101話

第101話:レーベ村宿屋にて


「どうなんだ?助かりそうか?」
「…なぜか、回復魔法の効きが悪くて…でも、とりあえず傷はふさがりました。
 まだ目は覚まさないだろうけど、死ぬ事はないと思います」
「そうか、よかった…」
ほっと息をつくロックに、ソロも、汗を拭いながら笑った。

テリーとの戦いで重傷を負ったヘンリーは今、宿屋のベットに寝かされている。
ここに担ぎ込んだとき、ヘンリーは完全に意識を失い――もう先程のような悪態をつくこともなく、顔色も真っ青だった。
それを見たロックはほんの一瞬だけ、もう駄目なんじゃないかとも思ってしまったが。
ソロが汗を流しながら必死で回復魔法を重ねがけしていくうちに、少しずつ顔色がよくなっていった。
苦しげだった表情も今は緩んでいる。ひとまずは助かったのだ。

「というか、アンタも大丈夫か?休みなしで魔法を…」
「さすがにちょっと疲れましたけど…大丈夫ですよ、ヘンリーさんが助かったんですから」
ソロはそう言いながら、にっこりと笑い…そして、そのまま思い出したように続ける。
「そうでした、ロックさん、さっきは助けてくれてありがとうございました」
「……いや、気にしないでくれよ。助けたって言っても結構危なかったしな」
ロックはそう、答える。…危なかった。いちかばちかの勝負だったのだ。
上手く隙ができなければ自分の体当たりなど全く効かなかっただろう。
それに、攻撃は成功したがヘンリーは重傷を負ってしまった。
完全にやる気になっている…とんでもない相手だ。――そういえば。
「…あの女の人、大丈夫ですかね…」
――ロックの心の中を読んだかのように、ソロがぽつりと呟いた。

「どんな関係なんだろうな…あの人に、あいつ…止められるんだろうか」
「……わからないけど…きっと、すごく大切な関係なんでしょうね…」
ソロはどこか遠くを見るような、少しだけ悲しい目で言う。
なにか、大切なことを忘れてしまった男は、あの女性を振り切り殺戮を繰り返すことになるのだろうか。それとも。
「いや、きっと大丈夫だ。あいつに斬られたヘンリーが言ってただろ。
 あいつ、忘れたつもりでも覚えてるんだって。…あの人なら、きっと止められる」
「そう、ですね…。きっと、また会えますね」
ヘンリーの言葉なんて何の根拠も無いのだが…そう結論付けたのはやはり、希望を掴みたい気持ちがあるからだ。

「そうそう、次にあいつに会ったときは俺が直々に一発お返ししてやる…」
「…ヘンリーさん!?」「うぉっ!だ、大丈夫か?」
いつの間にか意識の戻ったヘンリーが、まだ少し苦しそうな表情だが――二人を見て、言った。
「ははは、あれぐらいで俺が…っ…ゲホッゴホッ」
「って、無理しないで下さいよ!」
「はは…」
ヘンリーの異常とも言えるほどの生命力に、苦笑するロックだった。

その後、三人であれやこれや話し合い、今晩は日没後もこのままここで過ごそうということになった。
村の宿屋なんて危険度も高そうだが…城下町よりは人も集まらないだろう。
なにより、下手にヘンリーを動かすわけにもいかないというのがあった。
万一襲われたらその時はその時だ、こちらだって黙ってはいない。
「この狭い部屋に男三人で夜…むさいな…」
「仕方ないだろ、俺だって嫌だ」
「あのー」
ソロが苦笑いを浮かべながら、告げる。二人の会話にはひとつ間違いがあった。
「三人じゃなくて、四人でしょう…」
「…あ」
ロックとヘンリーは、ソロに指摘されてようやく気付いた。
三人から離れたところに座り込み―――じっと、こちらを見つめている青年の存在。
同じ部屋にいるのにも関わらず忘れていたとは失礼な話ではあるが、仕方のないことかもしれない。
何しろこの青年は、何も話さない、動かない。本当にただ、そこにいるだけなのだ。

「あー…アンタは、どうするんだ?」
ロックは少々気まずそうに口を開いた。しかし、青年は問いに答えない。眉一つ動かさずじっとこちらを見ている。
…よく、聞こえなかったんだろうか。青年に近づき、視線を同じ位置に持っていくように屈む。
「今さ、ヘンリーが動けないし、今晩はこのままここにいようってことになったんだよ。でもアンタは…えっと、名前…」
「…フリオニール」
青年は依然変わらぬ無表情で、機械的に名を告げた。
「…フリオニールは、どうするんだ?」
「…… …わからない」

