434話(後編)

434話:誰彼誘う闇、残照の光


「遅かったな。他の連中とスミスはどうしたんだ?」
フリオニールはカインに駆け寄り、声をかける。
カインは彼を一瞥すると、小さな声で何事かを囁いた。
サックスには聞き取れなかったが、フリオニールがかすかに肯いたことだけは見逃さない。
しかし二人は何事もなかったように、話を始めた。
「用事を頼んだからな。何もなければ直に戻ってくるはずだ。
 それより、そこにいる連中は誰だ?」
「……ああ、スコールとマッシュのことか?
 良く知らないが、お前と一緒にいるケフカとかいう奴に会いたいんだとよ」
「スコールにマッシュ……!?」
カインはどことなくわざとらしい仕草で目を見開き、高い声で叫ぶ。
名を呼ばれた二人は、きょとんとした表情でカインを見た。
「俺達のことを知っているのか?」
スコールの問いかけに、カインはゆっくり肯く。
「ああ。数時間前だが、お前らの仲間だという連中に会った」
サックスはひやりとした。そう言えばカインはゼル達と出会っていたのだ。
スコール達二人の名前を知っていてもおかしくない。
自分とゼルのしたことが、スコール達にばらされてしまうのではないか。
押し寄せる不安を余所に、しかしカインは、誰も予想していなかった事柄を口走った。

「あいつらは確か、エドガーとリュカとシンシア……
 それにゼル達四人と……もう二人、アーヴァインと、何と言ったかな……」


「「……なんだって?」」
スコールは呟いた。その声がマッシュのものと重なる。
「エドガー? 兄貴が!?」
「アーヴァインがゼルと一緒にいたのか!?」
カインは詰め寄った二人の迫力にたじろいだ素振りをみせたが、咳払いをしてから宥めるように言う。
「それが色々ややこしいんだ……とりあえず順番通りに話すから、落ち着いて聞いてくれ」
そうして彼は、静かに語り始めた。

「まず、エドガー達に会ったのは北の森の奥だ。
 緑色の髪の男に遠くから射撃されたリュカを、エドガー達が助けたという話でな。
 もう一人、リノアとかいう連れがいたそうだが、彼女は助からなかったらしい。
 そしてリュカの手当てを終えたら、逃げた犯人を追ってウルに向かうつもりだと……」

――続きは、スコールの耳に入らなかった。
何気ない世間話のように触れられたフレーズが、全身の血を凍らせた。
気がついた時には、スコールはカインの胸倉を掴んでいた。
「リノア、リノアといったのか!? ふざけるな……リノア、リノアが……!!」
「止めろスコール!」「スコールさん!! 落ち着いて!」
サックスとマッシュに取り押えられ、それでようやく我に返る。
解放されたカインは苦しげに咳き込みながらスコールを睨み、フリオニールはどこか冷ややかな目で四人を見ていた。

「くそっ……俺はエドガーから聞いた話をそのまま言ってるだけだぞ。
 だいたい、こんなことで嘘をつく人間がいると思うか?
 それでなくても、あと十分もすれば放送が流れるんだ。その時になれば白黒はっきりするだろう」
吐き捨てて、カインは話を続ける。
「ゼル達四人に会ったのはその後だ。
 話しているところに、アーヴァインという白魔導師姿の男と、もう一人緑色のバンダナをかぶった男が現れてな。
 元の世界の仲間だと言って、お互いに喜んで、一緒に行こうという話になっていた。
 それで、そいつらもやっぱりウルに向かうと言っていたな」

「どっちもウルか……まさか、兄貴があいつに見つかったら……」
マッシュが不安げにこぼす。
その横で、スコールが虚ろな目つきで何事かを呟いている。
「まさか……いや、そんな……だが……」
やがてスコールは意を決したように、顔を上げた。

「……一つだけ聞きたい。
 リノアを殺した男は……本当に緑の『髪』だったのか?」


カインは一瞬呆気に取られたが、ふとあることに気付き、見えないように口の端を歪ませた。
「その口ぶりからすると、心当たりでもあるのか?」
しらばっくれて問い掛ける。帰ってきたのは、想像どおりの答えだった。
「……アーヴァインと、相方の男の容姿だ。
 アーヴァインは確かにリノアやゼルや俺の仲間だったが、今はこのゲームに乗っている。
 あいつの本職は狙撃と射撃だし、……」
「そして緑髪ではないが、緑のバンダナを巻いた男をパートナーにしている、か」
嘲笑を押し隠しながら、カインはスコールの言葉を継いだ。
「俺は当事者じゃないから何とも言えんが、射撃武器で接近戦を挑む馬鹿もいないだろう。
 それと奴の相方は、金髪を隠すように、きっちりとバンダナを巻いていた。
 かなり遠くから、ちらとだけ見たなら……髪の色自体が緑と間違えることもあるかもしれんな」
「金髪……!」
「なんだ、そっちにも心当たりがあるのか」
「……いや。なんでもない」

