499話

第499話:未完の魔手


「どーゆうことだよ!」

砂の上で足を止めて前を行く二人へと大声で疑問を表現する。
訥々と目的地でのできごとの詳細を証言していたアルス、聴いていたオルテガが同時に振り向く。

「だいたいアルス、最初からカインをまるっきり敵扱いってのはなにさ!? ちゃんと説明してほしーね!」
「………逆に聞きたいな。どうして君はカインの肩を持つんだい?」
「ハァ!?……カインはエッジの仲間で、えーと一緒に世界まで救ったそれはかけがえのない大事な仲間なんだよ!
 それがいったいどうしてそんな話になるのさ? おかしーよ!」
「それだけかい?」
「それだけ!? 何その言い方っ! エッジはあたしを助けてくれて、それからねえ……」
「ユフィよ、落ち着け。アルスも挑発は止せ。とにかくまずは言い分を全て出し切ろうではないか。
 アルスは何を以ってカインを敵だと見るに至った?」
「証言者がいる。そうだな、詳しく話すと少し長くなるけれど良いかい」
「上等だね、聴いてやるよ!」

雄弁ではないが力強く、アルスはレオンハルト、ティーダ、ケフカらの証言を自分なりにまとめて語る。
初めは元気に反発の相槌を返していたユフィもしだいに静かに、沈黙していた。

「……以上だ。
 直接的にアーヴァイン、フリオニールといった人物と組んでいたという証言が二人、
 またカズスで何らかの策謀を実行すべく人を集めていたという証言がもう数人。
 そして何より、僕はカズスでカインと戦い、フリオニールもそこにいた。結論から言ってフリオニールと組んでいたと見るしかない。
 ユフィ、これでも君はカインは純真にもフリオニールに騙され続けているなんて言うのか」
「それは…でも、そんなこと……」
「まだ言うかい?」
「だってフリオニールがエッジを殺したんだよ?」
「カインにはフリオニールを実行犯に用いそれを裏から操っていた、という印象さえある。
 君を騙していたように良い顔を使い分けていたなら尚いっそう最悪だ」
「それじゃカインは信頼してくれる仲間まで全部騙してたってこと?そんなの………ないよ」



それを実際に目にしていない人間には決して理解できないだろう事物は実在する。
必死に説明してみたところで夢でも見たのだと一蹴されるのがオチ、そんな話だ。
だが、それは確かに実在しているのだ。
同様の体験を共有する数少ない者はそれを認めてくれるはず。


自分は静穏の暗闇の中で惰眠をむさぼっていなければならないはずだった。
なぜなら自分は負けたから。負ければ死ぬはずだから。
にもかかわらず遠雷のような、潮騒のような不明瞭な音が聞こえ続けている。
やがて不規則な音はかすかに言葉のようなリズムある揺らぎへと移り、さらにはかすれた像を結ぶ。
まるで異国の言語のように聞き取れない台詞、乱れた画像のドラマ。
扉の向こうへ去り行く男、血の涙を流す少女。
何を理解させるでもなく祈りとともにそれらはフェードアウト、
入れ替わるように胸を震源として全身を焼くような痛みが苛んだ。

『塵じゃない、無じゃない。ここにあるんだ、あたしはっ! あたしの力はッ!』
『あの悪魔、あいつを殺せ! 姉さんを取り返せ!』
『私は死なない……生き残る、生き残る、生き残る生き残る生き残る』

今度は判別不能ではない、大音量で響く三者同時の絶叫。
全身は焼き尽くされるような痛みに覆い包まれている。
それからフリオニールの意識は濁流の如き騒音へと曝されていく。


「――あなたがどんな人なのか知らないけれど、殺し合いをさせられる覚えはないわ!」
………………!?
――もう一度だけ……会いたかったな……ごめんね――
「ああ、そのことなんだけど――」「あーあ。何だか、疲れちゃったわ…… 殺し合いとか、戦いとか……もう、うんざりよ……」「…にしても…疲れたな…」
「おおそうじゃ、戦いの前にはまず神に祈りを…」「てり、ありがとう」「ああ、やべぇ……そろそろ行くわ、俺」「ん?なんだ?」「オノレ…オノレ…ニンゲンフゼイガ…」
「君を、止める」「どうして、デールさん? ……止めて、止めて……!」「でモな、ニイさん……イマなら……みんなの気持ち、なんとナク……わかる気ィ、しま……す、わ……」
「お、俺には……、まだ……価値が……」「これさえ、あれば…」「お前が何を言おうが……俺は仲間を殺した人殺しを―――――」「さて…改めて話し合おうか。フリオニールよ」「――さようなら」
―――私の死が、彼を苦しませることに、なりませんように。


統一性の無い雑踏の音のような声が四方より聞こえてくる。
繰り返す音が耳の奥、頭蓋の中、血液を振動させまるでハウリングを起こすかのよう。
音が、自分の身体になっていくような気がした。
喪失の悪夢、途端に恐怖に囚われた精神はしかしその奔流から逃げることができない。


