225話

第225話:再会 → 反乱軍のテーマ


フリオニールを連れて音の方へ急ぐと、すでに戦闘は終わっているようだった。
木に寄りかかっている人影と、その眼前にもう一人誰かが立っている。
もしや、今まさに殺害の瞬間が訪れようとしているのでは―
「待て!そこのお前!」
ロックが叫ぶと、立っていた男――目以外の一切を覆い隠した衣装が少し気になる――は、
こちらをみて少し驚いたような素振りを見せると、腕を大きく振って「違えよ!誤解だ誤解!」と叫び返す。
2人がその声を聞いて立ち止まると、男は暫く間をおき、続けた。
「あー…お前らもさっきの音聞いてここまで来たんだろ?
 おれもおなじでさ。来てみたら誰だか知らねえけど女の剣士がこいつを殺そうとしてたんだ。」
「…あの女騎士の強さはかなりの物だ。しかし何かに操られているようだった。」
それまで木陰に座り込み、うつむいていた男が口を開く。
「恐らく、呪われでもした支給品をうっかり装備してしまったんだろ…う…」
言いながら顔を上げると、呆気に取られたように動きを止めた。
「…どうした?」とロックが訝しげに訊くと、彼は嬉しそうな、しかしどこか不安げな表情でこう言った。
「フリオニール…久しぶりだな」
それまで棒のように立っていたフリオニールが、ぴくりと動いた。

親友と再会して嬉しい気持ちがなかったと言えばそれは嘘だ。
しかしその反面に、罪悪感が心を抉った。
俺は目の前の親友を裏切った張本人だし、ほんの十数時間前も彼の悲痛な叫びを聞いても耳を塞いでしまった。
そんな思いを知ってか知らずか、フリオニールがゆっくりとレオンハルトを向く。
「…あ…久しぶりだな。本当に」
友はどんよりとした、死人ような瞳を向けながら、気の無い答えを返した。
「なんだなんだあ?こいつ、死んだ魚みたいな目えしやがって。」
首をかしげながら紅い衣装の男―ギルガメッシュと言うらしい―はフリオニールを見やるが、
それでも彼は心ここにあらずといった風貌だ。
「フリオ…ニ―ル…?」
怪訝な顔でもう一度友の名を呼ぶが、それでも彼はぼんやりとあさっての方向を見ているだけで。
いや、「見ている」と言うよりも「見えている」と表現した方が正しいだろうか。
困惑と動揺が重い沈黙となって4人にのしかかる中、バンダナを巻いた男が口を開いた。
「あー…あんたはフリオニールのお仲間さんかい?」
できるだけ明るく振舞おうとしたのか、声の調子がどこか気楽そうだ。
「そうだ。」
そうだ…本当にそうなのか?裏切り者の俺が?
「そうか。俺はロック・コールだ。あんたは?」
「レオンハルトだ。ところで…」
一旦区切り、ギルガメッシュに小突かれても微動だにしない彼をみやり、続ける。
「フリオニールは、何故こんなことに?」

ロックは少しためらうような仕草を見せたがやがて全てを話してくれた。
彼の今の状態、ここまで来た経緯…とにかく、全てだ。

「つまり、”死”という言葉を聞いたり、血を目にしたら突然暴れ出すと?」
「ああ、そういうことになる。だからしばらく、そっとしてやってくれ。」
ロックから一連の話を聞いて、レオンハルトは愕然とした。
感情を喪失している?ずっとこんな状態だ?なんてこった。
「ひでえ話だ。だが、俺も知ってる奴が一人死んでるからわからないでもねえな。」
気に寄りかかって腕を組みながら、ギルガメッシュ。
「俺もだよ。今日だけで一緒に旅してた仲間が2人も死んだ。」
ため息をつきながら、ロックも相槌を打つと、続ける。
「2人とも、こんな狂ったゲーム、さっさと抜け出したくないか?
 いや、それよりも、このゲームそのものをぶっ壊してしまいたくないか?」
「いい方法でもあんのか?」
「何も。」
ギルガメッシュの問いかけに、ロックは肩をすくめた。
「でも、アルティミシアだって無敵じゃない。倒す方法はきっとあるさ。
 それに3人集まれば文殊の知恵ってな。数が少ないよりは多い方が、これから生き残るにしても絶対に良い筈だ。」
どうだ、手を組まないか?と締めくくる。
「なるほど」
ゆっくりと立ちあがりながら、レオンハルトが頷く。
「同じ考えを持つ者もいよう。そうとも。同志を募えばきっと上手く行く。」
でもその前に――そういいながら、フリオニールの方へ歩み寄る。
「こいつをなんとかしないとな。」