歯切れの悪い返事だったが、想像はつく。例のメモを拾うか読むかしたのだろう。。
だとすれば好都合だ、尚更強く罠にかかってくれた事になる。

カインの最初のパートナーはお喋りな男だった。
尋ねもしないことを勝手に話したが、無駄な世間話というわけでもない。
ギルバート殺しを引き受けたのと同じで、後で取引の材料に使うつもりだったのだろう。
断片的な、小出しの情報ではあったが、殆どはカインにとっても興味深い代物だった。
選ばれた者しか扱えず、しかし不可思議な力を秘めているという武具。
ティナという女から聞き出したという、幾人かの情報。
そして――主催者たる魔女と強い因縁を持つ者、スコールとリノアについて。

『僕らの班長……スコールはね、アルティミシアの天敵なんだよ。
 あいつとリノアだけは、何があろうと甘く見ない方がいい』
嘘をついている様子はなかったし、主催者やそのしもべについて、アーヴァインは非常に詳しい知識をもっていた。
だとすれば、アーヴァインの仲間だというスコールもまた同等の知識を持っている可能性が高い。
さらに、『アルティミシアの天敵』というフレーズも気に掛かっていた。
アルティミシアのしもべと名乗る飛竜を相方にしている彼には、無視できる事ではない。

ゼルがアーヴァインの仲間だとは知らなかったが、幸運にも彼はスミスには反応を示さなかった。
だが、スコールにも気付かれずに済むとは限らない。
スミスのためにもスコールは邪魔だ。
だからゼル達と一緒にいた正体不明の二人をスケープゴートに仕立て、追い出す。
上手く行けば労せずして敵を減らせるし、心を挫くための材料に使える。一石二鳥だ。
そう考えた彼は、顔を隠していて、身長も体格もアーヴァインに良く似ていた白魔導士を選んだ。
――本当にその白魔導士がアーヴァイン本人だという事には、まだ気付いていない。

ウルを選んだのは単なる消去法だ。
エドガー達がいるサスーンや、ラムザ達がいるカナーンに向かわせるわけにはいかない。それだけの話。
それにエドガー達と約束した待ち合わせ時間は『日没から二時間後』だ。
賭けではあるが、真っ直ぐウルに向かってくれれば、エドガー達と鉢合わせずに済む可能性は高い。
事実、この時点ではエドガーはサスーンにいた。
カインの計画は、即興にしてはかなり良い線まで行っていたと言えよう。

幾つかの点を除いては。


(リノア……)
スコールはぽつりと呟く。
拳を握り締め、溢れそうになる涙を拭って。
(……わかってる。俺は、後ろなんか見ないから。
 昔の……弱い俺に戻ったりなんかしないから)
風の音のような声を思い出しながら、首にかけた銀細工の獅子を握り締める、
(あんたの気持ちも、みんなの気持ちも、ちゃんと届いてるから。
 だから……いつか約束したあの場所で、少しの間だけ待っててくれ。
 ……すぐに行くから。必ず、全部終わらせて、会いに行くから)

――そう、誰もが弱い心の持ち主だとは限らない。
人の死に挫けるものもいれば、乗り越えようとするものもいる。
遺された想いと決意を胸に、前に歩もうとする者もいる。


『ラムザ……私、やっぱり、スコールのところへ行きたい』
人にはわからない言葉で、彼女はそっと囁く。
『そうか……君のご主人の恋人、だっけか』
『そうよ。頼りになるけど、少し、危なっかしい人』
言葉を交わす。共に過ごしたわずかな間を懐かしみながら。
二度と出会えないかもしれないという悲しみを胸の奥にしまいながら。
『ご主人、見つかるといいね』
『ええ』
短い別れの言葉を背に、彼女は走り出した。
最後に、一声だけ吠えて。
『ラムザ……また会いましょう!』

「あれ、あれれ? あの犬、どっか行っちゃうよ?」
ねぇいいの? と聞いてくるユフィの声も、耳に入らなかった。
ラムザは願う――どうか彼女が、スコールとリノアに無事に会えるように、と。


「ちくしょー、チョコボがあればあっという間なのに」
邪魔な枝や蔓草を払いのけながら、ロックは森の中を掻き進む。
「チョコボ? 何だそれは」
聞きなれない言葉に、ピサロが首を傾げた。
簡単に説明しようとするロックの横から、ザンデが口を挟む。
「乗用に使われる鳥の一種だ。
 ギサールの野菜を好物とするだけあって独特な体臭を持つが、この匂いがモンスター避けの効果を持つとも言われ……」
……流石は分析癖の持ち主だけあって、彼の知識は詳細かつ膨大だが、いかんせん話が長い。
ロックは辟易していたが、ピサロは真剣に耳を傾け、質問までしている。
初めこそ殺伐としていたが、案外、この二人は魔王同士ということもあって相性がいいのかもしれない。
(この二人がセットで敵に回ってたら……とんでもないことになってただろうな……)
内心冷や汗をかきながら、ロックは歩く。
その先にかつての仲間がいるとも、毒牙を向く敵がいるとも知らぬまま。

