにただ泣いていた。
いや、あの時と今とでは決定的に違う点が一つある。
ヤンやシドはなんとか生きていてくれて、再会した時は本当に嬉しかった。
でも、今は違う。セシルもローザも、二度と動かない。二度と、逢えはしない…

ザザン…ザザァー…
とっくに枯れてしまったはずなのに、また視界が涙で滲んできた。
リディアはまたどうしようもなく、顔を手のなかにうずめて泣き出した。
ザザ…ザン、ザン…
なんだか波の音が変わってきた。
ザバッ、ザバッ、ザン…
……?
なんだろう、海の方へと腫れた眼を凝らすと、何かがまた対岸から近づいてきている。
それはやがて、リディアの目の前に漂着した。

「ふいー、やっと陸についたわい」
「ああもう、ビショ濡れ…」
浜辺から上がりながら、ギードとイザがほぼ同時に呟いた。
「て言うかギードさん、泳ぐの速過ぎですよ。ものの何分でこの距離を渡るって…」
「アリアハンまではまだ距離があるぞい。急がねば間に…ん?」
歩き出そうとして、やっと目の前に誰かが座っているのに気づいた。
顔立ちは端正だがまだ幼さを残しており、目は先程まで涙に暮れていたのだろうか、赤く腫れあがっている。
とりあえず、こちらに敵意はないようだ。身構える様子も無く、ただこちらをじっと見ている。
「…えーと、まず、貴方は誰?」
イザが訊くと、彼女は「リディア…」と小さな口を開いた。

「えー…そなたはこのゲームに乗ってはいまいな?」
「そんなわけないじゃない…」
ギードの問いに、どうも投げやりな返答が帰ってくる。
イザが少し首をかしげながら辺りを見まわすと、彼女の周りに妙に盛りあがった砂の塚に気がついた。
これはひょっとして…墓?
「もしかして、仲間が死んでしまったの?」
思いきって訊いてみると、泣きそうな眼でイザを見返し、両手を顔に当てた。
「ええ、そうよ…しかも、しかも私が仲間だって信じてた人が、人を殺そうとしているところも見たわ。
 もうどうしていいかわからない。もう何も信じていいかわからない…
 ねえ、教えてよ。私は何を、どうしたらいいと思う?
 誰でもいいから教えて…教えてよぉ…」
少女の悲痛な嗚咽が、波の音と合わさった。

「泣くな、リディア」
泣いている所に、大きな亀がそう言いながら近づいてきた。
「私もな、顔を知る者を一人失った。イザ…彼も、頼もしき人を失ったと聞く。
 行き場の無い悲しみを抱くはおぬしだけではない。よいか?おぬしは一人ではないのだ」
諭すような優しい口調に、彼の後ろで靴に入った水を抜いているイザも頷いた。
「だが、私達は2人とも全ての仲間を失ったわけではない。
 おぬしもそうであろう?護るべき人がまだ居る筈だ」

その言葉に、リディアははっと顔を上げる。そういえば、エッジはどこでどうしているのだろう?
まだ死んではいないはずだ。少なくとも、日没までは。
それにカイン。彼のことを信じられるかと言えば首を横に振るしかないが、
どこかで彼は正気に戻ってくれると固く信じる自分もいる。

ギードがさらに続けようとすると、3人の頭上を巨大な岩塊がよぎった。

「なにあれ…流れ星?」
奇怪そうに真上を通り過ぎて行く隕石をみながら、イザが目を細めた。
炎に包まれた隕石はアリアハンの城に一直線に向かい、やがて巨大な火柱を上げた。

「もしやあれは…メテオ?」
ギードが火柱を見上げながら言うと、リディアも目を見開く。
「メテオって…あの封印された魔法?」
「知っているのか?」
「ええ。フースーヤに詠唱を教えてもらったわ。
 もっとも、威力が強過ぎて上手く扱えなかったけど」
メテオの存在を知らないイザは首を傾げると、はっとしたように口を開いた。
「よくわからないけど、そのメテオって言うのはかなり強い魔法なんでしょう?
 それを使えるほどの参加者がいるってことは、今の城下町、そうとうまずいんじゃあ?」

確かにその通りだ。メテオを扱えるほどの力をもった者が、
その力を実際に使うと言う事はつまり、かなり「まずい」状況にあると言う事だ。
「ああ、そうとも。急ぐぞイザ!」
ギードが以外に素早い動作で歩き出すと、リディアが「待って!」と呼びとめた。
「あなた達…これから城下町に行くの?」
「そうだよ。早く行かないと、手遅れになるかもしれない」
イザはそういうと、城下町に行く理由を手早く話す。
「それなら…私も行かせて」
話を一通り聞いた後、少しうつむきながら、リディア。
「危険だぞ?」
振り向きながらギードが言った。
「大丈夫よ。こう見えて黒魔法は得意だし、それに…」
「それに?」
彼女は決心したような目で賢者を正面から見据えた。
「もうこれ以上、人が死にそうになっている場面から逃げていたくないの!」
もう逃げたくない。もう、人や仲間の死からは逃げたくなかった。

リディアの決心を、ギードは頷きながら受け止めた。
「よく言ってくれたな、リディア。それでは急ぐとしよう!」
そういうと大きめの亀は、ふわりと宙に浮く。
イザもリディアも、一瞬遅れて重力の鎖から解き放たれた。
「わっ、なんだなんだ!?」
「え、何なのこれ?」
訝るような声も構わず、3人はアリアハン城下町めがけて一直線に「飛行」して行った。

【ギード 所持品:不明】
【イザ 所持品:きんきらの剣、エクスカリパー、マサムネブレード、首輪】
【リディア 所持品:いかずちの杖、星のペンダント】
【行動方針:アリアハンへ加勢に行く】
【現在位置:アリアハンへ移動中】

【アルガス(視覚聴覚向上)
 所持品:カヌー、兵士の剣、皆殺しの剣、光の剣、ミスリルシールド、支給品ザック6人分(中身は未確認)
 第一行動方針:多くのアイテムを集めておく。 最終行動方針:どんな手を使ってでも生き残る。もちろん、脱出に便乗もアリ】
【現在位置:東の方へと移動中】

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最終更新:2008年01月26日 18:28
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