……。
あまりにも的外れな答えに、ロックは思わずずっこけそうになった。
わからない?何だそれ。…俺がわからないのは、こいつ――フリオニールだ。そう、最初に会ったときから。
どうしたとたずねれば、機械的な答えが返ってくる。どうするとたずねれば、答えは返ってこない。
これではまるで、自分の意志を持たない人形だ。
(心が、無い?いや、まさか…)
しかし、放っておくわけにもいかない。気を取り直し、続ける。
「別に用事が無いんだったら、ここにいればいいだろ。外は危険だしな」
フリオニールは少々間を開けてから、黙ってうなずいた。…了承したらしい。

(なんか、子供と話してるみたいだな)
しかし、目の前にいるのは紛れもなく青年だ。とはいってもソロと同い年ぐらいだが…調子が狂う。
「…そういえば、盾借りっぱなしだったな、返しておこうか」
と、ザックの中から、ひとまずしまっておいた天空の盾を取り出し――
ごとり、と音を立てて落とした。
「な、何だ?重…っ!」
呆然とそれを見つめる。いや、この盾は元々重かったが。まともに持ち上げられないほどに重くなっている?
「あ、ロックさん!その盾は僕の…」「そうだ、ロック!その盾はレックスの…」

ソロとヘンリーが同時に声を挙げ、その後顔を見合わせた。
「よくわかんないけど、特殊な盾なのか?俺には重くて使えなくなってるし…」
「……」
いつの間にかフリオニールが床に落ちた盾を拾っていたが、やはり彼にもまともには持ち上げられないようで、
黙ってそれをソロに手渡した。――ソロは、容易く盾を手にする。天空の勇者、資格あるものの手に戻ってきたのだ。
「天空の盾…。ヘンリーさん、レックスさんって?」
「いや…う~ん、天空の勇者が二人いたとは…」
ヘンリーがベットの中で頭をひねる。天空の盾は間違いなくソロの手の中で本物の輝きを放っているが、
レックスも天空の勇者だ。…ヘンリーはソロに、レックスの事をはなしはじめた。

ソロとヘンリーが話し込んでいる。
することのなくなったロックはふと、フリオニールに提案を持ちかけた。
「すぐ隣に武器屋があったはずだけど、武器調達でも行くか?」
盾がなくなってしまったフリオニールに対する配慮だろう。
フリオニールはまた黙ってうなずいた。ロックは二人にそのことを告げる。
「わかりました、気をつけて下さいね」ソロが返答した。
「大丈夫、本当にすぐ隣だ」

そうして、ロックとフリオニールは隣の武器屋で安物の剣を調達するのだが――
二人の背中を、村の奥から見つめる視線があった。冷酷な笑みを浮かべる女性。

宿屋のカウンターに戻ってきたロックは、フリオニールを見て苦笑した。
「きっと平和な田舎町なんだな…それぐらいしか武器がないとは思わなかった」
フリオニールの手には、一目で安物とわかるような銅製の剣が握られている。
彼自身は相変わらずロックの言葉に対しては完全に無反応だが。
(またか…何考えてるんだろうな…)
ぼんやりとそう思いながら、ドアに手をかけようとして――ロックはそれに、気付いた。
明らかな殺気…?いや、狂気…とも言えない、何となく覚えのある気配。
クリスタルソードに触れながら、後ろを振り返る。

操りの輪をつけたビアンカが、宿屋の入り口に立っていた。

【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
 行動方針:ビアンカ警戒】
【フリオニール(感情喪失) 所持品:銅の剣
 行動方針:ロックについていく】
【ビアンカ(暴走状態:操りの輪を破壊すれば状態回復は可能)
 所持品:操りの輪、 ファイアビュート
 第一行動方針:リュカ、子供達以外の全員を殺害】
【現在位置:レーベの村宿屋1Fカウンター】

【ソロ(MP消費・疲労) 所持品:さざなみの剣 水のリング 天空の盾
 行動方針:ヘンリーに付き添う】
【ヘンリー(重傷) 所持品:G.F.カーバンクル(召喚可能・コマンドアビリティ使用不可) 行動方針:傷の治療】
【現在位置:レーベの村宿屋1F】

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最終更新:2008年01月26日 18:39
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