――そう、張り巡らされた運命の糸は、時に絡まり、時に引き寄せる。
その先にあるのが希望なのか絶望なのかはわからずとも……

【マッシュ 所持品:ナイトオブタマネギ(レベル3)、モップ(FF7)、ティナの魔石、神羅甲型防具改、バーバラの首輪、
 レオの支給品袋(アルテマソード、鉄の盾、果物ナイフ、君主の聖衣、鍛冶セット、光の鎧、スタングレネード×6 )】
【スコール 所持品:天空の兜、貴族の服、オリハルコン(FF3) 、ちょこザイナ&ちょこソナー、セイブ・ザ・クイーン(FF8)
 吹雪の剣、ビームライフル、エアナイフ、ガイアの剣、アイラの支給品袋(ロトの剣、炎のリング、アポロンのハープ)】
【第一行動方針:アーヴァインと緑髪(緑のバンダナ)の男、及びエドガーを探す
 第二行動方針:ゲームを止める】
【現在地:カズスの村入り口→ウルへ】

【フリオニール(HP1/3程度 MP1/2)
 所持品:ラグナロク ビーナスゴスペル+マテリア(スピード) 三脚付大型マシンガン(残弾9/10)
 第一行動方針:カインと打ち合わせ&情報交換する
 最終行動方針:ゲームに勝ち、仲間を取り戻す】
【カイン(HP5/6程度、浮、疲労)
 所持品:ランスオブカイン、ミスリルの小手、えふえふ(FF5)、この世界(FF3)の歴史書数冊、加速装置
 草薙の剣、ドラゴンオーブ、レオの顔写真の紙切れ
 第一行動方針:リュカ達が来るまで、フリオニールと打ち合わせをする
 最終行動方針:殺人者となり、ゲームに勝つ】
【サックス (負傷、軽度の毒状態 左肩負傷)
 所持品:水鏡の盾、スノーマフラー
 第一行動方針:休憩 最終行動方針:ゲームを破壊する。アルティミシアを倒す】
【現在地:カズスの村入り口】

【ルカ(浮) 所持品:ウインチェスター+マテリア(みやぶる)(あやつる) 、風のローブ、シルバートレイ
 第一行動方針:休憩中。ハッサンをどうするか考える
 最終行動方針:仲間と合流】
【ハッサン(HP 1/10程度、危機感知中)  所持品:E爆発の指輪(呪) 、ねこの手ラケット、チョコボの怒り、拡声器
 行動方針:オリジナルアリーナと自分やルカの仲間を探す、特にシャナクの巻物で呪いを解きたい
 最終行動方針:仲間を募り、脱出 】
【現在地:カズスの村・ミスリル鉱山入り口付近】

【ラムザ(話術士 アビリティジャンプ)(HP4/5、浮)
 所持品:アダマンアーマー ブレイブブレイド テリーの帽子
 第一行動方針:テリーを追い、保護する
 第二行動方針:仲間を集める(ファリス、アグリアス、リノア優先)
 最終行動方針:ゲームから抜ける、もしくは壊す】
【ユフィ(疲労/右腕喪失)
 所持品:風魔手裏剣(19) プリンセスリング フォースアーマー ドリル 波動の杖 フランベルジェ】
 第一行動方針:ラムザに同行する
 第二行動方針:アポカリプスを持っている人物(リュカ)と会う
 第三行動方針:マリアの仇を討つ 基本行動方針:仲間を探す】
【ケフカ(浮、MP1/2程度)
 所持品:ソウルオブサマサ、魔晄銃、ブリッツボール、裁きの杖、魔法の法衣
 最終行動方針:ゲーム、参加者、主催者、全ての破壊】
【現在位置:カズス西の砂漠・中央付近→平地を経由してカナーンへ】

【アンジェロ 行動方針:スコールに会う】
【現在位置:カズス西の砂漠・中央付近→カズスへ】

【ザンデ(HP 4/5程度) 所持品:シーカーソード、ウィークメーカー
 第一行動方針:仲間、あるいはアイテムを求め、カズスの村へ
 基本行動方針:ドーガとウネを探し、ゲームを脱出する】
【ピサロ(MP1/2程度) 所持品:天の村雲 スプラッシャー 魔石バハムート 黒のローブ
 第一行動方針:ザンデに同行し相手を見極める 基本行動方針:ロザリーを捜す】
【ロック 所持品:キューソネコカミ クリスタルソード
 第一行動方針:ザンデ(+ピサロ)の監視
 基本行動方針:生き抜いて、このゲームの目的を知る】
【現在地:ウル南の森→カズスの村へ】

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最終更新:2008年01月30日 13:37
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