言い終わるが早いか、彼は血のついた自らの手を友の顔に押し付けた。

ロックは最初、手傷を負った騎士が何をしたのか判らなかった。
数秒して、傷口を抑えていた手でフリオニールの顔を鷲掴みにしたことのはわかった。
「うわああああああ!やめろおおぉおおお!」
フリオニールは呆けていたように棒立ちしていたが、やがて口を大きく開き、金切り声のようなの絶叫を絞り出す。
「お、おい!いきなり何を…」
「黙ってろ!!」
静止しようとしても、彼は怒声を上げるだけで。
顔を掴んでいた手を一旦放し、脱兎の如く逃げ出そうとするフリオニールの首を掴むと、なおも叫ぶ。
「血だ!」
親友がヒッという小さな悲鳴を上げるのも無視し、続けた。
「マリアは死んだ!あの魔女に!マリアは殺されてしまったんだよ!!」
体をじたばたさせるフリオニールの耳に顔を近づけ、止めの台詞を言い放つ。
「お前も人を殺しかけた!わかるか?お前は魔女と同じ事をしようとしたんだよ!」

俺が…魔女と同じ?
怒りの形相をした親友の言葉に、顔にこびりついた彼の血に、
フリオニールは心を締め上げられるような錯覚を覚えた。
血、マリア、矢、殺された、魔女、俺、殺そうとした、魔女と同じ…
様々な単語が数珠つなぎに浮かび、次に忌むべき光景が脳裏に蘇る。
矢を受けて倒れるマリアが、首輪の機械音が、鞭を振るっていた女性が、床に落ちていた血の雫が。
あらん限りの声を上げて抵抗するが、異常に力の入った手が、次々にフラッシュバックする映像が彼を掴んで放さない。
やめろ。やめてくれ。頼む。俺は――
次の瞬間、フリオニールの意識は闇に包まれた。

「…なんてことすんだよ。あんた。」
レオンハルトを見つめながら、ロックが疑問符を浮かべて言う。
「何の事は無い。ちょっと現実を突きつけてやっただけだ。ショック療法ってやつだよ。」
糸が切れたように気絶した友を見下ろしながら、レオンハルト。
「ショック療法って…下手に刺激してどうすんだよ!そっとしておけばそのうち立ち直って――」
「そのうちだと!?」
反論しようとすると、目を血走らせて食いついてくる。
「そんな悠長な事を言っている間に、果たしてどれほどの人が死んでいくと思っている?」
「……」
「貴殿は言ったな。こんな狂ったゲームはさっさと破壊してしまおうと。
 それなら、仲間は多い方が良いと。それなのに、フリオニールが元に戻るまで待つと?」
ロックは槍のように突き刺さる彼の言葉に、何も言えなかった。
「行動を起こすならば早い方が良い。早くなくてはならない。そうであろう?」
「…そうだな。悪かったよ。」
やっとの思いでそう言うと、騎士は初めて笑顔を作った。
「…自分の妹を失って初めて命の尊さに気づくとは、俺もバカだな。」
自嘲気味に続ける彼に、ロックは「え?」と首をかしげる。
「マリアは…アルティミシアに最初に殺されたのは、俺の妹だよ。」
「そうだったのか…」
「俺は、元いた世界では、彼等を…無二の親友や妹を平気で裏切ってしまったんだ。力に魅せられてな。」
続ける。
「力を得たときの気分は最高だったさ。
 町や村を襲い、幾多の罪の無い人々を斬り殺してその返り血を浴びても、なにも感じなかった。」
ロックもギルガメッシュも、何も言わずに彼の話に聞き入っている。
「だが、殺された妹を、壊れてしまった親友を見て、やっと気がついた。
 失う事が、奪われることが、こんなに苦しいって事がな。」
本当に愚かだよ、と言ってまた自嘲すると、レオンハルトは満月を見上げ、「だが、もう違うぞ」と続けた。
「もう2度とフリオニールを、仲間を裏切りはしないぞ。
 そしてこんな腐ったパンみたいなゲーム、跡形も残らないほどに破壊してやる!」
そこまで言って2人をふりかえり、
「絶対に!!」と締めくくった。

暫くして、ギルガメッシュが「お、そうだ」と思い出したように口を開いた。
「それならよ、ここからちょっと離れた所に俺の仲間が居るんだ。
 サリィとわるぼうって言うんだけどよ、先ずはそこへ戻ろうぜ」

【レオンハルト(負傷) 所持品:消え去り草 ロングソード
 第一行動方針:ギルガメッシュについていく 第二行動方針:ゲームの消滅】
【現在位置:レーベ西の平原】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
 第一行動方針:同上 最終行動方針:ゲームをぶち壊す】
【フリオニール(気絶、感情半喪失) 所持品:銅の剣
 第一行動方針:不明】
【ギルガメッシュ 所持品:厚底サンダル 種子島銃
 第一行動方針:サリィとわるぼうの所へ 第二行動方針:剣が鍛えあげられるのを待つ】

【現在位置:レーベ西の平原】

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最終更新:2008年01月26日 18:42
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