最初は自分の無力をかみ締め、状況の絶望を認識するところから始まる。
もちろんこの程度の症例は誰しもが通過するもの。
だからこそばら撒かれたこの病の根は深い。

第二段階では力を求め始める。
無力、絶望に対するために必死に見つけた答えが力というわけだ。
もちろん、この病にとって大事なのはそこではない。
力は手段に過ぎない。大事なのはそれがどこを向いているかということ。
患者当人は何も自覚しないだろう。ただ病根は静かに心を侵食していく。
そろそろ、本来の自分の心は歪み捩じれ失われていくだろう。

第三段階――重なり合う喪失が患者をこの段階へと導く。
希薄になる感情、大切な人の死、折れたプライド、敗北。こんなところか。
ここに至りこの病はその牙を見せ始める。
心に根を張り巡らせたそれが喪失を埋めるために患者のため残された救済を提示してくれる。
そろそろ、本来の自分の姿は完全に崩れているはず。

この症例まで辿り着いた者は奇しくも最期には腕を失った2人の男女のみ。
起こっている事態を目撃し、理解しようとしたのはわずかに1名。
これは魔女が知っていることなのか、意図したことなのか。
最終段階。
深く重く病が進行し続けた者が肉体的、生命的な喪失の危機に陥るとどうなるか?
育ちきった病根はその喪失さえ埋めるための手段の提示――いや、強制を始める。
心を失い、命さえ失いかけたそれこそが依り代となる。
時ごとに量を増し、集められ、世界に満ち…圧縮されていく負のエネルギー、そのものの。


いつか、死体のように横たわっていた身体は起き上がり、ただ廃墟の闇を眺めていた。
焦点の定まらないその目が見ていたのは今はもう懐かしき彼女の勇姿。
彼女をかき消したのは現実の揺らぎ、闇が教える遠い気配。

能面の如き無表情がたちまちに悲しみの色へ染まる。
けれど身動き一つせずに、彼はただ、訪れた誰かを待ちぼうけた。



「許さない」

信じていたはずのカインは大嘘吐きだった。
突きつけられたショックは時間とともにすべて怒りへと転じていく。

「信義を知らぬは犬にも劣る……んな感じだったかな……
 ともかく仲間を騙す! 仲間の仇と仲良く手を組む! そこまでやって生き延びる?
 そんな自分勝手な外道はみーんなまとめてアタシが片付けてやる!
 オルテガ、アルス、急ぐよ!」

片腕の少女は普段の陽気さとは別物の雰囲気を背中にまとわせて砂の上を駆けてゆく。
その背中に複雑な気持ちを感じてアルスは誰に向けてでもなく言葉を吐き出す。

「……因果応報……。
 これで僕が殺さなかったフリオニールを彼女はきっと殺す」
「ああ、おそらくな。ユフィはお前とは異なる道を行く。
 ユフィの感情、決断、そして覚悟を責めることはできぬ。
 だが…いや、うむ、言うまい。
 とにかくユフィはユフィ。お前はお前なりの判断をすれば良い。
 忘れるな、見据えるべきものを。失うな、己の判断を」
「わかっています。止められない――僕だって仇を討ちたいという心情はわかりますから。
 フリオニールは誰かに断罪される、それだけのことをやってきた。
 そういうことを受け入れなくてはならない」
「アルス」

呼びかけに反応せずに、そのままゆっくりとアルスはユフィの方向へと歩き出す。
向こうでは早くも結構遠くまで走ったユフィが大げさなジェスチャーで二人を急かしている。
息子の歩みをしばらく心配げに見つめてオルテガは悩める息子の後を追った。

「でも僕はこんな結果を………いや、そんなわがままを言う資格はないか。でも……
 ………僕は結局どんな結末を――理想を、望んでいたんだ?」

迷える小さな呟きは誰の耳にも入らずに夜風にかき消された。

【アルス(MP1/4程度、左腕軽症)
 所持品:ドラゴンテイル ラグナロク ロングソード 官能小説一冊 三脚付大型マシンガン(残弾4/10)
 第一行動方針:これから自分はどうするか考える
 第二行動方針:倒すべき悪(アーヴァイン、スコール、マッシュ、カイン、サックス、スミス)を…?
 基本行動方針:苦悩中
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【オルテガ 所持品:ミスリルアクス E:覆面&マント
 第一行動方針:ユフィとアルスを連れてカズスへ向かう
 第二行動方針:アルスを見守る
 最終行動方針:ゲームの破壊】
【ユフィ(疲労/右腕喪失)
 所持品:風魔手裏剣(19) プリンセスリング フォースアーマー ドリル 波動の杖 フランベルジェ】
 第一行動方針:オルテガ、アルスと共にカズスへ向かう
 第二行動方針:マリアとエッジの仇を討つ!
 第三行動方針:アポカリプスを持っている人物(リュカ)と会う
 基本行動方針:仲間を探す】
【現在位置:カズス西の砂漠の東部】

【フリオニール(MP3/5)
 所持品:無し
 第一行動方針:?
 最終行動方針:ゲームに勝ち、仲間を取り戻す】
【現在位置:カズスの村 廃墟の奥】

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最終更新:2008年01月30日 13:50
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