132話

第132話:狂気への抵抗


ぼんやりと星空を見上げていたレオンハルトでも、その気配にはすぐに気付いた。
静かな夜風の吹く平原の中で、その昂った気配はあまりにも異質だ。
そしてそれは確実に、迷わずにこちらに向かってきている。

レオンハルトは背筋が寒くなった。死への恐怖からではない。
その女の、まるで何も映していないかのような、それでも狂気一色に染まっている瞳は、
今すぐ血を見せろと、惨劇を見せろと言っているかのようであった。
レオンハルトには、殺されることの恐怖感はなかった。死を受け入れようとしていたから。
しかし、そんな彼でも――その女から放たれる威圧感は、恐ろしかった。

裁かれる時がきたのか、とレオンハルトは思った。
心の狂った、血に餓えたこの相手に、残虐的に殺されるとしたら。
それがどんなに惨めで、痛みと苦しみを伴う死に方だとしても――それが自分の罪の重さなのだと。
相手が一歩動いたその時が、身体を切断され骨を砕かれ、血飛沫を上げて殺されるときなのだろうと。


だが、相手は予想外の行動をとった。
今にも振り上げそうな剣を握った右手を、昂った感情を無理矢理抑えるかのように震わせながら
ゆっくりとレオンハルトに剣を向けたのだ。まるで、今からお前を斬るぞ、という意思表示のように。
その一瞬だけは、先程までの狂気に満ちた威圧感がやわらいで。――騎士の誇り高き血を感じた気がした。

レオンハルトははっとした。女の震える右手の指に、その指輪を確認したから。
月明かりに照らされた指輪に、古く痛々しい血痕がついているのが見えた。
…まさか、とは思った。しかしこの行為を見ればわかる。この女にはちゃんと、誇りがあるのだと。

(――こんな時、あいつならどうする…
  相手を傷つけぬよう逃げるか、自己を守るため戦うか?
  それとも――)

「…わかった、相手をしてやる。命に代えてでも止めてやろう」

レオンハルトがロングソードを抜きながら答えると、
ベアトリクスは弾かれたように、再び狂気に満ちた剣を一気に振り下ろした。

【レオンハルト 所持品:ロングソード、消え去り草
 第一行動方針:ベアトリクスを止める 第二行動方針:死を待つ】

【ベアトリクス(呪いによる精神支配・暴走) 所持品:血のエンゲージリング、君主の聖衣、アルテマソード
 第一行動方針:レオンハルトを殺す 基本行動方針:参加者を見つけたら殺す】

【現在位置:レーベ西の平原】

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最終更新:2008年01月30日 14:07
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